心の機微の意味とは
ビジネスなどフォーマルな場面でよく使われる「心の機微」という単語ですが、あなたはその意味を本当に理解できているでしょうか。使い方や意味を間違えていると、思いがけない失態にもつながりかねません。
そこで以下では「心の機微」の意味を意味や使い方を、例文を交えて紹介ていきます。さらに、「心の機微」のわかる人になれるよう、機微のわかる人とわからない人の特徴も紹介していきます。
表情や態度では分からない心の動き
機微の「機」は今でこそ金属でできた「機械」というイメージが強いですが、「木へん」をもつことからも察しのつく通り、糸を紡いで布にする木製の道具「はた織り」からつくられた漢字です。糸を紡いで布にする木製の道具から「機」という漢字はできました。「機」は冷たいものではなく、むしろ繊細で温かいものだという印象が強くなるでしょう。
機微の「微」は訓読みで「かすか」と読むように、「少しの」「わずかな」という意味をもちます。なので、「微」と付く単語には「ほとんど違いがないけれどよく考えると少し違う」というニュアンスが付与されることになります。
そこから「機微」という単語は、「繊細で、ほとんど同じように見えてもわずかに異なる」という意味をもち、「心の機微」とは「表情や態度からは一見してわからないような、繊細でわずかな心の動き」を表します。
人の感情では読み取れないもの
表情や態度に出ないようなわずかな心の動きを指すのが「心の機微」です。その中には「人の感情として読み取れないもの」を指すこともあります。あまりにわずかな心の動きすぎて、その感情を抱いた本人すらもよくわかっていないものもあるのです。「何か違うようなモヤモヤ感」というものが、表現として近いこともあるでしょう。
本人すらよく分かっていないような「小さすぎる心の動き」を他人が読み取るのはほぼ不可能です。 感情は人との関係の中で生まれますが、その「人の感情では読み取れないもの」として現れるのも「心の機微」の特徴です。
心の機微の読み方
今更ですが、この漢字は心の「きび」と読みます。「機」も「微」も音読みそのままです。ちなみに「きび」以外の読み方があるかというと、「機」は「はた」、「微」は「かす(か)」という読み方があるので、つなげて読むと「はたかす」という読み方になります。しかしこんな読みの単語はありません。聞いたこともないでしょう。
心の機微の使い方
次に「心の機微」の使い方についてご説明いたします。おそらく「機微」という単語を聞いたことがある方であれば、「機微」という単語とセットとして最も高頻度に使われる「心の機微」という言葉は、実際に会話の中で聞いたことがあるはずです。それを思い出しながら見てください。
心の動きなどについて触れる際
「心の」とついているからには、「心の機微」は「心の動きなどについて触れる際」によく使われます。そして、「機微」という単語は、繊細でわずかな心の動きを表します。よって「心の機微」とは、ほとんどの人にわからないような微かな感情の動きを表し、そんな気持ちを表現したいときに使われるのです。
心の機微の英語
英語において、「心の機微」というものを端的に表す単語はありません。あえて単語にするなら、「心」に着目してfeelings(気持ち)、emotion(感情)、atmosphere(雰囲気)が近いでしょう。
また「機微」に対しての英語を当てると「move」も考えられます。「move」は形容詞の「moving」で「感動させるような」、「moved」で「感動させられるような」という意味をもつほど「心の動き」をも表せる単語です。
さらに、英語の単語として直訳に相当するものはなくても、熟語として表現することはできます。一番近いのは「something different」、日本語にすると「何か違う」というものでしょう。そして「I feel something different」と英語で言うと、「何か違うような気がする」という意味、すなわち心の機微に近いニュアンスを表すことができます。
さらに文章としての表現を深めてみましょう。たとえば「 I feel something wrong」は「何か胸がざわざわするような」心の機微の英語版として使うことができます。wrongを別の形容詞に変えて「I feel something happy」としてみると、「言葉にできないけれど妙にウキウキした気分」を英語で表すことができます。
直接言葉にできないことを伝える方法もあります。英語で「I can ' t tell you but ~」と言うと、「言葉にできないけれど~」と、後ろに続く文章や単語のニュアンスで、そのときの心情を英語表現することができます。
英語での表現の難しさを見ていると、「心の機微というものがどれほど伝えづらいものであるか」ということや、「英語と違い日本語がいかに繊細な単語をもつ言語か」ということも、おわかりいただけるでしょう。
ただし「心の機微」に対する直訳がないだけで、英語でも表現する方法はあります。それが熟語や文章になってしまうのは、英語圏の人々が思ったことを素直に口にするため、曖昧な表現は必要なかったからともいえるでしょう。
