トレースの意味とは?
トレースという言葉はいろいろな分野で使われています。例えば、建築や設計といった製図を多用する分野、美術や音楽といった芸術の分野、登山やオリエンテーリングといった趣味の分野、探偵や犯罪捜査の分野、情報システムにおけるネットワーク技術の分野などでトレースはよく使われます。
様々な分野での使い方、その意味は実はバラバラで、トレースという言葉を日常使っている人にとってもぜんぜん違う使い方、違う意味だったりします。
一方、トレースという言葉を普段全く使わない人にとっては、トレースはあまり意味がわからなかったりするのではないでしょうか。そんなトレースという言葉の意味について、以下では様々な事例を交えながら説明していきます。
トレースの語源
トレースとは、英語の「trace」が語源です。英語の辞書によれば、トレースの語源は「通った跡、足跡、車のわだち」と行った意味や、「事件などの痕跡、形跡」といった意味、「さかのぼって調べること」といった意味などが挙げられます。
総合的に考えると、トレースとは物理的な「形跡」や、時間的、歴史的な「形跡」が語源である英語が元になっていると言えます。このことから、様々な分野、場面でちょっとずつ違う使われ方をすることが想像できます。後で例文を交えて紹介していきます。
トレースの特徴
トレースは、物理的な形跡を指している場合には、その形跡をなぞるという意味合いから使われるという特徴が考えられます。また、時間的、歴史的な形跡を指している場合には、さかのぼるという意味合いで使われるという特徴が挙げられます。それぞれの場合について例文を含め紹介していきます。
「なぞる」という意味
まず、なぞるというトレースの意味合いから特徴を見ていきましょう。例えば、建築や設計の分野で、もとの図面やもとの設計思想を「なぞる」という意味でトレースという言葉が使われます。
また、美術や音楽といった芸術の分野では、もとのイラストや写真などから線を抽出して「なぞる」という行為や、もとの旋律を「なぞる」という行為・意味がトレースという使い方で表現されます。
登山などでは、前の人が通った道を「なぞる」ことがトレースですし、ネットワークの分野では通信経路を「なぞる」「追跡する」という意味でトレースがよく使われます。
「さかのぼる」という意味
次に、さかのぼるという意味合いからトレースの特徴を見ていきます。一番馴染みがあるのは、犯罪小説や映画などにおいて、犯人の行動を「さかのぼって追跡する」という意味でトレースが使われることでしょう。
事件を解決するには、事件当日の状況をさかのぼって追跡していく必要があるため、トレースは重要な行動になります。事件捜査以外にも、例えばマーケティングなどのビジネス分野でも、消費行動をさかのぼって調べるという意味でトレースが使われることがあります。
トレースの英語表現
トレースは語源の部分で前述した通り、英語ではtraceです。英語のtraceは名詞としての使い方・意味、動詞としての使い方・意味があります。
それぞれのトレースの使い方・意味はこれまで説明したとおりですが、それ以外の意味もあります。以下では英語の語源的な部分を含め、それぞれのトレースの使い方について詳しく見ていきましょう。
名詞としての意味
名詞としてのトレースには、跡やわだちの意味、踏み固められた小道という意味、痕跡や形跡という意味、記憶という意味など、日本語の意味と同じものに加え、珍しいところでは「ほんの僅か」「少量の」という意味もあるそうです。
具体的なトレースの使い方としては、「a physical trace left by something」(何かが残した物理的な跡)、「vanish without trace」(跡形もなく消える)、「We could not find even a trace of the culprit」(犯人の形跡すらもなかった)など。
日本語ではトレースの意味としてあまり使われない「ほんの僅か」という表現としては、「There was a trace of resentment in his voice」(彼の声には僅かな憤りが感じられた)などがあります。
動詞としての意味
動詞としてのトレースは、語源的な観点からわかる通り、例えば「to trace letters」(文字をなぞる)などの「なぞる」という意味や、「trace a person by his footprint」(足跡をたどる)といった、追跡する・たどるという意味でよく使われます。
他にもトレースの使い方としては、「trace a call」(逆探知する)、「to trace something to its source」(なにかの根源までさかのぼる)、「We will trace 100 years of history」(100年前まで歴史をさかのぼる)、「to trace a man's career」(その人の経歴を探る)などがあります。
トレースの使い方
トレースの使い方についてはすでにいくつかご紹介してきましたが、他の使い方についても挙げていきます。文字通り何かをなぞるトレースから、足跡をたどるトレース、追跡や踏襲の意味でのトレース、ソフトウエア関連のトレースについて、それぞれ見ていきます。
例文①
例えば建築、電気などのビジネス分野の設計では、全くイチから新しいものを作ることはむしろ稀で、元となる設計思想や図面をある程度複製、追従して改良を加えていきます。「この部分は旧製品をトレースして」などと使うこともあります。
また、デザインなどの分野でも「ベースとなるコンセプトをトレースしつつ、もっと華やかなテイストを加えて」などのように使えます。実際の写真や線をなぞるだけでなく、テイストやコンセプトもトレースを使って「継承する」という意味で使うことも多いです。
例文②
登山の分野ではトレースはよく使われるようです。例えば、「トレースに沿って歩いていきましょう」と言われたら、先に歩いている人の足跡をたどっていきなさいという意味になるそうです。
雪山ではラッセル跡のことをトレースというそうです。トレースがない状態では、進むべき道がわからないため、ルートを見つける技術が必要になります。雪山初心者にとってはトレースは非常に頼りになる重要な道しるべということになります。
例文③
時間的にたどる、という意味でもトレースは使われますが、小説などでは犯罪捜査の場面で見ることが多いです。例えば「犯人の行動を時系列順にトレースしていってみよう」などと使います。
また、物流などのビジネスの分野でも、時間的にさかのぼる意味でトレースを使います。例えば「この荷物がどこで損傷したかをトレースしていこう」などのように、経路を追跡して原因を追究するような場合で使います。
他にもビジネスの分野で「やり方をトレースする」という使い方もできます。「やり手の先輩のやり方をトレースしてみる」「競合の戦略をトレースしてみよう」などのように使うことがあります。物理的になぞるだけでなく、方法や戦略もなぞるという意味でもトレースを使うことができるんです。
例文④
ITなどのビジネス分野でもトレースが使われる例がいくつかあります。例えばExcelには「参照元のトレース」などのメニューがあるように、たどっていくという意味で使われますし、他にもプログラミングの分野では「分岐先をトレースしてバグの原因を探す」などのように追跡の意味で使います。
また、ネットワークの分野では、接続ルートを手繰ることで様々な情報を得ることができます。このようなコマンドをtracerouteといいます。ネットワークを通った時間を算出したり、経由したルーターや端末を特定することができます。
トレースは「追跡する」「なぞる」「さかのぼる」という意味
トレースという言葉はそもそもが追跡する、なぞる、さかのぼるといった意味ですが、いろいろな分野での使い方にバリエーションがあって、例えばビジネス分野であっても、建築とITとでは受け取る意味が全然違ったりします。
語源としての英語の意味としては、名詞では跡、わだち、形跡などの意味に加え、ほんの少しという意味もありましたし、動詞ではなぞる、追跡する、さかのぼるという意味がありました。
先に述べた通り、設計分野での図面をなぞる意味、思想やコンセプトの踏襲、登山では先行者への追随、ビジネス戦略の模倣、IT分野での追跡など、意味やニュアンスは非常に多岐にのぼります。元の意味が限定的にもかかわらず、とらえ方に幅がある言葉は珍しいといえるでしょう。