「最後の晩餐」の意味
レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「最後の晩餐」は、誰もが一度は見たことはあるのではないのでしょうか。世界中で有名な絵画の一つです。それでは、みなさんはこの絵画「最後の晩餐」の意味については知っていますか。
この絵画の題材として、新約聖書に記載されている12人の使徒と、主であるイエス・キリストの13人で行った「最後の晩餐」を情景に描かれているようです。イエス・キリストが、使徒12人の中から一人、裏切り者が出る、それはユダであると預言したときの情景が描かれています。
この預言が、絵画「最後の晩餐」の意味に深く関わってきます。これから絵画「最後の晩餐」に描かれている意味や、隠された謎についてご紹介していきます。
ユダの裏切りの預言
最後の晩餐にて、イエス・キリストが12人の使徒の中から、裏切り者が出ると預言をしました。12人の使徒の名前は、ヨハネ、トマス、アンデレ、小ヤコブ、大ヤコブ、ペトロ、バルトロマイ、フィリポ、シモン、タダイのユダ、イスカリオテのユダ、マタイといいます。
最後の晩餐には、この12人の使徒が描かれています。聖書でイエスは、神のお告げより裏切り者がいると預言しましたが、その裏切り者が誰なのか、ユダなどとはっきり名前は指していません。
聖書の最後の晩餐を題材とした絵画はいくつかあり、ほとんどの絵画がユダが裏切り者であるということを意味し、示すように描かれています。しかし、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」では、ユダは他の使徒と同じように横並びに描かれています。
ユダの裏切りとは?
聖書での最後の晩餐で預言されていた、ユダの裏切りとは何なのでしょうか。最後の晩餐とは、その文字通り主であるイエス・キリストの最後の晩餐であることを示しています。
では、なぜそこが最後の晩餐となってしまったのか、その理由はユダの裏切りにあります。ユダは最後の晩餐の前に、イエスを裏切る準備を進めていました。
イエスを嫌悪していた司祭長たちに、銀貨30枚と引き換えにユダはイエスの居所を教えたのです。このユダの裏切りがきっかけで、この預言をした時がイエス・キリストの最後の晩餐となってしまいました。
キリストと裏切り者ユダの関係
裏切り者のユダとは、最後の晩餐に出てくるイスカリオテのユダのことを指します。裏切り者の代名詞とまで、ユダはいわれているほどです。ユダは、イエス・キリストに数多い弟子の中から、12人の使徒に選ばれた優秀な弟子の中の一人です。
ユダとイエス・キリストとの関係についてですが、聖書ではユダのことについてあまり触れておらず、ユダとはそれほど深い関係ではなかったのではないかといわれています。
最後の晩餐でも聖書では、イエスの愛していた者が隣に座っていたと書かれており、ほとんどの絵画にはユダはイエスから離れて描かれています。聖書でもユダは裏切り者だということを集中的に書かれており、それまでのユダについて、聖書での重要な人物として捉えられているのに対して少ないです。
なぜ裏切り者と知りながら弟子に?
なぜイエスはユダを裏切り者と知りながらも、弟子にしたのでしょうか。聖書にはイエスは最後の晩餐で、この12人の使徒の中に裏切り者がいると言っていますが、神からの声を聞くことができるイエスは、裏切り者はユダだともっと早く知っていたはずなのになぜなのでしょうか。
神はすべてを知っている存在です。神からのお告げを聞いているイエスも、これから起こるすべてを、ユダに裏切られることを知っています。聖書でも、イエスは12人の中で裏切ろうとしているものが一人いると預言しています。
そのような未来が見えながらも、なぜキリストはユダを弟子にしたのか、その理由として神からの声が聞こえるものとしての運命を、ユダに裏切られる宿命をイエスは背負ったのではないかということが考えられています。
最後の晩餐は新約聖書の福音書の全てに登場
新約聖書の福音書のすべてに、最後の晩餐は書かれています。新約聖書とは、キリスト教徒によって記されたキリストの正典であり、27の文書からなっています。では、福音書とはなんでしょうか。
福音とは文字通り、良い知らせが来た、ということを意味します。そして福音書とは、基本的にイエス・キリストの教訓や終生を記した新約聖書の中に取り入れられている4つの福音書のことを意味します。
しかし、福音書は新約聖書におさめられている4つの福音書の他にも、正典としてはおさめられませんでしたが、いくつかの福音書が出されています。新約聖書におさめられている4つの福音書についてですが、この4つの福音書というのは、ルカ、ヨハネ、マタイ、マルコによる福音書のことです。
