「能ある鷹は爪を隠す」の意味や正しい使い方を覚えよう!
「能ある鷹は爪を隠す」ということわざは、人が意外な能力や実力を発揮した時に使う言葉で、例えば「彼女の先日のプレゼンは、いつもの仕事ぶりからは想像できないようなアピール力で、能ある鷹は爪を隠すという言葉がぴったりです」のような使い方をします。
しかし「彼は昇進には欲がない風を装っていながら、周りを出し抜いてちゃっかり昇進テストに合格している。能ある鷹は爪を隠すタイプだね」という使い方は、正しい使い方ではありません。どこに違いがあるのでしょう。
「能ある鷹は爪を隠す」の正しい意味と使い方を理解していないと、間違った意味の使い方をしてしまう可能性があります。そのためにも、これから紹介する「能ある鷹は爪を隠す」の意味と使い方、例文や類義語を参考にして正しい意味で正しい使い方ができるようになりましょう。
「能ある鷹は爪を隠す」とは
「能ある鷹は爪を隠す」とは「本当に実力がある人は、軽々しくそれを見せるようなことはしない」という意味を比喩的に表現した言葉です。
普段会社の中ではあまり目立たない人が、取り組んでいたプロジェクトで行き詰まった時に、意外な力を発揮してピンチを救ったりすることがあります。そんな場合に意外性と称賛の意味を含めた褒め言葉として使うのが正しい使い方です。
つまり「能ある鷹は爪を隠す」とは、本当の実力や能力を、普段は見せないけれどもいざという時に発揮する人に対して使う褒め言葉です。決して出し抜くために普段は隠しているという意味ではありません。この本質の意味を誤解すると正しい使い方ができないので気をつけましょう。
「能ある鷹は爪を隠す」の意味
真の実力を普段は軽々しく見せないという意味を表現するのに、なぜ「鷹(たか)」や「爪を隠す」という比喩を使うのでしょう。「鷹が爪を隠す」とはいったいどのような意味なのでしょう。
それでは「能ある鷹は爪を隠す」という言葉を分解して、使われている「能」「鷹」「爪」「隠す」それぞれの意味と「能ある鷹は爪を隠す」の語源を調べることで、正しい意味を見つけてみましょう。
「能」の意味
「能ある鷹は爪を隠す」に使われている「能」は「実力」や「スキル」という意味です。能力、技能、知能、才能、などの熟語があるように、その人が持っている力やスキルを意味します。
つまり「能ある鷹」とは「実力がある鷹」という意味です。「鷹」は「ホーク」とも呼ばれ鋭い爪が特徴的な鳥類で、獲物をその鋭い爪でとらえる獰猛(どうもう)な鳥です。「実力がある鷹」とは「獲物を捕まえる能力が優れている鷹」という意味になります。
また鷹は数百メートルの高さから、下にいる獲物を見つける感度の良い目を持っているのが特徴です。飛行能力も他の鳥類と比べ飛び抜けていて、獲物を捕えるために高い高度から一気に急降下するスピードはまるで戦闘機のようです。
鷹は、優れた狩猟能力があるだけでなく頭も非常によく、昔から人が鷹を厳しく訓練して「鷹狩」という狩猟に利用してきました。そのくらい鷹は、人との関わりが強い鳥類でもあるのです。
「隠す」の意味
鷹が獲物を捕らえる能力の高さは、高いところからでも獲物を見つけることができる高感度の視力と、非常に速いスピードを出せる飛行能力と、鋭い爪を持っていることの3点です。
しかし高感度の視力で獲物を見つけ、素早い飛行能力で獲物に近づけても捕獲できなければ意味がありません。鷹の最大の武器は何と言っても鋭い爪です。つまりライオンやワニが鋭い牙や歯で獲物を仕留めるように、獲物を捕らえるためには武器が必要です。その武器が鷹の場合は鋭い爪なのです。
ところが鷹はその鋭い爪を獲物を捕らえる瞬間にだけ使用し、有能な鷹は捕獲する気配を悟られないため爪を隠す特徴があると言われています。つまり「能ある鷹は爪を隠す」の「爪を隠す」とは、本当の武器(実力・能力)である「爪」をいざという時以外は隠しているという意味です。
「能ある鷹は爪を隠す」の語源
北条氏の5代目当主である「北条氏直(ほうじょうじなお)」が古いことわざを集めた「北条氏直時分諺留(ほうじょううじなお・じぶんことわざとめ)」という書物の中に「能ある鷹は爪を隠す」の語源があります。
この書物では「鷹」という鳥の特徴や性質について書かれています。鷹が獲物を捕らえるために使用するのは「鋭い爪」「相手を見る鋭い目」「獲物にたどり着くまでのスピード」の3つであるけれど、本当の武器は「鋭い爪」であり爪は普段は隠していると記されています。
