「轍」の意味とは?
「轍」は、訓読みで「わだち」、音読みで「てつ」と読みです。訓読みは、意味が分かりやすく「輪立ち」につながります。輪は、車輪の「輪」で、「わだち」は車輪の軌跡、跡を示します。「てつ」も同じく車輪の跡を示しますが、こちらの読み方では、あまり希望に満ちた使い方をされないようです。
「轍」の対義語・類義語
「轍」は車に関する意味を持つ名詞ですが、様子や程度を表す言葉ではないので、狭義で対応する対義語は考えにくいです。広くとらえて対義語になる言葉や表現、類語にはどのようなものがあるでしょう。
「轍」の対義語
普通名詞としての「轍」は、車輪そのものや、車輪の通った跡を意味するだけですから、言い換えられる類語も対義語もありません。漢字表記についても、「轍」自体は、良い・悪いを表す言葉ではないので、対義語を表す漢字はありません。
ただし広義において「轍」を人が通った跡ととらえると、人が通った跡がないことを意味する「人跡未踏」や「未曾有」など、過去に前例がなかったことを表す言葉は、対義語と考えられるでしょう。また「前代未聞」も、かつて聞いたことがない、以前に例がないという意味で、対義語になるでしょう。
「轍」の類語
類語としては、何かが通った跡を表す言葉が該当したとえば、目的をもって進んだ人のたどった道を表す「足跡」や「軌跡」も広くは類語と言えるでしょう。他にも「軌」を使う熟語、たとえば「軌道」「常軌」なども、派生してつながる類語になります。
また、話の顛末を「紆余曲折あって」というようにあらわすことがあります。この言葉も、ことの次第がたどった経路をまとめて表す言葉ですから、類語といえるでしょう。ただし、この「紆余曲折」は、車輪の跡という意味はありません。
「轍」の使い方・例文
「轍」を「わだち」という読み方をする場合は、車輪が残した通り跡を意味します。車輪は人が乗る乗り物についているもので、人間が動かすものなので、そのことから、先人の通った跡を広く意味しています。
さらに、立派に達成もしくは造り上げた作品などの成果物に到着するまでの足跡、道理を極めていくための試行錯誤した記録までも意味することもあります。「轍を踏む」のように「てつ」と読む読み方もあります。
「轍」を「わだち」と読むか「てつ」と読むか、読み方の違いによる使い方の違いによる意味や例文を見てみましょう。
「轍を踏む」の意味
「轍」を「てつ」という読み方をする例の「轍を踏む」は、先を歩いた人が、進んだ末に失敗して、そのあとをなぞって進んだ後から進む人も、失敗してしまったときに使います。また、先人の跡であることを強調して「前徹を踏む」という使い方もされます。
例文①
「希望の轍」の歌詞は「夢を乗せて走る車道」から始まります。夢あふれるドライブ、未来への夢を膨らませながら若い人が車を走らせる場面が思い浮かびます。颯爽と車を走らせる若者の勢いが「轍」を光らせながら走っていくというイメージを与えるので「希望の轍」という題名が付いたのでしょうか。
例文②
「轍を踏む」を含む例文「兄が受験に失敗したことを見ていたのに、同じわだちを踏んでしまい、母をがっかりさせた」は、人のふり見てわが振りなおせの精神があれば、失敗せずに済んだのにという意味の使い方です。
例文③
「年末に忘年会を重ね、暮れから寝込んでしまった父の轍を踏まないように、母は私に自重して行動するように諭した」の文は、二の舞にならないように用心しなさいというお母さんの気遣いを表す使い方です。
例文④
「轍」を「てつ」と読む言い回しに「途轍もなく」という言葉があります。「途轍もない大事件が起きた」や「彼には途轍もない才能があると思われる」というように、途方もないこと、並み外れていることを意味します。
「轍」と「軌跡」の違い
「轍」は、車偏の漢字であることからわかるように、「車」つまり「車輪」に関係する漢字ですから、軌跡の意味を含む「轍」は、車輪の跡に限って使われます。
同じく「跡」を意味する「軌跡」は、数値の変化を線にしていったときに点がたどる跡や、人が歩いて進んだ道の経路、飛行機が通って残した飛行機雲の跡は「轍」という漢字は使えません。
また、未開の地を進む馬車や、積雪で前方に人跡が見えなくなっているときのように、あらかじめ目的地に必ずつながる道を進むのではなく、自分で前方を切り開いていくイメージを含むときに「轍」という漢字を「わだち」という読み方で使います。
軌跡は移り変わって来た道筋という意味
幾何学において「軌跡」は、与えられた条件のすべてを満たす点の集まりが作る図形のことをさします。たとえば、数学で習った関数のグラフや理科で習う天体の動きなどは「軌跡」です。また、算数の問題で、池の周りを動く点の動いた距離なども、一種の「軌跡」の問題です。