4つの福音書の全てに描かれている
最後の晩餐は、4つの福音書すべてに描かれています。この4つの福音書は、マルコ、マタイ、ルカ、ヨハネの順に成立していき、4世紀に正典として認められました。そして、聖書に記載されている順番としては、マタイから始まり、マルコ、ルカ、ヨハネの順になっています。
またヨハネの福音書以外の、ルカ・マルコ・マタイの福音書は共観福音書と呼ばれ、分類されています。この3つは記されている出来事、言行などの表現が似ていたり、共通するものが多いといわれています。
それに対して、ヨハネの福音書ではイエスが神の子であることを重点的に説明しており、神学的で、他とは異なる独特な記述がされています。記述された文章で多少の違いはありますが、この4つの福音書で最後の晩餐について記されています。
ヨハネによる福音書での最後の晩餐についての記述では、イエスが裏切りを予言し、ヨハネに裏切り者は誰なのか聞くように、ペテロは頼みます。そしてヨハネに尋ねられたイエスは答えます。
「私がパンの一切れを浸して与える者です」と言い、ユダにパンを与えた、と記されています。異なってマタイによる福音書では、イエスが食事を共にしている者のうち、一人が裏切るといいました。
12人の使徒たちは心配になり、それは私のことではないでしょうか、と尋ねていきました。そしてイスカリオテのユダが尋ねると、イエスは「そうだ」と答えたと記述されています。記し方は違えども、裏切り者がいるということを預言し、その人物がユダであることがどちらの福音書でも分かります。
最後の晩餐に隠された5つの謎
最後の晩餐に隠された意味や謎についてですが、ささやかれている説は多くあります。最後の晩餐では、イエス・キリストを中心として食事を囲んでいますが、よく見ると12人の使徒たちは3人ずつにまとまっているように見えます。
イエスの隣にいる中性的な人物がヨハネ、片手にナイフを持っているのがペトロ、小袋を右手に握っているのがイスカリオテのユダと考えられます。イスカリオテのユダが裏切り者とされているユダです。
そして一番左端で立ち上がろうとしている人物がバルトロマイ、その隣に小ヤコブ、驚いた様子で描かれているのがアンデレとされてます。また一番右端からシモン、タダイのユダ、マタイと並んで、次にフィリポ、大ヤコブ、人差し指を上に向けている人物がトマスだと、推測されています。
しかし、この席順についても様々な憶測があり、人物たちの席順が変わることで考えられる意味や謎が違ってきます。今回はその中でもよく議論される5つの謎について、ご紹介していきます。
謎①キリストの横の席の人物
キリストの横の席に座る人物についてですが、ヨハネであるという考えが一般的です。聖書によると、イエスの隣にはイエスの愛しておられた弟子が座ったと書かれています。
そして、最後の晩餐を題材として描いたほとんどの絵画には、キリストの隣に座る人物はイエスに寄りかかるように描かれています。それは聖書で隣に座る者がキリストに寄りかかり、裏切り者は誰かと問うた、と記されているため、そのような構図となることが多かったのです。
レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐では、キリストの隣に座る人物は女性といっても過言ではないほどに中性的に書かれており、キリストと距離があるように座っています。
この最後の晩餐のキリストの隣の人物は、随分と女性的に見えます。そこで、この隣に座る人物は聖書にも出てくる、マグダラのマリアではないかとも考えられるようになりました。
謎②ヨハネと思われていた人物
一つ目の謎でも説明いたしましたが、最後の晩餐でヨハネと思われていた人物はキリストの隣に座る者だという説が、一般的とされています。ヨハネは、他の絵画でも中性的な姿で描かれています。
そこでヨハネは女性なのではないかとの予測も出てきましたが、聖書には髭を生やしていない年若い男性と記されているので、あくまでもヨハネは中性的な男性です。聖書によると、ヨハネは12人の使徒の中の最年少で、キリストに愛された弟子といわれています。
キリストの隣に座る人物はキリストに寄りかかるように描かれているものがほとんどですが、この最後の晩餐ではペトロに裏切り者は誰か、と尋ねられている様子を描かれているのではないかと考えられます。
謎③聖杯
最後の晩餐において、聖杯は重要とされています。ですが、レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐では、聖杯は描かれていないとされ、謎といわれています。
