「いえいえ」の意味とは?
「いえいえ」という言葉は、相手の発言に対して否定の気持ちを表す言葉です。けれども、強く打ち消して異なる意見を主張するために用いるための言葉ではありません。
相手の言葉を受け入れたうえで、謙虚に「有難すぎる言葉だ」「高く評価していただいた」という気持ちを込めて「おっしゃっていただくほどのことでもない」と否定するときに発せられる言葉です。
「いえいえ」の由来
「いえいえ」は、否定の意味の感動詞の「いいえ」の短い形の「いえ」が二つ重なった言葉です。二つ重なっているからといって、否定の意味が強くなるわけではなく、謙遜の意味や感謝の意味を含んで否定する新たな意味合いの言葉になっています。
「いえいえ」の漢字
「いえいえ」は、漢字では「否否」「否々」と書きます。「否定」の「否」で、また「拒否」の「否」です。否定の漢字を二つ重ねて表されるので、たいへん強い否定かと思われがちですが、どちらかというと、相手の言葉を受け入れたうえで、謙虚にやわらかく否定するときに使われます。
日常的に話し言葉の中で使われる「いえいえ」ですが、一般的な文章の中で、書き言葉として「否否」「否々」と使われることはほとんでないでしょう。
「いえいえ」の構造
「いえいえ」も「いえ」を二回重ねた使い方で、首や手を横に振る動作をともないながら発言され、慌てて否定するような意味合いを強めています。
「いえいえ」は否定の意味を表す畳語である
同じ単語を重ねて一語とした語を畳語と言い、意味を強めたり反復や継続などの意味を生みます。「いえいえ」は重ねて二回言うことで、謙遜の意味合いを強めている言葉です。
敬語を使うべき相手に対してではなくても「はいはい」のような二つ返事はいけないと言われることがあるので、状況と相手によっては「いえいえ、いえいえ」と連呼する必要があるかどうかは察する必要があるでしょう。とくに目上の相手に対しては連呼しないように努めましょう。
「いえいえ」の特徴
「いえいえ」は、相手に対して感謝したり恐縮したりする場面で自然と口から出る言葉です。日常会話では「いえいえ」だけで言葉を続けない場合も多いです。
けれども、相手に誤解されないように話すには、なるべく「いえいえ」のあとに「褒めていただいて有難うございます」や「こんなにお気遣いいただいて恐縮です」というふうに言葉を添えるのが望ましいでしょう。
目上の人に対して謙遜して使われる
「いえいえ」は、目上の人に対して使える言葉で、自分のしたことを下げて、相手の行動を自分なんかにしていただくにはもったいないことだと上げます。つまり「いえいえ」は敬語表現の一種である謙譲語の働きをしているのです。
たとえば「いえいえ、褒めていただいて有難うございます」の場合、言葉の背景に「私はそれほどのことをしたわけではないのに、こんなにも褒めていただいて、本当に感謝します」という意味を込めています。
同等の仲間に対しても使われる
謙遜するつまり自慢しないという点では「いえいえ」を使う場面は敬語を使うべき目上の人相手とは限らず、たとえば同等の仲間相手の場面でも、謙虚さや配慮を見せる場面は多々あるので「いえいえ大丈夫、心配してくれてありがとう」のような使い方もめずらしくありません。
「いえいえ」の英語表現
日本語でも「いえいえ」は、日常生活・ビジネスの場面を問わず使われるように、英語でも、相手をたてる表現は見つけられます。
たとえば文字通りの「No,no.」や「Oh,no.」は、日本人が気持ちを発するときにも直接的で口にしやすいでしょう。
また、類語表現として「I'm flattered.」もよく使われます。相手の高評価に対して謙遜の意味合いを込められる文章です。「私は光栄です」という意味で、感謝を伝える使い方には「I'm flattered, thank you.」と続けると良いでしょう。
また、日本語のような相手によって言葉遣いが変わる敬語表現もなく、遠回しの表現が少ない英語では、相手の言葉がお世辞でも本意でも、感謝の意を伝えるのが目的であれば、日本語での「いえいえ」は「Thank you.」が使われます。
「いえいえ」の類語
会話の中で、否定する意味で使われる言葉で「いえいえ」に近い類語には「いいえ」「いえ」「いやいや」「いや」があります。二度重ねているか一回かのちがいがありますが、謙遜する意味合いは二度重ねて言う使い方の方が強いようです。
ただし、前後の様子や態度、声色によって単純に判断できるものではありませんから、類語の意味合いの誤差に注意して、いずれの言い方も、表情をはっきりして、謙遜や感謝の気持ちが誤解されることなく伝わる使い方ができるように気を付けたいものです。
「いえいえ」の類語「いえ」は使い方に注意
二回重ねて言う表現「いえいえ」に対して「いえ」と一度だけ言う使い方は、若干小声で自信がないように発言されがちです。目上の人に対して、褒められるほどの自信がないとか、もったいないと縮こまる様子で発言されます。
「いえ」と言ったあとに「それほどでも」や「恐縮です」という謙遜する言葉が続くのは「いえいえ」と同じですが、大きな声で言いきってしまうと、目上の人に対して強く否定、拒否していると誤解されるので注意する必要があります。
「いえ」は、相手の行動を自分などにはもったいないことだという気持ちを表している点で「いえいえ」と同じ謙譲の意味合いを持つので、「いえいえ」と「いえ」は類語と言えるでしょう。
