「よきにはからえ」の意味とは?
「よきにはからえ」は時代劇などでよく耳にする言葉で、昔の侍(さむらい)が使う言葉なので「武士語(ぶしご)」とも呼ばれます。
「よきにはからえ」を漢字で書くと「良きに計らえ」となり、おぼろげながら意味が見えてきます。「良きに」は字の通り「良いように」「好きなように」という意味で、「計らえ」は「物事を処理しなさい」「計画を立てなさい」という意味です。
この2つの言葉を組み合わせた「よきにはからえ」は「適切な処理をしなさい」という意味になります。また「好きなように」という意味があるので、指示を待たずに自分の意志で進めなさいというニュアンスも含んでいます。
また「よきにはからえ」には家来を信頼しているからお前に任せる。好きにしてよろしいが、信頼に応えるべき結果は出しなさい、という意味を含んでいます。
「よきにはからえ」の類語
「類語」とは似たような意味があり同じような使い方をする言葉のことですが、「よきにはからえ」はもともと昔の武士語なので、類語も武士語になります。
しかし武士語のままでは意味がわかりにくいので、現代語に通訳をして、置き換えながら類語の意味や使い方、違いなどを紹介します。
「よしなに」の意味
「よしなに」は「よきにはからえ」と同じ意味合いを短めの一言で表す場合に使われる類語です。「よしなに」を現代語に訳すと「好きなように」「都合の良いように」「よろしく」という意味になり「よきにはからえ」と似ているので類語になります。
時代劇のシーンでは、悪徳商人が小判をぎっしり敷き詰めた菓子折りを悪代官などにそっと差し出しニヤリとしながら「例の件をよしなに」のような使い方をすることがあります。
「よしなに」はこのように良い意味では「都合の良いように処理をしてください」ですが、悪い意味では賄賂などを渡して「上手くやってくださいよ」というニュアンスの使い方ができる類語です。
「くるしゅうない」の意味
「くるしゅうない」は、殿様が家来に向かって「苦しゅうない、近う寄れ」というシーンが時代劇ではよく見られます。「気にするな」「差し支えない」という意味があるので「よきにはからえ」の類語になります。
立場や地位が上の人が「気にしなくていいよ」と下の者に使う言葉です。前述の「苦しゅうない、近う寄れ」を現代語訳すれば「気にしないで近づいて構わないよ」という意味です。
「よきにはからえ」と類語の「苦しゅうない」の違いは、「よきにはからえ」は上の者が下の者に指示を与える言葉で、「苦しゅうない」は許可を与える言葉というところが違います。
「是非もなし」の意味
「是非(ぜひ)もなし」は「よきにはからえ」と少し違う使い方をする類語です。「是」は良いことを意味していて「非」は悪いことを意味します。
つまり「是」も「非」もないということは「良くも悪くもない」=「仕方がない」という意味になり、「やりようがないので仕方なく諦める」場合に使われる言葉です。
言い換えれば「どうしようもないから好きにしなさい」という意味です。「よきにはからえ」にも「好きにしなさい」という意味があるので類語になっています。
しかし「よきにはからえ」はポジティブに相手を信頼しているから「好きにしなさい」というのに対し、類語の「是非もなし」はネガティブなあきらめの感情が伴っているところが違います。つまり使う状況や場面が違うということです。
「よきにはからえ」の使い方・例文
「よきにはからえ」は武士語なので、通常の会話で使うことは滅多にありません。しかしたまに上司が部下に対して「この仕事は君に任せた。よきにはからえ」という場合があります。
この例文が時代劇の影響なのかどうかはわかりませんが、上司に「よきにはからえ」と和やかに言われれば、どことなく半分冗談交じりで親しみが湧きプレシャーを感じずに仕事に取り組むことができます。
また「よきにはからえ」には信頼しているから任せるという意味があるので、解釈によっては褒め言葉にもなり、言われた本人は悪い気がせずに仕事ができるのではないでしょうか。
また若者の間で「よきにはからえ」だけでなく「かたじけない」「あっぱれ」「さようでござる」「これはしたり」「苦しゅうない」「それがし」「お主」などの武士語をジョークにして遊ぶことが流行っています。
