所得控除とは?
所得控除とは、課税標準である所得から控除(減額)できる項目のことです。一般に、税金は「課税標準額」×「税率」という計算式で算出されます。所得税も例外ではありません。所得税の課税標準は、「1年間の所得」です。
なぜ所得から減額できるかというと、人によっては費用が掛かっているからであり、そのような個人的事情を加味しようとするものです。
所得金額から一定の金額を差し引く制度
ただし、個人的事情を加味するといっても、掛かった費用が丸々認められるわけではありません。所得控除として控除できる額は、定額か、あるいは上限の範囲内で実際に掛かった費用の額となっています。いずれにしても控除できる点で納税者にはメリットがあり、どういう控除項目があるのかは知っておいて損はありません。
所得控除は知っておかないと損!
税金の確定には申告納税方式と賦課課税方式があります。所得税は申告納税方式を採用しています。「私の税額はこれだけです」と自分で申告して、税金の額を確定させます。役所が決めるのではありません。所得控除などのメリットがあっても、自分で使わないと損をしてしまいます。所得控除を申請し忘れて損をしても役所の方で修正してくれません。
一方、賦課課税方式というのは、役所の方で「あなたの税金はこれだけです」と決定してくれるタイプの税金です。固定資産税とか自動車税がこれに当たります。
住民税も賦課課税方式です。それなら、「住民税の申告は所得税の申告と違うのか?」という疑問が沸きますが、住民税の申告は役所が税額を決定するのに必要な資料を出しているだけです。だから所得税の確定申告書が出ていれば住民税の申告は不要とされています。
節税のために知っておこう
自己申告で税額を確定する以上、所得控除を使って所得税を節税するもしないも納税者個人の自由です。しかし、所得控除の項目を知らないと節税しようにもできません。まずは、所得控除の制度の概略だけでも頭に入れて、自分に当てはまりそうなものはないかどうか目星をつけておくことをおすすめします。
所得税の計算方法
上記で税金の計算方法は、「課税標準額」×「税率」と紹介しましたが、実は所得税の計算はそれほど容易ではありません。所得税では所得の種類に応じて計算方法が変わるのでもう少し複雑な計算過程をたどることになります。所得を合算してから税率を掛けるのか(総合課税)、所得ごとに税率をかけて税金の額を出してから合算するのか(分離課税)の問題です。
所得の種類は10種類
所得は、その性格に応じて10種類に区分されています。「利子所得」「配当所得」「不動産所得」「事業所得」「給与所得」「退職所得」「山林所得」「譲渡所得」「一時所得」「雑所得」です。
このうち、国税庁の申告所得税標本調査結果によれば、「給与所得」がダントツで最も多く、次いで「譲渡所得」「事業所得」「不動産所得」の順となっています。
総合課税と分離課税
総合課税は、各所得を合算し、それに税率を乗じるものです。所得を合算するということは、ある種類の所得の黒字と他の種類の所得の赤字が相殺できるのではないかという損益通算の問題が生じます。
それに対し、分離課税は、所得ごとに税金の額を算出します。この場合は基本的には、他の所得の黒字や赤字は無関係となるので、損益通算の問題は生じません。
総合課税なのか分離課税なのかは法令で定まっており、一部の所得を除いて納税者が自由に選択することはできません。ちなみに給与所得や不動産所得、事業所得などは総合課税の対象であり、退職所得、山林所得、株式等の譲渡所得などは分離課税の対象です。
損益通算
総合課税だからといって必ずしも損益通算できるわけではありません。損益通算できる所得は限られています。すなわち、損益通算できるのは、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得のみとされています。よって、不動産所得上生じた赤字を事業所得の黒字から相殺することはできますが、給与所得の黒字からは相殺することはできません。
所得控除と税額控除の違いとは?
上記のとおり、総合課税の所得(総所得金額)と分離課税の所得が別々に算出されます。所得控除はここから出番です。所得控除は書いて字のごとく所得から控除するものですが、控除する所得には順番があり、まず総所得金額から引いていきます。そして、引き切れない額がある場合に分離課税の所得から引いていきます(これについても引く順番があります)。
一方、所得控除と似て非なるものに税額控除という控除項目も存在しています。所得控除が所得から引くものなら、税額控除は税額から引くものになります。
税額控除は全ての計算の最後に!
