「僭越ながら」の意味
公的な場所やビジネスシーンでは、使われることも多い「僭越ながら」という言葉は、「僭越ですが」や「僭越ではございますが」といった言い回しで使われることもあります。
ただ、使われる頻度は多いものの、「僭越ながら」の意味を正確に理解している方は意外と少ないです。何となく自分をへりくだる意味としてとらえている方も多いのではないでしょうか。
「僭越ながら」という意味をきちんと理解しておかなくては、正しく使用することができません。また、間違った使い方をすると、相手を不快にさせてしまうこともあります。そこでまずは、「僭越ながら」の意味を解説していきます。
意味:出しゃばり
「僭越ながら」は「せんえつながら」と読みます。「僭越」という漢字自体は見慣れないかも知れませんが、スピーチやパーティなど公の場では「僭越ながら」という言葉を耳にしたことがある方も多いでしょう。
「僭越ながら」の「僭越」は、「地位や身分などを気にせず、出すぎたことをする」といった意味があります。簡単に言えば「出しゃばり」という意味です。
しかし、「僭越ながら」というのは相手に対して使う言葉ではなく、「出しゃばりで申し訳ありませんが」といったニュアンスで使います。「自分が言える立場ではないことを承知しておりますが、あえて言わせていただきます」といったニュアンスで使うので覚えておきましょう。
「僭越ながら」の類語や言い換え
「僭越ながら」の意味を一言で言えば、「出しゃばり」になりますが、同じような意味を持つ類語がいくつかあります。類語には似たような意味合いで使われる言葉も多く、同時に間違って使ってしまうこともあるので注意が必要です。
特に、ちょっとしたニュアンスの違いから、シーンによって「僭越ながら」と類語を使い分ける必要があります。類語であっても、「僭越ながら」と言い換えることがが適していないこともあるので注意しましょう。
正しく意味を理解して使い分けることで、語彙力も向上します。「僭越ながら」の類語を例文と共にご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
類語①恐縮ながら
「恐縮ながら」は、目上の人に対して自分の意見を述べたいときに使います。簡単な使い方としては、目上の人や顧客になど、手間がかかることを依頼するときに使うことが多いです。そのため、「恐縮ながら」は、「お手数をおかけして申し訳ありませんが」などといった意味合いになります。
例文としては、「恐縮ながら、12時に当社へお越しいただいてもよろしいでしょうか」といった使い方が一般的になります。「恐縮ながら」は「僭越ながら」と同じように、自分の立場をへりくだった使い方をするので覚えておきましょう。
「恐縮ながら」は、「恐縮ではございますが」や「恐縮ですが」などといった言い回しをすることもあり、多様化することができます。ただ、細かな違いとしては、「僭越ながら」は「出しゃばって申し訳ありませんが」などといったように、自分の行動に対して使います。
しかし、「恐縮ながら」は「迷惑をかけて申し訳ありません」といった相手にしてもらうことに対して、申し訳なく思う気持ちを表しています。「僭越ながら」と言い換える場合は、自分の行動が相手に迷惑をかけてしまうときに使いましょう。
類語②失礼ですが
「失礼ですが」というのは、日常的に使うことも多い言葉です。意味としては、「礼儀がなっていなくて申し訳ありませんが」といったニュアンスがあります。
例文としては、「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」「失礼ですが、もう一度お話をお伺いしてもよろしいでしょうか」など、一般的に耳にする機会も多いでしょう。
「失礼ですが」は、目上の人や顧客になど意見や質問をしたいときになどに多く使われます。礼儀に欠けていたら申し訳ありませんと事前に謝罪することで、後からつづく言葉を和らげる働きがあります。
「失礼ですが」は、失礼なお願いですがなどといった意味を持つ、「不躾ですが」という言葉に言い換えることも可能です。ただ、「失礼ですが」は「僭越ながら」のようにへりくだった使い方をすることができません。
そのため「僭越ながら」の言い換えとして「失礼ですが」は向かないので覚えておいてください。また、言葉としては丁寧さが低い表現になるため、使い方には注意が必要です。
