「言わずもがな」の意味
「言わずもがな」という表現を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。硬いイメージの日本語なので、あまり日常で耳にする言葉ではありませんが、言い回しとして使えるので覚えておいて損はありません。
「言わずもがな」は方言と勘違いされることも多い言葉ですが、標準語です。言葉の構成は「言う」の未然形+打ち消しの助動詞「ず」+願望を意味する終助詞「もがな」という要素からできています。
「もがな」という終助詞は「大和言葉」といわれる、飛鳥時代頃まで使われていた日本古来の歴史ある言葉です。直訳すると「〜だったらいいのに」「〜であってほしい」となります。つまり「言わずもがな」とは「言わない状態を強く願っている」というのが本来の意味でした。
「もがな」という言葉はそれから時代の経過とともに使われなくなり「言わないでほしいなあ」という言葉が「言わなくてもいい」に変化していき、現在でも使われています。
そんな「言わずもがな」の現在の意味は2つあり、それぞれ「言う必要がないこと」「言うまでもないこと」という意味です。どちらも同じように感じられるかもしれませんが、ニュアンスが違うので、違いを押さえておきましょう。
「言わずもがな」は良い意味と悪い意味を持つ言葉ですが、このような言葉は他にもあります。例えば「適当」は「ふさわしいこと、かなっていること」という意味がある反面「やり方などがいい加減であること」という意味もあります。
こういった言葉は、いちいち内容を伝えなくてもわかるのが当たり前だという、日本人の「察する文化」を良しとするところに表れています。言葉の前後の文脈から、どちらの意味か判断しなければならないというのも、こういった言葉の理解を難しくしている原因なのだと覚えて起きましょう。
今回は「言わずもがな」という言葉の意味と使い方を例文とともに詳しく解説していきます。類語や敬語での言い方、英語表現もご紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
意味①言う必要がないこと
「言わずもがな」の1つ目の意味は「言う必要がないこと」です。この意味の場合「むしろ言わない方がいい余計なこと」という悪い意味のニュアンスを含むことがあります。この意味では、うっかり口を滑らせて余計なことを言ってしまった後で、後悔や謝罪をするような場面で使われることが多いです。
「あの言葉は言わずもがなだった。(言うべきでなかった。)」と、自分で言ってしまったことを後悔する使い方と、相手に対して「今の言葉は言わずもがなだったよ。(言わない方が良かったよ。)」と指摘する使い方などがあります。
意味②言うまでもないこと
「言わずもがな」の2つ目の意味は「言うまでもないこと」です。「もちろん」と同じ意味で「わざわざ言わなくても当然知っている」「どう見ても明らかなこと」を意味する表現です。前述の「言う必要がないこと」という悪い意味に対して、こちらはいい意味でのニュアンスを含みます。
相手が当然知っていることをわかっておきながら、あえて伝える場合によく使われる表現です。丁寧でかしこまった印象を与えることができる表現で、お客様をもてなす際にも使われます。
「言わずもがなですが(言うまでもないですが)、念のためご説明いたします。」「彼は英語は言わずもがな(英語はもちろん)、中国語も上手に話せます。」のように、前置きとして使われることが多いです。
「言わずもがな」の類語
「言わずもがな」という言葉の類語について知りたい方も多いでしょう。言葉の意味の理解を深めて、似たような言葉と正確に使い分けるためには、類語を知っておくことが大切です。
類語を多く知れば知るほど、言葉の表現力が豊かになり、場面に応じてしっくりくる表現を使い分けることができます。
「言わずもがな」は難しい響きの言葉ですが、類語を知っておくとより意味が分かりやすくなります。ここでは「言わずもがな」の類語として「言うべきでない」「当たり前」「当然」「至極当然」の4つをご紹介します。
これらの類語は、日常会話でよく使われている聞き馴染みのある言葉ですが「言わずもがな」と意味はほぼ同じです。しかし、言葉の使い方には注意すべき点があるので、一つずつ類語を確認していきましょう。
言うべきではない