総合課税にせよ分離課税にせよお金には色がありませんので、最終的には数字という形で税額が算出されます。この税額は、総合課税で算出された税額と分離課税で算出された税額を足しあげたものです。税額控除はこの税額から控除することになります。計算の一番最後に控除するのが税額控除だと覚えておきましょう。
所得税の税額から差し引く制度
このように税額控除は所得税の税額から差し引く制度です。税額控除には、配当控除、外国税額控除、住宅借入金等特別控除(住宅ローン減税)などがありますが、所得控除ほど多くありません。税額控除は、二重課税を調整したり、政策的に減税したりする役割を果たします。
税額控除は、所得控除に比べると、計算上どれくらいが節税されているかが分かりやすいのがポイントです。また、税負担の軽減度合いも大きく、例えば、住宅借入金等特別控除あたりは、効果の大きい税額控除です。
所得控除の種類を覚えておこう!
所得控除は全部で13種類存在します。以下、それぞれ紹介しますが、よく使う所得控除は限られています。すなわち、多くの納税義務者に関係があるのは、社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除あたりです。あと、医療費控除、地震保険料控除あたりを押さえておけば大半は賄えます。
それぞれの控除には上限がある
所得控除については、控除の要件と控除額を押さえておきましょう。控除額は定額のものと、一定の計算式によって算出されるものがあります。定額のものはその額を控除します。計算式によって算出される場合には、上限の範囲内であればその額を、上限を超える場合は上限額を控除します。
所得控除の種類と上限を知っておこう!
控除の種類は基礎控除をはじめ、全部で13種類あります。①雑損控除、②医療費控除、③社会保険料控除、④小規模企業共済等掛金控除、⑤生命保険料控除、⑥地震保険料控除、⑦寄付金控除、⑧寡婦・寡夫控除、⑨勤労学生控除、⑩障害者控除、⑪配偶者控除(配偶者特別控除)、⑫扶養控除、そして⑬基礎控除です。
このうち、医療費控除、生命保険料控除、地震保険料控除は控除できる額の上限が定められています。また、⑧~⑬を人的控除と呼びます。人的控除は、支出額ではなく一律いくらという定め方となっていて、上限という概念がありません。
①雑損控除
雑損控除とは、災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合などに受けることができる控除です。一般的には、災害等で税金を支払う能力(担税力といいます)が減少しますので、それを考慮しようとするものです。
雑損控除の金額は、「(差引損失額)-(総所得金額等)×10%」と「(差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円」のいずれか多い方の金額です。「災害関連支出の金額」とは、災害により滅失した住宅、家財などを取壊し又は除去するために支出した金額などのことです。
なお、雑損控除には上限がありません。損失額が大きくてその年の所得金額から引き切れない額がある場合には、翌年以後に繰り越して、各年の所得金額から控除することができます。
②医療費控除
医療費控除とは、自己又は自己と生計を同一にする配偶者、その他の親族のために医療費を支払った場合において、その金額が一定額を超えるときに受けることができる控除です。
医療費控除の額は、実際に支払った医療費の合計額から、保険金などで補填される金額と10万円を引いた額となります。上限は、200万円です。なお、その年の総所得金額等が200万円未満の人は、10万円ではなく総所得金額の5%の金額を差し引きます。
③社会保険料控除
社会保険料控除とは、自己又は自己と生計を同一にする配偶者、その他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合に、その支払った金額について受けることができる控除です。
社会保険料控除の額は、その年に実際に支払った金額又は給与や公的年金等から差し引かれた金額の全額です。上限はなく、社会保険料も社会への負担という意味では税金と同じであり、社会保険料分は丸々控除することができます。
④小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済等掛金控除とは、小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金等を支払った場合には、その掛金について受けることができる控除です。この控除は、小規模な企業の廃業や役員の退職等があった場合の事業主の生活支援等を目的とした共済制度に基づくものです。
