「甚だ」の意味とは
「甚だ(はなはだ)」という言葉は、日常の会話ではあまり使われませんが、少し堅い表現が求められるビジネスシーンの講演やスピーチでは、よく出てくる表現です。
漢字1字「甚(はだ)」には「極端」という意味があります。この「甚(はだ)」を2つ重ねた「はだはだ」が「甚だ(はなはだ)」に変化したといわれています。つまり「甚だ」とは「極端」を2重に強調した言葉といえます。
「甚だ」の正しい意味や使い方を知っていれば必ずビジネスシーンや会議の席で役に立ちます。自分のスキルや評価を高めるために、この機会を利用して「甚だ」の意味を把握しておきましょう。
意味:大きく普通を超えている様子
「甚だ」とは「極端」を2重に強調した言葉なので、普通を大きく超えている様子を表現する言葉です。「無茶も甚だしい」とか「甚だ疑問に思う」などのような使い方が多く、マイナス要素が極端な場合に多く使われる表現です。
あまりプラスのイメージや褒め言葉には使われませんが、会議やスピーチでは重要な重みを持った言葉です。つまり「甚だ」とは「マイナス要素が程度を超えて極端な様子」という意味を持つだけでなく、ビジネスシーンではしっかりと押さえておかなければならない言葉の1つではないでしょうか。
「甚だ」の類語と意味
「甚だ」の類語とは、似たような意味や似たような使い方をする言葉のことです。類語の意味を調べることの理由は「甚だ」の意味を解釈がさらに深める手助けになるからです。
例えばワインの味を評価する時を想像してみて下さい。1種類のワインだけを飲むよりも2種類を飲み比べた方が、味や特徴がよく分かるのではないでしょうか。
テレビのコマーシャルで商品を説明する時に、他の商品と比較することで特徴をはっきりさせる手法がよく使われます。
言葉の場合もまったく同じで、似た意味を持つ類語を並べて比較することで本来の意味をより深く理解することができます。それでは「甚だ」の類語をいくつか紹介します。
とても
「とても」の意味や使い方には2通りあります。例えば外で行うスポーツで「天候が急変し雨が降ってきたので、とても試合の続行は無理でしょう」のように使います。
またテストの前で「勉強不足なので、とても試験にパスする気がしない」などのように「とても」には後に続く否定的な状況や事柄を強調する意味があります。
もう1つが「とても大きい」「今日は20年に1度のとても暑い猛暑日です」のように「極端」という意味があります。
「とても」とは、例文のように後に続くマイナスイメージの言葉を強調したり、極端さを表現する時に使う言葉で「甚だ」とよく似ているので類語に数えられるのです。
大変
「大変」は否定的でも肯定的でも、どちらの場合でも使われる言葉で、「甚だ」の類語にも「とても」の類語にも数えられます。
意味は説明するまでもなく「普通の状態を超えていること」で「甚だ」とほぼ同じですが、肯定的な場合にも使われるところが「甚だ」と多少違います。
肯定的な使い方としては「大変優秀な生徒です」「大変嬉しかった」などがあります。否定的な使い方では「大変残念」「大変疑問です」などのようになります。「大変」は否定的、肯定的、両方に使い分けが出来る「甚だ」の類語です。
非常に
「非常に」という類語も「とても」や「大変」と同様に、否定的にも肯定的にも使い方が出来る類語です。「甚だ」の類語にはこの他に「かなり」「本当に」など沢山あります。
この類語のほとんどが「普通の状態を超えている」「極端」という意味を強調する言葉で「甚だ」と同じですが、使い方が「甚だ」の場合は否定的なケースなのに対して類語の方は肯定的にも使われる点が違います。
つまり「甚だ」は否定的なネガティブな場合に多く使われるのに対し、類語の場合は肯定的な意味にも使われる場合が多いのです。ここまでの比較や解説で「甚だ」の意味が以前より少し深く理解できたのではないでしょうか。
「甚だ」の対義語と意味
対義語とは類語と全く逆で、「甚だ」と反対の意味や使い方をする言葉のことです。少し観点を変えて絵画やイラストを思い描いてみて下さい。
背景が淡い色合いの時、手前に濃い色彩のものがあれば強く印象に残ります。黄色のバックに黒色で文字を書けば字が強調されます。
それと同じ効果が言葉の場合の対義語と類語の関係です。対義語を背景にすれば類語や「甚だ」本来の意味が強調されます。つまり対義語の意味を知ることは類語の場合と同様に「甚だ」の本来の意味を知ることに繋がります。
