パラダイムシフトの意味とは?
20世紀の後半、1970年代あたりから日本の社会においても「パラダイムシフト」という言葉を耳にするようになりました。これは元々哲学、社会学、科学論、科学史などの分野で使われた英語ですが、それがビジネス社会においても使われるようになって来たのです。
このパラダイムシフトという言葉の意味をご説明するために、先ずパラダイムという英語の意味からご説明して、その後パラダイムシフトの意味をご説明します。
またその後で、パラダイムシフトという言葉の使い方の例をいくつかの例文によって示します。更にパラダイムシフトという言葉の類語やパラダイムシフトの由来と歴史、パラダイムシフトの英語表記、パラダイムシフトに当たる言葉の漢字表記などもご説明します。
パラダイムの意味
パラダイムシフトの意味をご説明する前に、先ずパラダイムシフトの中の「パラダイム」という言葉の意味をご説明します。
このパラダイムという英語を独特の意味で使って脚光を浴びた書物はアメリカの科学史家、トマス・クーンの『科学革命の構造』(英語の原題は"The Structure of Scientific Revolutions"で出版年は1962年)です。
この書物の中でクーンはパラダイムという言葉にいろいろな意味を持たせて使ったので批判を受けましたが、基本的な意味は「その時代の科学におけるものの見方」とか「基本理念」というような意味合いで使いました。
ビジネス社会でパラダイムという言葉はやはり上と同じく「その時代の社会を支える根本概念」というような意味合いで使われています。
パラダイムシフトの意味
パラダイムという英語の意味は上記の通り、根本概念という意味でした。シフトという英語の意味は「移す」、「転じる」、「変える」という風な意味です。
従ってパラダイムシフトとは「これまでの根本概念や観点が大きく変わること」を意味する言葉だということになります。トマス・クーンは科学革命は新たな真理の発見がなされたことによって起こるのではなく、物の観方が変わることによって起こるという画期的な説を唱えました。
従って科学は究極の真理に向かって着実に進歩するのではなく、観点が変わって行く過程だと言うのです。このクーンの説は科学者などからの猛烈な反発を招きましたが、少し時間が経過するうちに一面の真実を捉えた考え方であると認められるようになりました。
ビジネス社会においてもパラダイムシフトという言葉は「発想の転換をして新しい価値観を生み出す」というような意味合いで使われています。
パラダイムシフトの類語
さて、パラダイムシフトという言葉の意味は、これまでの根本概念や物の観方ががらりと変わるということでした。
それではこのパラダイムシフトという言葉の類語、すなわち似た意味を持つ言葉としてはどんな言葉があるでしょうか。以下にパラダイムシフトの類語を2つ挙げてみましょう。
類語①
パラダイムシフトの類語として最初に挙げるのは「革命」という言葉です。政治革命ではこれまでの基本的な政治制度や政治理念、倫理や道徳などががらりと変わってしまいます。これまで当たり前とされて来た根本概念が180度変わってしまうという意味でパラダイムシフトの類語と言えます。
類語②
パラダイムシフトという言葉の類語として第2番目に挙げるのは「発想の転換」という言葉です。例えばアインシュタインの相対性理論は時間とか空間という物理学における基本概念をがらりと変えたという意味でまさに発想の転換であり、これはパラダイムシフトの類語に当たります。
パラダイムシフトの使い方・例文
上にパラダイムシフトという言葉の意味をご説明しました。それはこれまでの根本概念が変わること、あるいは物の見方が変わることで、平たく言えばこれまで当たり前だと思っていたことが変わるということを意味する言葉です。
これから、このパラダイムシフトという言葉の使い方を4つの例文を挙げてご説明します。パラダイムシフトという言葉はビジネス社会でも使われるし、科学史など学問領域でも使われるのでビジネス社会での使い方と学問領域での使い方を両方挙げることにします。
例文①
パラダイムシフトという言葉の使い方の例文として最初に挙げるのは科学史という学問領域における使い方の例文です。それは次のような例文です。
「コペルニクスの地動説は宇宙を観る視点を太陽に置く天動説から地球に置き換えるもので、これは物の観方の根本的な変革という意味でまさにパラダイムシフトに当たる」というものです。
例文②
パラダイムシフトという言葉の使い方の例文として第2番目に挙げるのは物理学という学問領域における使い方の例文で、つぎのようなものです。
「20世紀の物理学の革命の中心である相対性理論や量子力学は、時間、空間や物の実在という物理学における根本概念を一新したという意味においてまさしくパラダイムシフトに当たる」という例文です。
例文③
パラダイムシフトという言葉の使い方の例文として第3番目に挙げるのは、ビジネスの領域における使い方の例文で、次のようなものです。
「人工知能の出現は現代の産業構造、労働政策、生活様式の全般にわたって、我々にパラダイムシフトを要求している」という例文です。
