「皮切りに」の意味とは?
「皮切りに」という言葉の意味を知っていますか?テレビなどで歌手や劇団が全国をまわって公演するのを紹介するのに、「東京を皮切りに全国ツアーが始まります」などというコメントを聞いたことがあるでしょう。
普段、何気なく耳にしているこんなコメントで「皮切りに」という言い回しが気になったことはありませんか。「皮切りに」とはどういう意味だろう。スタートとどう違うのだろう。そう思った方はこれをきっかけに、この記事を最後まで読んでみてください。
「皮切りに」の意味
「皮切りに」という言葉は「最初に」や、「手始めに」、「スタート」などの意味を持っていて、主な使われ方は上で紹介したように、「~を皮切りに~する」です。
ビジネスシーンにおいても、規模拡大のために全国展開する計画のプレゼンテーションの中で、スタートの場所として、どこに支社を置くかを説明する時などに、この言葉が使われます。
「皮切りに」はビジネスや政治、外交など、いろいろなシーンで使われますが、個人同士の会話ではあまり使われないので、馴染みのないこの言葉に違和感を覚える人もいるでしょう。
「皮切りに」は若者や子供は使わない
「皮切りに」という言葉は使われるところがある程度限られています。ビジネスをはじめ、テレビのニュース番組でのコメントなどで使われます。
大人になれば、使わないまでも、ある程度の人が言葉の意味を知っているということで、若い人、特に子供にこの言葉を使う人がいます。しかし、若い人には「皮切りに」はという言葉は馴染みがないばかりか、意味さえ分からないのがほとんどです。
なので「皮切りに」は若い人、つまり高校生くらいまでの人には使わない方が無難です。別の言葉、例えば若干意味は違いますが、「スタート」を使って話す方が分かりやすいでしょう。
「皮切りに」の由来
「皮切りに」の言葉の由来は意外ですが、「お灸」です。お灸をすえる時に、最初にすえたお灸は皮膚が切られるような痛みがあって、そこから「皮を切る」となり、この言葉が生まれました。この言葉は江戸時代に生まれたとされています。
「皮切りに」が「最初に」の意味に使われるようになった理由ははっきりしませんが、お灸をすえたときに、最初に「皮膚を切られるような痛み」があることから「最初に行う事」という意味で使われるようになったとされています。
お灸は子供が悪いことをした時などに「お灸をすえる」とよく言います。また、お灸は治療にも使われたりして、「お灸」という言葉は良い事や悪い事の両方の意味を持ち合わせています。
「皮切りに」の特徴
「皮切りに」という言葉は個人同士の会話ではあまり使われないと言いましたが、「皮切りに」の使い方の特徴についてその意味と併せて説明します。
「皮切りに」という言葉の意味や使われ方の特徴を知ることで、「皮切りに」という言葉をどのような場合に、どのように使えば良いのかが、よりはっきりと分かって正しい使い方ができるきっかけになれば幸いです。
「皮切りに」は個人同士の会話で使わない
「皮切りに」という言葉の由来が身近にある「お灸」からきているにもかかわらず、個人同士の会話ではなく、ビジネスやニュースなどで使われているのはなぜでしょうか。
「皮切りに」は「最初に」や「スタート」とほぼ同じ意味ですが、ビジネスや講演やツアー活動などこれから続けていって、良い結果になることを企業や団体が期待するシーンに使われ、また、固い言葉でもあるため、個人同士では使われなくなったとされています。
個人で同じような意味のことを話す場合には、もう少し柔らかい表現である、「最初に」や「~をきっかけに」、「スタート地点として」などの言葉を使うのが良いでしょう。
「皮切りに」は前向きな表現
「皮切りに」は「最初に」や「初めに」、「きっかけ」、「スタート」などと似た表現ですが、決定的な違いがあります。「最初に」などの類語については次項で詳しく説明します。ここでは「皮切りに」の使い方の大きな特徴について紹介します。
ビジネスシーンでは「前向き」な使い方
「皮切りに」の表現は、ビジネスシーンにおいて「前向き」な使い方が普通です。今までの説明でも例に挙げたように、事業拡大、講演の全国展開などいずれも今後、発展していったりそれを期待できる、前向きな場合にのみ使われます。
前向きでない場合は使わない
「皮切りに」は後ろ向きな場合には使わないのが普通です。例えば「大阪支社が閉鎖されたのを皮切りに、その他の支社も次々と閉鎖に追い込まれていった」のような、マイナスイメージの事象にはビジネスにおいては「皮切りに」は好ましくありません。