言わずもがなの類語1つ目は「言うべきでない」です。「言うべきでない」の「べき」とは、「当然のなりゆき、義務づける意味」などがある助動詞「べし」の連体形なので「言うべきでない」は「言うことを当然してはいけない」ということです。
つまり「言うべきでない」の意味は「言う必要がないこと」という意味で「言わない方がいい余計なこと」というニュアンスを持つ「言わずもがな」の用法と同じ意味になります。
「相手が傷つくようなことを言うべきでない。」「十分な根拠がないのにむやみに言うべきでない。」など、内容についてあまり考えずに言わない方がいいという場合に使われることが多い類語です。
当たり前
言わずもがなの類語2つ目は「当たり前」です。「当たり前」の意味は「誰が考えてもそうあるべきだと思うこと、当然なこと」という意味で「当然知っていて言う必要がない」という「言わずもがな」の用法と同じ意味になります。
「私たちが努力するのは当たり前だ。」「悪いことをしたら、謝るのが当たり前だ。」というように使われます。日常会話でも頻繁に使われる言葉なので、一見、簡単な言葉に見えますが「当たり前」とは何かを定義づけるのは難しいので注意が必要です。
「当たり前」は世間一般に通じていて、誰が考えてもそうであるべきだと思うことを指すので「夫は外で働き、女は家庭を守るのが当たり前だ。」といった個人的な価値観を「当たり前」とするのはNGです。よく使われる言葉だからこそ、気をつけて使えるようにしておきましょう。
当然
言わずもがなの類語3つ目は「当然(トウゼン)」です。「当然」の「当」は「道理にかなっていること、理屈にあっていること」という意味で「然」は「ほかでもなく、そうなっている、その通り」という意味です。
「当然」の意味は「そうなるのが当たり前であること、道理にかなっていること」という意味です。ちなみに、前述の「当たり前」はこの「当然」を訓読みして出来た語だといわれています。
「彼女の勝利は当然だ。」「私は当然のことをしただけです。」のように使われます。「当然」を「当たり前」に変えても全く同じ意味になります。「当たり前」同様に、この類語も世間一般に通じていることに対して使うように意識することが大切です。
ちなみに「当然」の対義語は「意外」です。「必然」の対義語である「偶然」と勘違いされやすいので、間違えて覚えてしまわないよう注意してください。
「意外」は日常会話でよく使われている言葉ですが、意味は「予想もしなかったことであること、思いのほか」です。なんら疑う余地もないほど確実なものを「当然」というので、確実性がなく、予想できないことは「意外」であるということになります。
至極当然
言わずもがなの類語4つ目は「至極当然(シゴクトウゼン)」です。「至極当然」の意味は「極めて当然であること、極めて道理でかなっていること」という意味です。
「至極」の「至」は「ゆきつく、ゆきついてその先がない」という意味で「極」は「この上ないところ、頂点」という意味です。これらを合わせた「至極」は「極限・極致に達していること、この上ないこと」という意味になり、これに「当然」を合わせた語が「至極当然」です。
「水が0°で凍るのは至極当然だ」「彼女はひたすら勉強をしたため、至極当然のように試験に合格した」のように使われます。「当然」を強調しただけなので、基本的な意味は変わりません。ちなみに「至極」と「当然」を入れ替えた「当然至極」という言葉もありますが、意味は同じです。
「言わずもがな」の敬語表現
ビジネスシーンにおいては、敬語や難しい言葉を正しく扱えたり、言葉の表現方法が豊かな人は気品の高さや教養の高い印象を与えることができ、大きな武器になるでしょう。せっかく伝えたいことが頭の中にあっても、敬語で正しく伝えられないだけでチャンスを逃してしまうこともあるでしょう。
「言わずもがな」は一般的にあまり使われていない言葉なので、敬語や方言などと勘違いして覚えてしまっている人もいる言葉ですが、敬語でも方言でもありません。そのまま目上の人に使う場合は失礼になってしまうので、必ず敬語表現に直して使いましょう。
ビジネスシーンなどで「言わずもがな」を敬語で言いたい場合、元のかたちはそのままで「言わずもがなではございますが」となります。敬語表現での使い方を詳しくご説明していきます。
言わずもがなではございますが