小規模企業共済等掛金控除の額は、その年に支払った掛金の全額です。税法上上限は定められていませんが、掛金の上限は決まっていますので事実上上限があることになります。 すなわち、小規模企業共済の掛金の上限は年84万円(月額7万円)、確定拠出年金の掛金の上限は年81万6千円(月額6万8千円)です。
⑤生命保険料控除
生命保険料控除とは、生命保険料、介護医療保険料及び個人年金保険料を支払った場合に受けることができる控除です。生命保険料控除の額は、新契約(平成24年1月1日以後に締結した保険契約等)と旧契約(平成23年12月31日以前に締結した保険契約等)で取り扱いを異にしており、少々複雑となっています。
ここでは詳述は避けますが、保険契約の種類に応じて支払った金額の一定の額が控除できる仕組みであり、生命保険料控除の上限は12万円となっています。
⑥地震保険料控除
地震保険料控除とは、特定の損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料又は掛金を支払った場合に受けることができる控除です。以前は損害保険料控除がありましたが、地震災害による損失への備えに係る国民の自助努力を支援する観点から、地震保険料控除に改組されました。
地震保険料控除の上限は5万円です。年間の支払保険料が5万円以下の場合は支払金額の全額が、5万円超の場合は一律5万円が控除されます。
⑦寄付金控除
寄付金控除とは、国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し、「特定寄附金」を支出した場合に受けることができる控除です。寄付は個人の消費に属するものですが、公益性の高い寄付については、所得から控除することができる仕組みとなっています。
なお、税額控除することができる寄付金も存在します。所得控除を選択するか税額控除を選択するかは納税者の自由です。
寄付金控除の額は、「その年に支出した特定寄附金の額の合計額」又は「その年の総所得金額等の40%相当額」のいずれか低い額から2千円を引いた金額です。確定した金額の上限はありませんが、事実上所得額の40%程度という上限がセットされていることになります。
⑧寡婦・寡夫控除
寡婦・寡夫控除とは、納税者自身が寡婦(寡夫)であるときに受けることができる控除です。寡婦(寡夫)とは、一般的には、配偶者と死別・離婚等をした者で、面倒を見ないといけない親族や子がいるもののことです。寡婦(寡夫)になったことにより、生活費が苦しくなることに配慮した措置です。
詳述は避けますが、寡婦と寡夫の対象範囲の定義は微妙に異なります。また、寡婦には一般の寡婦と特別の寡婦の区分がありますが、寡夫にはそのような分類はありません。
寡婦控除の額は、一般の寡婦は27万円、特別の寡婦は35万円となっています。また寡夫控除の額は、27万円となっています。
⑨勤労学生控除
勤労学生控除とは、納税者自身が勤労学生であるときに受けることができる控除です。学生でも所得が発生すれば納税義務を負うわけですが、勤労学生控除は文字通り、勤労学生を税制上応援しようとする措置です。
勤労学生に当たるには、合計所得金額が65万円以下で、勤労所得以外の所得(株など)が10万円以下である必要があります。勤労学生控除の額は、27万円です。
⑩障害者控除
障害者控除とは、納税者自身、同一生計配偶者又は扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合に受けることができる控除です。
障害者控除の額は、1人につき27万円です。障害者が特別障害者に当たる場合は、1人につき40万円であり、さらに同居特別障害者に当たる場合は1人につき75万円となります。
⑪配偶者控除
配偶者控除とは、納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合に受けることができる控除です。配偶者控除は夫婦片稼ぎを前提としており、専業主婦(主夫)あるいは年収の低い主婦(主夫)をもつ納税者を税制上優遇する制度です。
配偶者控除の額は、控除を受ける納税者本人の合計所得金額に応じて、38万円、26万円又は13万円のいずれかです。配偶者が老人(70歳以上)の場合は、48万円、32万円、16万円となります。
配偶者控除は、配偶者の合計所得金額が38万円以下である必要がありますが、38万円を超えた場合でも一定の要件を満たせば、配偶者特別控除を受けることが可能です。
