かたじけないの意味とは?
「かたじけない」という言葉の意味をご存知ですか?「時代劇などで聞いたことあるけど、意味までは知らない」「若者言葉の意味か何かかな?」など聞いたことはあるものの本来の意味までは、知らないケースが多いです。
「かたじけない」は、確かに時代劇や漫画、小説、特殊な例としては「かたじけない」という芋焼酎も存在していますし、話し言葉として頻繁に使われてはいないものの「死語」になってはいない言葉です。「死語」になっていないばかりか、若者の間でもある意味流行っている言葉だったりします。
「かたじけない」とは、「感謝にたえない」「勿体ない」「恐れ多い」「面目ない」という意味です。漢字表記は「忝い」。このような意味をもつが故に、時代劇や漫画、小説の中で使われることが多いのは納得できます。
「かたじけない」の意味が分かると、「かたじけない」のセリフを作品中に見たり、名前がついた作品見たりすると、よりその作品を楽しんだり、嗜んだりすることができます。
今回はそんな「かたじけない」について徹底解剖。「かたじけない」の語源から、特徴、類義語、使い方、注意点について順に紹介していき、「かたじけない」を堀りさげていきます。
かたじけないの語源
「かたじけない」の意味がわかったところで、「かたじけない」の語源はどこにあるのでしょうか?「かたじけない」は「かたじけなし」という文語的表現が語源とされています。
「かたじけなし」の語源は「勝たじ気甚し」「難し気無し」など、諸説存在しておりますが、2020年現在特定できておりません。
「かたじけなし」は相手の身分に対して、「恐れ多い」という、自らが一歩引いた敬語としての意味合いが含まれた言葉です。具体的には後述に譲りますが「謙譲」という敬語表現の1種と見做されています。
上記の相手の身分に対して「恐れ多い」という意味から、感謝の気持ちの意味を表す言葉として使われるようになりました。似た語として「ありがたし」があります。古い語源があり、現在の「ありがたい」「ありがとう」で知られており、「かたじけない」と同じ意味で有名です。
語の由来を把握できたところで、次に「かたじけない」は日本でいつから使われていたのか?その「かたじけない」が使われていた時期の語源を辿っていきます。
上記の語源を辿る資料として「かたじけない」は過去の文献でも確認することができます。その2つ目は小説家の紫式部が、平安時代の1008年(寛弘5年)に完成をした長編小説「源氏物語」という作品です。下記の一説を紹介します。
「かたじけなき御心ばへのたぐひなきを頼みにて交じらひ給(たま)ふ」翻訳すると「もったいないご愛情が比べるほどないほど強いのを頼りにして、宮仕えをする」となります。
平安時代は1008年から始まりましたので、今から1000年以上前には「かたじけない」は使われていたことが確認できます。
「かたじけない」の語源について、もう1つ、日本の古典といわれる文献で確認できますので、ご紹介いたします。その2つ目は作者不詳で詳しい完成年が不明ですが、鎌倉時代に完成をした「平家物語」という作品です。下記の一説を紹介します。
「兵衛佐、院宣と聞く忝なさに、手水うがひをし、新しき烏帽子浄衣着て、院宣を三度拝してひらかれける。」翻訳すると「兵衛佐殿は、院宣と聞くと恐れ多くて、新しい烏帽子浄衣を着、手を洗い、うがいをして、院宣を三度拝してから開きました。」となります。
鎌倉時代は1192年から始まりましたので、今から800年以上前には「かたじけない」は使われていたことが確認できます。
また近・現代でも「かたじけない」が使われていたことが文献で確認することができます。その1つ目は小説家の芥川龍之介が「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」に1935年(大正10年)に発表した「江南遊記・上海遊記」という作品です。下記の一説を紹介します。
「彼は突然、調子の外れた笑い声を漏らした『おお許してくれるか。忝い。忝いぞよ。』」このように今から80年以上前には「かたじけない」の使われており、その語源が確認できます
現代で「かたじけない」の使用時期の語源を辿るその2つ目は詩人・童話作家の宮沢賢治が「新修宮沢賢治全集 第八巻」に1979年(昭和54年)に発表した「鳥箱先生とフウねずみ」という作品です。下記の一説を紹介します。
「今年の春は、みだりに人間の耳を嚙りましたましたので。あぶなく殺されようとしました。実にかたじけないおさとしでございます」
このように「かたじけない」は平安時代、鎌倉時代のみならず大正末期、昭和中期にも使われていることが、それぞれの文献の語源を通じて確認することができます。
かたじけないの特徴
「かたじけない」の意味、語源を把握することができましたが、「かたじけない」という言葉には、使用するにあたってどんな特徴を持った言葉なのでしょうか?