なぜ聖杯が重要とされているのかというと、聖書では最後の晩餐にて、まずキリストが「これはわたしの体である」とパンを12人の使徒たちに食べさせます。そして次に、キリストは「これはわたしの血である」と言って、使徒たちに杯に入れたぶどう酒を飲むように言いました。
このぶどう酒を入れたものが聖杯とされています。また十字架に張りつけられた時の、キリストの体から流れた血を受けいれた杯を聖杯とされています。
謎④ユダについて
最後の晩餐でユダとされている人物は、他の人物たちは表情が見えるのに対して、顔が横向きになって、表情がはっきりと分からないよう描かれています。そして右手には小袋が握られており、これはキリストの居所を教える代償として、後に受け取った銀貨のことを意味していると考えられています。
また、ユダは会計係を任されていたとありますので、そのことを意味してるともいわれています。通常、ユダは最後の晩餐において裏切り者であるということが強調されるよう、他の人物たちとは反対側に描かれていたり、キリストとは離れた場所に描かれています。
しかし、レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐では、ユダはキリストと近い席に座っており、他の使徒たちと同じ列に並んでいます。これは裏切ろうとする者は、使徒の中で本当にユダ一人だけであったのか問いかけているのかもしれません。
謎⑤イスカテリオのユダ
使徒のほとんどが田舎の出身者、ガリラヤの地方出身でありましたが、ユダはイスカリオテの父シモンの子といわれており、ユダは珍しい都会出身者でありました。
イエスに12人の使徒の中からでも、ユダは会計係に選ばれるほどでしたので、相当に優秀だったのでないかといわれています。しかし、ユダはそれを利用してお金を盗んでいたりと、たびたび不正を働いていました。
このユダの不正に他の弟子が気付いたのは、ユダが亡くなった後でした。そして、ユダはキリストを裏切って売り渡した後、罪の意識に駆られ、首をつって自ら命を絶ってしまいます。
またユダはキリスト売り渡した代償として受け取っていた銀貨を、司祭長たちに返そうとしましたが、受け取ってもらえなかったので銀貨を神殿へ投げ捨てたそうです。
最後の晩餐の絵を見学するには?
では、最後の晩餐はどこに行けば見られるのでしょうか。最後の晩餐は、イタリア・ミラノにある「サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会」で見られます。
この教会は世界遺産にも登録されております。この最後の晩餐は、この教会の食堂にある壁画に描かれています。
美術館や博物館などとは違い、完全予約制ですので、最後の晩餐を見学するには事前予約が必要です。1回の見学に人数や、時間が限られておりますので、数か月前など早く予約を取っておく方が良いです。
見学するには事前予約が必要
最後の晩餐の見学する際には、事前に予約を忘れずにしておきましょう。最後の晩餐は、1回の見学時間15分、人数は30名と決められています。ですので、当日に見学しようとしても事前に予約をしていないと見ることはできません。
一か月前でも予約がいっぱいになっていることはあるので、早めに予約しておきましょう。イタリアへ行った際に、ぜひ見ておきたいものとして最後の晩餐は外せません。縦4.2メートル、横9.1メートルという巨大な壁画「最後の晩餐」には、誰もが圧倒されることでしょう。
最後の晩餐に隠された謎は知るほど面白い!
最後の晩餐の意味や隠された謎について、ご紹介してきました。最後の晩餐で特に謎とされているキリストの隣に座る人物、裏切り者ユダについて詳しくご紹介しました。
しかし、ここに記されているのはあくまでも一説で、一片であり、この最後の晩餐にはまだまだ隠された謎や、この絵画に込められた意味が多くあるはずです。これからも研究が進み、また新たな解釈の仕方も生まれてくるでしょう。
この記事を見て最後の晩餐について、また新たな見方ができたなら幸いです。最後の晩餐には解き明かされていない謎がたくさんありますので、キリストやユダについてのことなど自分なりの解釈を楽しんでみてはいかがでしょうか。
そのように重要だと考えられている聖杯を、なぜこの最後の晩餐には描かれていないのか、それに対してさまざまな解釈が出てきました。
そこで、次のような解釈も出てきました。キリストと右隣に座る使徒との間に、他の人物同士の間には無い空間ができています。このキリストと右隣の使徒との間にある、このV字型と捉えられる空間を、聖杯とみなしているのではないかという考えが出てきました。