一寸
「一寸」の読み方には「ちょっと」と「いっすん」の2通りあります。日常会話では「ちょっと」の方が多いのですが「甚だ」の対義語としては「一寸(いっすん)」の方がしっくりくるので、ここでは主に「一寸(いっすん)」で説明します。
「一寸」とは、わずかな量(時間や距離など)であることや、小さな物事のたとえを意味します。例文でみると「日本の電車は時間に一寸(いっすん)の狂いもなく運行されている」「霧が深いので一寸(いっすん)先も見えない」のように使います。
「一寸」は「ほんの少し」という意味なので「甚だ」の対義語ですが、「一寸先は闇」のように「極端」という意味合いも含んでいるので、使い方によっては「甚だ」の対義語でありながら、類語にもなる可能性がある言葉といえるでしょう。
少し
「少し」とは程度が著しくなく数量などが多くない様子を表す言葉で、「甚だ」の「程度を著しく超える」の反対の意味を持つので対義語になります。
「少し」は日常の会話でもよく使われる言葉で、例文をあげれば切りがありません。また「少し」の後にくる言葉は「少し残念」「少しミスが多い」などのように否定的な表現が多く「甚だ」と似ているので類語に間違えることがあります。
しかし「甚だ」は常軌を逸している場合に使われ、「少し」は通常起こりやすいことに使われ、使い方や否定の対象が異なるので対義語になります。つまり「甚だ」の対義語と類語には紙一重のところがあるので注意が必要です。
聊か
「聊か」は「いささか」と読み「些か」とも書きます。少し堅苦しい言葉ですが、意味や使い方は「一寸」や「少し」とほぼ同じです。
例文で「○○の狂いもなく」の○○の部分に「聊か」「一寸」「少し」のどれを入れ替えても同じ意味で通じます。つまりこの3つの言葉はそれぞれが類語の関係であり、それぞれが「甚だ」の対義語でもあるのがこの例文でよく分かるのではないでしょうか。
「甚だ」の使い方
「甚だ」の意味は「物事の程度が普通を超えていること」です。「甚だ」には沢山の類語や対義語があることを紹介してきました。その意味を知ることの意義も解説しました。
今度はその使い方に焦点をあて「甚だ」の意味を解釈してみましょう。物事を解釈するには一方向から見るだけでなく、高いところから全体を見渡す俯瞰(ふかん)が大切です。
山登りを験験した方にはお分かりだと思いますが、山の麓にいる時の景色が頂上に立った時には一変します。頂上から見る景色は今まで見えていなかった越えてきた道のりや、低い山や川、稜線まで全てが一望の元に見えます。
物事を俯瞰(ふかん)で見るとは、頂上の景色と同じで今まで気づかなかったことが見えて理解することが出来るということです。
言葉の解釈も同じで色々な角度から俯瞰で見ていくと、今まで気がつかなかった新たな発見があり解釈が広がります。使い方や例文を検証することは「甚だ」の意味をさらに広く深く解釈する手助けになります。
この考え方、高いところから物事を全体的に見る姿勢は、言葉の意味にとどまらず、ビジネスシーンや人生の生き方でも多いに役立つことです。この使い方の検証や見方を参考にして、ビジネスシーンや人生に活用して下さい。
ネガティブな感情を強める為の使用が多い
「甚だ」という言葉は、ネガティブな感情を強める為の使用が多いとよく言われます。ではネガティブな感情とは一体どういう状況なのかを考えてみましょう。
例えば上司があなたに対して「君の仕事はミスが多いので甚だ遺憾に思っている、このままでは将来が危ぶまれるよ」と言ったなら、相当のプレッシャーや落込みを感じるはずです。
一般的な事柄に対して「最近の売上の低迷は世情を反映しているとはいえ、甚だ思わしくない状況です」のような使い方は個人に対する直接的な表現ではありませんが、前述の例文の場合ではパワハラにもなりかねない表現になってしまいます。
つまり「甚だ」という言葉の使い方は、使う対象を間違えるとネガティブな表現が多いだけに大きな誤解を生む可能性があります。つまり「甚だ」の使い方には、使う場面や使う対象に慎重な配慮が必要ということです。
「甚だ」の例文
「甚だ」の例文を参照することは、「甚だ」の意味を理解する上で類語、対義語の意味を知ることと同じように大切なことです。俯瞰(ふかん)で意味をとらえる手法の一環です。
