斟酌の意味とは?
「斟酌」という言葉の意味をご存知ですか?「酒の名前?」「記事で見た事がある」「意味も読み方もわからない」など、その意味までは詳しく知らないケースが多いです。
「斟酌」は、「しんしゃく」と読みます。確かに上記のように記事などで頻繁に目にする言葉で、昨今の政権と官僚の癒着などの問題でも話題になっております。
「斟酌」とは、「相手の心情を汲み取ること」「手加減や遠慮すること」という意味です。このような意味なので昨今の時事問題と密接に関わっていることが頷けます。
意味が分かれば、「斟酌」の言葉を目にするたびに先々の展開が予想でき、より深く文章を読解することができます。
今回はそんな「斟酌」について徹底紹介。「斟酌」の対義語と類語、使い方、忖度との違い、注意点、由来・歴史、英語表記、漢字表記について順に紹介していき、「斟酌」をマスターできるよう特集していきます。
斟酌の対義語・類義語
まずは「斟酌」の対義語・類語から。一体「斟酌」という言葉にはどんな対義語・類語が存在しているのでしょうか?
「斟酌」はその意味「相手の心情を汲み取ること」「手加減や遠慮すること」から、時事問題としての一過性の言葉の流行ではなく、常に私たちの生活に密接に関わりを持っている言葉です。
私たちの生活は「相手の心情を汲み取ること」「手加減や遠慮すること」が常としており、ビジネスで、家で、公共施設で、買い物先でとあらゆるシーンで人間関係を育んでいるからです。
そんな意味がある「斟酌」の対義語・類語を知ることは、「斟酌」の意味づけをより明確にするきっかけとなります。以下から「斟酌」の対義語・類語を紹介していきます。
対義語の存在
まずは「斟酌」の対義語から紹介していきます。ずばり「斟酌」の語の直接の対義語は存在しません。しかし、「斟酌」を「遠慮する」という意味に限定的に捉えれば、「無遠慮」という言葉が当てはまります。
「無遠慮」は「気兼ねせず、好き勝手に振る舞うこと」「深い思慮に欠けているさま」を意味しますので、「遠慮する」という意味の対義語にはあてはまります。
しかし「無遠慮」は「相手の心情を汲み取っている事」の意味の対義語には当てはまる語ではありません。「相手の心情を汲み取って」いても敢えて「無遠慮」に振る舞うことはあり得るからです。
酌量は同情的に扱う意味
次は「斟酌」の類語です。1つ目は「酌量」が当てはまります。類語「酌量」は「事情を汲み取って同情的な扱いをすること」を意味します。
現在でも「(情状)酌量の余地なし」という言葉でも頻繁に使われている語です。ただ、左記の例のように類語「酌量」をそのまま使うのではなく、「なし」という否定語を伴って使用する例が多いです。
容赦は手加減する意味
「斟酌」の類語の2つ目は「容赦」が当てはまります。類語「容赦」は「相手の事情を考慮して手加減すること」を意味します。
この容赦も現在でも「容赦しない」という言葉でも頻繁に使われている語です。ただ、左記の例のように類語「容赦」をそのまま使うのではなく、否定語を伴って使用する例が多いです。
また、類語「容赦」は「相手の心情を汲み取ること」の意味と「手加減や遠慮すること」の意味を合わせた意味であるという点も特徴的な語です。
斟酌の使い方・例文
では「斟酌」は実生活でどのように使うことができるのでしょうか?「斟酌」という言葉はその意味から私たちの日常生活において密接に繋がっている語なのは先述しました。今後も多くのケースで目にする言葉なので覚えておいて損はありません。
上記を踏まえて「斟酌」の例文を下記にケース別でご紹介しますので、その使い方をご参考いただければ幸いです。
例文①
「斟酌」の使い方の1つの例文として、会議などのビジネスシーンが上げられます。ミーティングなどで「斟酌」が使われています。
「彼のお客様を思う気持ちを斟酌して、来期の体制も現状のまま続行することにしよう」使い方において、上記のような例文が当てはまります。
例文②
「斟酌」の使い方の1つの例文として、得意先などのビジネスシーンが上げられます。打ち合わせの場などで「斟酌」が使われています。
「御社の意向を斟酌するほど甘くはないです」「〇〇さんの熱意を斟酌して今後も取引を継続したい」使い方において、上記のような例文が当てはまります。
例文③
「斟酌」の使い方の1つの例文として、雑談などのビジネスシーンが上げられます。同僚との何気ない会話などで「斟酌」が使われています。