「いえいえ」の類語「いやいや」の意味
「いえいえ」とたいへんよく似た音の「いやいや」についてそれぞれのあとに続く言葉の内容を比べてみましょう。
「いえいえ、そんなに言って有難うございます」というように「いえいえ」は先の相手の発言を受け入れています。けれども「いやいや」は「いやいや、そこまでしていただいてはいけません」というように、相手の発言や行動をやんわりと否定、つまり遠慮がちに打ち消している場で使われます。
「いやいや」は「いえいえ」より否定の意味が強い
敬語を使う必要があるような目上の人に対して「身に余る光栄ですが、もったいないことなのでやめていただきたい」と謙遜しながらも返上を希望している意味が強くなります。
「いえいえ」と「いえ」の関係と同様に「いやいや」と「いや」の関係も、使われた状況や声色に影響されるとはいえ大きな違いはありません。
誤差はあるものの、ともに相手の行動に対してやわらかく否定の発言をしているので「いえいえ」と「いやいや」も「いえ」「いや」と同様に類語と言えるでしょう。
「いえいえ」の類語「いやいや」の注意点
「いえいえ」も「いやいや」も、ともに会話の中で一瞬に流れていく言葉なので過敏に判断されないことが多いですが、目上の人を相手に使うときには、発言のあとに相手を強く否定している印象が残らないように気を付けましょう。
「いえいえ」の使い方
「いえいえ」は、短い4文字のことばですが、その前部には相手の自分へのねぎらいや感謝などの褒め言葉があり、後部には自分から相手への「そんなに褒めていただいて恐縮です」という敬語で伝えたいような意味合いの言葉が存在します。
例文①
「いえいえ」という短い言葉だけ言われた場合、たとえば「いえいえ、そんなに褒めていただくほどのことではありません」という言葉が隠れている場合があります。
この場合は、自分にとって敬語で応対するべき相手の褒め言葉に対して謙遜したり恐縮したりして縮こまっている状況が予想されます。
例文②
ちょっとした出会いがしらの小さなトラブル、たとえば飛び出してきた人とぶつかって荷物を落としたなどと言う場合、「大丈夫ですか、おけがはないですか」「いえいえ、大丈夫です」という会話をするでしょう。
この「いえいえ」は、相手の気遣いに対して、そんな大ごとではないから心配しないでいいですよと配慮する気持ちを表しています。
例文③
日常的な会話で「あなたは何か怒っていますか」「いえいえ」ときくことがあるでしょう。身の回りのだれかが普段と違って口数が少なかったり無表情であったりすると、とても気がかりなものです。
本当に何事でもないときには「いえいえ、ちょっと頭が痛いだけです」や「いえいえ、他のことを考えていました」のような状況があり「いえいえ」の後には「ご心配いただき申し訳ない」や「有難う」が隠れています。
例文④
相手が自分の行動に対して「有難う」や「世話になった」と言った時には「いえいえ、こちらこそ」「いえいえ、どういたしまして」と返すことが多いです。
この「いえいえ」は、相手に対する敬意を込めて、お互いさまだから礼を言わなくてもよいと配慮したり、気にかけてくれて有難いという気持ちを表しています。
「いえいえ」の注意点
日常的に頻繁に耳にする「いえいえ」ですが、使ってはいけない相手はあるのでしょうか。目上の人、学校や仕事などの仲間、年下の人、親しい人、初対面の人などいろいろな関係性の中で「いえいえ」を使うことが望ましくない場面はあるのでしょうか。
話し言葉について音声なしに文字だけで説明する場合、イントネーションや声色、表情を直接的に表せないので「いえいえ」も、いつも同じ状況、同じ発音で登場するものではないことを考慮する必要があります。
目上の人に対して使える
「いえいえ」は謙遜の意味を持っているので、伝える相手は、目上の人です。目上の人に対して、言葉を略すことは望ましくありませんが、謙遜すると気恥ずかしくもあり多言になりにくいでしょう。
「いえいえ、そんなにお気遣いいただくほどのことではございません」や「それほどにほめいただいて有難うございます」という意味を込めて「いえいえ」だけ言って、あとの言葉を続けて発音しないことも多いです。
けれども、言葉足らずで誤解されないようにするためには、謙譲語や丁寧語などの敬語を正しく使って相手に対する敬意や感謝を表現しましょう。
使いすぎると誤解を招く
「いえいえ」が会話の中で適度に使われると、高慢な態度、脅迫的な否定でなく、柔らかく受け答えしている印象を与えてくれますが、過度に使うと、単に口癖と思われたり、なにかと否定的な人だというような望ましくない印象を与えることになるかもしれません。
「いえいえ」はご配慮いただきもったいないという意味
「いえいえ」は、褒められたり感謝された時、相手の言葉や行動に対して謙遜して否定する意味でとっさに口をついて出る言葉です。
畳語で、否定する語が二つ重なるからとはいえ、相手の言葉を強く否定したり、相手の行動を拒否したりするものではありません。
相手を目上の人として敬い、敬意があるからこそ謙遜して使う言葉で、使い過ぎて失礼にならないように気を付けましょう。
また、この言葉を耳にしたときには、相手の気持ちを誤解しないように「いえいえ」の後に続く言葉を察することが大切です。