「かたじけない」の意味は「感謝にたえない」「勿体ない」「恐れ多い」「面目ない」という意味から、返事など「何かに対して」言っている言葉であり、「控えめ」な意味合いが含んでおります。そして、「かたじけない」は「日常会話ではあまり聞かれない」言葉です。
以上から「何かに対して言っている」という受け答えのポイントから、「控えめ」という意味合いから、また「あまり聞かれない」という日常会話での頻出するその視点から、以下に特徴をご紹介いたします。
何かを受けて使用する
「何かにたいして言っている」ポイントから考えてみると、「かたじけない」は「何かを受けて」使用する意味の言葉だということです。その使い方の1つとして相手の行為をうけて「返事」に使用する言葉としても多用されています。
そして、その行為は「かたじけない」と感じている者にとって、プラスとなることです。具体的な例文は後述する「使い方」に譲りますが、何かが前段にあって、それに対する言葉に「かたじけない」が存在しています。その何かは後述する「注意点」でも触れていきます。
謙譲の意味が含まれている
「かたじけない」は「由来」で先述したように「恐れ多い」という言葉から、感謝の気持ちの意味が生まれました。この「恐れ多い」ということは自分が謙り、結果相手の立場を上にさせる「謙譲」の発想が意味の中に含まれます。
ただ、注意点でも後述しますが、「かたじけない」は謙譲表現ですが、謙譲語ではないということです。謙譲語ではない以上、「語尾」に注意が必要です。目上の人や顧客などの取引先の場合、「かたじけない」で終わらせてしまうと、場合によっては失礼に当たる可能性があります。ご注意ください。
武士語として若者の間で流行
「かたじけない」の特徴の1つは、「武士語」として若者の間で流行しているということです。「武士語」とは、古めかしく、かつ時代劇などで侍が使用しているような言葉を意味しております。
「武士語」は「かたじけない」の他、「けしからん」「よきにはからえ」など様々な意味の言葉がございます。現在ではやや堅苦しく聞こえる言葉ですが、若者の間では、SNSなどを通して、仲間内だけで使って、ある意味「言葉遊び」として流行っています。
武士語は「侍」語を集めた言葉ですが、「侍」言葉は礼を重んじる意味があるため、現在社会とは親和性が高い言葉で、人間関係の円滑さに一役買ってくれます。
詳しい「武士語」の例文は後述する「使い方」に譲りますが、「かたじけない」は「武士語」の中でもトップクラスの人気を誇る言葉です。
かたじけないの類義語
「かたじけない」の意味、語源、特徴を順を追って見てきましてが、「かたじけない」の類義語をここでご紹介いたします。「武士語」が流行していると先述しましたが、同じく古い語源を持ち、同じような意味を持つ語を類義語としてピックアップし、以下に紹介します。
類義語の中には現役で頻繁に使われている言葉もあります。以下の類義語をご確認いただき、「かたじけない」の意味付けをより明確にしていただければ幸いです。
類義語 有難いは感謝しているの意味
「かたじけない」の類義語の1つに「語源」で先述した「有難い」が挙げられます。よく平仮名で「ありがたい」とも書き、現在でも頻繁に使われている言葉です。
「有難い」は「有難し」が語源です。ではこの「有難し」を「有る」と「難し」に分けてどのような語源を持っていたのかを紹介いたします。
「有る」は現在でも使われている意味と同じ「存在する」の意味です。「難し」は古語で「難しい」という意味になります。つまり両者をつなげると「有ること(存在すること)が難しい」となり、「めったにない」「珍しい」という意味が語源になります。
「有難し」も「かたじけない」同様、古い語源を持つ言葉です。その使用を根拠づける文献として平安時代の女流作家、清少納言の随筆「枕草子」が挙げられます。「ありがたきもの。舅(しうと)にほめらるる婿。また、姑(しうとめ)に思はるる嫁の君」という一文が確認できます。
また、もう1つの文献として鎌倉時代末期、吉田兼好の随筆「徒然草」が挙げられます。「取りためけん用意ありがたし」という一文を確認することができます。このように「有難し」も「かたじけない」同様古い語源をもつ言葉であることが理解できます。
また「めったにない」「めずらしい」という意味の「有難し」は、発音の便宜(音便化すること)で、今日「ありがとう」という感謝の意味でも知られている言葉です。
