体現の意味とは?
「体現」は「たいげん」と読みます。「体」と「現」という漢字の組合せなので、何となく意味はイメージできるけれど、正しい意味を知らない方が多いのではないでしょうか。
「体現」の意味があやふやなイメージのまま使ってしまうと、誤解を受けてしまうかも知れません。これから紹介する記事を参考にして、正しい意味と正しい使い方を知ることで、ボキャブラリーを増やしビジネスシーンなどに活かすことをおすすめします。
「精神的なものを具体的に表現する」という意味
思考や思想、理念や理想など、心の中にある考えや心情は目に見えません。「体現(たいげん)」とは、これらの目に見えない精神的なものを具体的な形に表現するという意味です。
では具体的な形で表現するとはどういうことでしょう。具体的な形に表す「体現」には「物や形で体現する」と「行動や生きざまで体現する」の2つのパターンがあります。
前者の「物や形で体現する」とは、画家が心の中のイメージを実際に絵の具でキャンバスに描いて絵画に仕上げることです。また文筆家が頭の中にある構想や思いを、実際の文章にして小説などに書き上げることです。
後者の「行動で体現する」とは、思想家が自分の考えていることを、講演などで実際に言葉で表す行動やさまのことです。また宗教家が悟りの教えを説くために、一生を布教活動に捧げる行動や生きざまのことです。
このように「体現」には「目に見えない精神的なものを物や形で具体的に表す」「目に見えない精神的なものを行動や生きざまで具体的に示す」という意味があります。
実社会やビジネスに置換えて見ましょう、会社のプレゼンで頭の中で考え構成したことをパワーポイントなどで視覚化することや、感謝の気持ちをプレゼントを贈ることで表すなども「体現」と言えます。
大きな災害が起きた時に、何か自分に出来ることはないかとボランティア活動や募金活動をするのも心の中の感情や気持ちを「体現」したと言えます。このように「体現」には、心の中の感情や気持ちを実際の行動に移して表現するという意味があります。
体現の類語
「類語」とは「類義語」「同義語」とも言い、同じような意味や使い方をする言葉のことです。反対の意味を持つ言葉を「対義語」「反対語」と呼びます。
類語と対義語の2種類の言葉は常に対をなし、対比することで意味の解釈を深める重要な役割を持っています。しかし「体現」は「精神的なものを物や形で具体的に表す」という意味なので反対の意味を持つ「対義語」が存在しません。
しいて言えば「うやむやにする」「具体的にしない」「体現しない」と「体現」を否定する以外に表現する方法がありません。
そのような理由で今回は「体現」の類語を中心に進めます。体現の類語には「具体」「具現」「実現」「具体化」「変化」などがあります。「具体」という類語に関しては後の章で詳しく解説するので、ここでは、その他の主な類語の意味や使い方を紹介します。
「具体」の意味
「具体」とは、「人間の感覚でとらえられるもの」または「感覚でとらえられる形や内容を備えている」という意味です。
「具体」は通常「具体化する」「具体的にする」のような使い方で「感覚でとらえられる形や内容にする」という意味合いがあるので「体現」の類語になります。
ただ「具体」の場合は具体的にする対象が精神的なものに限らないところが微妙に違います。たとえば「部品を組み立てて具体的な製品にする」「具体的な数字を示さないと、目標が立てられない」のように、部品や数字という物理的なものも対象になります。
つまり「体現」は、心や頭の中にある目に見えない精神的なものを目に見える形に表現することで、類語の「具体」の場合は、もっと現実的な事柄を対象にしてハッキリさせるという点が微妙に違っています。
「実現」の意味
「実現」という類語は「長年抱いていた夢をやっと実現することが出来た」または「今回のプロジェクトでやっと考えていた構想が実現できた」のような使い方をするので、精神的なものを具体化したという意味で「体現」に非常に近い類語です。
しかしこの例文の中の「実現」のところに「体現」を入れ換えてみると、微妙にニュアンスが違って感じられるのは何故でしょうか。
それは「実現」の場合は現実的な夢や計画などの事柄に限って使う場合が多いからです。「体現」には「思想」「信念」などのような心理を具体化するという一面があるからです。
もう一つの理由は時間の観念が「体現」とは微妙に違います。「実現」は具体化できたその時点(瞬間)の感情の状態を表現しています。一方「体現」の場合は「生きざま」「一生をかけて」など長い時間に渡る心理をも表現しているからです。