例文④
パラダイムシフトという言葉の使い方の例文として第4番目に挙げるのは、これまたビジネスの領域における使い方の例文で、つぎのようなものです。
「現代は全世界に亘ってスマートフォンが普及したことにより、知識の普及やコミュニケーションの在り方においてパラダイムシフトが起こっている」という例文です。
「パラダイムシフト」と「画期的な新発見」の違い
パラダイムシフトとは従来の根本概念や物の観方を大転換することでした。これと一見よく似た言葉に「画期的な新発見」という言葉があります。しかし実は、この二つの言葉の意味は違うのです。その違いをこれからご説明いたします。
「画期的な新発見」は「重大なことが新たに見いだされた」という意味
「画期的な新発見」とは「極めて重大な事あるいは物が新たに見出だされた」という意味です。あるいは新たに見出だされた事や物自体を指す場合もあります。
パラダイムシフトは発想の転換とか根本概念の変革という意味ですから新発見が行われる土台となる事柄で、新発見自体とは違うのです。
パラダイムシフトを使う際の注意点
パラダイムシフトという言葉はいろいろな意味合いを含んでいて、ずばり一言で日本語に置き換えることができません。つまりやや曖昧な意味合いを持つ言葉なのです。
従ってパラダイムシフトと一見似たような意味を持つ言葉もいろいろあります。その中にはパラダイムシフトとは区別して使うべき言葉もあるので混同しないように注意が必要です。
大発見・大発明では使えない
上にも申し上げた通り、パラダイムシフトは大発見や大発明が行われる土台をなす条件なので、大発見や大発明が行われた事自体を指す言葉ではありません。従って大発見や大発明が行われた時に「パラダイムシフトが起こった」という使い方はできませんから注意する必要があります。
パラダイムシフトの由来・歴史
パラダイムシフトという言葉の意味や使い方、またパラダイムシフトという言葉を使う際の注意点などを解説いたしました。
それではこのパラダイムシフトという言葉の由来、つまり何がこの言葉が使われる始まりなのか、またパラダイムシフトという言葉が使われる過程でどんなことが起こったのかというパラダイムシフトという言葉の歴史を辿ってみます。
由来
パラダイムシフトという言葉の由来、すなわちルーツを辿ると、アメリカの科学史家トマス・クーンが1962年に出版した『科学革命の構造』という著作に行き着きます。
この著書の中でクーンは、科学革命は新たな真理の発見によって起こるのではなく、パラダイムシフトによって起こるという画期的な科学史観を打ち出して科学史界に大きな波紋を投げかけました。
歴史
パラダイムシフトという言葉は上に申し上げた通り、クーンの『科学革命の構造』の中で初めて世に出たのですが、その後この言葉を巡っていくつかの論争が行われました。
最初は科学史・科学哲学の分野で1970年代に累積進歩史観を採る学者たちとの間に行われた科学の進歩という概念を巡る論争です。この論争は1970年代の終わり頃にはクーンには言いすぎた面もあるが一面の真実を明るみに出した面もある、ということで鎮静化しました。
次の論争は1990年代に現役の科学者たちと構造主義の社会学者たちとの間に行われた科学的真理の概念を巡る論争です。これは2000年代に入ると曖昧な形で双方が納得しないまま下火になりましたが、現代の若手の研究者の中には究極の真理というものはないと考える人たちも出て来ました。
またパラダイムシフトという言葉は1970年代に人文科学界やビジネス界の領域においても、従来のやり方や価値観を大転換するというような意味で使われるようになりました。
パラダイムシフトの英語表記
「パラダイムシフト」という言葉は、根本概念とかものの観方を意味する「パラダイム」という英語と移動とか変化、転換などを意味する「シフト」という英語の合成語です。
「パラダイム」の英語表記は「paradigm」、シフトの英語表記は「shift」で、パラダイムシフトの英語表記は「paradigm shift」です。
パラダイムシフトの漢字
パラダイムシフトは英語ですが、ずばりこの英語に当たる日本語がないので、パラダイムシフトの漢字表記と言っても確定したものを示すことはできません。
しかし大体このパラダイムシフトという言葉に相当する日本語はいくつかあり、それらの漢字表記を示すことはできます。それは「発想の転換」や「観点の変化」、「価値観の変革」などです。
パラダイムシフトは発想の転換という意味
パラダイムシフトという言葉は学問の領域でもビジネスの領域でも時々耳にします。しかし実はこの言葉はいろいろな意味合いで使われる言葉で一つの確定した日本語訳はありません。
ビジネス界では主として「発想の転換」とか「価値観の変革」という風な意味で使われます。つまり従来当たり前としてきた物の観方、価値観、概念などを劇的に変えて新しいものを生み出すこと、という風な意味です。
パラダイムシフトという言葉の意味、この言葉の使い方、この言葉を使う際の注意点、この言葉の由来や歴史、この言葉の英語表記と漢字表記などについてご説明しました。