「杜撰」の意味とは?
「杜撰」の意味を見る前に読み方を確認しておきましょう。「杜撰」と書いて、「ずさん」と読みます。「とせん」ではありません。読み方に続いて意味ですが、「杜撰」には2つの意味があります。どちらかというと1つの意味で使われることが多いですが、両方とも載せてみます。
まず、「杜撰」の第一の意味は、「著作物に確かな文献上の根拠がない」ということです。つまり、誤りが多い、信頼しにくい詩や文章だということです。次に、第二の意味は「いい加減」「手を抜いている」「粗雑」ということです。こちらの意味はご存じの人もいるでしょう。
「杜撰な工事」という使い方がされるのを聞いたことがある人も多いでしょうが、「いい加減な工事」「手抜き工事」という意味です。このようなことがあっては困りますが、現実には「杜撰な工事」はあります。
「杜撰」の第一の意味の「著作物に確かな根拠がない」というほうは現代ではあまり使われません。しかし、一応この意味があることも知っておくほうがいいでしょう。古典を読んでいる時にはこの知識が役立つかもしれません。
「杜撰」の由来
「杜撰」という難しい言葉がどういう由来でできたのかひも解いてみましょう。「杜撰」は常用漢字ではないので、そこから類推できるかもしれませんが、その由来は古代の中国にあります。正確には宋時代の中国です。
中国の宋時代に杜黙(ともく)という詩人がいました。「杜撰」の「杜」という字は、この杜黙の頭文字が由来となっています。では、「杜撰」の「撰」の字の由来は何かというと、これは詩を作るという意味の漢字です。
両方合わせて「杜撰」となりますが、これは杜黙が詩を作るという意味です。しかし、この説明だけでは、「いい加減」「粗雑」という意味の由来につながりませんから、もう少し詳しく分析してみましょう。
杜黙という人は詩人ですが、その詩は当時の定型詩の格式にそぐわないものだと言われています。そのことについては、王楙(おうぼう)という人が書いた『野客叢書(やかくそうしょ)』という難しい著作に書かれています。
定型詩の格式に合わないということは、ある意味型破りで、新鮮で、面白みもあるということですが、伝統的な考えをする人から見ると、いい加減で信用ができないということになります。それが「杜撰」の由来であり。現代の意味につながっているというわけです。
「杜撰」の由来となった杜黙と詩を作るという意味の「撰」が一緒になった四字熟語があります。杜黙詩撰(ともくしさん・ともくしせん)です。意味自体は「杜撰」と同じですが、実際に使われることはあまりありません。
「杜撰」の類語と対義語
「いい加減」「手を抜いている」「粗雑」という意味の「杜撰」にはいくつか類語と対義語があります。類語や対義語を見ることで「杜撰」の意味もよりはっきりするでしょうから、よく学んで、「杜撰」の理解の助けとしてください。
類語①ぞんざい
「ぞんざい」とは、「物事の取り扱いが丁寧でない」「いい加減」という意味ですから、「杜撰」の類語です。ほとんど意味が重なっています。「ぞんざいな扱いをする」「ぞんざいな工事」などのような使い方がされます。
「ぞんざい」は「杜撰」の類語なので、そのまま入れ替えて使える場合があります。「ぞんざいな工事」も「杜撰な工事」も「いい加減な工事」ということであり、ほぼ同じ意味です。したがって、どちらでも好きなように使うといいでしょう。
類語②乱暴
「杜撰」とは少し雰囲気の違う言葉ですが、「乱暴」を類語に挙げることもできます。「乱暴」とは、「荒っぽい」「粗雑」という意味です。「荒っぽい」という意味は「杜撰」の類語ではありませんが、「粗雑」という部分が似ています。
「乱暴なドアの閉め方」などのような使い方がされますが、これは「杜撰なドアの閉め方」とは言えません。したがって、「杜撰」の類語であるとはいっても、ニュアンスや使い方においては異なる部分があります。
類語③粗漏
「杜撰」同様難しい言葉になりますが、「粗漏」も類語です。「粗漏」とは「物事の扱いがいい加減で、手落ちがある」という意味だからです。ただ、類語とはいっても、「杜撰」に比べると使われる頻度は少ないです。