時代とともに言語も変わっていきます。英語圏からもち込まれて定着した外来語もありますから、日本人が海外へ旅行や移住に出ていくうちに、これから「心の機微」に相当する英語の直訳単語も生まれていく可能性もあるでしょう。
心の機微の例文
ではこれから「心の機微」の例文をご紹介いたします。「機微」という単語だけでは「表面からは捉えにくい微妙な事情や趣」という意味をもちます。「心の」と付いていなければ、細かな情緒な事柄の違いを表すことができるのも「機微」という単語の特徴です。ぜひ例文をご参考にして、正しい「機微」の使い方をマスターしてください。
例文①心の機微
「心の機微」の例文としては、「あの人は心の機微がわかる人だ」などが使えます。これまでにも用いてきた通り、「機微」という単語は「表面からはわからない微妙なもの」を指します。
よって、「心」という目に見えず表情や態度からもわかりにくいものを対象に、「心の機微がわかる、わからない」との使い方をするのです。機微という単語の、最も多い使い方でしょう。
例文②機微に触れる
二つ目の例文は「機微に触れる」という慣用句を用いて、「彼は外交の機微に触れてしまった」などがあります。「機微」は表面からはわかりにくい事柄をも指すので、こうして外交上の問題にも使えるのです。
もちろん他の使い方として、ビジネスにおける問題にも使えます。例文としては、「彼女はA社との機微に触れてしまった」などです。
「機微」を「機微に触れる」という慣用句で使う場合には、「微妙な事情や問題に触れてしまった」という、意図しない言動を指すことが多くなります。意図して機微に触れる場合には、「彼女はあえてその機微に触れた」などの例文があります。「繊細な事柄をあえて議題として持ち出した」という意味になるのです。
例文③機微に聡い
三つ目の例文として、「君は機微に聡い人だね」などがあります。「機微に聡い」の「機微」には、相手の心の機微はもちろん、人間関係における微妙な問題や事情といった「機微」も含まれます。そして「機微に聡い」とは、「相手の心情や人間関係における微妙な事情にまで、精通しているわけではないのに感づける」という意味になります。
たとえば、話し上手聞き上手な美容師さんなど接客業の人に出会ったことは誰しもあるでしょう。その際に「あなたは機微に聡い人ですね」などの使い方があります。「機微に聡い」は褒め言葉なので、言われて気を悪くする人はいません。どんどん使っていきましょう。
ただし、褒め言葉であっても言い方によっては皮肉と受け取られてしまうこともあります。使い方に気をつける必要はあまりありませんが、伝え方には充分に気をつけるようにしてください。
例文④機微に疎い
四つ目の例文として、「君は機微に疎いな」などがあります。「機微に疎い」は「機微に聡い」と対照的な意味で使われる言葉です。
使い方としては、相手が引いていることにも気が付かずにぐいぐいと質問を重ねたり話題を振ったりする人に対して、「君は機微に疎いな。もう少し相手のことを考えなさい」など、気遣いのできない人をいさめる言葉として使います。「機微に疎い」はあまり良い意味ではないので、ご使用の際には充分にお気をつけてください。
例文⑤機微を穿つ(うがつ)
五つ目の例文では、「機微を穿つ」というなかなか耳慣れない慣用句を使ってみましょう。これには「あの学生はいつも機微を穿つ質問をして教授を困らせる」や、「あの外交官は機微を穿って、今までタブー視されていた問題を浮き彫りにした」などがあります。
「穿つ」という動詞は、「触れる」や「突く」という他の動詞よりも大変鋭いものです。なので「機微を穿つ」という表現も、「曖昧な部分があってごまかして説明していたり、繊細な事情があったりする部分をわざわざ掘り返して議題にする」という意味になります。
例文⑥感情の機微
六つ目の例文は、「感情の機微」という、「心の機微」ととても似通った慣用句を使ってみましょう。たとえば「あの子は感情の機微に聡い」などです。
「機微に聡い」だけであれば先述の通り微妙な事柄すべてに勘の鋭いことになりますが、頭に「感情の」と付くことによって「人の気持ちにだけ」鋭いことが強調されています。
また、心と感情がどう違うのかはたいへん難しいところですが、「心はその人自身が抱くもの」「感情はその人が誰か相手に対して抱くもの」と考えていただくとわかりやすくなるでしょう。つまり「感情の機微」とは、「人が他人に対して抱く気持ち」という意味になります。
例文⑦機微な情報
七つ目の例文は、「あの人は機微な情報にも精通している」です。「機微な情報」とはこと細かく繊細な事情や事柄も含めた、詳細な情報を指します。
小説などでは情報屋に対して使われることが多い表現ですが、現実にも使い所はあります。たとえば同じ勤め先の噂好きの同僚に対して、「あいつは機微な情報にも精通している」と言うと、皆が知っている事柄からまだ下火の噂話まで、どんな情報でも知っているという、称賛と皮肉の両方の意味になります。これも、言い方次第で意味が変わるものです。
心の機微がわかる人【特徴】
