すべからくの意味とは?
「すべからく」という言葉は、いつの間にかどこかで見聞きして知っている方も多いはずです。漢字で書くとしたら「須く」と表記します。すべからくという言葉は古くからありつつ、なかなか現代では活用されにくい言葉です。
意味を理解している気になっているだけで誤用も多いと聞きます。そこで今回は、すべからくという言葉をテーマにし、その意味や使い方、由来、例文や誤用を防ぐ注意点も合わせてご紹介します。
すべからくとは「当然」のことを意味する
すべからくとはいつ、どのような時に使い、どのような意味があるのでしょうか?この言葉の意味とは、「当然、なすべきこととして、ぜひとも」を指しています。 当然しなければならない状況や状態を表す言葉で古くから存在しています。
そしてすべからくの響きの後に続く言葉としては、「~べし」「~べきだ」などが伴って意味をなします。これらは漢文調の昔からの言い回しとしてルールになっています。「すべからく~べきだ」となったら、「当然のこととして~すべきだ」「是非とも~すべきだ」といった意味です。
すべからくの由来
すべからくとは、元々「すべくあらく」という表現をしました。「するべきであること」という意味で、それが変形して「すべからく」になったという由来があります。
唐時代の詩人である李白の漢詩「襄陽歌(じょうようか)」の「一日須傾三百杯」という句では、「一日、須(すべから)く傾くべし三百杯(一日に300杯の酒を飲まねばならぬ)」とあります。
漢文や古文の世界では「須く~べし」と書いて「必ず~しなければならない」「ぜひ~する必要がある」という意味を成している由来があります。このように漢文の中の表現が、そのまますべからくの使い方のベースになったといえます。
語源は「く語法」によって成立する
すべからくとは、「す、べから、く」という3つの言葉の組み合わせで成立しています。これは動詞の「す」に、助動詞の「べし」が続いて、語尾に「く」と「らく」が付く「く語法」という文法で完成した言葉です。
く語法の由来としては、奈良時代以前よりある古文だったとされています。当時は母音が連続するのを嫌う発音上の習慣があったことで、このく語法を改めて作ったという由来があります。
実は髭(ひげ)という意味でもあった
すべからくの「須」という漢字の由来には、元々は「ひげ」という意味もありました。それが徐々に変化して「必要とする」「求める」という意味になって活用され始めたとされています。
なぜそういった変化があり意味を持つようになったのかは明確にわかっていません。
そこで全く違う意味のため混同しないように、須に毛を表す「髟(かみがしら)」を加えて、「鬚(ひげ)」という漢字が古文の中で誕生したといわれています。 現在ではさらに変化を遂げ、主に「髭」「髯」という漢字表記が一般的になりました。
すべからくの特徴
すべからくという言葉は、当然そうすること、ぜひそうする必要があるといったことを意味する言葉ですが、表現上などで何か特別なものがあるのでしょうか?
現代では、特別な状況の際に使われる言葉というイメージがあり、すっかり意味や使い方も歪曲していそうです。ここでは、すべからくという言葉が意味する主な特徴についてご紹介します。
本当は「〜べし」「~べき」とセットで使う言葉
すべからくというのは、本来では「〜べし」や「〜べきである」という言葉とセットで使用することになっています。 ところが最近になってから「べき」をつけないで使うような風潮になっています。言葉が年代によって変化することはよくあり得ます。
しかしそのことで意味までもが勝手に解釈され誤用の原因になった言葉の一つです。すべからくの正式な使い方は「すべからく〜べきである」というのが一つのまとまった表現です。それで初めて当然するべきである、ぜひともするべきであるという意味で成立します。
シチュエーションによって意味が伝わるか考えること
実際に日常生活の中で、すべからくという表現はどのくらい登場するものでしょうか?おそらく、普通に生活している上では、ほとんど活用する機会は少ないはずです。
たとえば、子供がゲームをしながらすべからくなどと発することはまずあり得ませんし、大人でもごく限られた状態の中で使用する言葉なので、意味の勘違いや誤用が起こっても仕方がありません。
すべからくという表現は古文などの昔の文体や、フォーマルな場所で主義や主張をする場合、ビジネスシーンの中、小説の世界といった限られた部分では見かける言葉です。ある程度、シチュエーションを考えて使われている言葉です。
すべからくの類語
すべからくは、それを当然としてやるべしという意味を持っている言葉ですが、これと似たような意味を持つ類語にはどのようなものがあるのでしょうか?