言わずもがなは単独では敬語ではありませんが「言わずもがなではございますが」「言わずもがなのことを申し上げますが」という使い方をすれば、目上の人に対しても使うことができる敬語表現になります。
ビジネスシーンにおいては、相手がすでに知っていることを言う場合の前置きとしてよく使われます。敬語表現の例文としては「言わずもがなのことを申し上げるので恐縮ですが」や「言わずもがなのことをお伝えするようですが」などのように使われます。
「言わずもがな」の部分は変わりませんので、意味さえ覚えておけば使いやすい敬語表現ではありますが、堅苦しい印象を与えてしまうこともあるので多用するのは避けた方がいいでしょう。
「言わずもがな」の使い方と例文
「言わずもがな」の意味を確認したところで、実際にどのような使い方がされているのかをみていきましょう。ここでは「言わずもがな」の使い方を、例文とあわせてご説明していきます。
すでにご説明したように、言わずもがなの基本的な意味は「言う必要がない」「言うまでもない」の2つの意味があるので、どちらのニュアンスで使われているかを確認することがポイントです。
今回ご説明する表現は「言わずもがなだが〜」「言わずもがなの〜」「言わずもがなのひとこと」「言わずもがなのことを言う」の4つです。それぞれの使い方、例文を一つずつご説明していきます。
言わずもがなだが~
「言わずもがな」の使い方1つ目は「言わずもがなだが〜」です。言わなくてもわかりきっていることを一応言っておく場合に使います。
「言わずもがなだが」の例文としては「言わずもがなだが、健康を維持するには運動が必要だ。」「言わずもがなだが、あの時あなたは意見を聞き入れるべきだった。」といった使い方ができます。
このように「言わずもがなだが」という表現は、誰もがわかりきっている一般常識をあえて言ったり、過去の他人の失敗を非難したりといった使い方ができます。
言わずもがなの~
「言わずもがな」の使い方2つ目は「言わずもがなの〜」です。ある事実や状況などを、言わなくてもわかりきっているものであることを表現します。
「言わずもがなの〜」の例文としては「あれだけ強い地震がくれば、古い家の倒壊は言わずもがなの状況だ。」や「お金を浪費すれば、貯金できないのは言わずもがなのことだ。」といった使い方ができます。
「言わずもがな」のひとこと
「言わずもがな」の使い方3つ目は「言わずもがなのひとこと」です。「言わずもがなのひとこと」には2通りの使い方があるので、それぞれどちらの意味か判断できるようにしておきましょう。
1つ目は、言ってしまったことで、不都合やが起きてしまうような、余計な一言のことを意味します。例文としては「彼を怒らせてしまったのは、君の言わずもがなのひとことのせいだ。」のように使われます。この例文では、余計な一言さえ言わなければ「彼」は怒ることはなかったわけです。
そして2つ目は、言うまでもない、すでに分かりきっているような一言や話のことを指します。例文としては「言わずもがなのひとことではございますが、念のためにご案内申し上げます。」のように使われます。この例文では、話に入る前の前置きとして使われています。
「言わずもがなのひとこと」を言い換えた表現としては「不必要なひとこと」「やぶへびのひとこと」などがあります。
言わずもがなのことを言う
「言わずもがな」の使い方4つ目は「言わずもがなのことを言う」です。分かりきっていることをあえて再度言う場合の表現です。「当たり前のことを言う」と同じ意味です。
「言わずもがなのことを言う」の例文としては「言わずもがなのことを言うと、日本における義務教育期間は9年間である」や「言わずもがなのことを言うと、成功には失敗が不可欠である」といった使い方ができます。例文中の「言わずもがな」を「当たり前のこと」にしても全く同じ意味です。
「言わずもがな」の英語表現
「言わずもがな」は昔からある日本語ですが、英語ではどのように表現するのか気になる人もいるでしょう。「言わずもがな」は英語にすると、一般的には「needless to say」となり、直訳は「言う必要がない」です。
「needless to say」以外にも「言わずもがな」という意味を持つ英語表現は他にもたくさんあります。英語表現をそれぞれ紹介していきます。
言う必要が無いという意味で使用
