「抽象的」の意味とは?
「抽象的」に物事をとらえるというと、この「抽象的」は「いくつかのものの共通点をひきだし本質的に捉えること」を意味しています。
一方で「抽象的過ぎてわかりにくい」と使われることもあります。この「抽象的」という言葉は「ぼんやりしている」という意味です。「ぼんやり表現しても意味が分からないから、もっと具体的に言いなさい」という意味の要求をされていることになります。
この二つのことは「抽象的」という言葉が、理解する側、使う側それぞれの能力的な限界によって良くもあり、悪くもありという性質を持っていることを意味しています。
「抽象的」の対義語・類義語
「抽象的」という言葉のイメージは「はっきりしないもの」「理解しにくいもの」で、かなり捉え難いです。それならば、「抽象的」の対義語や類語を検討することから「抽象的」自体に近寄っていくことで「抽象的」の意味を考えてみましょう。
「抽象的」の対義語
「理解しにくいもの」「はっきりしないもの」のイメージが強い「抽象的」に対して「はっきりしているもの」「見た目そのままであるもの」の類のことを「具体的」と言います。つまり「具体的」は「抽象的」の対義語です。同様な意味では「具象的」や「物質的」なども「抽象的」の対義語です。
一般に「具体例」を挙げるというときには、実際の事件や体験について書いたり、話したりします。「食後に食べるもの」と挙げるより「デザート」「果物」「りんご」と挙げる方が、より具体的になります。
また、「いつか白馬の王子様が」というよりも「ハリウッド俳優のようなイケメン」「ブラッドピット」「竹内涼真」と名前を挙げて示す方がより具体的でイメージを伝えやすくなるでしょう。
「抽象的」の類語
「はっきりしない」「理解しにくいもの」というイメージの「抽象的」は「一般化した」「概念的」「本質的」などに言い換えられるでしょう。これらの言葉は「抽象的」の類語です。
たとえば、先の例では「デザート」や「果物」は「りんご」の外枠として一般化しています。また「みかん」と答えても「メロン」と答えても「果物」は「りんご」「みかん」「メロン」などの類語の中にある共通的な部分を引き出して、一般化した言葉です。
つまり「抽象的」に表すということは「ぼんやりさせる」ということではなく、より本質的な部分に触れて伝えることになります。多々ある類語すべてに共通する部分をとらえて表すことが「抽象的」に表すということです。
「概念的」の意味と対義語
「概念」とは、物事について、それがどういうものなのかの共通認識を意味します。たとえば、蝶やバッタや蝉が並ぶ絵を見て「これらをひと言でいうと」と聞かれた時「虫」ですと答えるでしょう。「虫」が「蝶」「バッタ」「蝉」の共通認識であり「概念」です。「概念」の対義語は「具象」です。
「一般化」の意味と対義語
日常的な場面で使われる「一般化」は、広く行きわたること、広く適用させることを意味します。「スマートフォンは中高生にも一般化してきている」のように、珍しいものではなくなってきたという意味で使われます。
学問の場では「一般化」は難解な言葉です。様々な物事の共通点をひきだし(抽象化)、ひとつの概念にまとめるという意味になります。類語に「普遍化」、対義語に「特別」があります。
「本質的」の意味と対義語
「本質的」とは、物事の根本的な性質に関わったという意味です。「抽象的」という言葉が、複数の物事を共通点でくくっても良い悪いを評価するものではないのに対し「本質的」は良い悪いを評価する尺度にもなる点で異なっています。
「本質的」の対義語は「末梢的」です。これは、枝葉のこと、末端です。つまり、本体や物事の重要な部分ではないことです。
「本質的」は「根本的」という意味で「抽象的」の類語ですが「本質的」の対義語である「末梢的」の意味は「抽象的」の対義語の意味にはなりません。
「抽象的」の使い方・例文
「抽象的」という言葉は「理解しにくいもの」という意味が独り歩きします。「はっきりわからないもの」を言葉で説明すること自体、面倒で難解だと感じさせる壁を持っているようです。
「抽象的」という言葉の意味を「理解しにくいもの」「本質的なもの」「一般化したもの」と並べると、ますますその意味がわかりにくくなってしまいます。「抽象的」の意味の理解を、具体的に例文を挙げて、はっきりとつかんでみましょう。
「抽象的」の使い方
「抽象的」は、形容動詞「抽象的だ」の語幹です。たとえば「抽象的な表現」の「抽象的な」は「表現」という名詞に続く連体形です。「抽象的で、理解しにくい」の「抽象的で」は連用形の中止法です。ともに「あるものから本質的なもの、共通項をひきだして一般化した」という意味の使い方です。
また「抽象的過ぎて実態がつかめない」の「抽象的」は「抽象的過ぎる」という動詞の語幹の一部で、この文においては「ぼんやりしている」という意味や「具体性に欠ける」という意味の使い方になります。
例文①
年頭に今年の抱負を宣言する機会があったとしましょう。そのときに「今年こそ我が社の大物になるべく、頑張ります。」というと、大雑把で、計画性、具体性に欠けます。これを、本質的にどう変わるかを提示する表現にするとどのような使い方になるでしょうか。例文を見てみましょう。