この場合は「皮切りに」ではなく、「続けて」という言葉が適当です。最初に閉鎖されたことが原因で次々と閉鎖に追い込まれたという印象を与えてしまいます。あくまで「皮切りに」は今後拡大していく、前向きな場合について使われる表現です。
「皮切りに」は望ましくないと説明しましたが、補足すると、「きっかけ」という言葉もこの例では「皮切りに」と同じような意味になるので適当ではありません。このようにビジネスにおいては言葉の選択に最新の注意を払わなければなりません。
「皮切りに」は勢いのある言葉
もうひとつ、「皮切りに」は「勢いがある」という意味を含んだ言葉です。つまり、言い換えれば、「~を出発点にして、次々に~」や「~から始まって次々に~」、「~をきっかけに次々と~」などのように、「次々に」という意味を含んだ、勢いのある言葉と言えます。
このことからも、「皮切りに」という言葉が前向きなケースに多く使われるのかが分かります。後ろ向きな事柄に対しては「勢いがある」というのはあまりふさわしくありません。
「皮切りに」の類語
「皮切りに」という言葉にはよく似た表現がたくさんあるように思っている人が多くいます。しかし、「皮切りに」の類語とされる他の表現のほとんどは、「皮切りに」と前提が異なります。
「皮切りに」の主な類語を挙げ、それらの類語の意味を「皮切りに」の意味とどのように違うのかについて紹介します。
「皮切りに」の類語~きっかけ
「皮切りに」の意味を説明しているところで「きっかけ」と解説しているものがあります。確かに意味としてはかなり似てはいるのですが、「皮切りに」と「きっかけ」は厳密には少し意味に違いがあります。
「きっかけ」の意味は、例えば「彼がこの会社に入ったのをきっかけに、売り上げが急激に上がった」のような例文に見られるとおり、彼がこの会社に入ったのは1度であり、これが売り上げが上がった原因につながったということです。
これに対して、「皮切りに」ははじめに挙げた「東京を皮切りに全国ツアーが始まります」の例文のように、ツアーは始まりが東京で、その後、各地で実施される繰り返しの意味があるような使い方です。
「皮切りに」の類語~最初に・初め
「最初に」、「初めに」は「皮切りに」の類語としては最も近い意味になります。ただし、いずれも「に」がつかなければ、「皮切り」とはちょっと違った意味になってしまいます。
「最初に」、「初めに」はいずれも1回目にしたことを繰り返したり、2回目があるときに使われます。「最初に~し、次に~する」のように、「次に」と続けることができる意味の文章に使います。そういう意味では「皮切りに」とほぼ同じと言えます。
「皮切りに」が「最初に」や「初めに」と違う点は、意味というよりもその使われ方です。「皮切りに」はビジネスを例に取ると、何かをスタートするときに、社運をかけた場合などに使います。「最初に」や「初めに」ではその勢いが弱くなります。
普段の会話であまり使われないのは、ビジネスの場合と違って、この勢いは必要とされないことが多いからかもしれません。
「皮切りに」の類語~筆頭に
「筆頭に」もまた「皮切りに」の類語です。「筆頭に」には「代表として」という意味を含んでいますが、「皮切りに」も「最初に行う事」を代表と考えれば同じような意味になります。
この2つの違う点としては、「筆頭に」は同時に複数の物(人)が存在し、「皮切りに」は「次々と」という意味の通り、1番はじめに事象が発生してから次までの時間的なずれがあります。
つまり、「皮切りに」は「最初に行われること」を指し、「筆頭に」は「同時に行われていることの代表」を指すという違いがあります。「筆頭株主」などが例として挙げられます。
「皮切りに」の類語~スタートライン
「皮切りに」の類語として「スタートライン"start line"」が挙げられます。英語の意味の通り、出発地点ということで、「物事を始める事」の意味になります。
ただしこれも「皮切りに」のように継続性を持った場合でなくても使われるため、若干意味や使い方が異なります。
「事業拡大のため、皮切りに大阪に支社を立ち上げたが、これはまだスタートラインに立ったに過ぎない」の例を見ても分かる通り、「皮切りに」とは違ったニュアンスで使われます。
「皮切りに」の対義語
