「大事をとる」の意味
「大事をとる」や「大事をとって」という言葉は、常日頃からよく使ったり、耳にする言葉です。だいたいの意味は理解して使っている人も多いでしょう。
よく使われる「大事をとる」は、熟語の「大事」「とる」の二つの言葉でできている慣用句です。大事の意味は「重大な事柄」「重要で欠くことのできない事柄」「非常に心配な事態」などの意味があります。「と(取)る」は「手にする」「色々な方法で自分のものにする」という意味があります。
軽々しく物事をしない
「大事をとる」の一つの意味として「軽々しく物事をしない」という意味があります。「軽々しく」とは「軽々しい」という形容詞と「物事をしない」が合わさってできています。
「軽々しい」は「考えが浅く、言動が軽はずみである」「軽率である」「ひどく軽い感じである」という意味です。それに「物事をしない」を付けることによって、否定した意味の文になりますから、意味をまとめると「軽はずみな言動や行動はしない」「軽率なことはしない」という意味になります。
無理をしないで用心し自重する
「大事をとる」の意味として、一番多く使われるのが「無理をしないで用心をする、自重する」でしょう。「無理」の意味は「道理に反すること」「困難なことを承知で強引に行うこと」です。
「無理」という熟語に「しない」という否定の助動詞をつけることによって「道理に反することはやらない」「困難なことを強引に行わない」となり「大事をとる」と同じ意味になります。
「用心し自重する」の意味は「用心」と「自重」の二つの言葉に分けられます。「用心」は「万が一に備えて注意すること、気をつけること」です。
「自重」の意味は「軽率な行動を慎むこと」「自尊心」と書かれています。いわゆる「自分の心身を大切にすること」です。
「大事をとる」の意味で、最も多く使われる「無理しないで用心し自重する」の意味をまとめると「何か行動を起こす前に、自分のことを尊重し決して無理はしないこと」となります。
「大事をとる」の語源
「大事をとる」の語源はまず「大事」という言葉の語源を考える必要があります。「大事」の語源はもともと「重大な事柄」や「重大な事件」という意味で用いられていました。
「大事をとる」の「大事」はいつの時代から使われているかというと、飛鳥時代(593~710年)にまで遡ります。聖徳太子(厩戸皇子ーうまやどのみこー)の時代の憲法十七条で用いられており、憲法で用いられていた語源の意味から、しだいに「軽んじられないもの」や「かけがえのないもの」という意味で使われるように語源の意味が少しずつ変化しました。
「と(取)る」の語源はまず、漢字の「取」の文字が語源の由来になっています。左側の「耳」へんは、文字通り人の耳の形からできた漢字です。右の「又」の語源も、右手の象形からできたと考えられています。
戦国時代、敵の左耳を右手で切り取り、首の代わりに集めたことがこの漢字の語源といわれています。そして、意味として敵を「とる、とらえる」から「取る」という意味になったようです。
「大事」と「取る」を合わせると「大事を取る」になります。意味を合わせると「かけがえのないもの(こと)を手に入れる」という意味となります。
重大な事件などのニュアンスを含む
「大事をとる」の「大事」は「だいじ」とも読みますが、訓読みで「おおごと」とも読みます。「おおごと」の意味はもちろん「大変な出来事」や「重大な事件」という意味です。
「一大事(いちだいじ)」という表現があります。これは「大事(おおごと)」の類義語で「容易でない事態」「放置できない重大な出来事」「深刻な問題」などの意味でよく使われます。
「大事」は「価値のある物(事)として大切に扱うさま」の意味で使われるだけでなく「重要な事柄・重大な事件」という意味のニュアンスで使われることも多いです。
「大切」と「大事」の違いとは
「大事をとる」の意味や「大事」についての意味をみてきました。「大事」と「大切」の二つの熟語は非常に密接な関係があります。
「大事」と「大切」はご存知の通り、類義語になります。普段この二つの熟語の使い方では「そこが大事です。」「そこが大切です。」とどちらもよく使います。
「大切」とは
「大切」とは、もともと「大いに切なるもの(こと)」という意味で使われていました。「切(せつ)」は「切に」や「切迫」などで用いられます。もっとわかりやい意味にすると「差し迫っていること」「緊急を要すること」という意味です。今昔物語でも用いられていました。
「差し迫っていること」という意味が徐々に「その物事を重視する」というような意味を経て現在の意味に定着したのではないかと考えられています。
「大切」と「大事」の違い
「大事」とはもともと「大切」という言葉が語源であり「大切な(緊急を要する)事柄」から「大事」という言葉ができたと言われています。
「大事」と「大切」の使い方でも、意味の違いはなく、どちらにも置き換えることができます。例えば「水を大事(大切)に使う」「友情を大事(大切)にする」など、どちらに置き換えても同じ意味として用いることができます。「大事」の方が「大切」よりもややくだけた言い方になります。
「大事をとる」と「大事に至る」という使い方の場合は「大切」に置き換えると「大切をとる」「大切に至る」となってしまうため置き換えることはできません。それ以外の文法に関しては二つを置き換えても問題はないといえます。
「大事をとる」の類義語
「大事をとる」は「軽々しく物事をしない」「無理をしないで用心し自重する」という意味でした。また辞書では「ものごとの価値を重要視する」「大事に考える」とも記されています。
ここでは「大事をとる」の意味でも、前者の「軽々しく物事をしない」「無理をしないで用心し自重する」の意味である「大事をとる」の類義語についてをみていきましょう。
念のため
「大事をとる」の類義語として「念のため」があげられます。「念」の漢字だけの意味で考えると「思い・気持ち・心配り・注意」または「かねてからの望み・念願」です。
「念」とは、心の働きや自分の思い、意思が関わっている言葉になります。「念のため」の意味は「いっそうの注意をするため」「一応」「確認のため」という意味になります。「無理をしないで用心をする」という意味で「大事をとる」の類義語になります。
万が一に備えて