通った後という点では、車の輪の通った跡も「軌跡」ですし、広く、たどった跡と言う意味では、人の心の移り変わりや心情の動きも「心の軌跡」と表されることがあります。
このように「軌跡」という言葉は、熟語に含まれるように「跡」の意味がありますが、「轍」と違って、基本的に車輪に限るという使い方をするわけではありません。
軌道の意味
「軌道」は、汽車や電車などの線路の通る道を意味します。線路の上を移動する乗り物なので、線路が導く経路を進みます。路面電車に対し、電気軌道車という使い方をすることもあります。
このことから「軌道に乗る」のように、導かれる経路を目標に向かって移動することや、うまく進んでいることを表現する使い方もあります。目的に向かっての経路が微妙にずれた場合は「軌道修正」します。
「轍」を使う際の注意点
「轍」は自分の前にどこまでも続いて見える車輪の跡です。目の前にすでに残されていて、指針になるものがあるということです。自らの轍を顧みるというような使い方をすることはありません。
つまり、自分以外の誰か、先に進んだ人が乗った車の車輪の跡ですから「轍を踏む」と言う表現する場合、その轍は自分が残した跡ではありません。
車輪の跡と言う意味を表すだけならば、自分の通った跡にも「轍」は残ります。誰か後に続く人の成功への水先案内になれば「わだち」の響きにも対応しますが、誰かを失敗へ引き込んでしまうものであれば「てつ」と読む使い方になるでしょう。
〜では使えない
自分が試行錯誤してやり直して、あるところまでは前の道筋で進み、途中から改造した方法で試した結果、やはりうまくいかず、失敗したという場合などには、他の人の跡をなぞったわけではないので「轍を踏む」とは言いません。
また、跡を意味する「轍」ですが、移動して伸びていく線の跡であって、家具の跡、焼け跡などのような一点に留まっていたものの跡形とは別のものです。
「轍」の由来・歴史
「轍」という漢字は、左の車偏で意味を表し、残りの部分で音を表します。徹夜の徹の字の右部で表す音と同じ読みです。漢字は、自動車のない昔にできているので、この車偏の表す意味は、人が作り人が操縦するものであっても、馬・牛や人力で動く車の車輪であったでしょう。
由来
未知の世界へ進む先人が残した車輪の跡の「轍」は「わだち」と読みますが、先人がぬかるんだ道を努力して進んで残した「轍」が渇いて大きな穴になって、そこに車輪をとられて進めなくなることがあるでしょう。そういう場合に、「轍を踏む」「てつをふむ」と言われると考えられます。
歴史
先人が努力して成功につながる道を切り開いた歴史上の事実で、強く馬車と連想できるものを紹介しましょう。今や懐かしいテレビドラマになった「大草原の小さな家」で、ご存知の方も多いでしょう。
「大草原の小さな家」は、実際にローラ・インガルスというおばあさんが自分自身が西武開拓者の家族の一員として育った経験を書いた小説です。ローラの一家は、馬車に食器や毛布を積み込んで西部に向かって旅をしていきます。開拓者として西部に希望をもって馬車は進みます。
ときには、ぬかるんだ道に車輪をとられながら、苦労を重ねて進んでいくこの一家の馬車の残した跡が「わだち」と読む「轍」に最も適しているでしょう。
「轍」の英語表記
「轍」を「わだち」と読むときには、車輪を意味す英語の「rut」が当てはまるでしょう。他にも「rut」の類語として「furrow」や「wheel track」があります。
また、車輪の跡を示す英語は「tire trace」といいます。英語の「trace」は、名詞では「跡」、動詞では「跡をたどる、追跡する」という意味を表します。類語には、手掛かりという意味の「trail」があります。
「轍」を「てつ」と読む場合、たとえば「轍を踏む」「てつをふむ」の場合は、先に行った人の失敗への道をたどり、同じく失敗するという意味になるので、英語でも「失敗」という言葉が入り「make the same mistake as the predecessor」や「to repeat a mistake of somebody 」と言います。
逆に軌道に乗って目的達成につながったとき、英語では「get on the right track」といいます。これは「轍を踏む」に対して対義語になる英語といえるでしょう。
「轍」は車輪の跡という意味
「轍」という漢字は「わだち」と読む場合と「てつ」という場合があります。どちらも、車輪の跡を意味します。
「轍」を「わだち」と読む場合は、希望や達成に向かって進むときにつく努力の跡、成功への指針のイメージが強いです。
「轍」を「てつ」と読む場合は「轍を踏む」という慣用句に使われるように、失敗した先人が残した車輪の跡のイメージが強いです。
読み方によって「轍」の聞く人・読む人に伝わる意味が変わってくるので、誤解されない伝え方ができるように、言葉を補い、注意して使いましょう。