「まじめにやったつもりではあるが、粗漏な部分があったことは認めざるを得ない」などのような使い方がされます。この「粗漏な部分」というのを「杜撰な部分」と言っても、十分意味は通じます。
類語④雑
「雑な仕事」「雑に作った机」などのような使い方がされる「雑」とは、「粗末な」「いい加減な」という意味です。ということは、「杜撰」の類語ということになります。「雑」と「杜撰」を入れ替えても、ほぼ同じ意味になります。
類語⑤おざなり
「おざなり」とは、「その場限りのいい加減な言動をする様子」を表す言葉です。この「いい加減」というところが、「杜撰」と通じるので、類語と言えます。ただ、使い方は少し違います。
「おざなり」の場合は、言動が対象なので、「おざなりな謝罪」「おざなりな返事」「おざなりな言い訳」のように使います。これを「杜撰な謝罪」「杜撰な返事」「杜撰な言い訳」と言い換えることはできません。
類語⑥なおざり
「おざなり」と響きが似た言葉ですが、「なおざり」も「杜撰」の類語です。「なおざり」とは、「することが万事不十分である」「真剣でない」という意味です。つまり、「いい加減」ということであり、「杜撰」に共通する言葉だと言えます。
「おざなり」と「なおざり」を同じように用いることはありますが、本来は別の言葉です。ただ、ともに「杜撰」の類語という点では変わりありません。「なおざり」は、「商売をなおざりにする」などのように使います。
類語⑦等閑
普段あまり使う言葉ではありませんが、「等閑」という言い方があります。これは「なおざり」ということで、「いい加減に扱う」という意味です。「等閑にする」「等閑視する」などのような使い方がありますが、これも「杜撰」の類語です。
類語⑧粗削り
「粗削り」は、「材木などを大まかに削る」という意味ですが、そこから「十分に仕上がっていない」「細かいところに注意が行き届いていない」という意味も派生しました。「粗削りな文章」などのように使います。
「粗削り」は、「いい加減」というわけではないので、厳密には「杜撰」と意味が同じというわけではないかもしれませんが、あえて類語に挙げてみました。「粗削りな文章」を「杜撰な文書」とした場合は、少しでニュアンスの違いがあります。
「杜撰」の類語がほかにもある
「杜撰」の類語はほかにもいろいろあります。いくつか挙げてみると、「不十分」「不徹底」「生半可」「中途半端」「投げやり」「手抜き」「ちゃらんぽらん」「粗っぽい」などです。それぞれの意味と使い方は解説しませんが、状況に応じて使い分けるといいでしょう。
対義語①緻密
「杜撰」の類語に続いて、対義語を取り上げましょう。「いい加減」「手を抜いている」「粗雑」という意味の「杜撰」には、ぴったりの対義語がいくつかあります。その対義語を見ることで、より「杜撰」という言葉のイメージがつかみやすくなるでしょう。
最初に取り上げる「杜撰」の対義語は「緻密」です。「緻密な作業をする」「緻密な研究」などのような使い方がされる「緻密」とは、「きめ細かいこと」「細かく詳しいこと」「細かいところまで注意が行き届き、手抜きをしていない」という意味です。
この意味を見ればわかるように「杜撰」とは正反対の意味なので、対義語として第一に挙げられます。「緻密な作業」を「杜撰な作業」と言い換えると、対照的な意味になります。
対義語②丁寧
「いい加減」の反対が「丁寧」ですから、この「丁寧」が「杜撰」の対義語になります。「丁寧な仕事」と言えば、「細かい点にまで注意が行き届いた仕事」という意味になります。そのほか、「丁寧に手入れする」「丁寧にお辞儀をする」など使い方はいろいろあります。
「丁寧」は「杜撰」の対義語ですから、そのまま逆の使い方もできます。「丁寧な仕事」と「杜撰な仕事」、「丁寧な管理」と「杜撰な管理」などのようにどれも正反対の意味です。ただし、すべてのケースで入れ替えができるわけではありません。
対義語③入念
「入念」とは、「細部まで十分注意を払う」という意味ですから、これも「杜撰」の対義語です。「入念に毛繕いする猫」と言えば、身だしなみを一生懸命整えている猫を思い浮かべるでしょう。
「入念」という言葉にもいろいろな使い方がありますが、「入念に点検する」「入念に準備する」「入念に下調べする」などのように使ったことがある人もいるでしょう。これらをそのまま「杜撰な点検」「杜撰な準備」「杜撰な下調べ」のようにすれば、まさに対義語です。