⑫扶養控除
扶養控除とは、納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合に受けることができる控除です。控除対象扶養親族は、16歳以上の扶養親族である必要があります。かつては、15歳未満の年少扶養親族に対する控除もありましたが、子ども手当の創設時に廃止されています。
扶養控除の額は38万円ですが、扶養親族の区分に応じて金額が変わります。控除対象扶養親族が特定扶養親族(19歳~23歳。大学生に相当)に当たる場合は63万円です。
また、老人扶養親族(70歳以上)で、納税者等と同居している場合は58万円、同居でない場合は48万円となっています。
⑬基礎控除
基礎控除は、ほかの所得控除のように一定の要件に該当する場合に控除するというものではなく、だれでも一律に適用される所得控除です。基礎控除の額は38万円です。
つまり、どんな所得であれ年38万円以下であれば、この基礎控除の存在により所得税が掛からないということになります。基礎控除は、最低限度の生活費には課税されない、生存権の保障を具現化したものと考えられます。年38万円で足りるかという問題はありますが、基礎控除は重要な控除項目の一つです。
間違えやすい所得控除と給与所得控除
所得控除は上記のとおり13種類存在しており、一定の要件を満たす場合には所得から控除できるものです。ここで「給与所得控除が入ってないじゃないか!」と思う人がいるかもしれません。しかし、「給与所得控除」は「所得控除」ではありません。ここでは、「給与所得控除」と「所得控除」の違いについて説明します。
2つは全くの別物!
結論を先にいうと、両者は全くの別物です。控除とある以上、給与所得控除も引くことができる項目です。ここで上で説明した所得税の計算方法を思い出してください。所得控除は、総合課税の所得(総所得金額)と分離課税の所得をそれぞれ算出した後、すなわち各種の所得が出そろい、それらを積み上げた後(総合課税の場合)に控除するものです。
それに対し、給与所得控除は、給与所得の計算上控除するものです。つまり各種の所得を積み上げる前に控除する項目なのです。
上で説明した税額控除も含め、違いをしっかりと理解しておきましょう。順番としては、「給与所得控除」「所得控除」「税額控除」の順で引いていきます。
給与所得控除とは?
給与所得控除は、サラリーマンにとっての必要経費に相当する額であると言われています。所得は「収入-経費」で算出されますが、給与所得控除は経費に該当し、金額が法令で一律に定まっています。
例えば、給与年収が500万円のサラリーマンの場合、「収入金額×30%+18万円(=168万円)」が給与所得控除とされています。その結果、差引332万円が給与所得になる計算です。
所得控除の中の見落としポイント!
所得控除の中には確定申告をしないと控除が受けられない項目があります。すなわち上記13種類の所得控除のうち、雑損控除、医療費控除及び寄付金控除を受ける場合には確定申告を行う必要があります。その他の場合は、年末調整で控除を受けることができますが、会社に提出するのを忘れた場合などは、税務署に還付申告を行えば控除を受けることが可能です。
基礎控除を利用しよう
基礎控除は誰でも受けることができる所得控除です。また基礎控除を受けるのに何か特別な手続きは必要ありません。年末調整や確定申告では何はともあれ、この基礎控除38万円を記載するのを忘れないようにしましょう。
また、基礎控除は、給与所得や事業所得を組み合わせることで、最低どこまで収入や所得を得ても課税されないかを確定させる役割を持っています。
所得が38万円以下の方必見!
所得が38万円以下であれば、基礎控除の働きで所得税は掛かりません。しかし「年38万円では稼ぎとしては不十分、もう少し稼ぎたい」という人は多いのではないでしょうか。ではパート収入を得るなどにより所得が38万円を超えると所得税が掛かってくるのでしょうか。
この場合は、給与所得が発生しますが、上述の給与所得控除が最低65万円は認められています。したがって、この65万円と基礎控除の38万円を足した103万円以内の収入であれば、所得税が掛かる心配はありません。
所得控除の種類を把握して見落としていた控除を見直そう!
今回は、所得控除について紹介しました。所得控除と税額控除との違いや、所得控除の計算方法など分かっていただけたと思います。今まで見落としていた所得控除がないか、この機会にあらためて確認してみましょう。場合によっては還付申告も可能です。所得控除をしっかりと理解して、節税になるよう努めてみてください。