「今年は、昨年の売り上げの30パーセントアップを目指し、新しいクライアントを開拓するべく営業活動に励みます。」
これはかなり具体的な表現の例文です。元の文の「我が社の大物」という言い方は、取りようによっては冗談のような本質に欠ける表現です。「頑張る」も、抽象的で、無計画なその場限りの思い付きのような決意表明だったでしょう。
「抽象的」は、理知的で哲学的なイメージの言葉ですが、抽象的に表現することが、高等で理知的な表現であるとは限らない例になるでしょう。「頑張ります」は、意欲や抱負を問われるときに使われる表現ですが、抽象的な言い方で、具体例や具体的な計画性のない使い方をしても意味がないようです。
例文②
説明する力が不足していたり、理解が浅いために「抽象的」な表現になってしまうことがあっても、具体的なものを敢えて「抽象的」に捉えることはたいへん難しいでしょう。
「本質的に物事を捉えるためには、特性を抽象的に熟考することが大切です」や「高難度の大学の入試問題を解くためには、抽象的思考をする力が不可欠です」という例文は、抽象化する能力の重要さを語っています。
例文③
なかなか進展のない会議は、参加者のモチベーションをさらに下げ、不毛です。たとえば、業績が向上しないことを結果ばかり繰り返し唱えていても解決にはつながらず、意味がありません。
「中身のない抽象的な分析ではなく、もっと具体的な案を求めているのだ。何をどうするか、改善策や新政策を持ってきてくれることを望む」
このような要望が出された時には、気を引き締め早急に具体案を提示する必要があるでしょう。交渉ごとにおいては、抽象的な説明より具体的な方法の提示が効果的であることを表す使い方の例文です。
例文④
インタビューの腕前は、相手が何を聞かれているかを把握しやすい質問の投げかけ方をできるかどうかにかかっています。大切なのは、わかりやすい直接的な言葉で聞くことです。
「インタビューをするときは、遠慮して抽象的な聞き方をすると求める答を得られないことがあります。」
これは、子どもに注意するときに「いけないことをした」と抽象的に叱っても伝わらないことでもわかります。「クマさんのぬいぐるみををおもちゃ箱に戻しなさい」というように、具体的な伝え方をする必要があります。
「抽象的」つまり「本質の共通点をひきだし一般化」し過ぎると、伝わりにくくなくなることを表す使い方の例文です。
「抽象的」と「曖昧」の違い
「はっきりしないもの」というイメージを持つ「抽象的」の類語のひとつとして「曖昧」を挙げましたが、これら「抽象的」と「曖昧」の意味や使い方の共通点は何で、違いは何でしょうか。二つの言葉「抽象的」と「曖昧」を比べて、検討してみましょう。
「曖昧」は「はっきりしない」という意味
「抽象的」は「具体例」に比べて、より本質的な部分に触れ、一般化することだとご説明しました。「曖昧」についてはどうでしょうか。
「曖昧」は「あいまい」と読みます。「曖」は「ほの暗い」「おおう」「隠す」という意味の漢字です。「ほの暗い」ので、はっきり見えない、つまり、わかりにくいという意味につながります。
「曖昧」の「昧」の意味も「うす暗い」「暗くてはっきりしない」「夜明けのうす暗い時」で「曖」同様に「うす暗い」ゆえにはっきりと見えない、つかめないという意味です。
「曖昧」は「うす暗いゆえに、はっきりと見えない」こと、本質どころか外見がはっきりしないという意味です。「抽象的」は外見はともかく、内側にあるもの、本質の共通項、一般化したものであるので、同じようにわかりにくいものであっても「曖昧」と「抽象的」の意味や使い方は異なります。
極端な例を挙げてみましょう。「抽象的」と「曖昧」という言葉には「あまりに抽象的なので本質的な部分を説明することが難しく「曖昧」な説明をした。」というような関係があります。
「曖昧」の対義語
「曖昧」は外見上の輪郭線が明瞭でないという意味や、論点がはっきりしないという意味です。これに対し、ぱっと一目見てまたは聞いて、即座にはっきりわかることを意味する熟語「明瞭」「明確」などは「曖昧」の対義語です。
「抽象的」を使う際の注意点
「抽象的」な表現をする時、わかりにくいからといって物事のうわべだけを説明していては、物事の本質に触れているとは言えません。「抽象的」に表現した結果、個別の話ではなく、共通点を見出し、一般化して言及されている必要があります。
「抽象的」に表すということは、よくわからないから曖昧な表現で煙に巻いてごまかすという意味ではないということをよく理解しましょう。
「中身のないもの」では使えない
「抽象的」に表すということは、ぼんやりさせることではありません。また「抽象的」は内側に向かって分析する必要があるので、もともと中身のないものを、まるで本質的に素晴らしいものであるかのように表すことではありません。
「抽象的」な物事を、難解なものについて語っているからわかりにくい伝え方になっても仕方がないと捉えるのは誤りです。本質を扱っているからこそ抽象化しているのであって、中身のないものを過大評価して表すことではないのです。