通常、ある言葉の意味や使い方を説明する場合、類語や対義語を挙げて、それらとの比較によって、よりその言葉に対してイメージが湧きます。
「皮切りに」についても類語の説明はしました。同様に対義語についても紹介しようとしましたが、残念ながら「皮切りに」の対義語は特にありません。「皮切りに」という言葉自体が特殊な言葉のため、これに対応する言葉が見当たらないのです。
「皮切りに」は今後の状態が良くなる時に使われる言葉なので、スタートできない、開始できないなどの場合に使われる言葉が意味的に対義語になり得ます。
例えば「事業拡大のため、皮切りに大阪に支店を作る計画だったが、予算の都合で実現しなかった」の後半部分のように「皮切りに」を打ち消すような内容がある意味対義語になります。
「皮切りに」の英語表現
「皮切りに」の英語表現にはどのようなものがあるのでしょうか。「皮切りに」の類語のところでもいくつかの類語があったように、英語表現も文脈等によっていろいろな表現があります。
「皮切りに」の英語表現の一般的なものや、前後の意味によって変わる英語表現など、例文を挙げて紹介します。
「皮切りに」の一般的な英語表現
「皮切りに」と辞書で調べると、"start"や"bigining"などの単語が出てきます。この他にも"opener"や、本来「かすり傷」や「ひっかき傷」などの意味から派生した"scratch"(最初から・ゼロからの意味)などがあります。
ここで注意したいのは、これらの英語表現は必ずしも「皮切りに」と同じ意味とは限らないということです。「スタート」などはすでに今までの説明で類語としていますが、これは英語では一番当てはまる言葉です。
「皮切りに」の意味類語のところで説明したように、「皮切りに」には「継続する」という意味を含んでいます。
英語表現ではこの「継続する」、「継続しない」を区別せずに使っているため、「皮切りに」ではなく「きっかけ」どの他の類語に翻訳した方が良い場合があります。
「皮切りに」の英語表現を使った例文
「皮切りに」に置き換わる一般的に使われる英語表現として、"start"や"bigining"、"opener"を使った例文を以下に紹介します。
"start"を使った例文:He traveled the whole country, starting with a lecture in Fukuoka.(彼は福岡の講演を皮切りに全国をまわった)
"bigining"を使った例文:Begining with his activities, activities were carried out in various places.(彼の活動を皮切りに各地でも活動が実施された)
"opener"を使った例文:This game is the season opener.(このゲームが今シーズンの皮切りです。)※ "opener"は例文のように、シーズンの始まり(開幕)などで使われます。
「皮切りに」のその他の英語表現
「皮切りに」の英語表現では上記以外にも文脈から「皮切りに」と翻訳した方がしっくりくるものもあります。
すでに説明したように、もともと英語表現では「皮切りに」と「きっかけ」などの類語との厳密な違いは見当たらないため、同じ英語表現でもその前後の状況等によって使い分ける必要があります。
「皮切りに」と翻訳した方が分かりやすい英語表現
「皮切りに」の一般的な英語表現のところで紹介した単語以外でも、「皮切りに」と翻訳した方が良い例文を紹介します。
"trigger"は「引き金」の意味を持ちます。それがきっかけになるような場合に「引き金になって」と表現しますが、「皮切りに」と翻訳するケースもあります。"Triggered by this ~"(この~を皮切りに)こちらの翻訳の方がしっくりします。
"first"も「皮切り」と同様の意味に使われます。日本語でも「最初に」の意味が酷似しているのと同じです。
「皮切りに」は日本語独特の文化
「皮切りに」に関する英語表現の説明でも分かる通り、日本語と英語は必ずしも1対1ではありません。このことは今さら説明するまでもありませんが、この、「皮切りに」のように、意味を知っていないといったいどういう意味か全く分からないで使われている言葉は日本語には数多くあります。
逆に言えば、言葉の語源や由来を知っていなければ意味が理解しにくいような言葉は日本語にたくさんあって、少し大変な気がします。
