「施行」の読み方や意味を覚えよう!
「施行」という言葉は「個人情報保護法を施行する」や「社員の改正給与規定を来月より施行する」のように、法令や規定などを実際に実施する際に使います。つまり法令や規定が「効力を発生する」という意味です。
法律などが制定されたことを公に知らせることを「公布」と言い、その法律を破れば罰則されるように、実際に効力を発することを「施行」と言います。
また、読み方は「しこう」と「せこう」どちらが正しいのか迷う言葉です。「施行」の意味を正しく理解するために、似たような漢字を使う「施工」や類語の「適用」「実施」との違い、正しい読み方などを解説します。
「施行」の読み方
「施行」の読み方は「しこう」「せこう」のどちらも正しく間違いではありません。また「せぎょう」と読む場合があります。ではなぜ、このように3つの読み方があるのでしょう。
「施行」は意味が同じなのに、シチュエーションにより読み方を変えることがあります。どのような場面で読み方を変えるのでしょう。その理由なども合わせて紹介します。
読み方①しこう
「施行」の読み方で、もっともポピュラーで一般的なのが「しこう」です。テレビ・ラジオのニュースや報道番組では「国会で制定された〇〇法が、本日より施行(しこう)されます」のように使います。
辞書を引いても、最初の読み方として出てくるのが「しこう」です。NHKでも「施行」の読み方は「しこう」に統一されています。このように「施行(しこう)」がもっとも一般的な読み方です。
読み方②せこう
裁判や法律用語では、「施行」をあえて「せこう」と読みます。それは「刑を執行(しっこう)する」の「しっこう」と明確に区別するために「施行(せこう)」と発音します。
法律用語では執行(しっこう)はよく使う言葉です。文書では目で見るので間違いは起こらないのですが、耳で聞く場合には「しこう」は「しっこう」と聞き間違えることがあります。それを防ぐために「施行」をあえて「せこう」という読み方をします。
読み方③せぎょう
仏教用語では「施行」を「せぎょう」と読み、意味が違います。仏教の修行に「善行」があり、その善行の一つに「施(ほどこし)」があります。「施行(せぎょう)」とは、僧侶や貧しい人に施し(お布施)を与え「善行」をつむことを意味します。
現在では「お布施」は主に、お経を上げてもらったお礼として僧侶や寺に包む金品のことを言いますが、元々仏教で「お布施」とは、この「施行(せぎょう)」のことを指しています。
「施行」の意味とは
仏教用語の「施行(せぎょう)」を除き、「施行(しこう・せこう)」は法律などの規約や条例が「実際に効力を発する」という意味です。
その意味をさらに明確にするために、同じ読み方をする「施工(しこう・せこう)」との違い、類語の「適用」「実施」との違いなどを比べてみましょう。
「施行」と「施工」の違い
「施工」は「しこう」または「せこう」と読み、「施行」と同じですが意味は全く違います。例えば「A社の新本社屋ビルは、大手ゼネコンの〇〇建設が施工します」「来月1日より1ヶ月間、東名高速厚木〜御殿場間で改修工事が施工されます」のように使います。
「施工」は建設や工事を行うという意味で、「施行」とは全く違います。漢字の字面はよく似ていますが、構成する漢字の「行」と「工」が違うだけで、意味が全く変わってしまいます。
つまり「施行」は「法令などの行いを施す」ということで「施工」は「建築などの工事を施す」という意味です。うっかりすると「下水道工事を施行する」のように使ってしまいます。紛らわしいので使い方には充分注意しましょう。
「施行」と「適用」の違い
「施行」と似たような使い方をする類語の「適用(てきよう)」は、「当てはめて用いる」という意味です。例えば法律用語では「刑法第◯条を適用して、懲役刑に処する」のような使い方をします。
「施行する」とは「成立した法律に効力を持たせる」という意味ですが、「適用する」の場合は「法律の内容を人や地域にあてはめて、効力を発揮する」という意味です。
また「このテストは、円周率を適用して図形の面積を解く問題です」「課題を乗り越えるには、自分が持っているどのスキルを適用させるかが重要です」のように、使う場面が広いのが「適用」で、使う場面が限られているのが「施行」です。
「施行」と「実施」の違い
「施行」は、法律などにまつわる法律用語として使用されることが多い言葉ですが、「実施(じっし)」は法律だけでなく広く一般的に「実際に行う」という意味で使われます。
例えば「来週の運動会は、天候が良い場合はグランドで、雨天の場合は体育館で実施します」「今回のプロジェクトは、社運をかけて全力で実施します」「親睦を深めるために社員旅行を実施します」のように気軽に日常的に使います。「実施」は使う対象が多いところが「施行」と違います。
「施行」の使い方・例文
「施行」は、法律や条例などが実際に効力を発生させる時、またはプロジェクトや計画を実施するときに使う言葉です。
実際の使い方を、法律にまつわる言葉として使う場合と、計画などの実施に使う場合とに分けて例文で詳しく紹介します。
例文①
法律的な使い方の例文を紹介します。「5月3日の憲法記念日は、日本国憲法が施行された日を記念する国民の祝日です」「法律は公布されてから20日後に施行されるのが一般的です。施行されて初めて効力が発生します」のような使い方をします。
また「消費税10%が施行されてから、半年以上が経過してやっと定着した感があります」「法律は施行された直後には混乱もありますが、次第に慣れて定着するものです」のように使います。
「国会は法律を作る立法の場です。法律を施行するところではありません」「法律を実際に施行するのは、裁判などの司法の場です」「裁判員制度が施行されて8年が経過しました。真意が問われる時期に入ったと言えます」のような使い方をします。
この他にも使い方・例文は色々とあります。例文を検証することは使い方を学ぶ近道です。興味のある方は他の例文を調べてみると良いでしょう。
例文②
法律関連以外の例文では「社員食堂の利用規定を、社員以外の一般の人でも利用できるように一部改定し、来月1日より施行します」「社員の初任給を改定し、来春の新入社員より施行します」のように規約や規則を実行する場合に使います。