そのような使い方があることを念頭に置いて「よきにはからえ」の使い方と例文を、仲間同士で使う場合と、家族の間で使う場合とに分けて、その効果なども合わせて紹介します。
例文①仲間同士
「よきにはからえ」のような古風な武士語は、仲間や友達同士の会話やメールで使うと、意味がはっきりわからなくても、どことなく可笑しくて場の雰囲気が盛り上がります。
「来月お前の誕生日だけど、プレゼントに何が欲しい?」と聞かれた時に「よきにはからえ」または「お主なかなか優しいでござる。よきにはからえ」の例文のように返事をすればつい笑いがこぼれます。
彼女が「明日英語のテストなんでしょう。ノート貸してあげようか」の返事に「かたじけない、よきにはからえ」のような例文で返せば、感謝の照れ隠しにもなり親しみの情も伝わります。
また仲間でゲームをやっている時などに「お主なかなかやりおるな、あとはよきにはからえ」や「よきにはからえと言ったけど、それがしも参戦するぞ」「フォローしてくれて、かたじけない」などと武士語でやり取りするのも面白いです。
「よきにはからえ」などの武士語は江戸時代の侍が使った言葉ですが、時代の流れで次第に消えていった表現です。しかし現代の若者の間で人気が復活して楽しまれているという現象は、その言葉に魅力があるからです。
この他にも例文はいろいろ考えられます。自分なりに「よきにはからえ」などの武士語を使った例文をいろいろ作ってみるのも楽しいので、ぜひトライしてみてください。
例文②家族
家族の間で「よきにはからえ」などの武士語を使った例文を紹介します。例えば女房に「今晩の夕食に何が食べたい?」と聞かれたとします。
「ステーキが食べたいけど、少し贅沢でござる。よきにはからえ」のように返します。この例文では夫婦間のさりげない会話にユーモアが入り、マンネリ感をなくすことができます。
また子供に「今度の日曜日に遊園地に連れってよ!」の例文の返事に「苦しゅうない、よきにはからえ」と答えれば「何それ!変な言葉」と笑いが起きること間違いありません。
これらの例文のように、家族の間で上手に「よきにはからえ」などの武士語を使えば、雰囲気が明るく楽しくなります。いろいろと例文を試してみることをオススメします。
「よきにはからえ」と「任せる」の違い
「よきにはからえ」は、あなたに任せるから「適切な処理をしなさい」という意味なので「任せる」は現代語の類語にあたります。
意味も使い方も似ていますがどこに違いがあるのでしょう。もちろん武士語と現代語という違いはありますが、意味だけ考えると非常によく似ています。それでは「任せる」の意味と使い方を検証することで違いを探してみましょう。
「任せる」は「ゆだねる」という意味
「任せる」とは、信頼しているからあなたに一任して委(ゆだ)ねます、という意味です。「よきにはからえ」も信頼しているから自分が出るまでもなく適切な処理をしてくれ、というニュアンスなので意味にはほとんど違いがありません。
しかし「任せる」は目上の人が下の者にゆだねる場合もあれば「今度はあなたに任せるわ」のように同等の立場の同僚や友達同士でも使います。
一方「よきにはからえ」は殿様が家来に使うように、目上の人が下の者にだけ使える言葉です。ここに違いがあります。つまり「任せる」と「よきにはからえ」には意味の違いはありませんが、使う者の立ち位置が違うのです。
「よきにはからえ」を使う際の注意点
ここまで「よきにはからえ」の意味や類語、使い方、仲間同士や家族の間で「よきにはからえ」などの武士語を使うことでその場の空気を盛り上げたり、和ませたりできることなどを紹介したきました。
しかし「よきにはからえ」は、もともと殿様が家来に使った言葉なので使う際には注意が必要です。どのような点に注意すれば良いかをこれから紹介します。
「目上の人の前」では使えない
前述のように「よきにはからえ」は、目上の者が目下の者に使う命令形の言葉です。同等の立場の仲間や家族の間で使うのは問題ないのですが、上司や先輩など目上の人には失礼にあたるので使うことはできません。