「変化」の意味
「変化」とは「ある状態や性質が他の状態や性質に変る」という意味です。体現は「目に見えないものを具体的なものに変化させる」という意味合いで「変化」が類語になっています。
しかし「変化」の場合は「季節により気温は変化します」「流行の変化について行くのは大変です」などの使い方をします。そのため「変化」という言葉は、使い方や使う場面によって「体現」とは少しかけ離れた意味でも使われます。
つまり類語の「変化」の場合は、心理的・精神的な事柄を違う形に具体化するというよりも、例文のように「季節」や「流行」などの事象を対象にする場合が多いことが「体現」とは多少違います。
このように類語には「体現」と非常に近い意味もあれば、使い方によっては違う面もあります。言い換えれば、類語の意味や使い方を検証して比較することで「体現」の本来の意味や使い方がより深く理解できるのではないでしょうか。
体現の使い方・例文
ここまで「体現」の意味や類語との微妙な違いなどを説明してきました。では実際にはどのような使い方をすれば良いのでしょう。意味が理解できても、使い方が分からなければ実践では役に立ちません。
使い方を習得するには色々な例文を参照するのが早道です。「体現」の例文にも様々な仕分けパターンがあります。今回は「体現」を使った例文を、表現したい心理の種類別に紹介してみましょう。
例文①「理想」
理想を表現する例文を紹介します。「アスリートの彼女は、今回のレースで長年追い求めてきた理想のフォームを見事に体現して優勝した」「心に描く理想を体現しようとする気持ちが、ビジネスでもクリエイティブな活動でも成功に近づく重要なポイントです」
「ピカソの作品は、理想の絵画スタイルを体現しようともがき続けて、最終的に抽象画という形にたどり着いたもの」のような例文になります。
つまり「理想を体現する」とは、心に描く最高のものを実現させようと努力する行動のことです。ビジネス界やスポーツ界、芸術の世界、クリエイティブな活動や物事に立ち向かう重要な原動力になる心理です。
例文②「希望」
「希望」は理想とよく似ていますが、「あこがれ」や「そうなりたい」「夢をかなえたい」という気持ちを多く含んでいるところに「理想」と微妙な違いがあります。
希望という心理の場合の例文を紹介します。「会社上層部のたっての希望に添って体現したのが今回のプロジェクトです」「○○大学理工学部に入学したいという希望を体現するために、今は苦手な数学を必死で勉強しています」
「アーティストになりたいという夢の実現のために、ダンスで体現しようとレッスンに励んでいます」「アスリートが夢を体現するためには、練習に練習を重ねて自信を付けることが大切です」
「ゴッホのひまわりの絵は、沈んだ気持ちに光を当てたいという希望を体現した作品のように思える」など、これら例文ように「希望」という憧れや望みの実現に向かう心理を表現する言い回しで「体現」を使います。
例文③「信念」
「信念」とは「物事を強く信じる」「強い意志や思い」「信じて疑わない」などの心理のことで、生き方や社会などについて揺るがない堅い意志を持っている状態のことです。
「信念」を体現する場合の例文表現には「彼女は常に正直であるという強い信念を持っていて、ビジネスでもその信念をいつも体現しているので信頼できる人と言えます」
また「彼は心に信念を持っているため、行動は常に自信に満ちた体現です」「彼女の誰にでも優しく接する態度は、信仰に対する強い信念の体現によるものです」などがあります。
「信念」を用いた例文では、信念にもとづいた行動をとる人物を表現する場合によく使われます。つまり「信念を体現する」とは、心に抱いている強い意志や、揺るぎのない思いを具体的な行動で示すことです。
例文④「生きざま」
「生きざま」とは、これまでに紹介した「理想」「希望」「信念」などを人生を通して体現するさまのことです。
「生きざま」を使った例文は「彼女がオリンピックで金メダルを取れたのは、常に希望と理想を諦めず練習を重ねるという生きざまがあるからこそ輝かしい結果を体現できたのです」
また「ダライラマの生きざまは、すべて信仰という強い信念に培われて体現されたものです。そのために多くの人から慕われているのです」のような例文になります。
「人生を通して信念をつらぬき通す生きざまは、なかなか体現できるものではありません。しかしいつもポジティブに考え、理想や希望を持ち続けることは出来るかも知れません」のようにも使います。
