しっぽりの意味とは?
大人が使う言葉があります。大人にしか似合わない言葉といってもよいでしょう。例えば「しっぽり」という言葉はどうでしょう。現代社会においては、特に若い人たちの間では「しっぽり」という言葉を聞いたことも、もちろん使ったこともない人が圧倒的に多いはずです。
「しっぽり」という言葉は、どのような意味を持つのでしょうか。また「しっぽり」という言葉を、どのような状況で、どのような使い方をすれば適切な使い方といえるのでしょうか。
意味①しっとり濡れる様子
「しっぽり」は、自然現象の音に真似て作られた言葉である擬声語の一つとされています。第一番目の「しっぽり」の意味は、十分に濡れて湿り気を帯びている様子を表しています。ポイントは「十二分に濡れている」ということで、雫が落ちるほどに濡れている状態が「しっぽり」です。
大切なのは、この濡れている様子が「激しくないこと」です。「ぐっしょり濡れた」「びっしょり濡れた」といえば、激しい雨に打たれたかもしれません。対して、「しっぽり濡れた」というのは霧雨や春雨などにゆっくりとじっくりと濡れた、あたかも心地良いともとれる濡れ方を意味します。
意味②男女の愛情
男女の関係を表現する言葉としても「しっぽり」が使われています。男女間の距離がゆっくりと近づいていく様子を表現しているのが、「しっぽり」という言葉です。「しっぽり」は古い言葉になってしまっているので、若い人たちが「しっぽり」と使うと違和感があるかもしれません。
日本独特の単語を「大和言葉」とも言いますが、「しっぽり」はまさに大和言葉だといえましょう。激しく求めあうのではなく、寄り添いながら、互いの気持ちを確かめ合いながらの状態を「しっぽり」という言葉で意味させています。気持ちがゆっくり、じっくりと潤ったという意味です。
意味③静かで落ち着いた様子
男女間の様子や雨に濡れている様とは全く違う、静寂を表現する言葉としても「しっぽり」が使われることがあります。単に静かであるということだけではなく、しんみりと、何も考えずに時間を過ごすときに「しっぽり」を使うことがあります。
失望感も伴うこともある「呆然と」ということではなく、むしろ楽しむ気持ちの意味を持つのが「しっぽり」です。ゆっくりと、そしてじっくりと、何も考えていないようで、誰かのことを思っているような意味を持たせることができるのが、「しっぽり」という言葉です。
しっぽりの語源
言葉は大きく、口語と文語に分けることもできます。文字では目にすることが多いけれど、滅多に口にする言葉ではない場合の多くは文語とされます。文語は書き言葉ともいわれます。「しっぽり」は、ほぼ文語に属する言葉になってしまっているのかもしれません。
それでは、「しっぽり」という言葉は、いつ、どこで発生したのでしょうか。言葉の起源を探るのは難しいです。それでも、語源を調べることで本来の意味や派生した理由が理解でき、より「しっぽり」を正しく使うことができます。「しっぽり」という言葉の語源をご紹介します。
京言葉の可能性
京都の方言の一つに「しっぽり」が今でも残っています。京言葉での「しっぽり」の意味は、「物静かで上品な様子」という意味です。日本全国で使われる意味での「しっぽり」の、三つ目の意味に近いといえます。しかし、現在の「しっぽり」には「上品」の意味は含みません。
男女間に用いる「しっぽり」の意味などが、まったく含まれていないことにも留意する必要があります。これらのことから、京都の言葉が語源であるとは考えられません。逆に本来の「しっぽり」が「静寂」の意味だけを持って京都に伝わった可能性が高いといえます。
江戸言葉の可能性
江戸時代の言葉を紐解いてみると、「しっぽり」は、ただ濡れている様子を表す言葉として使われていたことがわかります。現在の「しっぽり」の意味の一つ目のに相当します。「鼻の上にしっぽりと、汗をかいた」などと江戸時代の書物に使われています。
実は「しっぽり」は日常生活で使われてきた口語または俗語であり、正式な語源はわかっていないのです。文語であれば語源を探ることもできますが、生活に根付いた言葉である「しっぽり」であるがために、いつ、どこから来たのかわからない語源不明な言葉なのです。
しっぽりの対義語・類語
「しっぽり」は古い言葉になってしまっていることから、意味が分からないという若い人たちがいるようです。時代に合わない言葉は廃れていきます。語彙も文法も、時代によって変形していくという考え方が、現代言語学の主流になっています。
それでも、古い言葉の全てが絶滅していくとは限りません。古い言葉が何かをきっかけとして、突然流行語になることもあります。そこで類語や対義語で「しっぽり」の意味を理解し、「しっぽり」のただしい使い方ができるように側面から「しっぽり」を捉えてみましょう。
しっぽりの類語
「しっとり濡れている」という意味での「しっぽり」の類語は、「しっとり」です。全体が十分に濡れている状態を指しています。を男女間に使うときの「しっぽり」に対する類語ならば、「ほそぼそ」が一番近い類語と考えられるでしょう。