例文は様々あるので分かりやすくするために「甚だ」の後に使われる主な言葉を選んで紹介します。紹介する例文の他にも沢山あるのですが紙面の都合で5つのパターンに絞って解説します。
甚だ恐縮
「恐縮」とは「恐れて身がすくむ」という意味で、それが転じて「身がすくむほど申し訳なく思う」の意味を持っています。
「甚だ恐縮」は「身がすくむほど申し訳なく思う気持ち」を強調した表現で、相手の申し出を断る場合の謝罪、相手に物事をお願いする申し訳なさ、相手から受けた厚意への感謝などの気持ちを伝える場合に使います。
断る場合の使い方は「折角のお誘いですが、先約があるため甚だ恐縮ですが欠席させていただきます」のような例文になります。
お願いする場合には「甚だ恐縮ではございますが、書類の提出は7日以内にお願いいたします」のように、また厚意への感謝の気持ちを伝える場合は「先日は家まで車で送って頂き、甚だ恐縮しております」のように使います。
この他にも色々と例文はありますが、自分なりに例文を考えて作ってみると、より使い方が理解出来るのではないでしょうか。
甚だ残念
「残念」は日常の会話や色々な場面で使われる言葉で「満足できなくて、心残りがする」「諦めきれない」という意味があります。「甚だ残念」は「甚だ恐縮」と同様に断りの場合に多く使われる表現です。
しかし「甚だ残念」には、ただ断ることが申し訳ないという気持ちの他に、諦めきれないが仕方なくお断りするという「心残り」の気持ちを含んでいるところ「甚だ恐縮」と少し違います。
例えば「パーティーのお誘いは非常に嬉しいのですが、甚だ残念ながらスケジュールが重なり出席できません」のように謝罪だけでなく「心残り」の心境を合せて表現します。
また「彼は非常に良いスキルを持っているのに、甚だ残念ながら仕事に活かしきれていない」のように、否定する内容に「惜しい」「もう少しなのに」という気持ちが含まれています。
つまり「甚だ残念」は、断る場合の謝罪や物事を否定する場合に、申し訳ないという気持ちの他に「心残り」「惜しい」という気持ちも同時に表現しています。「残念」は漢字の意味通り「念を残す」ことで、単純な言葉ですが意味は意外に広く深い言葉です。
甚だ僭越
「僭越(せんえつ)」とは「自分の身分や地位を越えて出過ぎたことをする」という意味で、パーティーや結婚式のスピーチでよく耳にする言葉です。
漢字の「僭(せん)」は「身分不相応におごること」で「越(えつ)」は「物事の範囲・程度をこえる」を意味しています。2つの漢字をつなげた「甚だ僭越」は「身の程をわきまえず出しゃばった行動」を許可してもらう、または謝罪する場合に使います。
例えば「甚だ僭越ではございますが、ご指名ですので乾杯の発声をさせていただきます」「甚だ僭越ですが、ここでひと言ご挨拶をさせていただきます」のように使用します。このように「甚だ僭越」は挨拶やスピーチでよく使われる言葉で、日常会話にはあまり出てこない言葉です。
甚だ遺憾
「遺憾」の意味は「自分が思っているようにならなくてすっきりしないこと」です。「残念」と意味はほぼ同じですが、より厳格な場面で使われることが多く、会議での発言や記者会見などでよく耳にする言葉で政治家もよく使う言葉です。
「この度のA氏に対する処分は、甚だ遺憾に思っております」「B氏の発言は甚だ遺憾であります」のように相手の行動に対して反対の気持ちを表現する時に使います。
また「甚だ遺憾ながら、今回の提案は見送らせていただきます」のように事情があって断る場合にも使用されます。つまり「甚だ遺憾」は相手の行動や意見に反対を表明する場合と、断りを伝える場合の2通りの使い方がある言葉です。
甚だ申し訳ない
「甚だ申し訳ない」は、相手に対して非常に申し訳なく感じていることを表現する場合に使われる少し優しい言葉です。
「今回は私の配慮が足りなくて、甚だ申し訳なく思っております」「返事が大変遅れて、甚だ申し訳ありませんでした」のように、自分の至らなさを謝罪する際によく使われる表現です。「甚だ」を使った例文にはこの他に「甚だ簡単ではありますが」や「甚だ略儀ながら」など沢山あるので、興味がある方は調べてみて下さい。
「甚だ」の英語表現
「甚だ」の意味を表現する英語は沢山あります。日本語の「甚だ」の類語「とても」「大変」「非常に」などを英語訳すると考えれば分かりやすいのではないでしょうか。