たとえ親しい間柄の先輩であっても冗談半分でも、人によっては気を悪くしてしまいます。目上の人が目下の者に命令されるのは面白くないはずです。「よきにはからえ」は目上の人には使えないので注意しましょう。
「よきにはからえ」の返事
「よきにはからえ」には返事として返す言葉がいくつかあります。もちろん武士語の返事言葉です。この返事の仕方を覚えておくと、仲間同士で武士語で冗談を言い合う時にはかなり盛り上がります。
「よきにはからえ」と言われた時の返事には「おおせの通りに」があります。命令や役割を受けた時に「おっしゃる通りに」という意味の返し言葉です。
次に「御意(ぎょい)」という返事があります。最近の医療ドラマでよく使われていたので知っている方が多いのではないでしょうか。「承知しました」という意味ですが、服従するという意味も含んでいるので権力のある人に対する返事言葉です。
また「ありがたき幸せ」という返事の仕方があります。「幸せ」という言葉がありますが、字面のように幸せという意味より「ありがたきお言葉、確かに承知しました」というの意味合いの返事言葉です。
最後に殿様が「よきにはからえ」と言った時に家来たちが一斉に「はっ」または「は、は〜」と返事をしてを頭を下げるシーンも時代劇では良く見ます。この返事も「御意」と同じように「かしこまりました」と服従を意味しています。
このように「よきにはからえ」の返事の仕方をいくつか知っていれば、武士語遊びがさらに盛り上がって楽しくなります。ぜひ参考にしてください。
「よきにはからえ」の英語表記
「よきにはからえ」を一言で英語表記する単語はありません。英語で「よきにはからえ」を表記するにはいろいろな言い回しで表現します。
例えば「よきにはからえ」の好きにしなさいという意味を使って「Do what you think is best.(あなたがベストと思うことをしなさい)」「The way you want.(あなたが望むやり方で)」のような言い回しで「よきにはからえ」を英語で表現します。
また「What should I do?(私どうすればいい?)」と聞かれた時に英語では「I think you should do what you want to do.(あなたがたりたいと思うことをやるべきだと私は思います)」のように返します。
「You can do whatever you want to do.(あなたがやりたいと思うことなら、なんでもやることができるんだよ)」という言い回しも使います。つまり英語では「望むこと(want)」を使って「よきにはからえ」に近い表現をします。
「よきにはからえ」の信頼して任せるという意味での英語表記は「I trust you.(君に任せるよ)」「I will leave everything to you.(すべて君に任せるつもりだ)」のように「trust(信頼する)」「leave (捨てる)」を使って表現します。
つまり「trust」信頼することや「leave everything」「すべてを捨てて」君に委ねるという意味で「よきにはからえ」を英語で表現しています。
この他にも英語には「commend(預ける・委任する)」「to abandon(放任する)」「free(自由に)」「wilfully(勝手に)」などの単語や言い回しで「よきにはからえ」を表現する方法があるので、英語に興味のある方は調べてみてください。
「よきにはからえ」は「適切な処理をしなさい」という意味
「よきにはからえ」は「適切な処理をしなさい」という意味の上から目線の言葉ですが、その意味には信頼して任せるから自分の思うように好きにやりなさいという含みがあります。
また信頼されて委ねられる適切な処理には、責任と結果が求められていることもおわかりいただけたのではないでしょうか。
「よきにはからえ」の意味や使い方、類語などの言い換え表現、武士語を現代語の中で面白く使う楽しみ方、また命令形の言葉なので上司や目上の人には使えない注意点、英語表記の仕方などを紹介してきました。
これらの記事を参考にして「よきにはからえ」の正しい使い方や、武士語の楽しみ方を人生やビジネスシーンで役立てていただければ幸いです。