「ありがとう」は漢字仮名交じり文で「有り難う」と書くことができ、現代の日本語でもっとも有名で人気のある言葉です。
類義語の忝有は恐れ多いの意味
「かたじけない」の類義語の1つに「忝有」という言葉が挙げられます。この「忝あり」は「かたじけあり」と表すことができます。「かたじけあり」は「かたじけない」をふざけて表現した遊び言葉のようなもので、意味は「かたじけない」と同じで「恐れ多い」という意味です。
「かたじけあり」は元禄時代(1688年〜1704年)に遊里で流行いたしました。当時の使用を根拠づける文献として浮世草子・浄瑠璃の作者、井原西鶴の「西鶴置土産」が挙げられます。「埴生 (はにふ) の小屋へのお立ち寄り、忝ありといふものぢゃ」という一文が確認できます。
また、浮世草子の作者、吉田半兵衛の「好色由来揃」でも「かたじけないはふるし。かたじけあるこそあたらしけれと、今様の若男末社まじりに噪き居る所へ」と記されています。
古くから「かたじけない」が使われていたことは「語源」で先述しましたが、その「かたじけない」をもじった「忝有」も江戸前期に存在していたことが理解できます。
類義語の勿体ないも恐れ多いの意味
「かたじけない」の類義語の1つに「勿体ない」という言葉が挙げられます。「勿体ない」は「かたじけない」の意味の1つにも数えられています。しかし、「勿体ない」もその意味に古い語源が存在する語です。
この「勿体ない」は「もったいなき」と表すこともできます。意味は「かたじけない」と同じで「恐れ多い」という意味です。現在でも「勿体ない(もったいない)」で使われている言葉です。
「勿体ない」の語源を紐解いていくと、まず「勿体ない」は「勿体」と「無い」に分けることができます。「勿体」は「威厳」や「重々しさ」を意味する語です。それを「無い」で否定することで、「不届き」であるという意味で使われていました。
「威厳ある存在」などが「不届き」であると批判する意味から、「自分には身分不相応である」「粗末に扱われて惜しい」「(神聖な存在が侵されて)恐れ多い」などの意味を持つようになりました。
「勿体ない」も「かたじけない」同様、当時の使用を根拠づける文献として鎌倉時代初期の作者不詳の説話集「宇治拾遺物語」が挙げられます。「あはれ、もったいなき主(ぬし)かな」」という一文が確認できます。
古くから「かたじけない」が使われていたことは「語源」で先述しましたが、その「かたじけない」の類義語「勿体ない」も江戸前期に存在していたことが理解できます。
かたじけないの使い方
では現在、「かたじけない」は実生活でどのように使うことができるのでしょうか?「かたじけない」は恐れ多いという意味をもった謙譲表現を有した言葉であることは先述しました。一方で古い日本の封建社会の身分制度を想起させる言葉でもあります。
「かたじけない」このように日本独特の表現であるが故に再注目されている言葉です。どんな使い方ができるかを下記にケース別に例文をご紹介しますので、ぜひ使い方をご参考いただければ幸いです。
例文①
「かたじけない」の使い方の1つの例文として、ビジネスシーンが上げられます。クライアントとの返事のやり取りの中で「かたじけない」が使われています。
A社から仕事の依頼を受注したB社。A社「納期はいそいでいないので、わかり次第ご連絡ください」B社は返事で「かたじけなく存じます」という表現が挙げられます。
この場合の「かたじけない」の意味は「感謝にたえない」という意味で使われていることが例文を確認して理解できます。
「かたじけない」は意味の中に謙譲表現はありますが敬語ではないことは「特徴」で述べました。上記のように、目上の方や顧客を相手方にした場合の返事は「かたじけない」で終わるのではなく、「かたじけなく存じます」などで文を終えてください。
例文②
「かたじけない」の使い方の1つの例文として、LineやTwitterでのSNSが上げられます。ちなみにSNSとは「し Social Network Service」の意味で頭文字をとって「SNS」と略称されています。そのSNSのやり取りの中で「かたじけない」が使われています。
A君からラインスタンプをもらったBさん。Bさんは返事で「かわいいスタンプ」A君「かわいがってやってください」Bさんは返事で「かたじけのうごじゃりまする」という表現が挙げられます。
この場合の「かたじけない」の意味は「感謝にたえない」という意味で使われていることが例文を確認して理解できます。
