「忌憚」の意味とは?
「忌憚」という言葉の意味をご存知ですか?「もののけの類?」「仕事で見聞きしたことがあるけど、スルーしてしまっていた」「まずは読み方からわからない」など、言葉も意味も詳しく知らないケースが多いです。
「忌憚」は、「きたん」と読みます。ビジネスシーンなどで頻繁に目にする言葉で、プライベートでの会話ではあまり見かけない言葉です。
「忌憚」とは、「きたん」と読みます。「はばかり、遠慮すること」という意味です。「忌憚」単独で使うことは現代では稀で「忌憚なく」という否定語を伴って使用される言葉です。つまり「忌憚なく」は「はばかり、遠慮することなく」という意味です。
「忌憚」の意味が分かれば、ビジネスメールや会話などで「忌憚」の言葉を見聞きしても慌てることがなく対処する事ができます。
今回は「忌憚」「忌憚なく」について徹底紹介。「忌憚なく」の対義語と類語、「忌憚なく」の使い方、「忌憚」と「奇譚」との違い、「忌憚なく」を使う注意点、「忌憚」「忌憚なく」の由来・歴史、英語表記、ひらがな、カタカナ表現について順に紹介し、「忌憚」「忌憚なく」を総力特集していきます。
「忌憚なく」の類義語
まずは「忌憚なく」という言葉にはどんな類語が存在しているのかを確認していきます。「忌憚なく」はビジネスシーンなどで頻繁に使用されている語であることは先述しましたが、この語は今後も使う可能性があり、覚えておいて損はありません。
そんな「忌憚なく」の類語を知ることは、「忌憚なく」の意味づけをより明確にするきっかけとなります。以下から「忌憚なく」の類語を紹介していきます。
「構う必要はありません」の意味
「忌憚なく」の類語に上げられる1つ目には「お構いなく」が当てはまります。類語「お構いなく」は「構う必要がなく」を意味します。
現在でも「お構いなく。大丈夫です」という言葉でも頻繁に使われている語です。ただ、左記のように、相手が勧めていることをやんわり否定する語として使われる言葉です。「忌憚なく」とは必ずしも同義語としては使う事ができないのでご留意ください。
「身分や地位の上下を意識しない酒宴」の意味
「忌憚なく」の類語に上げられる2つ目には「無礼講」が当てはまります。類語「無礼講」は「身分や地位の上下を意識しない酒宴」を意味します。
現在でも「本日は無礼講だから、大いに楽しもう」という言葉で使われる言葉です。ただ、表題にもあるように「酒の席」でも宴会で使う事ができる言葉なので、使うシーンが限定されています。
「気をつかわずに」の意味
「忌憚なく」の類語に上げられる3つ目には「気兼ねなく」が当てはまります。類語「気兼ねなく」は「気をつかう事なく」を意味します。
現在でも「どうぞ気兼ねなくなさってください。」という言葉で使われる言葉です。例文の他「見る」「寛ぐ」「楽しむ」などの前にも使え、「忌憚なく」よりも多くのシーンと親和性がある言葉です。
後述しますが、「忌憚なく」はその漢字とひらがなが、全てマイナスな意味でつないでいることもあり、上記の「気兼ねなく」よりもビジネスシーンなどのフォーマルな場面でよく使われる言葉です。
「忌憚なく」の使い方・例文
では「忌憚なく」は実生活でどのように使うことができるのでしょうか?「忌憚なく」はその意味「はばかり、遠慮することなく」から、相手との関係性から使われる言葉です。「はばかる」「遠慮」することを「しなくてもいい」とはどんな状況でしょうか?