類語③微力ながら
「微力ながら」には、「力にならないかもしれませんが」などといった意味があります。ビジネスシーンでは、上司や他社の人に協力する場合などに使われることが多く、例文としては、「微力ながら、尽力させていただきます」といった形で使うことが多いです。
基本的に、自分の能力を謙遜して相手に伝える使い方をするので、目上の人に対して力になりたいといったときに使われています。同期など同等と思われる人に対しては使いません。「僭越ながら」との違いは、相手に賛同し自分の能力を発揮したいときに使うところにあります。
ただし、「微力ながら」は、場合によっては「頼りない人なのか」と受け取られてしまったり、嫌味にとらえられてしまうなどといったことがあるので、使い方には注意が必要です。そのため、自分の実力を示さなくてはいけない場面では、使用しないようにしましょう。
ビジネスではどれだけ尽力を尽くしても、成果を得られないことがあります。例え成果が出なかったとしても相手に不快な思いをさせなくて済むため、「手伝います」よりも「微力ながら」という言葉を使った方がおすすめです。
類語④憚りながら
「憚りながら」は「はばかりながら」と読みます。「憚る」には、「遠慮するべき・差し控える」といった意味があるため、「憚りながら」には、「遠慮するべきだとは思いますが」といった謙虚さを示す意味合いで使われる類語です。
「憚りながら」は次の例文のように、目上の人にお願いや意見をするとき、そして自分の実力以上のものを求められて、引き受けるときなどに使われることが多い言葉になります。
「憚りながら、私の見解ではAだと思います」「憚りながら、お話しさせていただきたいと思います」「憚りながら、謹んでお受けいたします」
「僭越ながら」と同じように使うことができるため、言い換えやすい類語とも言えます。しかし、「憚りながら」という言葉は一般的ではありません。そのため、「僭越ながら」を使う方が相手に意味が伝わりやすいことが多いので、言い換える必要があるかどうか判断する必要があります。
類語⑤お言葉ですが
「お言葉ですが」も「僭越ながら」の類語です。「せっかくのご意見ですが」といった意味があり、使い方としては自分の立場を超えて反論をしたいときに用いられます。別の言い方としては、「お言葉を返すようですが」や「お言葉ではございますが」などがあるので覚えておきましょう。
目上の人の意見などを聞いたうえで、反論するときに使われる類語なので、少し受け取るニュアンスは異なるでしょう。反論が目的のため、「僭越ながら」に比べて「お言葉ですが」の方が少し言葉が強く感じる方が多いです。
例文としては、「お言葉ですが、AよりもBの方が利益には貢献できるかと思います」「お言葉ですが、賛同しかねます」などがあり、「僭越ながら」との違いとしては、目上の意見に反論したいときに使う点にあります。
「僭越ながら」の類語ではありますが、少し強めの印象を受けやすくもあるので、言い換えるときには注意が必要です。相手になるべく悪い印象を与えたくない場合は、言い換えずに「僭越ながら」をそのまま使うようにしましょう。
類語⑥勝手ながら
「勝手ながら」も「僭越ながら」の類語になり、「こちらの都合で申し訳ありませんが」という意味を持っています。使い方としては次の例文のように、自分の都合に合わせてもらうよう、意見を通してほしいときに使われます。
「急ではありますが集計の都合上、勝手ながら13日までにご提出ください」「誠に勝手ながら火曜日は休業させていただきます」
「出しゃばりで申し訳ありませんが」などといった意味を持つ「僭越ながら」に比べて、少し意味合いが違うように感じる方もいるでしょう。「僭越ながら」と「勝手ながら」の違いとしては、自分の意見を伝えたいときに使えるかどうかです。
「僭越ながら」の使い方としては、相手に自分の意見を伝えたいときに用いられますが、「勝手ながら」は自分の意見を押し通したいときに使われます。そのため、類語であっても「勝手ながら」を使う会話や文に、「僭越ながら」を使って言い換えることができないので覚えておきましょう。
「僭越ながら」の使い方
「僭越ながら」には類語もたくさんあるため、使い方に困るという方も多いです。目上の人に使う言葉なので、間違った使い方はしたくないという方は多いでしょう。
