「探す」と「捜す」の意味とは
皆さんは、「探す」と「捜す」、どのように使い分けているでしょうか。どちらも同じ「さがす」という音なので、そのつど、なんとなく使い分けている、という方もあるでしょう。または、あまり深く考えずに使っている、という方もあるかもしれません。
でも、「探す」と「捜す」では、文章の意味に少し違いが出てきます。一般的に、「探す」は「欲しいものを探す」、そして「捜す」は「失ったものや見えなくなったものを捜す」、というときに使います。
たとえば、「冬用のコートを店にさがしに行く」という場合だと、コートが欲しい、買いたいと考えているので、「探す」です。一方、「家出した人をさがしている」という場合だと、見えなくなった人の行方を尋ねるわけですから、こちらの場合は「捜す」を使います。
または、「探す」は「実在するかどうかわからないものを探す」、「捜す」は「実在することがわかっているものを捜す」という、「既知」と「未知」の違い、という性質もあります。
「探す」については、「探検」、「探偵」などの熟語を想定すると、わかりやすいのではないでしょうか。どんな物、情報を得ることができるか不明な状態で、とりあえず探す、というイメージです。
そして「捜す」のほうは「捜査」という熟語が、性質をよく表しています。証拠や目撃者など、あるはずのものを捜す、見つけ出す、というイメージになります。
「探す」と「捜す」の成り立ち
少し踏み込んで、「探」と「捜」、それぞれの漢字の成り立ちを解説しましょう。漢字の構成を知ると、意味の違いがよりはっきりと区別することができるでしょう。
「探」も「捜」も手偏の漢字で、これは手を使って何かをさぐったり、つかみ取ったりすることを表わしますが、旁(つくり)の部分が違います。
「探」のつくりは、これは子宮に手を入れている形です。上半分が子宮、下の「木」の部分が手を表わしており、お腹の奥深くから赤ちゃんを探して取り出すことを示します。誕生が待たれている赤ちゃんを「探す」ことを意味しています。
一方、「捜」のつくりは、手で明かりを持っている形です。下半分の「又」が右手の象徴で、上に火と建物の屋根が載っている構造です。つまり、明かりをかざしながら、部屋を丹念に捜す、という意味になります。
ある説によると、つくりの上半分はかまどを表わしており、かまどに手を入れて中を捜す形であるともいわれていますが、どちらにせよ、失くしたものを捜している構図になります。
「探す」と「捜す」の英語表現
英語の辞書を引くと、「さがす」という意味の語としては、「search」、「seek」、「look for」とあります。では、「探す」と「捜す」を英語で言いたい場合、どの単語を使うのが正しいのでしょうか。まずは、それぞれの正確な意味をつかみましょう。
seekは、何か形のあるものではなく、「解決策」、「解答」、「真理」など、形のないものを探す場合に多く使われる表現です。物品や場所など、目に見えるものに対しては、基本的に使わないのだそうです。
seekを使った例文は、「I sought a solution heartily.(私は解決策を一生懸命探した。)」、「He was seeking for a something new at all times.(彼はいつも、何か新しいことを探していた。)」、このようになります。
searchは、求めているものを、丹念にていねいに捜すことです。また、少しずれますが、相手の心の内や感情をさぐる、さがす、というニュアンスもあります。
searchを使った例文は、「A search was initiated for the lost child.(行方不明の子どもを捜して捜索が開始された。)」、「I searched the Internet for a hotel.(私はホテルを捜して、インターネットを検索しました。)」、このようになります。
look forは、欲しいものや失われたものを探すときに使います。look forは範囲の広い単語で、目に見えるものや、形のあるものだけでなく、「仕事」など形のないものにも使うことができます。
look forを使った例文は、「I'm looking for a job.(私は仕事を探しています。)」、「Did you find what you were looking for?(お探しの物は見つかりましたか?)」、このようになります。
「探す」と「捜す」を英語で言うには
このように、「探す」と「捜す」を英語で表現する場合は、「どんなものをさがしているのか」、「どのような姿勢でさがしているのか」によって、使い分けることが必要です。