さらに静寂を意味するときの「しっぽり」の類語であれば「ゆっくり」や「じっくり」が一番近い類語なのかもしれません。特に若い人たちの間では「しっぽり」は使われておらず、「しっとり」や「ほそぼそ」「ゆっくり」が「しっぽり」の類語として一般的になっているようです。
しっぽりの対義語
しっとり濡れるという意味で「しっぽり」の対義語であれば、乾いている状態を表す「さらっと」が一番近い対義語かもしれません。男女間に使う「しっぽり」の対義語であっても、ドライな関係という意味で「さらっと」が「しっぽり」の類義語といます。
静寂な意味での「しっぽり」であれば、対義語は騒々しくあわただしいという意味で「ばたばたと」というような言葉が近いかもしれません。感情が無く、やっつけ感がある「ばたばたと」のような言葉が「しっぽり」の対義語になるでしょう。
しっぽりの使い方
言葉は例文で使いながら覚えるのが良いといわれます。このとき、間違った意味での使い方をすると恥ずかしい思いをします。「しっぽり」という言葉は奥が深い言葉であり、また古い言葉でもあります。そのため、使い方次第では相手に全く伝わらない状況も考えられます。
「しっぽり」という言葉の使い方例文を、三つの意味別にご紹介します。大切なのは「しっぽり」には感情が含まれており、特に他人に対しての使い方は十分に注意すべきという点です。誤解を生まないためにも、「しっぽり」の意味を例文で十分理解しておきましょう。
例文①
「十分に濡れている」という意味での使い方での「しっぽり」であれば、例文として「春雨に、しっぽり濡れている」「庭の芝生がしっぽり濡れている」というような使われ方が良いでしょう。大切なことは、ゆっくりと濡れたことです。豪雨などには使えません。
「傘はないけど、この程度の雨だから、まあ、しっぽり濡れていくさ」などは、小説の一文に見られそうな例文です。雨で身体はずぶ濡れになりそうだけれども、それは「しっとり」濡れそうだという意味で、だからこそ楽しめるという意味になり「しっぽり」が使えるというわけです。
例文②
男女間に使う「しっぽり」は、ゆっくりと影響を受けることを含んでいます。「今夜は二人でしっぽりと呑もうか」「ふたりでなかよくしっぽりやってね」という例文が良いでしょう。これも激しい様子は一切含まず、しみじみと、心通わせる男女に対して「しっぽり」を使うのです。
決して「イチャイチャ」ではない点がポイントです。「ラブラブ」でもありません。そこまで表立った強いイメージはないのです。「老夫婦であろうと、しっぽりと旅を楽しむのもまた、良いものである」など、心が寄り添った相手だからこそ「しっぽり」が使えるのです。
例文③
静寂の意味を持つときの「しっぽり」は、自分自身に向けて使います。一人で静かに、落ち着いてという意味を持つように使います。「しっぽりと思いを巡らす」「ひとり、しっぽりとした気分に浸りながら、彼女との思い出にふけていた」などです。
贅沢な時間を意味することもあります。「今宵、しっぽりと映画を見て過ごすのも、オツなものといえよう」などと使うときには、だれからも邪魔されず、自分だけの時間を楽しんでいる様子がうかがえます。心が静寂だという意味で使われているところがポイントです。
例文④
語源から考えると、どうやら濡れることを表す言葉から発生したことは間違いなさそうです。しかも激しく濡れるわけではなく、じっとりと濡れたことを意味するために、男女間のロマンチックな意味を含めたと考えられます。
「若い男女が二人、場末のバーでしっぽりと落ち合った」と「夕暮れに、ひとりでしっぽりと涼んでいた」という二つの例文には実際に水に濡れていることを含んでいません。「少女は、しっぽりと髪が濡れている」というのは実際に濡れている様子を表しています。
しっぽりの注意点
「しっぽり」という言葉は誰もが知っている言葉ではありません。語彙が豊富な、一般的には壮年といわれる世代の方には、理解してもらえる言葉といえます。また、男女間の愛情などを表す言葉としても使われるため、恋愛関係になっていない相手には使うべきではありません。
「しっぽり」という言葉が発生したころは話し言葉であったにもかかわらず、現代では書き言葉になっていることを意識して使うべきです。「しっぽり」は濡れている状態を露骨に表現する言葉ではなく、日本人の好む「やんわりと隠しながら表現する言葉」であることに注意しましょう。
しっぽりには「しっとり濡れる様子」という意味
「しっぽり」の意味には「男女間のゆったりとしたしみじみとした感情」や「しずかに物思いにふける」という意味や、「静かにしっとりと濡れている様子」という意味があることがわかりました。とても日本的な、情緒的な言葉であるということもわかりました。
「しっぽり」という言葉は「静かな思い」を含むことがあるので、使う相手や状況に注意しなければなりません。騒々しかったり、早急であったりするところでは、「しっぽり」の意味は使えません。「しっぽり」の意味を十分理解して、この素敵な言葉を使ってみてはいかがでしょうか。