「昨年来より計画しあたためてきたプロジェクトを、来月より精鋭のメンバーで施行することが先日の会議で決定しました」の例文では、計画などを実行に移す場合に「施行」を使っています。また医療現場では手術などの治療を施す場合に「施行する」を使います。
「施行」の類語
「施行」の類語とは「法令や規約などを実行する」と似ている意味を持ち、同じような使い方をする言葉です。「施行」に似ている類語は、意外にたくさんあり数え上げると切りがないくらいです。
それでは類語の中から代表的なものを選んで、意味や使い方、違いなどを検証して比べることにより「施行」の意味をさらに深く解釈してみましょう。
実行
「実行(じっこう)」とは、実際の「実」と行動の「行」を繋げた言葉で「実際に行動する」という意味の類語です。「施行」と同じように法律関連でも使いますが、その他でも広く使います。
例えば「計画を実行する」「考えていたことを実行に移す」「実行しなければ結果は出ない」「態度で実行しなければ、思いは相手に伝わらない」のようにいろいろな場面で使うことができる言葉です。「施行」より気軽に広く使うことができるのが違いです。
実践
「実践(じっせん)」とは、実際に行うという意味では「施行」と同じですが、「実践」の場合は学問の研究などで「理論を実践に移す」のように理論を実際に行ってみる場合に用いる言葉です。
例えば物理の定理などを、実験などで行ってみることを「実験で実践する」と言います。つまり「施行」は実際に行う対象が法令や規約ですが、「実践」の場合は対象が理論や定理というところが違います。
履行
「履行(りこう)」という言葉は「約束を履行する」「契約を履行する」のように、決めたことや言ったことを実際に行うという意味で、「施行」とよく似ているので類語になっています。
しかし「施行」は、法律や規約などの決めたことが、自発的に効力を発するというニュアンスで使われます。一方「履行」は決めたことを実際に行う人がいて初めて「履行する」という表現になります。
つまり「履行」の場合は、人が実際に手を下して実行するという意味合いが強い言葉です。「施行」の場合は人が実際に手を下さなくても、自動的に行われて効力が出るという意味合いがあるところに違いがあります。
挙行
「挙行(きょこう)」は、実際に行うという意味では同じですが、「結婚式を挙行する」「新社屋の完成を祝ってパーティーを挙行する」「竣工式を挙行する」「新入社員歓迎会を挙行する」のように式典やイベントを執り行うという意味で使います。
挙行するとは、何らかのイベントや式典を開催するという時に多く使われます。つまり「開催する」「執り行う」という意味を含んでいます。
「施行」の場合は対象が法令や規約ですが、「挙行」の場合は行う対象が結婚式や祝賀パーティーなど、イベントや式典になるところが「施行」と違います。
遂行
「遂行(すいこう)」とは「任務や仕事をやり遂げる」という意味です。「この1ヶ月間は業務を遂行するために、昼食の時間を削ってまでも取り組みました。業務を遂行しなければという義務感が原動力になり結果を出すことができました」の例文のように使います。
ここまで「施行」の類語の意味や使い方、違いなどを紹介しました。これらを比較することで「施行」の意味がより明確に解釈できたのではないでしょうか。
「施行」の英語表現
ビジネスでは英語圏の人と商談をすることがあるので、英語を使う機会が多くなります。そんな時に英語の知識がないと商談に行き詰まってしまいます。
「施行」の英語表現を知ることも、英語のボキャブラリーを増やすことになります。特に「施行」などの専門用語の英語表現を多く知っていることは、ビジネスシーンでは有利になります。それでは「施行」の英語表現を例文を交えて紹介します。
enforcement
法律を施行するという意味を英語で表現する場合には、動詞では「enforce」、名詞では「enforcement」という単語をよく使います。「enforce」は「実行する」「執行する」「実施する」「強化する」という意味の動詞で、その名詞形が「enforcement」です。
「When they start loosening up on enforcing the law, more people start speeding.(取り締まりの手を緩めると、スピード違反者が増えてしまう)」「We need to enforce the law.(私たちは法律を実施する必要がある)」のように使います。
名詞の「enforcement」は「enforcement area(法の施行地)」「enforcement authorities(施行当局)」「enforcement date(施行期日)」「enforcement of laws(法の執行)」のように使います。
また「enforce」を使わずに「put the law into operation(法律を施行する)」と表現することがあります。直訳すれば「法律の効きめを作用(operation)させる」になりますが、このように単語の組み合わせや言い回しで意味を表現するのが英語の特徴です。
医療の分野で日本語では「手術を施行する」と言いますが、英語では「perform(行う・果たす)」や「conduct(行為・管理・指揮)」「operation(作業・運転・手術)」を使うのが一般的です。
このように日本語では「施行」は様々な場面で使えますが、英語ではシチュエーションにより、使う単語や言い回しが変わります。ビジネスで英語を使う場合には、この表現方法の違いをしっかりと押さえておきましょう。
「施行」の読み方・意味を覚えて正しく使おう!
「施行」を「しこう」と読むのが最も一般的ですが、裁判などの司法の現場では「執行(しっこう)」と間違えないために敢えて「せこう」と読みます。意味はどちらも法律など定めたことが、効力を発することを「施行する」と言います。
また仏教では、貧しい人に施しを与える善行を「施行(せぎょう)」と言います。このように「施行」はその場面により読み方と意味が変わる言葉です。これまでの記事を参考にして正しく使うようにしましょう。