まず「探す」は、「seek」または「look for」を使います。基本的には、前述のように、「解決策」など形のないものを探すのであれば「seek」、形のあるものは「look for」です。
ただし、「seek」は、「真理を探し求めています」のような、少し硬いニュアンスがあります。日常会話の英語の場合はもう少しライトな言い方のほうが合っていますので、形がなくても「look for」が向いているでしょう。
「捜す」は、基本的には「search」になります。捜している対象が何であれ、「徹底的に捜す、くまなく捜す」という意味を強調したいのであれば、「search」が適しています。
なお、こちらも、「失くした眼鏡を捜しているんだ」のように、日常会話でちょっとした紛失物を捜している、というニュアンスであれば、「look for」を使ってかまいません。
「探す」と「捜す」の使い方
日本語で話したり、書いたりする場合の使い分け方を、4つの例文をあげて解説しましょう。最初のふたつは「探す」の例文で、「欲しいものを探す場合」と「未知のものを探す場合」の例文です。
あとのふたつは「捜す」の例文で、「失くしたものを捜す場合」と「未知のものを捜す場合」の例文になります。
例文①
最初は、「欲しいものを探す」場合の例文です。「パーティーに着けるアクセサリーを探す必要があります」、「思い出の景色の中に、好きだった人の面影を探すことがあった」などがあげられます。
どれも、手に入れたい、欲しい、というニュアンスがあることがわかります。この場合は、発言する人の「欲しい」という気持ちが重視されます。
例文②
次は、「実在するかどうかわからないものを探す」という例文です。「できれば、条件の良い仕事を探すように」、「交通の便が良くて、しかも家賃の安い物件を探すといいよ」のように使います。
どちらも、存在していて手に入れることができるかどうか、不明な状態で探していることに注目してください。
例文③
「失くしたものや見えなくなったものを捜す」という例文です。「テレビのリモコンを捜してください」、「行方不明の子供を捜して、捜索隊が組まれた」など。このように、「捜す」は、状況の深刻さや、捜している対象の重大性に関係なく使われます。
例文④
「既知のものや、あるはずのものを捜す」という例文です。「母が生前つけていた日記帳を捜してみよう」、「警察は家宅捜索して、証拠を捜した」。存在を知っている「日記帳」や、存在を確信している「証拠」を捜す、という意味になります。
「探す」と「捜す」を使い分ける場合の注意点
「探す」と「捜す」の違いについて解説してきましたが、言葉は生きものなので、さがすものによってきちんと「探す」と「捜す」の使い分けができるわけではありません。むしろ、「探す」と「捜す」、両方を使うことができる場合も多いのです。
例えば「財布を探す」という例文です。「新しい財布が欲しいと思って、店を見て回っている」というようなシチュエーションであれば、「探す」になります。でも「失くした財布をさがしている」というシチュエーションであれば、「捜す」が適切です。
また、「宝を探す」という文の場合。宝探しゲームなどで、商品を探す場合は、欲しいものなので「探す」、でも盗賊が屋敷に忍び込んで宝を探している場合は「捜す」となります。
ただし、このシチュエーションも、「財産があるかどうかわからないけれど、大きい屋敷なのでとりあえず忍び込んで物色してみたい」という状況ならば、宝があるかどうかわからないので、「探す」のほうが合っていそうです。
突きつめて考えると少しまぎらわしい例もあります。「捜射」という熟語。これは「敵が潜伏しているかどうかを探るために、弾丸などを発射すること」です。
いるかどうかわからない敵をさぐるので、「探す」の字を使って「探射」になりそうですが、敵の有無をさぐる必要があるのは、戦場など敵がいてもおかしくない状況下であることから、「実在することがわかっているものをさがす」の意味で、「探」ではなく「捜」が使われるわけです。
「探す」は「欲しいものを探す」「捜す」は「失ったものを捜す」という意味
「探す」と「捜す」の意味や使い方の違い、使い分け方の規則について解説してきました。このように、一応原則のようなものはありますが、前後の文章によっていろいろ変わる、という難しさがあります。
また、掘り下げて考えると、どちらを使うべきか、戸惑う場合も出てきます。使い方の規則は頭に入れつつ、さらにさまざまな文章を読んで、経験から身に着けていくことも必要になります。