どちらかといえば、すべからくよりも普段から使う頻度が高い言葉が別に存在します。ここでは、すべからくと同じような意味を含めている類語についていくつかご紹介します。以下が主な類似した言葉です。
すべからくの類語①無論
すべからくと似た芋を持つ類語の一つは「無論」です。この類語の意味は、漢字の表記からもわかるように、今さらあえて論じている場合じゃないほど浸透してることについて「言うまでもない、もちろん」と諭すようなときの表現です。
使い方の例文としては、「彼は猫は無論のこと、犬も大好きだ」 「その新しい考え方には、無論こちらも協力していくつもりです」などがあげられます。
すべからくの類語②当然
すべからくと似た意味の類語としてもっとも頻度が高いのは「当然」という言葉です。一番この言葉がシンプルで分かりやすいこともあって広く使われています。この類語の意味は、「道理にかなっている、そうなるのが当たり前である」という状態を指します。
当然を使った例文としては、「あれだけ騒いでいれば、当然の結果になる」 「彼の演奏は見事だった。オーディションの合格は当然だろう」などがあげられます。
すべからくの類語③自明
すべからくに似た意味の類語の中で、頻度が低い言葉ですが「自明」というのも時折使われています。そのことは既に誰かが公表などをされているので、あえて今さら言うのは野暮だということを指します。この類語の意味は「今さら証明などしなくても明らかでわかりきっていること」です。
自明を使った例文としては「あのCEOが頭のキレる人材なのは自明である」 「あまりにも安価な製品を購入したのだから、壊れやすいのは自明である」などがあげられます。
すべからくの対義語
すべからくが当然すべきことといい意味であれば、しなくていい、あるいはする必要のないという表現もあるのが自然です。では、すべからくとは反対の意味をなす言葉にはどのようなものがあるのでしょうか?ここではすべからくとは意味が逆になる対義語についていくつかご紹介します。
すべからくの対義語①意外
当然のことがあるとしたら、「意外」なことも世の中にはあります。つまり意外はすべからくの反対の意味をなします。「予想もしなかったこと、思いのほか」という場合に、意外であると言います。たとえば「彼女がまだ未婚だなんて意外だ」 「彼は意外なことに空手をやっていたらしい」といった使い方ができます。
すべからくの対義語②特異
すべからくとは、それをすることが普通なんだという常識に則っている意味がありますが、であれば、その反対として常識では図れないこともあります。そのような時の言葉が「特異」です。
「普通とは異なっていて特別なこと」を意味します。使い方としては、「彼は動物の鳴き声で言いたいことが分かる特異な才能を持っている」 「それは特異なことであって例外である、普通だと思わないことだ」といったものがあげられます。
すべからくの英語表現
すべからくという言葉は、日本語でもかなり取り扱いが少ない表現です。そのためこれに該当するような英語訳があるのかどうかは、感覚的なものになってしまいます。正式にこれだという英語というよりも、すべからくに近い英語訳ということでご紹介します。
shouldが適当
すべからくの意味に近い英語には、副詞で「naturally」「of course」などがあります。しかし文章内でこれらを使用するの位は不自然だとされています。そこで助動詞の「should」を使うのが適切です。
例文としては「All the students should study rather than anything else.(学生たちはすべからく学業を第一とするべき)」「Young people should have big dreams.(若者はすべからく大きな夢を持って当然だ)」などあげられます。
すべからくの使い方
普段の何げない生活の上ですべからくという言葉は頻繁ではなく、古文や論文など形式的な文体の中で見かけるものです。
そのため、今までなんとなく意味もうやむやなまま使っていたという方も多いのではないでしょうか?ここでは、すべからくをどのように活用できるのかについて、主な例文を使ってご紹介してい行きます。
