「そこはかとなく」の意味とは?
「そこはかとなく」という言葉、実生活で使う機会は少ないかもしれませんが、どこかで耳にしたこともあるのではないでしょうか?学生の頃、誰しも一度は学習するであろう「兼好法師」の「徒然草(つれづれぐさ)」の一説に登場する言葉です。
「つれづれなるままに、日暮らし、硯(すずり)に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」
有名な一説ではないでしょうか。今回は、この「そこはかとなく」という言葉の意味や類義語、対義語、使い方や英語表現をご紹介していきます。古くからある言葉ですが、現代でも十分使うことができます。正しく理解していきましょう。
「そこはかとなく」は「とりとめもなく」という意味
さて、「そこはかとなく」という言葉が徒然草に登場するということをご紹介しましたが、この一説を現代語訳するとどのような意味になるのかを見てみましょう。
「孤独にあるのにまかせて、一日中、硯と向かい合って、心に浮かんでは消える他愛のない事柄を、とりとめもなく書きつけてみると、妙におかしな気分になってくる。」
「そこはかとなく」という部分が「とりとめもなく」という意味に訳されていることがわかります。「取り留めの無い」という言葉は「目標やまとまりがない。特に重要でない。」という意味です。
また「他愛の無い事柄を」という言葉の後に「そこはかとなく」と続いているので、重要な意味では無いということがより良くわかります。「徒然草」の中で「そこはかとなく」という言葉は「あてもなく、特に意味もなく」という意味の使い方をされているようです。
一方、辞書で「そこはかとなく」の意味を調べたところ「所在や理由がはっきりしないが全体的にそう感じられるさま。どこがどうということではない。」と記載されていました。
噛み砕いて書くならば、「理由は無いけれどそう思う」つまり「なんとなく」という意味でもあることがわかります。また「際限が無い、無限である」という意味で平安時代に用いられていた例もあります。
以上のことをまとめると、「そこはかとなく」という言葉には「とりとめもなく」「なんとなく」「無限である」という意味と使い方があるということがわかりました。
「無限である」という意味で使われることは現在少なくなっていますが、意味に含まれることは覚えておきましょう。
「そこはかとなく」の由来
古来から使われてきた「そこはかとなく」という言葉。意味は主に「とりとめもなく」「なんとなく」だということをご説明してきましたが、その由来はどこにあるのでしょうか?
「そこはかとなく」は「其処は彼と無く」と漢字で書き表すことができ、「其処にいるのが誰だかわからないほど、ぼんやりしている」という様子を表しています。
そんな「そこはかとなく」という言葉ですが、言葉の語源・由来ははっきりしていません。古くは平安時代に書かれた、紫式部の「源氏物語」に「そこはかとなく」は使用されているので、古くから用いられていた言葉であることは確かです。
「そこはかとなく」の類義語
「そこはかとなく」には「なんとなく」という意味があり、古くから使われている言葉であるけれど由来ははっきりしていないということをご説明してきました。
続いては、「そこはかとなく」と似た意味を持つ言葉である類義語を幾つかご紹介していきます。類義語を知ることで「そこはかとなく」を類義語に言い換えることができ、さらには類義語を「そこはかとなく」に言い換えることもできます。
様々な言葉をうまく使いこなすことができるように、類義語を知識としてしっかりと理解して学んでいきましょう。
類義語①
「そこはかとなく」の類義語一つ目は「心なしか」です。「心なしか」という言葉には「心の中でそう思うこと。思いなし。気のせい。」という意味があります。心の中で思う、という点が「そこはかとなく」の意味である「なんとなく」と繋がる部分だと言えるでしょう。
「心なしか」の使い方の例文は「今日は心なしか元気がないね」「心なしか天気が悪くなってきた」です。「はっきりしないけれど、そんな感じがする」というニュアンスを表現できるでしょう。
類義語②
「そこはかとなく」の類義語二つ目は「おぼろげに」です。「おぼろげ」という言葉には「はっきりしないさま。ぼうっとしているさま。」という意味があります。こちらも「そこはかとなく」の意味である「なんとなく」に繋がる部分があると言えるでしょう。