実際のシーンを介して「忌憚なく」がどのように使われているか?を見ていきます。例文を下記にケース別でご紹介しますので、その使い方をご参考いただければ幸いです。
例文①
「忌憚なく」の使い方の1つの例文として、会議などのビジネスシーンが上げられます。ミーティングなどで「忌憚なく」が使われています。
「会社のための大切なミーティング時間なので、皆さん、忌憚なくご意見をなさってください」このように「忌憚なく」の使い方は営業ミーティングのシーンで想定できます。
例文②
「忌憚なく」の使い方の1つの例文として、メールなどのビジネスシーンが上げられます。社内アンケートなどで「忌憚なく」が使われています。
「今後の社内のさらなる業務改善の参考にいたします。業務部〇〇まで、忌憚なくメッセージをお寄せください」このように「忌憚なく」の使い方は社内アンケートでのシーンで想定できます。
例文③
「忌憚なく」の使い方の1つの例文として、得意先とのビジネスシーンが上げられます。打ち合わせなどで「忌憚なく」が使われています。
「これからも御社と一緒に仕事をしていきたいので、忌憚なく言ってもらって構いませんよ」このように「忌憚なく」の使い方は取引先との会話で想定できます。ただ、取引先が発注元の場合ですと、「忌憚なく」と言われても必ずしやその通り言えるものでもありません。
例文④
「忌憚なく」の使い方の1つの例文として、下請先とのビジネスシーンが上げられます。下請先との打ち合わせなどで「忌憚なく」が使われています。
「金額的に厳しいのであれば忌憚なくお申し付けください。持ち帰らせていただき、弊社内で再度検討させていただきます。」このように「忌憚なく」の使い方は下請先との商談で想定できます。ただ、下請先の目線からは顧客として、ビジネス敬語を使うこともご留意ください。
「忌憚」と「奇譚」の違い
では次に「忌憚」に戻り「忌憚」と「奇譚」との違いについて紹介していきます。この「奇譚」は、漢字の文字数、言葉の重なり具合から、「忌憚」と似ており、誤用が多発している有名な言葉です。
それでは両者にどんな違いがあるのかを、以下「忌憚」「奇譚」それぞれの意味をそれぞれ比較していきながら、その違いを説明していき、「奇譚」の使い方を見ていきます。
「奇譚」は「珍しい伝承」の意味
「奇譚」は表題の通り「珍しい伝承。不思議な話」を意味する語です。一方「忌憚」は「はばかり、遠慮すること」を意味しています。
いわば、「奇譚」と「忌憚」の両者は全く違う意味を持つ言葉同士で、単なる「同音異義語」であるということです。
「忌憚」の語源の詳細は後述に譲りますが、「奇譚」は「奇」という「めずらしい」という意味と、「譚」という「はなし。ものがたり」という意味の語同士がくっついて構成されています。
作家の田中貢太郎の随筆「怪譚小説の話」の中で「使い方」が参考になる一文があります。「それは晋唐小説六十種で、当時の短篇を六十種集めた叢書であるが、それには歴史的な逸話があり、怪譚があり、奇譚があって、皆それぞれ面白い」
このように「忌憚」と「奇譚」は似てはいるが全く違う意味を持つ語です。使う際は文字変換のミスなどがないようにご留意いただければ幸いです。
「忌憚なく」を使う際の注意点
「忌憚なく」を使う上で気をつけなければならない点はどこにあるのでしょうか?「はばかり、遠慮」することのないシーンとは、相手と自分との関係性を考える上で大切なポイントになっていきます。
いわば、相手方が自分の立場を斟酌して、「忌憚なく」と断りを入れてくれているという点を鑑みると、自分から「忌憚なく」と発信することは可能かどうか?ということがこの注意点のポイントになります。
上記の点を踏まえて以下に「忌憚なく」を使う際の注意点をご紹介していきます。実際に使用する上で大切なポイントになりますので、「使い方」と併せてご参照いただければ幸いです。
自分発信では使えない
「忌憚なく」を使う上で注意すべきポイントは「相手が要請する」際に使われる言葉であるという点です。例文でも、ご紹介したように、相手から「忌憚なくご意見をおっしゃっていただければ」というシーンと親和性があります。
「忌憚なく」を「自分発信」で使うことになると「遠慮してためらうことなく」と宣言してしまうことになるため、日本の慣習上、会話で使うケースにはあまり馴染みません。
相手に具合の悪いことを伝えるときは、「誤解を恐れずに述べさせていただきますと」のように、発信者もへりくだりながら、意向を伝えることが社会通念上のマナーになります。
上記の文には「自分も言いたくはないのだけれど、どうしても言わなければならないので、敢えてお伝えします。どうか注意深くお聞きになり、途中で立腹して話を中断することはご遠慮ください」というニュアンスが込められています。
「忌憚なく」の由来・歴史
「忌憚なく」の意味、使い方、類語・対義語、気兼ねなくとの違い、注意点がわかったところで、「忌憚なく」の由来はどこにあるのでしょうか?