まるで中身のないものについて「抽象的」に表したり分析することは無駄な作業で、そのことに気付くかないで長く組み合っても徒労に終わってしまいます。
類語を駆使して本題の周辺を討論しても、なかなか本質に触れることはできません。それは、抽象的に扱っているのではなく、曖昧な立場から離れることができないでいるだけです。
「抽象的」の由来・歴史
学生から社会人まで、多くの人に意味がわかりにくい言葉、やっかいな言葉と身構えられがちな「抽象的」という言葉の意味をよく知るために、この「抽象的」という言葉の由来や歴史をご紹介しましょう。
由来
「抽象」の「抽」は「ひきだす」という意味です。「象」は「対象」の「象」で、「形」「ありさま」という意味です。抽象」は、対象から中にある重要なものをひきだすという意味です。
この言葉は、明治期に西洋文化を取り入れるにあたり「abstract」という英語に当てた翻訳語です。「abstract」は、ラテン語に語源があり「ab」は「離れる」意味の接頭語で「tract」は「引っ張る」という意味です。また「的」は「ような」という意味の接尾語です。
英語においても、日本語においても、いずれも「物事の中心から本質的なものを抽出する」という意味を表しています。
翻訳語の意味
明治以降、西洋哲学が持ち込まれ「抽象的」概念について論じられるようになりました。「抽象的」という漢字の言葉は、その折に西洋の文献を翻訳して当てられた日本語です。
哲学においては「抽象的」概念について論じられることが多く、この「抽象的」はじめ「社会」や「権利」などの翻訳語なくしては「西洋哲学」の研究は進まなかったであろう重要な言葉でしょう。
歴史
文学評論や美術史において「抽象」という言葉や流派がよく見かけられます。どれも、写実でなくわかりにくいものと捉えられることが多いようです。
近年の文学評論においても「抽象性」や「抽象化」という言葉が用いられます。また、美術評論において「モンドリアン」や彼が影響を受けたキュービズムの「ピカソ」などの作品は「抽象的」の言葉の意味を把握しきれない人も、きっとこれは抽象画だと理解するでしょう。
「抽象的」の英語表記
「抽象的」「具体的」という言葉のセットは、暗記するべき英単語の中でもよく問われます。日本語でも意味が難しい言葉なので、これらの単語が出てくる英文の意味も難解に感じることが多いでしょう。「抽象的」と対義語の「具体的」および「抽象的」と混同しやすい「曖昧」の英語をご紹介します。
「抽象的」の英語
「抽象的」の英単語は、形容詞「abstract」です。この英単語は、可算名詞として「an abstract」で「適用」「要約」、不可算名詞として「the abstract」で「抽象」「抽象的思考」となります。
また「抽象的」という言葉が思いつきやすい日本語の「抽象画」は「an abstract painting」と言い「抽象画家」を「an abstract painting artist」と表します。
「具体的」の英語
「抽象的」の対義語の「具体的」の英語は「concrete」です。「具体的な計画」を「concrete plan」と言い「具体的な実例」を「concrete example」と言います。
また「はっきりした」「特定の」という意味で「specific」という英語を使う場合もあります。これは「一般的な」という意味の英語「generic」の対義語でもあります。
「曖昧」の英語
「抽象的」なという言葉と意味や使い方を混同しやすい言葉「曖昧」の英語は「fuzzy」「obscure」「vague」などがあり、文意によって使い分けられます。
「fuzzy」は「輪郭がはっきりしない」「ぼやけた」という意味です「obscure」は「an obscure figure」のように使われ「ぼんやりした人影」と訳されます。また「an obscure meaning」は「あいまいな意味」となります。いずれも「抽象的」の類語です。
「vague」は「Could you be any more vague?」「雲をつかむような話ですね」のように、相手の話が具体性がなくはっきりしない話であるようなときに使います。
「fuzzy」も「obscure」も「vague」も「はっきりしない」という意味があるので「抽象的」の英語「abstract」の類語と言えるでしょう。
「抽象的」は「はっきりしない」という意味
「抽象的」という言葉は「あるものから重要な部分をひきだした」「抽出した」「よう」なという意味です。
「一般化した」という意味で使われる時には「いくつかの与えられたものの共通点をそれらの中身を分析することによって見出した」という意味です。
「抽象的」に把握することを、輪郭をはっきりさせず、大雑把に表すことと誤解して発言されることも多いですが、これは、本来の「抽象的」な捉え方ではありません。「曖昧」などの類語を混同しないように、使い方に注意しましょう。
わかりにくい言葉ではありますが、物事を「抽象的」に捉える能力は、分析力や解決能力の向上に欠かせないものです。