「おまえの上司の気持ちも斟酌してやれよ」「あれこれ斟酌して気疲れしてしまうわ」使い方において、上記のような例文が当てはまります。
例文④
「斟酌」の使い方の1つの例文として、家での日常会話が上げられます。親族との何気ない会話などで「斟酌」が使われています。
「お父さんがあんたのことを斟酌して譲ってやったのよ」「弟にも斟酌して貸してあげてよ」使い方において、上記のような例文が当てはまります。
斟酌と忖度の違い
次に「斟酌」と「忖度」との違いについて紹介していきます。この「忖度」は先述したように「斟酌」に非常に似た意味の有名な言葉です。
ではどんな違いがあるのかを、以下「斟酌」「忖度」それぞれの意味をそれぞれ比較していきながら違いを説明していき、「忖度」の使い方を見ていきます。
忖度は相手の立場を推し量るという意味
まずは「忖度」をそれぞれ「忖」「度」に分けて、それぞれの語源を紐解いていき、「忖度」の意味の由来を探っていきます。
まずは「忖」。訓読みで「(はか)る・(おしはか)る)」と読む事ができます。他の漢字で当てはめると「推し量る」という語になります。「推し量る」とは「ある事柄をもとにして他の事柄の見当をつける」という意味です。
まずは「度」。訓読みで「のり・めもり・(わた)る・はか)る」と読む事ができます。手で物をはかる意味が語源になっており、転じて、「のり」、法則の意味が生まれました。
つまり、「忖」「度」の両者は同じ意味でつながり「忖度」という言葉として使われることになりました。忖度は「他人の気持ちを推し量ること」を意味しており、「推察」という言葉が代用することができます。
まずは「忖度」をそれぞれ「忖」「度」に分けて、それぞれの語源を紐解いていき、「忖度」の意味の由来を探っていきます。
まずは「忖」。訓読みで「(はか)る・(おしはか)る)」と読む事ができます。他の漢字で当てはめると「推し量る」という語になります。「推し量る」とは「ある事柄をもとにして他の事柄の見当をつける」という意味です。
まずは「度」。訓読みで「のり・めもり・(わた)る・はか)る」と読む事ができます。手で物をはかる意味が語源になっており、転じて、「のり」、法則の意味が生まれました。
つまり、「忖」「度」の両者は同じ意味でつながり「忖度」という言葉として使われることになりました。忖度は「他人の気持ちを推し量ること」を意味しており、「推察」という言葉が代用することができます。
斟酌には推し量る意味はない
これに対して「斟酌」とは、「相手の心情を汲み取ること」「手加減や遠慮すること」という意味ですので、「推し量り」「推察」が働いているわけではありません。
このような意味の違いから使い方が変わってきます。「斟酌」は例文で指し示したような使い方になりますが、「忖度」は「今後の弁明すべき成り行きを忖度して」という使い方になります。
上記の場合は「今後弁明しなければならないだろう成り行きを推察して」という意味にあります。その後には「うまく取り計らう」などの言葉が続きます。
このように「忖度」は官僚などが政権に対しての取り計らいの根回しをするなど、立場の弱い者が強い者の立場を推察し根回しする場合の表現の際に親和性がある言葉です。
斟酌を使う際の注意点
「斟酌」を使う上で気をつけなければならない点はどこにあるのでしょうか?先述で「斟酌」と「忖度」との違いを説明してきましたが、注意点はこの両者の意味の違いと関係していきます。
上記の点を踏まえて以下に「斟酌」を使う際の注意点をご紹介していきます。とても大切なポイントなので、実際に「斟酌」を使う際の参考になれば幸いです。
忖度という意味では使えない
「斟酌」は「忖度」の意味では使う事ができないことが大きな注意点です。「違い」で先述したように、「忖度」は相手の立場を推し量る事です。そこには「推察」という「見当をつける」という「予想」が働いています。
先述「違い」で紹介した例「今後の弁明すべき成り行きを忖度して」を再度見ていくと、「今後」「弁明」という未来に向かって「見当」をつける意味が「忖度」には含まれている事がポイントです。
よって上記の例に「今後の弁明すべき成り行きを斟酌して」と「斟酌」を当てはめて使用することは間違いです。「成り行き」などは心情とは関係ない事柄だからです。以下の由来で紹介しますが「斟酌」は「相手の心を酌む」という意味の語になります。
斟酌の由来・歴史
「斟酌」の意味、使い方、類語・対義語、忖度との違い、注意点がわかったところで、「斟酌」の由来はどこにあるのでしょうか?