「言わずもがな」を英語にする場合「needless to say(言う必要がない、言うまでもなく)」というのが最も基本的な表現です。
「needless to say」を使った例文としては「Needless to say, she never came again.(言うまでもなく、彼女は二度と来なかった。)」や「It is needless to say that health is above wealth(健康が富より勝るのは言うまでもない。)」といった使い方ができます。
「needless to say」というまとまった形が変化することはないので、まずはこの基本的な英語表現を押さえておきましょう。
同様の意味での別表現
「言わずもがな」を意味する英語表現は「needless to say」以外にもたくさんあるので、詳しくご紹介していきます。多様な言い回しを使えるようにしておくことで、英語での表現力を高めることができるでしょう。
まずは最初の英語表現は「You know what it is.(言わずもがなだ。)」です。直訳すると「あなたはそれが何か知っている」なので、つまり「言わなくてもわかる、言う必要がない」という意味です。
他にも簡単な英語表現として「I should not have said that.(言わずもがなのことをいってしまった。)」があります。直訳すると「あのようなことを言うべきでなかった」となります。言うべきでないことをすでに言ってしまい、後悔しているシチュエーションです。
あまり聞きなれない単語を使った表現に「Is should be unsaid.(言わずもがな)」があります。「unsaid」は「unsay」の過去形で「口に出さない」という意味なので覚えておきましょう。
少し難しい表現に「That goes without saying.(そんなことは言わずもがなだ。)」があります。「go」を単体で「行く」と訳すのではなく「go without」で「言うまでもないことである、〜をなしで済ます」という意味になります。フレーズのまま覚えてしまいましょう。
ニュアンスによって英語表現の意味の使い分けが必要
すでにご説明してきたように「言わずもがな」には「言う必要のないこと」「言わない方がいいこと」というニュアンスと「言うまでもない」「もちろん」とニュアンスでの2つの使い方があります。英語表現でも同様に、表現によってニュアンスが異なるので使い分けが重要になります。
先に挙げた例では、「Needless to say, she never came again.(言うまでもなく、彼女は二度と来なかった。)」や「That goes without saying.」(そんなことは言わずもがなだ。」は、単に、「言うまでもない」というニュアンスの意味です。
それに対して「I should not have said that.(言わずもがなのことをいってしまった。)」は「言う必要がない、言うべき」でないというニュアンスの意味です。文脈から判断しましょう。
「言わずもがな」を使用時の注意点
「言わずもがな」という言葉は硬い表現なので、実際に使用する時は気をつけなければならない点があります。「言わずもがな」は日常会話ではあまり使われておらず、意味が相手に伝わりづらい言葉だということです。注意点を詳しくご説明します。
日常会話ではあまり使用されない
「言わずもがな」という言葉の響きが好きで、日常会話で使っていきたいという人もいるでしょう。しかし注意点として、実際に話し言葉で「言わずもがな」という言葉を使っている人はほとんどいません。
特に20代〜30代の若い世代で使っている人は少なく、相手によっては意味を説明しなければならないこともあります。また、ニュアンスの異なる2つの意味があるため、聞き手はどちらの意味で言っているのかを判断しなければなりません。
コミュニケーションに手間が増えてしまう可能性が高いので、できるだけ「言うまでもなく」のような簡単な表現を使うことをおすすめします。
「言わずもがな」は言う必要がないことを意味する
ここまで「言わずもがな」の意味や使い方、例文だけでなく、敬語や英語での表現方法をご説明してきました。ニュアンスによって少し意味が変わる難しい言葉ではありますが「言う必要がないこと」という基本的な意味を押さえておけば間違えることはないでしょう。ぜひこの言葉を活用してください。