つまり「生きざま」は、理想や希望をつらぬき通す表現に多く使い、特に信念を体現する場合に最も適した言葉と言えるのではないでしょうか。
体現と具現の違い
体現の類語に「具現(ぐげん)」という言葉がありますが、どちらも同じような意味を持っていて、漢字を見ても「体で表現する(体現)」「具体的に表現する(具現)」とあまり意味の違いは無いように見えます。
このように非常に近い意味を持っているので、違いがどこにあるのか見つけ難い言葉です。そこでここでは「具現」の意味を詳しく調べることで、「体現」との違いを探してみましょう。
具現は「具体的な形に現わす」という意味
「体現」は「目に見えない精神的なものを具体的に表現する」という意味ですが、一方の「具現」の意味を辞書で引いてみると「実際に具体的な形に現わすこと」または「具体的に現わされたもの」と出てきて、やはりほとんど意味に違いは無いようです。
今度は「具現」の使い方を調べてみると「理想を具現する」「自分のアイデアを具現化する」のように使い方にもほとんど違いはありません。しかしどことなく何かが違う気がするのは何故でしょうか。
もう少し例文を掘り下げて検証してみると、「具体」の場合は形に現わす精神的な対象が「アイデア」とか「目標」のように現実的なものが多いようで、どちらかというと「実現」に近い意味に解釈できます。
「体現」と「具現」には意味や定義に定かな違いはありません。しかし「具現」の漢字「具」は「道具」「具材」「味噌汁の具」のような熟語に使われることから、「具現」はどことなく形あるもののイメージが強い言葉です。
言い換えれば「具現」という言葉が持つイメージやニュアンスが、体現より現実的な「実現」に意味が近いところに微妙な違いがあるのかも知れません。
体現を使う際の注意点
「体現」の意味や使い方、例文などを紹介してきました。それでは「体現」という言葉を使う際にはどのような点に注意すれば良いのでしょうか。
その前に、もう一度意味をおさらいしてみましょう。「体現する」とは「思考・思想・理念・理想などの目に見えない精神的なものを、具体的な形を持つもので表現する」または「目に見えない精神的なものを具体的な行動で示す」「生きざまとして表すこと」です。
つまり使う際には「形に表す」「行動で示す」「生きざまに表す」のように使う場面に注意を払うことが必要です。また精神的な内容の性質によって使い方を変えることも必要です。
たとえば「彼は希望や憧れを体現することを生きざまにしています」のような使い方をすると、少し違和感が出て意味の違いも起きてしまいます。
この場合は「彼は信念や理念にもとづく行動を体現することを生きざまにしています」の方がしっくりきます。このように体現する対象となる精神的なものや、形に表すものや行動によって、使い方を変える注意が必要です。
「形があるもの」では使えない
「体現」は目に見えない精神的なものを形に表すことなので、元々形があるものには使えません。たとえば「パソコンでローマ字入力した文字を漢字で体現します」「リンゴをミキサーにかけてジュースを体現します」とは言いません。
また「秋も深まり冷たい風が冬の到来を体現します」「台風が近づいてきて嵐の予感を体現します」のようにも使えません。
リンゴのように形があるものや、目に見えなくても季節や台風などの状況を表す物理的なものには使うことができません。
つまり「体現」という言葉は目に見える見えないに関わらず物理的な対象に使えば違和感が出てしまいます。内面的な精神的なものにだけ使うことができる表現です。
体現の仕方で悩む場合
「体現」とは、心や頭の中にある思考や理想、理念や信念などの精神的な観念を、現実のそれが形や行動に表すことです。実社会のビジネスや人生でそれが実践できれば、こんな素晴らしいことはありません。
しかし体現の仕方がなかなか見つからないから悩むのです。あきらめてしまえばそこで終わりです。また信念や理想を人生に体現できる人はそう簡単には見つかりません。
そこでちょっと考え方を変えてみましょう。「信念や理念を体現できる人なんてそうざらにいない」「自分にできないのは、当然あたり前のこと」とポジティブに前向きに考えればプレッシャーがなくなり、悩みも軽くなるのではないでしょうか。
体現の英語表記
「体現」という日本語の意味をを英語ではどのように表現するのでしょう。はっきり言って日本語の「目に見えない精神的なものを具体的な形にする」という意味を一口に表現する英単語はありません。