ではここで、心の機微がわかる人の特徴を四つ、理由も含めてご紹介いたします。心の機微がわかる人は総じて「ある特徴」をもっています。そしてそこには、きちんとした理由があるのです。理由がわかった上で特徴を真似すれば、あなたも心の機微のわかる人になれるでしょう。
特徴①会話が成立する
心の機微のわかる人の一つ目の特徴として「会話が成立する」ことが挙げられます。ここで「会話が成立する」とは、「会話のキャッチボールができる」「コミュニケーションがとれる」などの「質問やコメントに対して適切なリアクションが返ってくること」を指します。
表情や態度には出ないような微細な感情の動きまで把握できる人であれば、相手の言葉からの情報だけではなく、その人の雰囲気や行動の端々などからその心情まで慮ることができるので、会話が成立するのは当然のことです。
特徴②相手との距離感が適切
心の機微のわかる人の二つ目の特徴は、「相手との距離感が適切である」ということです。
人には誰しもプライベートゾーンというものがあります。その空間を侵されると、自分の心にまで無断で踏み込まれたように感じ、不快に思ってしまうというものです。
心の機微に聡い人は、相手の持つプライベートゾーンの大きさを正確に計ることができます。基本的に踏み込みすぎませんし、もし踏み込んでしまったとしても、すぐに距離をあけることができます。それゆえ適切な距離感を保つことができるのです。
特徴③空気によって適切な行動が取れる
三つ目の特徴として「空気によって適切な行動がとれる」、いわゆる「空気が読める」ということが挙げられます。空気とは往々にして「その場にいる人たちの心情」、つまり「集団心理」やその「集団的な心の動き」を指します。
心の機微の読める人とは「眼前の相手の繊細な心の動きを、その人の雰囲気などから読み取れる人」なので、たとえ人数が増えようと、その人たちの醸し出す雰囲気から集団的な心の機微を把握できるのです。
特徴④読書好き・デザインが得意
四つ目の意外な特徴として「読書が好き、デザインが得意」ということが挙げられます。これまでの特徴には納得できても、これについては疑問を感じた方が多いのではないでしょうか。実は、読書とは感情のインプット、デザインとは感情のアウトプットを指すのです。
心の機微に聡くなるには、そもそも様々な感情を知っていることが重要です。心の機微に聡い人は、小説などから登場人物たちの感情の種類や深さをインプットした上で、自己啓発本などから「対人関係における心の機微」を学ぶのです。
デザインは、緻密に計算されたものもありながら感情の発露の結果でもあります。物や人に当たるのではなく、芸術として自分の感情を表すことができるというのは、自分の感情とも上手く付き合えている証拠です。心の機微に聡い人は自分の感情にも聡いということです。
心の機微がわからない人【特徴】
以上では、「心の機微がわかる人」の特徴を述べてきました。次は反対に、「心の機微がわからない人」の特徴を四つ挙げていきます。身近に当てはまる人がいたら、「あの人は機微に疎いんだな」とそっと理解してあげましょう。もしくは、「こういうときはこういう行動をするんだよ」と優しく教えてあげましょう。
特徴①他人に無関心
一つ目の特徴として挙げられるのが、「他人に無関心であること」です。他人にどう思われようが我関せず。ゴーイングマイウェイを貫くタイプなので、他人の心の機微にも疎いのです。逆に、「心の機微に疎いからこそ他人に無関心なように見える」ということもあります。
特徴②気持ちに鈍感
二つ目の特徴として挙げられるのが、「気持ちに鈍感」ということです。これは「機微に聡い」の真逆です。他人の気持ちはもちろん、自分の気持ちにすらも鈍感で、心の機微はおろか、表情や態度に出ている 感情にすら気づくのが難しいということも少なくありません。
鈍感な草食系男子がもてる風潮にはありましたが、あまりに鈍感すぎると女子からの人気も低くなります。さらにビジネスの、特に営業職では不利にしかなりません。あまり当てはまりたくない特徴です。
特徴③気持ちの汲み取りが苦手
三つ目の特徴として挙げられるのが、「気持ちを汲み取ることが苦手」というものです。
元々、相手の気持ちを汲み取ることはたいへん難しいことです。しかし心の機微に疎い人は、心の繊細な動きに寄り添うことを人並み以上に苦手としているのです。
相手の気持ちを汲み取ろうと努力することはできますが、的外れなことも少なくありません。そもそも気持ちを汲み取ることが得意であるなら、心の機微にも聡くなるはずです。
特徴④自己中心的
四つ目の大きな特徴として、「自己中心的」ということが挙げられます。これは相手の気持ちや心の機微を 汲み取ろうとせず無視したり、たとえ少しは汲み取れたとしても配慮しようとしなかったりすることによって、どうしても自分勝手になってしまうことによって起こるのです。
「自己中心的」と一口に言っても「子供のようなわがまま」やまるで「王様のような傲慢さ」など、タイプは色々ありますが、この場合の自己中心的とは「他人の気持ちを省みない」という意味です。
心の機微がわかると得?