「特徴」でも触れたように、10代〜20代の若者は「かたじけない」を「武士語」として広く認識しており「かたじけない」は武士語ランキングでもトップクラスの知名度です。語尾の「ごじゃりまする」は武士の「ござりまする」をふざけて変化させて、返事を面白おかしくさせています。
例文③
「かたじけない」の使い方の1つの例文として、インターネットなどで自分の活動記録を綴る際の表現で使われることが想定できます。
ネット上で「今日は朝からビュッフェバイキング。ビールを片手にかたじけない。」など、周りはあくせく働いているのに自分は朝から贅沢してしまい、分を弁えずという謙遜が働き「かたじけない」という言葉で角が立たないようにオフィシャルで報告しています。
上記のシーンから推察すれば、この場合の「かたじけない」の意味は「恐れ多い」という意味で使われていることが例文を確認して理解できます。
現在はインスタグラムなど、写真映えするSNSが広く市民権を有しています。スマートフォンがあれば外食や旅行先のシーンを詳細に実況することができるわけです。今後このようなシーンで「かたじけない」と使う機会が増えて行く可能性があります。
このように、背景にある勤務時間という一般常識的を踏まえて、「かたじけない」という使い方も可能です。相手の行為に対する返事の意味合いよりは、自分の行為に対して「かたじけない」と使うことができるパターンです。
例文④
「かたじけない」の使い方の1つの例文として、不注意などで「かたじけない」を使う場面があげられます。この使い方は、先述した類義語でもあてはまらない使い方です。
会議などに遅刻するシーンを想定します。「自分の時間管理が甘くご迷惑をおかけしてしまい、かたじけないです。」と使うことができます。
この時の「かたじけない」は「面目ない」の意味で使っています。相手の叱責などに対して返事としても使えます。「面目ない」は合わせる顔がないという意味で、「かたじけない」が反省の意味で使うことができることが理解できます。
かたじけないを使う際の注意点
「かたじけない」の使い方の例文を見てきましたが、「かたじけない」を使う際の注意点はどこに有るのでしょうか?上記の例文でも触れてきたところで注意すべきポイントを以下にまとめました。
今後「かたじけない」のシーンに遭遇した際は上記の使い方の例文と下記で紹介する注意点を踏まえて、使用していただければ幸いです。
敬語表現の意味を持つが敬語ではない
「由来」「特徴」「使い方」でも先述しましたが、「かたじけない」はその意味の中に謙譲表現が含まれておりますが、「かたじけない」は自体は敬語の意味は含まれませんので使い方に注意が必要です。
例文の使い方でも先述しましたが、返事の際「かたじけない」の後に「かたじけないです」や「かたじけなく存じます」といった使い方をすることで、目上の方や顧客に対して礼を失さない表現となります。
「かたじけない」の後に「です」であれば、丁寧語になりますし、「存じます」であれば謙譲語になります。謙譲語は自分がしたことに対して謙り、相手を立てる意味があります。
上記の場合、「かたじけないです」の丁寧語の敬語表現より「かたじけなく存じます」という謙譲語の敬語表現の方が相手への強い敬語表現となります。
自分の行為でも使える言葉
「例文」でも先述したように「かたじけない」は返事のシーンだけではなく、自分の行為に対しても使うことができる言葉です。これは「かたじけない」は先述した謙譲表現をもつ言葉だからです。
謙譲語は基本、「いただく」「承る」など「自分の行為」に対して使うことができる言葉です。その観点から「かたじけない」は返事以外の自分の行為に対しても「恐れ多い」と謙遜を込めて使用することができ、言葉として汎用性があります。
相手がしてくれた行為に対して、返事として感謝や反省の言葉として謙遜を込めて表現する場面でもないのに「かたじけない」を使ったとしても間違ってはいないので、使用の際はご留意ください。
かたじけないは恐れ多いという意味
「かたじけない」の意味、語源、特徴、類義語、例文を用いた使い方、注意点を見てきました。「かたじけない」は「恐れ多い」という謙譲表現が語源となり、「感謝に堪えない」「面目ない」という意味へと派生していきました。
自分を謙り相手を立てるシーンは人間関係を円滑にする文化です。返事などの受け答えの際、「かたじけない」という言葉は日本で多くのシーンと親和性があります。本記事をして「かたじけない」の活用に役立てていただければ幸いです。