英語では「shape(シェイプ/形にする)」「embody(インボディ/具体化する)」などの単語を使い、その前後の言い回しや文節により「体現する」という意味を表現します。使われる単語ごとに分けて「体現する」の英語例文を紹介します。
「shape」を使った英語表記
名詞としての「shape」には「形、形状、格好、姿、様子」などの意味があります。動詞としては「形を作る」「形にする」などの意味がありますが、この単語だけでは「体現する」は表現しきれていません。
「Put plan into concrete shape.(計画を具体化する)」「The idea was brought into shape.(その案は具体化された)」などのような言い回しをすることで「具体化する」という意味を表現します。
しかし「shape」を使った場合は、精神的なものを具体化するというイメージより、もっと現実的なプランやアイデアを対象にして使われることが多いので、「体現する」というより「実現する」という意味合いが強いようです。
「embody」を使った英語表記
「embody」は「具体化する」という意味の動詞で、「shape」より体現に近い単語です。「He wants to embody his ideal.(彼は自分の理想を具体化したいと願っている)」のように使います。
また質問の形では「How did you embody your idea?(どのようにしてあなたの考えを具体化したのですか?)」と表現します。
「It is hard to embody one's idea in an action.(アイデアや理想を行動に具現化するのはなかなか難しい)」という言い回しでは、日本語の「体現」にかなり近い表現をすることができます。
英語と日本語の表現の違い
日本語では「体現する」とひとこと言えば「目に見えない精神的なものを具現化する」というイメージがある程度伝わります。
しかし英語では文章や単語・文節の流れや言い回しをしないと「体現する」の意味を表現できません。この表現の違いは一体どこに起因するのでしょうか。
その理由を一口でいうならば英語は、アルファベットABC自体には意味を持たない、わずか26文字からなる言語だからです。
それに比べ日本語は漢字、平仮名、カタカナを合わせると数千にものぼる文字で構成されています。まずこの文字数の圧倒的な差が表現方法に大きく影響しています。
その上漢字のほとんどは象形文字に由来しているので、一文字一文字が意味を持っていてビジュアル的に見ただけでイメージが伝わる長所を持っています。
ところが英語のアルファベットには文字そのものに意味がありません。ですから英語の場合は一つの意味を表現するにも色々な単語や文節の組合せで表現しなければならないのです。
「体現」の目に見えない精神的な部分を表現する際、たとえば日本語で「理想」というだけで具体化する対象がイメージできます。
しかし英語では「 to embody one's idea in an action」のように、誰の「idea」なのか、何のためにどのように「to embody」「in an action」とすべてを説明しないと表現が成り立たちません。
日本語はビジュアル的に意味を伝える言語、英語は文章の流れや言い回しで意味を伝える言語です。この表現方法の違いが「体現」の意味を一口に表現する英単語が無いといった最大の理由でもあり、日本語と英語の決定的に違う点です。
これから英語を学びたいと思う人は、これまでの「体現」の表現方法の違いを参考にすることをおすすめします。日本語ではひとことで言えることでも、英語ではその言葉を直訳しただけでは表現できません。
「Who(誰が)When(いつ)Where(どこで)What(何を)Why(なぜ)How(どのように)」の5W1Hをもとに言い回し文章の構成をしないと正しく伝わらないことがあることに注意しましょう。
体現は「精神的なものを具体的に表現する」という意味
「体現」の意味や類語、使い方や使う際の注意点、英語表現など例文を交えて紹介してきました。また希望や理想を体現できないと悩んだ時の対処法は「自分だけじゃないと、前向きに考えること」も紹介しました。
人の行動はストレスやプレッシャーに弱いものです。体現する原動力も薄れてしまいます。ここまでの記事を参考にして、ポジティブ思考で理想を体現できるようになることを願って今回の締めといたします。