「おぼろげ」の使い方の例文は「霧の向こうにおぼろげな影が見える」「幼少期のおぼろげな記憶」です。「なんとなく」とニュアンスは似ていますが、どちらかといえば「はっきりしない」という意味で用いるのが適切でしょう。
「そこはかとなく」の対義語
「そこはかとなく」に似た意味を持つ類義語をいくつか紹介してきました。ここからは「そこはかとなく」の反対の意味を持つ対義語を紹介していきます。対義語を知ることで、より一層「そこはかとなく」の意味を理解することもできるでしょう。
また「そこはかとなく」と逆の意味を表現したいとき、より理解を深めた状態で使用することができます。類義語とともに役立つので、例文と合わせて使い方を理解することが重要です。
対義語①
「そこはかとなく」の対義語一つ目は「顕著」です。「顕著」という言葉には「際立って目につくさま。だれの目にも明らかなほどはっきりあらわれているさま。」という意味があります。「なんとなく」という意味と真逆の意味を持つ対義語です。
「顕著」の使い方の例文は「男尊女卑が顕著な時代」「彼の才能の中で最も顕著なものが、素早い計算能力だ」といったものです。著しく目立ったもの、誰から見てもはっきりしているものに使用するのが最適な対義語です。
対義語②
「そこはかとなく」の対義語二つ目は「さやに」です。「さやに」という言葉には「はっきりとしたさま。清らかに清々しいさま。」という意味があります。この言葉は「明に・清に」と書き、主に古典で用いられています。
こちらは現代で用いられることは少ないかもしれませんが、「そこはかとなく」という言葉が古来より用いられているということでご紹介しました。
対義語③
「そこはかとなく」の対義語三つ目は「あからさま」です。「あからさま」という言葉には「包み隠さず、明らかなさま。また、露骨なさま。」という意味があるます。この言葉は、ものの状態よりも人の心に対して使われる場合が多いです。
「あからさま」の使い方の例文は「彼はあからさまな嫌悪感を表している。」「あからさまな嘘をつくんじゃない。」といったものです。
「そこはかとなく」の使い方
では、ここからは「そこはかとなく」の具体的な使い方をいくつかご紹介していきます。例文一つ目は「彼女はそこはかとない魅力を持つ女性だ。」です。これは、理由はわからないけれど魅力を感じさせる女性だということを意味している例文になります。
例文二つ目は「彼の横顔は、そこはかとなく悲しみを感じさせた。」です。理由はわからないけれど、悲しそうな顔をしている人を意味しています。
これらの例文を見てわかるように、現代で「そこはかとなく」は「理由はわからないけれど」という意味合いで用いられていることが多いです。また「理由はないけれど」という意味で用いることもあります。
「そこはかとなく」の英語表現
「そこはかとなく」はとても日本語らしい言葉ですが、この言葉の意味を英語で表そうとしたときにどのような英語を使えば良いのでしょうか?海外の方に日本語の「そこはかとなく」の意味を訳して伝える際、どの英語を使えば良いのかご紹介します。
英語「somehow」の意味
英語「somehow」には「どういうわけか、なぜか、どうも」という意味があります。日本語に訳すと「なんとなく、なんだか」と表すこともできます。
「そこはかとなく」の意味は「なんとなく」も含まれていたので、英語「somehow」で表現することが可能です。例文は「Somehow I felt better(そこはかとなく気持ちが明るくなった)」となります。
英語「vague」の意味
英語「vague」には「漠然とした、あいまいな、はっきりしない」といった意味があります。この単語は「言葉」「態度」「形」など、様々なものに使うことができます。
「漠然とした気持ち」「曖昧な態度」「はっきりしない形」といった表現をすることができるので、「そこはかとなく」という意味を表すのにぴったりな単語です。例文は「I had a vague feeling of misery.(そこはかとなく惨めな気分だった。)」です。
「そこはかとなく」とは「なんとなく」という意味
いかがだったでしょうか?日本で古来から使われている「そこはかとなく」という言葉について意味を主に解説してきました。有名な随筆「徒然草」で使用されています。
また「そこはかとなく」という言葉の類義語・対義語、使い方・英語表現も合わせてご紹介しています。知性を感じさせる言葉なので、是非意味を理解して使ってみましょう。