「杜撰」の使い方
「杜撰」の類語・対義語を挙げましたが、それだけでも「杜撰」の意味がわかりやすくなったことでしょう。今度は具体的な使い方について、例文を示しながら見ていきます。その例文を見れば、「杜撰」の使い方はマスターできます。
例文①
最初の「杜撰」の例文は、「ここには多数の重要資料を保管してあるのに、管理が杜撰だ」です。大切な資料を保管するところには、いろいろと気を使いながら管理する必要がありますが、それが十分できていないのでしょう。
同じよう「杜撰な管理」の例を挙げてみましょう。「この駐車場には多くの利用者がいるのに、管理体制が杜撰である」。大勢の人と車が利用する駐車場はしっかりと管理してもらいたいこところですが、意外に管理体制がいい加減なところがあります。
例文②
「杜撰な計画を立てた」ために苦労することがあります。その場合の例文は「せっかくいい案を出し合ったのに、計画が杜撰であったためにうまく行かなかった」です。このようなことでは困るので、計画は緻密かつ入念に立てるようにしましょう。
例文③
「物は大事に使わなければいけないが、田中君は扱いが杜撰だけに、よく壊す」という例文があります。これは物の扱いが粗雑だという意味で、そのためにその物を傷めてしまうということです。このような「杜撰な取扱い」をするのはよしましょう。
例文④
性格を「杜撰」という言葉で形容できます。その場合は、「私は杜撰な性格のせいか、よくサイズが合わないものを買ってくる」のように言います。「杜撰な性格」、つまり「いい加減な性格」ということで、このような人はいろいろと苦労します。
例文⑤
「杜撰」の由来についてはすでに解説してありますが、その由来に通じる意味での例文もあります。「素晴らしい詩を書いたつもりかもしれないが、その内容は杜撰である」。
これは、詩が規格に合っていないという由来通りの意味にも取れます。ただ、現代では完成度が低く、粗雑な内容である場合に使われることが多いです。
例文⑥
「杜撰な工事」に泣かされている人もいるでしょうが、このような例文は聞いたことがあるかもしれません。「杜撰な工事をされたために、大きな損害を被った」。工事というものは丁寧に行ってもらいたいものですが、このような「杜撰な工事」をする業者はあります。
「杜撰」の英語表記
「杜撰」の英語表記を見てみましょう。英語でも「いい加減」「粗雑」という意味の言葉がいくつかあるので、それをそのまま「杜撰」の訳語として使えます。実際に英会話でも使ってみれば、意味は通じるでしょう。
sloppy
「杜撰」にぴったりの英語があります。「sloppy」です。この英語の意味は、「だらしがない」「いい加減な」ということなので、「杜撰」の英語訳としてそのまま使えます。例文を挙げてみましょう。
「Tom is always doing sloppy jobs.」。この英語の例文の意味は、「トムはいつも杜撰な仕事をしている」ということです。「杜撰な仕事」=「sloppy job」というわけです。
careless
中学校で習う英語の単語ですが、「careless」も「杜撰」の訳語にできます。「careless」とは、「不注意な」「軽率な」「無頓着な」という意味です。必ずしも意図的にいい加減なことをしているわけではないでしょうが、「杜撰」にも通じる感じの英語の単語です。
「careless」を使った例文も見てみましょう。「He is careless about business.」と言えば、「彼は仕事にだらしない」ということであり、「杜撰な仕事をする」ということになります。また、「She is careless about money.」となると、「彼女はお金にだらしない」ということです。
これは、つまり「お金の管理が杜撰」ということであり、「杜撰」の英語訳としてぴったりとはまります。
「杜撰」はいい加減という意味
ここまで、「杜撰」の意味、由来、類語・対義語、使い方、英語表記などについて解説しました。「杜撰」とは「いい加減」「粗雑」という意味で、いい意味はありません。したがって、問題のある対象物に対して使うことが多くなります。