例えば「very」「quite」「really」「greatly」「highly」「extremely」「terribly」などの英語が「甚だ」の意味に相当します。
日本語の「甚だ」は「大きく普通を超えている様子」で次に続く言葉により強い疑問や残念な気持ちを表現しています。英語の表現方法も基本的には日本語と変らず、前述の単語の後に続く英語により「甚だ」と同じ意味を表現します。
強い疑問を感じる意味する表現
英語で「疑問」にあたる単語には「doubt」「question」があります。少し解釈を広げれば「problem」も問題や課題が残るという意味で使えます。
英語で「強い」を表現する副詞は「very(とても)」「quite(かなり)」「really(本当に)」などが相当します。
英語で「〜very doubtful(とても疑わしい)」「〜quite doubtful(かなり疑わしい)」「〜really doubtful(本当に疑わしい)」は、日本語の「甚だ疑わしい」にかなり近く強い疑問を感じる時の英語表現になります。
何故「doubt」が「doubtful」になるかについては、次の「「甚だ」の英語表現をする時の注意点」の章で解説するのでここでは省略します。
残念な気持ちを意味する表現
英語で「残念」な気持ちを表す単語には「too bad」「shameful」「sad」「pity」「disappointed」「regrettable」などがあります。
しかし英語表現で「残念」は、後悔、よくない、侮辱、不名誉、悲しい、失望、不運、哀れみなどの様々な感情により成り立っているので、これらの単語を使う場合にはケースにより使い分ける必要があります。
「甚だ残念(遺憾)」に一番近い感情表現としては「regrettable(残念・遺憾)」で「〜really regrettable(本当に残念です)」という使い方になります。
「甚だ」の英語表現をする時の注意点
日本語では形容詞と副詞を意識して使うことはほとんどありませんが、英語では形容詞と副詞は確実に使い分けられています。
一口でいうと英語の形容詞は名詞を強調したり装飾する単語です。副詞は名詞以外の動詞や形容詞を強調したり装飾する単語です。
前述の「doubt(疑い)」で説明すると「doubt」は名詞です。それを強調する「very(とても)」「quite(かなり)」「really(本当に)」は副詞です。ですから「甚だ疑い深い」を英語訳する場合には「really doubt」ではなく「doubt」の形容詞形の「doubtful」を使い「really doubtful」と表現します。
形容詞と副詞を見分ける方法
形容詞と副詞を見分ける確実な方法は、辞書を引くことです。辞書を引けば名詞は「名」、形容詞は「形」、副詞は「副」と表示されているのですぐに分かります。
しかし単語が出てくるたびに辞書を引くのは面倒です。そこで簡単に見分ける方法の1つが語形で判断する方法です。
英単語の語尾が「〜able」「〜al」「〜ent」「〜ful」「〜ive」となっている場合は形容詞です。特殊なケースとして「careless(不注意な)」「famous(有名な)」などがあります。
副詞の場合は語尾が「〜ly」になっていることが多いのですが「very」や「quite」などの例外があるので注意が必要です。
2つめの方法が単語の位置で見分ける方法です。名詞の前にある場合やbe動詞などの後に続く場合は形容詞です。例えば「Happy new year」「I am happy」などの「happy」が形容詞です。
副詞の場合は形容詞や副詞の前に位置するケースや動詞の前後にくる場合があり少し複雑なので注意して下さい。この他に意味で判断する方法もありますが、どうしても見分ける判断がつかない場合、間違いをしないために辞書を引くことをおすすめします。
「甚だ」は大きく普通を超えている様子を意味する
ここまで日常会話ではあまり使われないが、ビジネスシーンでは出てくる少し堅苦しい言葉「甚だ」の意味や類語、使い方や例文を紹介してきました。普段は使わない言葉でもビジネスでは役に立つ理由も理解できたのではないでしょうか。また俯瞰(ふかん)で物事を見る大切さや英語表現などを参考にして仕事や人生に活かして下さい。