「泣いて馬謖を斬る」の意味とは
「泣いて馬謖を斬る(ないて ばしょくをきる)」という言葉をご存じでしょうか。これは、「規律を保つためには、たとえ愛する者であっても、違反者には厳しく処分すること」を意味した故事成語です。
本記事では、この「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)の使い方について解説します。また「泣いて馬謖を斬る」の例文や英語表現、意味合いの類似したことわざ、三国志のエピソードについても紹介します。
「泣いて馬謖を斬る」の由来は三国志
「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)は、中国古典の三国志に由来する故事成語です。三国志とは、3世紀頃の中国、魏(ぎ)・呉(ご)・蜀(しょく)の三国の歴史を記した歴史書で、「泣いて馬謖を斬る」の由来に大きく関係しているのが、「街亭の戦い(がいていのたたかい)」です。
「街亭の戦い(がいていのたたかい)」は、228年魏と蜀の間で起こった戦争です。具体的にどのような戦いであったかについては次以降の項目で詳しく解説します。
「馬謖」とは
「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)の「馬謖(ばしょく)」とは、この言葉の由来である三国志に登場する武将の名前です。馬謖(ばしょく)は、蜀漢の宰相である諸葛亮(しょかつりょう)の臣下であり、彼から実の子のように可愛がられるような存在でした。
街亭の戦い(がいていのたたかい)で、諸葛亮(しょかつりょう)から重要な役割を命じられた馬謖(ばしょく)でしたが、その命令に背き独自の作戦で軍を進めたことで、敵に囲まれ孤立してしまいました。つまり、馬謖(ばしょく)のたった一人の独断が、蜀国の大敗を招いてしまったのです。
「斬る」とは
「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)の「斬る」とは、処刑するということです。諸葛亮(しょかつりょう)にとって馬謖(ばしょく)は愛弟子でしたが、街亭の戦い(がいていのたたかい)において、絶対的な軍律である命令を軽んじてしまいました。
そのことによって国を大敗させるという大失態を演じてしまったことから、諸葛亮(しょかつりょう)は涙を呑んで馬謖(ばしょく)を処したと言われています。
一見すると、諸葛亮(しょかつりょう)の下した判断は冷徹に思えるかもしれませんが、個人的な感情を優先させては、戦果をあげることはできません。そのため、組織全体の指揮を執る諸葛亮(しょかつりょう)の取った行動は、責任を取る立場として然るべき対処だったと言えます。
「泣いて馬謖を斬る」の使い方・例文
上記の項目では、「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)の意味と由来について解説しました。諸葛亮(しょかつりょう)と馬謖(ばしょく)との間に起こったエピソードは切ないものでしたが、興味のある方はぜひ三国志の書籍を読んでみてください。
この項目では、「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)の使い方を例文を挙げて説明していきます。「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)の使い方としては、諸葛亮(しょかつりょう)と馬謖(ばしょく)のような上司と部下の関係があるビジネスシーンで用いるのが最適です。
あるいは、個人の能力や成果よりも全体の規律や規則を徹底することを重んじられるスポーツ(特に団体競技)にも用いる使い方があります。
例文①
例文①では、「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)をビジネスシーンで用いた場合の例文をいくつかご紹介します。例文は以下の通りです。
「社員一人一人を大切にすることで有名な社長が、図らずも会社の信頼に傷をつけてしまった社員に対し、泣いて馬謖を斬る思いで処分した。」「会社に大きな損害を出してしまった部下に対して、泣いて馬謖を斬る決断を下した。」
例文②
例文②では、「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)をスポーツ界で用いた場合の例文をいくつかご紹介します。例文は以下の通りです。
「これまでチームに多大なる貢献をしてきた選手に対して、ケガでなかなか復帰できないことを理由にトレード移籍を決断した監督は、泣いて馬謖を斬る思いだったことだろう。」「誰よりも熱心に練習していた主将をレギュラーから外すことは、監督にとって泣いて馬謖を斬る覚悟だったのだろう。」
「泣いて馬謖を斬る」と似ていることわざ
上記の項目では、「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)の使い方を例文を挙げて解説しました。この項目では、「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)という言葉をより深く理解するため、類似した意味合いを持つことわざについて説明します。
このような周辺知識を習得することは、「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)の正しい意味や使い方を理解するだけでなく、語彙力の向上も期待できます。
心を鬼にする
「心を鬼にする」とは、「かわいそうだと思いながらも、厳しい態度をとる」ことを意味することわざです。つまり、厳しい態度をとることは不本意ではあるけれども、相手のためを思ってやむなく厳しくすることを表しています。例文は以下の通りです。
「子どもの将来を考えて、心を鬼にして叱る。」「不幸続きの彼女には気の毒ではあるが、心を鬼にして事実を告げた。」
獅子の子落とし
「獅子の子落とし」とは、「自分の子にあえて苦難の道を歩ませて、その器量を試す」ことを意味することわざです。獅子(ライオン)は、子どもを深い谷に突き落として、這い上がってきた強い子だけを育てる、という古い言い伝えが由来となり、このことわざが成り立ちました。
「うちの子には、獅子の子落としごとく一人暮らしをさせて、自分のことは何でも自分で対処する術を身に付けさせた方がいいだろう。」「両親は獅子の子落としのような教育方針で、困ったことがあってもなかなか手を差し伸べてもらえなかった。」
可愛い子には旅させよ
「可愛い子には旅をさせよ」とは、「大切な子どもだからこそ、甘やかすことなく、旅をさせて厳しい経験を積ませるべき」ということを表すことわざです。
近年では、旅をすることは以前と比べて容易になったことから、「大切な子どもには自由に旅行に行かせてあげるべき」という意味で用いられることが多いといわれています。
しかし、本来の「旅」の意味は「世の中の辛さや苦しみ、厳しさ」のことを指しており、親元を離れてこれらを経験させることで一人前に育てるという意味が込められています。
「可愛い子には旅させよというように、子どもを自立させるためには、まずは親が子離れをしなければならない。」「可愛い子には旅させよで、高校卒業を機に子どもに一人暮らしをさせる。」
「泣いて馬謖を斬る」の英語表現
上記の項目では、「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)と意味の類似したことわざについて例文を挙げて解説しました。この項目では、「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)の英語表現について解説します。
「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)は、三国志に由来する故事成語のため英語でこの言葉は本来存在しません。しかし、「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)の意味を組んで、あえて英語で表現するとしたらどのような表現になるでしょうか。
「 to make a costly sacrifice in course of justice」
「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)を英語で表現すると “ to make a costly sacrifice in course of justice” となります。これは、直訳すると「正義のため高い犠牲を払う」という意味になります。例文は以下の通りです。
“ The company caused a scandal, so that the managers decided to make a costly sacrifice in course of justice.” 「会社が不祥事を起こしたため、経営陣は泣いて馬謖を斬る決断を下した。」
“Although he was a competent personnel, I had to take disciplinary action against him to make a costly sacrifice in course of justice.”「彼は優秀な従業員だったが、私は泣いて馬謖を斬る思いで懲戒処分にしなければならなかった。」
「泣いて馬謖を斬る」はビジネスにも通じる言葉
本記事では、この「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)の意味や使い方、英語表現、意味合いの類似したことわざを三国志のエピソードに交えて解説しました。
「組織全体の規律を守るために、私情を捨てて厳しく処分する」という意味を持つ「泣いて馬謖を斬る」(ないて ばしょくをきる)は、ビジネスにも通じる言葉であるといえます。この言葉の由来となった三国志に興味を持った方は、これを機に手に取って読んでみてはいかがでしょうか。