日本語を英語に置き換える際にも外国人に意味を説明し、それに近い単語を当てはめているので、ピッタリな英語表現がないものも多いのです。
しかし、歴史的な背景から生まれた言葉が多い日本語は、日本独特の文化のひとつと言っても良いでしょう。
「皮切りに」の使い方
「皮切りに」の特徴や類語のところで解説した結果で、日常的に使われる言葉ではないことがわかりました。ただ、普段使わないからと言ってそのままにしておくと、使い方や意味があいまいになってしまいます。
ここでは「皮切りに」がどのようなシーンで、どのような使われ方をされるのかについて、例文付きで解説します。ここで挙げる例文とその説明が、より確かに頭に残るきっかけになるようにまとめてみました。
例文①
ビジネスシーンにおいて、最もよく使われる使い方の例文です。「大阪を皮切りに、全国展開を計画している」と、経営計画のプレゼンなど、様々なところで使われます。
この場合の意味は「全国展開するにあたり、スタートにあたり、まず大阪に支社を出す」ということで、事業を拡大するために各地に支社を置き、市場を拡大するが、まず第一に大阪をスタート地点とすることを的確に表しています。
例文②
例文①ではビジネスシーンにおける「皮切りに」を使った例でしたが、これはある特定の人を対象にも使う使い方があります。「彼は大きなプロジェクトを成功したのを皮切りに、次々と大きなプロジェクトを任せられるようになった」
これは彼がまず1つ目の一大プロジェクトを成功させて実績を作り、その実力が認められた結果、その後もプロジェクトを任せられるようになった、ということで彼の仕事が継続的に行われていることを指します。
例文③
「皮切りに」の例文として、ビジネス展開や特定の人についての使い方を紹介してきました。「皮切りに」は他によく使われるケースとして、政治や外交のニュースがあります。
「A国との国交が開かれたのを皮切りに、近隣諸国とも次々に国交を開くことができました」というように、「皮切りに」を使ったニュースはよく耳にします。
例文④
「皮切りに」は前向きな表現と紹介しました。例文でも状況が良くなるものを挙げてきましたが、まれにそうでない使い方をするケースもあります。
「新型インフルエンザは神戸での発生を皮切りに全国各地で確認された」というのは決して前向きではありませんが、このように新型インフルエンザが急激に広がったことを強調したいような場合に使われることがあります。
「皮切りに」が前向きでない使われ方をするのはこのようにニュースなどに限られていて、ビジネスシーンでこの言葉を前向きでない使い方をすることは、急激な変化を意味するので、良い印象を与えず、おすすめできません。
「皮切りに」の注意点
これまでの「皮切りに」という言葉の説明の中で、いろいろな注意点、例えばビジネスにおいては前向きでないケースには使わない、個人同士での会話では使われない、などを挙げてきました。
これらはどれも言葉の使い方が中心ですが、それ以外に注意をした方良いというケースについて紹介しておきます。
「皮切りに」は差別用語?
「皮切りに」は「皮」と「切り」の2つに分解できます。「皮切りに」の由来のところで説明した通り、もともとはお灸の「皮膚の切れるような」からきているのですが、この字の構成から、差別用語として捉われることが稀にあるので、知っておいた方が無難です。
それは、「皮」を「切る」というところから、「皮を剥ぐ」という意味に解釈され、その昔、牛や馬が死んだとき、その死骸から皮を剥ぐ仕事があり、その仕事は身分の低い人たちでした。
このことから場所によってはこの言葉は悪い印象を与えることにもなるので、使い方には十分な注意が必要です。
実際、NHKをはじめ、各放送局における差別用語一覧にも載っていて、「使い方に注意をし、時と場合を考えて使う事」となっています。
「皮切りに」は「前向き」に「続けていく」という意味
「皮切りに」は「前向きに」、「継続して」という意味を含んだ「最初の」、「始まり」、「スタート」という言葉であることを紹介してきました。
また、ビジネスやテレビのニュースなどで主に使われることや、子供など若い人は使わない言葉であることも紹介しました。
「皮切りに」は他の国にはない、細かい言い回しの言葉がたくさんある日本独特の言葉の文化と言えるでしょう。
この記事を読んだのをきっかけに、ビジネスシーンでこの言葉がたくさん使われるような発展を遂げることを期待しています。