「心の機微がわかると何かと得をする」という印象をもちやすいですが、それは本当でしょうか。ビジネスと恋愛とに大きく分けて考えてみましょう。よくよく考えてみれば、「心の機微に聡いこと」は本人にとっては意外な負担となってしまう可能性も否定できません。そのくらい心の機微は繊細なものだからです。
ビジネスでは
先ほど「心の機微に疎いと営業職では不利にはたらく」と述べましたが、逆に心の機微に聡いとどうなるのでしょう。ここでは営業職だけではなく、事務職のことも考えてみましょう。あまり人と関わる印象がない事務職でも、心の機微がわかることは有利にはたらくのです。
営業職では
まず営業職では、取引先の代表者の心の機微を読み、取引が決まらなさそうな場合には、相手が自社との取引のどんな点を不安に思っているのか、または競合する他社がいるのかなどの情報を聞き出すことができるでしょう。
ここにはもちろん話術が必要ですが、心の機微に聡い人は相手との距離感を計ることもできるので、今回聞き出せないようであれば次回へと繰り越すこともできます。
事務職では
次に事務職では、心の機微に聡いと「どの書類がどこの部署にとって優先度が高いか」を、人の様子を見て判断しながら書類を仕上げることができます。
これは電話応対や思いがけない仕事の舞い込みやすい事務という職業にとって大きなプラスポイントです。電話での声や書類を渡す手、職場の雰囲気から忙しさの度合いを自身で計れることは、事務職にとっても素晴らしい美点となるでしょう。
ビジネスにおいては、営業職、事務職ともに心の機微に聡くて損することはないということです。会社勤めの方は、ぜひ先述の「機微のわかる人の特徴」を真似してみると良いでしょう。
恋愛では
ビジネスでは「心の機微に聡くて損はしない」という結論になりましたが、恋愛面ではどうなのでしょう。例として「心の機微に聡い彼氏」と「そこまで機微に聡くない、人並みの彼女」とのカップルを考えます。心の機微に聡い彼氏は、彼女の願いにどう応えるのでしょう。またそのときの彼氏の心情は、どんなものなのでしょうか。
心の機微のわかる片方は?
たとえば、彼女が少女漫画に憧れているようなタイプであれば、彼氏は気遣いのできる王子様を演じて応えるでしょう。自立した大人なタイプを望まれれば紳士のように振る舞い、肉食系を望まれればぐいぐい攻め、草食系を望まれればひ弱で優柔不断な彼氏を演じて応えるでしょう。
いずれにせよ、彼女の願いを叶えてあげたいと思うと、キャラを演じることになってしまいます。キャラと素が一致する人は良いですが、異なる人にとっては「違う自分」を演じることとなり、交際することで負担を伴ってしまいます。
これは彼氏と彼女を入れ替えても同じです。相手の好きな自分になろうとするのは相手を好きだからこそなので、止めることはできません。
この負担を解消するには、二通りの方法があります。一つは彼女側も機微に聡い人になること、もう一つは彼氏側が彼女側の機微を無視することです。お互いが機微に聡いのであれば気を遣い合って、相手が自分の好みのタイプになろうと無理して努力し始めた際にも「そのままの君でいいよ」と言ってあげられます。
また、機微に聡い方が「自分を曲げるほどの相手の願望は、気がついても無視する」と決めてしまえば、ありのままの自分を相手に見せ、そして多少の気遣いはしながら、交際を続けることができるでしょう。
ただしこのときに問題となるのは、「心の機微に聡い側の罪悪感」です。相手の気持ちを理解した上で無視することになるので、常に相手に対する罪悪感がつきまといます。
ということで、ビジネスでは有利にはたらく「心の機微に聡いこと」も、恋愛においては「気の遣い過ぎ」を招いてしまう恐れがあり、要注意です。我慢のし過ぎは関係を破綻させてしまいかねません。もしどちらか一方が心の機微に聡いカップルであれば、プライベートでは気を遣わないなどの約束を事前にしておく方が良いでしょう。
心の機微の意味を理解して自分を見つめ直そう
以上では「心の機微」からはじまり、「機微」という言葉の意味や使い方について、英語や例文とともにご紹介してきました。さらに、「心の機微に聡い人、疎い人」の特徴もご紹介いたしました。正しい意味と使い方を理解して、社会人として恥ずかしくない人に、そして心の機微に聡い人になりましょう。