「忌憚なく」は例文などでご紹介したように、ビジネスなどのフォーマルなシーンで使える言葉です。であれば「書き言葉」として、日本では古くから使用されてきた可能性も否定できません。
上記を踏まえて「忌憚」の由来と「忌憚なく」が日本で使われていた使用時期を辿っていき、「忌憚なく」の由来と歴史を探っていきます。
由来
「忌憚」がどのような経緯で今の意味にいたったのかを紹介していきます。詳細は後述する「漢字」に譲りますが、「忌」は「嫌って避ける。酷く嫌がる」という意味、「憚」は「さしさわりがあるとして遠慮する。障害があって、進むこともためらう」ことを意味しています。
上記から転じて、「ためらうのを避ける」を表す意味となり、本来の「忌憚」の意味「はばかり、遠慮すること」という意味が生まれました。そして例文でも先述した通り否定語を伴って「忌憚なく」という表現で使われるようになり、今に至ります。
今度は「忌憚」の由来が理解できたところで、「忌憚」は日本でどのくらいの前から使われていたのでしょうか?その使用時期の歴史を辿ってみます。
歴史
上記の点を辿る資料として「忌憚なく」は過去の文献でも確認することができます。小説家・国学者の大倉燁子の「魔性の女」という作品です。1949年(昭和24年)から「マスコット」に発表されました。下記の一説を紹介します。
「彼女の本心を忌憚なく云えば、本庄俊なる僕を全部独占し、僕の行いを一から十まで知りつくそうとするにある。」
上記の文献から「忌憚なく」は、今から少なくても70年以上前の戦後間もない時代には使われていたことが確認できます。
「忌憚なく」の使用時期の由来を辿るその2つ目は詩人、童謡・民謡作詞家の野口雨情が「週刊朝日」に1929年(昭和4年)に発表した「石川啄木と小奴」という作品です。下記の一説を紹介します。
「かうした石川の半面を私が忌憚なく発表することは、石川の人と作品を傷つける如く思ふ人があるかも知れないが私は決してさうとは思はない」今から約90年前の昭和初期にも「忌憚なく」が使われているのが理解できます。
「忌憚なく」の英語表記
そもそも「忌憚なく」が表現として英語圏で使われているのでしょうか?そもそも「忌憚」の言葉は英語表記が存在するかが疑問です。
「忌憚なく」は日本語だけでなく、英語でも表現する事ができます。まずは、英語では「without reserve」という表現です。「忌憚」を英語で表現すると「reserve」になります。
「忌憚なく」は他の英語でも1語で表現する事もできます。英語「unreservedly」「frankly」「candidly」「freely」という副詞表現です。
英語表現として「You may speak unreservedly」この場合は「忌憚なく話しなさい」と訳すことができます。このように英語圏でも副詞で本文に接続する形で使われるので、気軽に使う事ができる言葉です。
「忌憚なく」の「ひらがな」「カタカナ」表現
最後に「忌憚なく」がひらがなやカタカナで表現できる言葉であるかどうかを検証していきます。「忌憚」という漢字は画数が多く、「奇譚」との誤用も心配される言葉です。読み分には支障がなくても、書く分に抵抗がある場面は否定できません。
この点を踏まえて、「忌憚なく」と同じ意味を持ちながら「ひらがな」「カタカナ」表現があればその表現を以下よりご案内いたします。
「忌憚なく」に噛み砕いて表現すると「オープンに」という言葉が当てはまります。「オープン」とは「かくしだてることもなく、あけっぴろげ」である様を意味します。
「オープンに」という言葉はビジネスシーンのみならず、プライベートでの会話でもメールでも使う事ができる便利な言葉です。
もし、「忌憚なく」の書き方に迷いや書き方を忘れてしまって調べる手段がない場合は、「オープンに」という表現を使うことをお勧めいたします。
「忌憚」は「はばかり遠慮する」という意味
「忌憚」の意味、「忌憚なく」の類語、使い方、「忌憚」と「奇譚」との違い、「忌憚なく」の注意点、由来・歴史、英語表記、「忌憚なく」のひらがな、カタカナ表現を順を追って見てきました。
「忌憚」は「はばかり、遠慮すること」ことを由来としている語で、「遠慮することなく」という「忌憚なく」という表現で現在知られています。
ビジネスシーンなどで、「忌憚なく」発言を求められたりしても、どこまで踏み込んだ発言をすれば良いか迷う場面もありますが、「忌憚なく」の意味をご理解いただき、ケースバイケースで対応いただければ幸いです。