この書物が語源となり、本当の実力を普段は見せない人のことを「能ある鷹は爪を隠す」と表現するようになったのです。また鋭い眼力や洞察力がある人を「鷹の目を持つ人」というのも鷹の獲物を見つける視力の高能力に由来しています。
「能ある鷹は爪を隠す」の使い方・例文
「能ある鷹は爪を隠す」という言葉は、実際には素晴らしい才能や実力を持っているのに、普段はそれを鼻にかけることがないけれど、いざという時にその能力を発揮する人に褒め言葉として使われます。
自分の能力をひけらかさない奥ゆかしさがあるから、意外な一面を見るように余計に能力が引き立ちます。ビジネスシーンだけでなく様々なシーンで使われます。それでは「能ある鷹は爪を隠す」を褒め言葉として使う場合と、戒めや教訓として使う場合に分けて例文を紹介します。
例文①
「能ある鷹は爪を隠す」を褒め言葉として使った例文では「総務部の佐々木さんは普段は口数の少ないおとなしい人ですが、先日イギリスから取引先の方が見えた時には、流暢な英語で説明していたのにはびっくりしました。まさに能ある鷹は爪を隠す典型的な人ですね」のような使い方をします。
「彼は社内では特に目立たない存在なのに、今月の営業売上トップなのには驚きました。能ある鷹は爪を隠すとは彼のような人のことだと思います」のように使います。
また「彼女は普段はおとなしくスポーツなど縁がないと思っていたのに、学生時代には競泳のオリンピック強化選手だったそうです。能ある鷹は爪を隠すというように、見かけで判断してはいけません」の例文のように表現します。
これらの例文は、普段の行動や見かけでは見られない本当の実力を、鼻にかけたり見せびらかしたりしない人を称賛する褒め言葉として「能ある鷹は爪を隠す」を使った例文です。
ただし「彼はゴルフは苦手で未熟なんですと言っておきながら、先日のコンペではあっさり優勝をさらっていった。まるで能ある鷹は爪を隠すようです」のような例文は、厳密には正しい使い方ではありません。
「能ある鷹は爪を隠す」は基本的には褒め言葉です。前の例文の場合は、人の目をごまかし安心させるために能力をあえて隠すという狡猾な戦略なので、正しい使い方とは言いかねます。「能ある鷹は爪を隠す」は褒め言葉であることと、その意味をしっかりと解釈して使い方には注意しましょう。
例文②
「能ある鷹は爪を隠す」を戒めや教訓として使う場合の例文を紹介します。「君は大学を首席で卒業したそうだが、学業と社会の成績は別物です。能ある鷹は爪を隠すというように首席で卒業したという事実が頭から離れない限り、社会での成功はありえないよ」のように戒めとして使います。
「高橋君は仕事ができることをいつも自慢げにアピールしているから、少々の成果では評価されないんだよ。能ある鷹は爪を隠すというように、もう少し謙虚に行動することが大切だよ」は教訓として「能ある鷹は爪を隠す」を使った例文です。
前述の例文①は「能ある鷹は爪を隠す」を褒め言葉として使った場合で、例文②は戒めや教訓として使った例です。これらを参考にして正しい意味と使い方をマスターしてください。
「能ある鷹は爪を隠す」の類義語と意味
「能ある鷹は爪を隠す」は「本当に実力がある人は、軽々しくそれを見せない」「いざという時に実力を発揮する」という意味なので、意味が似ている言葉が類義語になります。
しかし、類義語は似ていると言っても言葉が違うのですから、完全に意味が同じというわけにはいきません。それでは「能ある鷹は爪を隠す」の類義語とその意味や使い方、微妙な違いなどを探してみましょう。
「大智は愚の如し」の意味
「大智は愚の如し(だいちはぐのごとし)」ということわざは、あまり聞きなれない難しい表現ですが「能ある鷹は爪を隠す」の類義語に数えられます。
「大智」とは「優れた知恵」という意味で、直訳すると「優れた知恵というものは、一見愚かに見える」という意味になります。つまり、一見愚かそうに見えるのは普段は知識をひけらかさないからで、実際には非常に大きな知恵を持っているという意味で「能ある鷹は爪を隠す」と似ているので類義語になります。
例文でみると「大智は愚の如しというように、本当に能力のある人はその才能をひけらかしたりはしないものです」のように「能ある鷹は爪を隠す」と同じような使い方をします。
しかし「能ある鷹は爪を隠す」の場合は、能力を「鷹の爪」にたとえ、鷹の習性の「爪を隠す」ことで普段は実力を見せないことを表現しています。