「僭越ながら」を使うときに重要なのは、自分の立場を理解して使用しているのかどうかです。自分の立場をよく理解した上で、「僭越ながら」を使い分けなければ、かえって常識のない人だと思われていまいます。そこで、「僭越ながら」の使い方についてお話ししていきます。
目上の人に意見する時の謙虚さを表現
「僭越ながら」はその意味から、目上の人に何かを申し出るときに謙虚さを表現する使い方になります。ただでさえ目上の人に意見をするときに、出すぎた印象を与えてしまう可能性が高いです。
そこで「僭越ながら」を意見の冒頭に加えることで、「生意気だとわかっていますが」といった謙虚さを見せ、言葉のクッションを挟むことができます。意見や意向を述べるよりも、一言「僭越ながら」と付け加えるだけで柔らかい印象にもなり人間関係も円滑に進めるでしょう。
ただし、先にお話ししたように使うシーンによっては、「僭越ながら」を類語に言い換えた方が相手との角が立たずに済むことがあります。「僭越ながら」が適しているのか、それとも言い換えた方が適切なのか、判断できるようにしましょう。
「僭越ながら」の例文
ここまで、類語を含めて解説していきましたが、「僭越ながら」という言葉は、どういった使い方をするのが正しいのでしょうか。
「僭越ながら」の基本的な使い方は、身の程をわきまえず出しゃばりで申し訳ありませんがという意味をふまえ、「僭越ながら、~させていただきます」などといった形になります。そこで、使うシーン別に例文を使って理解していきましょう。
目上の人との会話
目上の人との会話で使われることが多い「僭越ながら」は、例文として次のようなものがあります。「ここで僭越ながら、私の意見を述べさせていただきたいと思います」「僭越ながら、いくつか疑問点と確認したい事項があります」
この例文のような使い方は、自分の意見を目上の人に述べる場合に、角が立たないようにするために使われています。人間関係を円滑にするためにも、クッション言葉としても必要な使い方です。
また、「お招きいただき、ありがとうございます。僭越ながら、出席させていただきます。」「僭越ながら、この企画は成功すると思っておりました。」などといったように、意見を述べるのではなく、相手からの厚意や相手の意見を認める場合にも、「僭越ながら」を使うことも可能です。
ビジネスメール
ビジネスメールでも、「僭越ながら」を用いることは多いです。例文としては、以下のようになるので確認していきましょう。
「僭越ながら、当社の意見を述べさせていただきます」「お招きありがとうございます。誠に僭越ながら、社員数名と参加させていただきますので、よろしくお願いいたします」
ビジネスメールで使う場合も同様に、取引先など相手に意見を述べる場合や、イベントへの参加に対しての返事をする場合などに使うことが可能です。
この場合、類語である「恐縮ながら」を使って、「恐縮ながら当社の意見を述べさせていただきます」へ言い換えることもできます。
手紙
手紙で「僭越ながら」を使う場合、相手に意見を述べるよりも類語である「失礼ながら」と同じような意味合いで使われます。
例文としては「僭越ながら、書面を持ちまして挨拶とさせていただきます」「僭越ながら、私の考えを申し上げます」といった使い方が一般的です。
この場合、「失礼ながら、書面でのご挨拶とさせていただきます」への言い換えもできます。ただし、先にお話したように、「失礼ながら」は「僭越ながら」に比べて砕けた印象を持たれやすいです。そのため、目上の人への手紙の場合は、使い方に注意をしましょう。
乾杯の挨拶
「僭越ながら」は、乾杯の場など年齢層が幅広く多くの人が集まるシーンで使われる機会が多くあります。例文としては、次のようなものがあるので確認しましょう。
「僭越ながら、私が乾杯の音頭を取らせていただきます」「若輩者で誠に僭越ながら、乾杯の音頭を取らせていただきますので、ご唱和をお願いいたします」
この場合の意味合いとしては、「差しでがましいですが、私が乾杯の音頭を取らせていただきます」といったニュアンスになります。
類語である「憚りながら」を使って、「憚りながら、乾杯の音頭を取らせていただきます」と言い換えることもできます。ただ、「憚りながら」というのは、やはり一般的ではないため使うシーンによっては意味が上手に伝わらない可能性もあるので注意しましょう。