「斟酌」は例文などでご紹介したように、ビジネスを始め、日常の多くのシーンで使う事ができる汎用性がある語です。そんな使い勝手のよい語なので、日本では古くから使用されてきた可能性も否定できません。
上記を踏まえて「斟酌」の語源と「斟酌」が日本で使われていた使用時期を辿っていき、「斟酌」の由来と歴史を探索していきます。
由来
まずは「斟酌」をそれぞれ「斟」「酌」に分けて、それぞれの語源を紐解いていき、「斟酌」の意味の由来を探っていきます。
まずは「斟」。訓読みで「斟む(くむ)」と読む事ができます。「液体を掬い取って容器に入れる」という意味、「酒をくみかわす」という意味が先立った語源です。そこから転じて、「事情・心情を推し量り考える」という意味が生まれました。
つぎに「酌」。この語も訓読みで「酌む(くむ)」と読む事ができます。この語は会意形成文字で酒を意味する偏の酉と、ひしゃくでくむ意味を持つ勺(読み方:シヤク)とから成り立っています。
上記の語源から「酌む」は現代でも使われている言葉「水をくむ」などで使われています。そしてこの意味から転じて、「事情・心情を推し量り考える」という意味が生まれました。
つまり「斟」「酌」は同じ意味であり、両者の漢字を組み合わせ、「相手の心情を汲み取ること」「手加減や遠慮すること」という意味を「斟酌」という表現として使われるようになりました。
語の由来が理解できたところで次に、「斟酌」は日本でどのくらいの前から使われていたのか?その使用時期の由来を辿ってみます。
歴史
上記の点を辿る資料として「斟酌」は過去の文献でも確認することができます。その1つ目は編者は未詳ながら、鎌倉時代の中期の作品である「十訓抄 」に見られます。下記の一説を紹介します。
「優の詞(ことば)も事によりてしんしゃくすべきにや」この文を現代語に訳すと「ほめことばも事によって事情をよくくみとって言うべきではないだろうか」となります。鎌倉中期は1185年から1333年頃なので、今から600年以上前には「斟酌」は使われていたことが確認できます。
「斟酌」の使用時期の由来を辿るその2つ目は小説家の幸田露伴が新聞「国会」に1891年(明治24年)に発表した「五重塔」という作品です。下記の一説を紹介します。
「此方の心が醇粹なれば先方の氣に觸る言葉とも斟酌せず推返し言へば」この文を現代語に訳すと「こちらの心がが一本気であるので、あちらの気に触る言葉ともためらうことなく返答すると」となります。今から約120年前にも「斟酌」が使われているのがわかります。
「斟酌」の使用時期の由来を辿るその3つ目は小説家の泉鏡花が雑誌「文藝春秋 1月号」に1932年(昭和7年)に発表した「菊あわせ」という作品です。下記の一説を紹介します。
「また全館のうち、帳場なり、客室なり、湯殿なり、このくらい、辞儀、斟酌のいらない、無人の境はないでしょう」今から約90年前にも「斟酌」が使われているのがわかります。
上記から「斟酌」は、少なくとも鎌倉時代から、現代では明治時代、昭和においても使用されていたことが理解する事ができます。
斟酌の英語表記
「斟酌」は日本語ですが、英語圏内においても使い方は一緒です。「The death penalty was reduced to imprisonment in consideration of mitigating circumstances. 」訳すと「死刑が情状酌量事由により無期懲役に減軽された」となります。
「斟酌」は上記にように 「in cosideration of」という語句で表現できます。「〜を考慮して」という意味で、「of」以下に斟酌した理由が述べられます。
斟酌の漢字
「斟酌」を一文字の漢字で表現する場合はどんな漢字が当てはめられるでしょうか?その漢字は「由来」で先述した「斟」と「酌」が当てはまります。
「由来」で先述した通り「斟酌」はそれぞれ、「斟む」「酌む」という漢字一語で表現できる語です。「彼の気持ちを酌んで〜する」などの用例は現在でも使われています。
文中で「斟酌」を意味を変えずに一語で表現する際には「斟」「酌」どちらかの言葉に送り仮名を入れて表現することができるので、覚えておくと便利です。
斟酌は心情を汲み取るという意味
「斟酌」の意味、類語、使い方、忖度との違い、注意点、由来・歴史、漢字表記、英語表記を順を追って見てきました。「斟酌」はその由来でも紹介したように「心情を汲む」ことを語源としている語です。
相手の心情を慮ることが人間関係を円滑にする上で大切なのは言うまでもありません。「斟酌」の使い方をぜひご参考いただき、より充実した対人関係を構築していただければ幸いです。