一方「大智は愚の如し」は能力のことを「大智=優れた知恵」で表し、「爪を隠す」ことを「愚の如し」と比喩しています。つまり「大智は愚の如し」の方が比喩の仕方や意味がストレートと言えます。
「深い河は静かに流れる」の意味
「深い河は静かに流れる」という類義語は「分別があり思慮深い人は、やたらと騒ぐことはせずゆったりと悠然にかまえている」という意味の比喩的表現です。
底が深い河ほどゆったりと静かに流れます。思慮深いことや中身のあることを「深い河」にたとえ、ゆったりと悠然としていることを「静かに流れる」と表現しています。愚かで思慮の浅い人ほど騒々しいことを逆説的な意味で比喩しています。
「能ある鷹は爪を隠す」と同様に、本当に実力のある人は普段は物静かで悠然としているという意味が似ているので類義語になっています。ただ「深い河は静かに流れる」は、能力という意味より思慮深いという意味に重点が置かれているところが微妙に違います。
「食いつく犬は吠え付かぬ」の意味
「食いつく犬は吠え付かぬ」とは「噛み付く犬は、やたらに吠えたたりせずに行動に出る」という意味の類義語です。逆に小型の犬や吠えたてる犬は臆病なのでめったに噛み付きません。つまり真に実力があるものは虚勢を張ったり騒ぎ立てたりしないことのたとえです。
真の実力を「食いつく犬」にたとえ、虚勢を張って騒ぎ立てないことを「吠え付かぬ」と比喩しています。この行動が「能ある鷹は爪を隠す」と似ていることから類義語になっています。
例えば「彼は形勢が悪くなるといつも騒ぎ立てるけど、食いつく犬は吠え付かぬという言葉を知らないのかな」のように表現します。つまり、いつも虚勢を張って吠える人は、真の実力がないから騒ぎ立てるという意味です。
能ある鷹は爪を隠す人の特徴
「能ある鷹は爪を隠す」と評される人にはどのような特徴があるのでしょう。「能ある鷹」と言われるくらいですから、能力や実力があることは間違いありません。
鷹の狩猟能力の武器である「爪」を隠しているのですから、実力を隠している、または表に表さないという特徴があるはずです。言い換えれば謙虚な特徴を持つ人と言えます。それでは、実力があり謙虚な人とはどのような特徴を持っている人なのでしょう。
自慢しない
「能ある鷹は爪を隠す」に値する人は、謙虚な性質を持っているので、決して自分から実績や能力を自慢しないのが特徴です。認めてもらいたい褒めてもらいたいという気持ちで自己アピールする人が多い現代社会においては、非常に珍しいタイプと言えます。
自己アピールの強い人は、周りから煙たがられたり嫌われたりして真の評価を受けにくいものです。自分を自慢しない特徴の人の方が、逆を言えば「能ある鷹は爪を隠す」のような真の意味の高評価を受けやすいのかもしれません。
ここぞという時頼りになる
「能ある鷹は爪を隠す」と言われる人には「ここぞという時頼りになる」という特徴があります。それは普段は平凡でおとなしくても、ここぞという時に元々持っている能力を発揮するからです。
謙虚な性格なので周りからも好感を持たれ、信頼される存在になります。またその結果を吹聴することがないのでさらに評価が高まります。「食いつく犬は吠え付かぬ」という類語があるように、普段は静かでもここぞという時に実力を発揮して頼りになる存在は、真の意味の信頼を集めることになります。
普段は目立たない
「能ある鷹は爪を隠す」人は基本的に謙虚な特徴を持っているので、普段は目立たない存在の人が多くいます。日頃は存在感が薄めで目立たなくても、内に大きな能力を秘めている可能性があるということです。
つまり「能ある鷹は爪を隠す」という言葉は、外見やパッと見で人の能力を判断してはいけないという戒めの意味を含んでいます。この意味を念頭において「能ある鷹は爪を隠す」を理解するようにしましょう。
「能ある鷹は爪を隠す」を正しく使いこなそう!
「能ある鷹は爪を隠す」とは「本当に実力や能力を持っている人は、普段は表に見せない」という意味の褒め言葉です。鷹という猛禽類が持っている能力や特徴を人の性質にたとえた言葉です。
また「能ある鷹は爪を隠す」には、人はパッと見の外見で能力を判断してはいけないという戒めと教訓の意味も含んでいます。
ここまで「能ある鷹は爪を隠す」の意味や語源、使い方や例文、能ある鷹は爪を隠す人の特徴などを紹介してきました。これらを参考にして正しい意味を理解して正しく使いこなしてください。