あえて言い換えるのであれば、「大変恐縮ではございますが、乾杯の音頭を取らせていただきます」といった類語を使うのがおすすめです。
結婚式などの公の場
結婚式でもよく耳にすることが多い「僭越ながら」は、先にご紹介した乾杯の挨拶ではもちろん、次の例文のように挨拶をするシーンでも使われます。
「僭越ながら、友人を代表してご挨拶をさせていただきます」「僭越ながら、本日の司会を務めさせていだだきます、~と申します」結婚式では挨拶をされる方も多く、「僭越ながら」が活躍するシーンが数多くあります。
「僭越ながら」の英語表現
「僭越ながら」がもつイメージは堅苦しく、日本独特の表現であると感じている方も多いでしょう。そのため、英語で表現することができるのかと疑問に思う方もいます。
確かに、直訳で「僭越ながら」を英語で表現する単語はありません。しかし、「僭越ながら」は英語で「With all due respect」や「I don't meant to be rude」と表記することも可能です。英語ではどういった意味があるのか、解説していきましょう。
「失礼であるのは承知の上ですが」の意味で使用
もともと、へりくだるというのは日本の文化であって、海外の文化には浸透していないため、直訳で「僭越ながら」といった英語はないのです。
しかし、「僭越ながら」と同じ使い方をされる英語として、「with all due respect」があります。「due respect」には、しかるべき敬意をもってという意味があり、「僭越ながら」の類語と同じように、「失礼ですが」「恐縮ですが」といった意味合いがあります。
この英語は、目上の人に対して使うもので、プライベートからビジネスシーンにも幅広く使われる一般的なものです。主に、目上の人に対して対立した意見を述べる時に使う英語なので覚えておきましょう。
例文としては、「With all due respect, I don't think this is a good idea.(失礼ですが、そのアイデアはいいと思えません)」といったようなものがあります。
また、類語として「I don't meant to be rude」があり、意味としては「失礼をするつもりはないのですが」といったものになります。この英語は、目上の人に対して言いにくいことや、対立を避けられないときに使うことが多いです。
そして、「僭越ながら」を示す英語の中でも、会話で使われることが多い言葉です。しかし、「僭越ながら」と意味合いは同じであっても、「僭越ながら、~させていただきます。」などといった、対立しない場面で使うのは、英語として違和感があるので覚えておきましょう。
この他にも、「僭越ながら~させていただきます」という意味として「Please allow me to」という英語もあります。
例文としては、「Please allow me to give my opinions.(僭越ながら、意見を述べさせていただきます)」という意味になります。英語でも、「僭越ながら」には類語が多いので上手に使い分けるようにしてください。
「僭越ながら」を使用する際の注意点
ビジネスシーンではよく耳にする「僭越ながら」という言葉ですが、使い方を間違えると相手に失礼になってしまうことがあります。そこで、「僭越ながら」の使い方の注意点について、ここからは紹介していきましょう。
目下や同等の人には嫌味となる
「僭越ながら」は相手に対して自分をへりくだる言葉になります。そのため、「差しでがましいですが」と謙虚さを伝えることができます。
しかし、相手が目下の人や同等などへりくだる必要がない人に対して使うと、嫌味に感じてしまうこともあります。謙虚さを表現したかったのに、逆に失礼に感じさせてしまうこともあるので、使い方には注意しましょう。
「僭越ながら」は出しゃばりの意味を持つ
ここまで「僭越ながら」の正しい使い方や、類語とのニュアンスの違い、そして英語での表現方法についてご紹介しました。
「僭越ながら」は、「出しゃばりで申し訳ありませんが」と謙遜し、自分をへりくだって表現する使い方として日常的に用いられることも多く、特にビジネスシーンや公の場での挨拶などでは常套句ともいえます。
そのため、誰もが知っている言葉だからこそ、間違えて使うととても恥ずかしい思いをします。これを機会に「僭越ながら」の意味や類語との違いを確認し、自分の語彙力向上を目指しましょう。