「万が一に備えて(る)」も「大事をとる」「念のため」の類義語になります。意味は「不測の事態に備えて準備しておくこと」と記されています。
「万が一に備えて」は「大事をとる」や「念のため」よりもさらに「念には念を入れて注意をする、備える」といった強い思いを表現しています。
「大事をとる」の使い方と例文
「大事をとる」の類義語として「念のため」「万が一に備える」がありました。それでは実際に「大事をとる」を日常で使うときに、どのような使い方をするのか、またどのような時どのような場面やシチュエーションで使うのが良い使い方なのか、それぞれ場面を想定しての使い方と例文を紹介していきます。
自分の行為に対して使用可能
「大事をとる」の意味には「無理をしないで用心し自重する」という意味がありました。「自重する」の意味は、「自分自身の行動を慎むこと、自分自身の体などを大事にすること」です。
「大事をとる」には「これから自分の考えや行動によって起こり得る物事の結果に対して、慎重にかつ、注意や警戒をして悪い結果にならないように回避する」という意味合いも含まれます。では例文をみていきましょう。
交代する
まず「大事をとる」の使い方の例文として、交代する場合に使われることがあります。例えば、スポーツ選手が試合中相手チームの選手とぶつかって、怪我をしている可能性があるときに、コーチや監督は、もしも怪我をした選手が試合に出続けた結果、怪我の状態が悪化する可能性を考えた場合「大事をとって交代させます。」という表現を使います。
お休みする
体調が悪くなり仕事を急に休むときに「大事をとる」「大事をとって」は、日常で最もよく話される使い方でしょう。「大事をとる」の「無理をしないで用心し自重する」自分の行為に対して活用する使い方です。
職場の上司に休むことを伝える場面での使い方です。例文としては「体調が悪いので、今日は大事をとって、仕事を休ませていただきます。」となります。
この例文には「大事をとって(大事をとる)」の中に「体調が悪い原因はまだはっきりしないが、職場の皆さんに自分の病気を移してしまうかもしれないから、念のため休みをとる」という意味が含まれている文の使い方になります。
仕事などを休むときの例文で「大事をとる(とって)」を使うときに注意をしなければならないことが、頻繁に「大事をとって休みます」を使うと、仮病扱いされてしまうことがありますので「大事をとる(とって)」を使いすぎないようにしましょう。
延期する
「大事をとる」のもう一つの使い方として、延期や中止をするときに大事をとるという表現を用いることがあります。
例文として「本日は強風のため、大事をとって花火大会を延期いたします。」や「台風が近づいているためJR東日本全線は大事をとって、始発から運休します。」などの使い方をします。
イベントやコンサートなどが予定されていて、何らかの理由で客に対して危険が及ぶ可能性がある場合などには、危険を回避するために「大事をとる」という意味で使われます。
歌手のコンサートやライブなどの場合には、出演者が体調を崩したときにも「大事をとる」が使われます。例文は「体調不良のため、大事をとってライブを延期させていただきます。」などの使い方になります。この例文での使い方は、スポーツ選手の場合と同様で、出演者自身の「大事をとる」ことを優先して延期しています。
相手に対して「大事をとって」と伝える
「大事をとる」は「無理をしないで用心し自重する」という意味で、自分の行為に対して使用する使い方と例文を見てきましたが、ここでは反対に、相手のことを思い、いたわるときに用いる使い方です。
例文としては、体調が悪くて仕事を休むという連絡が電話やメールなどであった場合に「大事をとってください。」と相手に対して使用する使い方です。
病院にかかったときに必ず「お大事に」「お大事にしてください」と声をかけられるはずです。これも「大事をとる」の「大事に考える」の類義語としてよく使われる表現の一つです。
「大事をとる」の英語表現
「大事をとる」の日本語での使い方や例文をみてきましたが、ここでは英語での表現や英語での例文、英語での使い方、また英語での類義語についても紹介していきます。
「大事をとる」を割となじみのある一般的な英語で表現すると「take care」という英語表現ができます。意味は「大事にする」「大切にする」です。英語の例文は「Take good care of the things about you.」です。意味は「ものを大切にせよ」という意味になります。
「お大事にして下さい。」という英語での表現も「take care」を使うことができます。英語の例文は「please take care of yourself.」となります。
「be on the safe side」も英語での「大事をとる」の意味で、直訳的には「安全な側にいることにして」となります。例文は「It is best to be on the safe side.」です。意味は「大事をとるに越したことはない」となります。
また英語の類義語では「just in case」があります。「念のため、万が一に備えて」という意味です。英語の例文は「I have money, just in case.」で「私は万が一に備えてお金を持っている」という意味になります。
大事を取ってに近い表現
「大事をとって」に一番近い英語表現としては「to take care of ones health」と「for ones health」の二つでしょう。英語では「大事をとって」を直訳する表現はないようです。
例文は「I am taking time of myself.」「 I having a rest for my health.」です。どちらの意味も「大事をとって休みます。」になります。(rest; take time offの意味:休みます)
「大事をとる」は無理をせず用心すること
「大事をとる」は、初めにも述べたように意味は「無理をせず用心すること」です。「大事をとる」は心に関する慣用句になります。改めて「大事をとる」の意味や使い方、英語での表現も紹介してきました。
人生の中でも「大事をとる」こと、リスクマネジメントすることは大事です。物事を軽々しく考えずに慎重に用心して行動することが大切です。自分自身も相手のことも大事に考え「大事をとって」いきましょう。