例文①学生ならすべからく学業を第一とすべし
学生時代は思春期でもあるので、大人になる前にいろいろと経験をする時期でもあります。その中で、最も優先しなくてはならないのは、もちろん学業だということを強く断定している言い方です。
どちらかといえば、同じ年代同士で話すのではなく、親や教師など目上の人物が学生たちに諭すような説法や古文と似たような内容です。
例文②子供はすべからく健康に育つべき
成熟していない子供、とくに幼児については温かい家庭ですくすくと育つことは当たり前であるという意味のある例文です。まずは健康第一に考えて、親や周囲の大人たちは、子供たちを見守る義務があるという、そんな教訓のような意味合いです。
例文③お年寄りにはすべからく親切にするべき
このすべからくも、どちらかといえば大人が子供や若者に向けての教訓のような意味があります。電車の中で席を譲ったり、横断歩道を渡るときに手助けをしてあげるなどといった状況を連想させます。
昔からの普遍的な戒めとしての意味がある内容です。すべからくを使うには、相手に何かを教えるという意味も含まれていることが分かります。
例文④社会人ならすべからくコンプライアンスを順守すべし
一般論で大人は地域や社会と接する中で、当然コンプライアンスの意味を知って、重視しながら守ることは義務だ伝える文脈例です。コンプライアンスやルールといった「決めごと」「常識」などを諭す意味で、すべからくという言葉は使われています。
古文や古語表現でしかなかなか登場しませんが、新聞や書籍、その他にも論文といった形式ばった文章の中では、このような表現がよく出てきます。
すべからくの注意点
すべからくは、古文からの由来や表現だったり形式ばった言い回しであることから、どこかで見聞きすることはあっても、自分から進んで使うような言葉ではありません。
そのため意味もわからず誤用されがちな側面があります。そこでここでは、誤用をしないためにも知っておくとよい、すべからくを活用する注意点についてご紹介します
送り仮名に気をつけること
すべからくを書くときなど漢字表記にする際は、送り仮名に注意をする必要があります。送り仮名は「く」のみという使い方のルールになっています。 よく「須らく」という送り仮名をしてしまいがちです。
「らく」は誤用になってしまいますので意味をなしません。すべからくの漢字の使い方には気をつけておきましょう。
すべからくの意味を「すべて」と解釈しがち
すべからくの意味を誤用するパターンで多いのは、「すべて」という言葉に置き換えて思い違いをすることです。すべからくの「すべ」という響きから「全て」の意味と一緒なのだろうという、そんな思い込みが意外に多いという現象が起こっています。
すべからくは、かなりな頻度で全てという意味合いで使われがちなので注意しておく点です。すべからくの誤用の事例として「メンバーは、すべからく参加すべき試合だ」という文章があったとしたら、本来ではメンバーが参加して当然の試合であるという意味で認識しなくてはなりません。
ところが誤用したままでは、メンバーのすべてが参加する試合という意味になってしまいます。すべからくは当然や是非ともという意味で昔から古文の中でも使われています。正しい意味を把握しておきましょう。
すべからくは当然という意味
すべからくの意味や使い方はわかっていたようでいて実際には改めて知ったという方も多いのではないでしょうか?古文や漢文の読み下し表現に由来していますが、時の流れとともに、普段の日常生活ではそう多く使うことがなくなっている言葉です。
必ずしも昔からの由来どおりに表現方法を使わなくてはならないわけではなく、時代とともに言葉は変化します。ただし意味が変わってはなりませんが、どうしても意味が歪曲したり誤用されてしまうのも無理のないことです。
しかし漢文由来の古文の言葉でも、これも日本語の一つでとして成り立っているわけなので、正しい意味と使い方を知っておくことは大切です。何かの折には役立つ言葉ですので、ぜひ気に留めておいてください。