「ひとまず」の意味とは?
「ひとまず」という言葉は何気なく毎日使っており、日常生活に必須な言葉であるといっても過言ではありません。ただ「どんな意味?」という問いに対してはあまり正確に答えられないものです。
「ひとまず」はビジネスシーン・プライベートシーンともに使われる語です。そんな頻繁に使っているが故に感覚的に意味を把握している節はあります。
「ひとまず」とは、「後の事はともかく。さしあたり」という意味です。意味を聞いてみても、あまりピンとこなかったりします。例文を示していくことではっきりと「ひとまず」という言葉を把握できるものだからです。
今回はそんな「ひとまず」について徹底紹介。「ひとまず」の類語、使い方、「とりあえず」との違い、注意点、由来・歴史、英語表記、漢字について順に紹介していきます。ピンとくるように「例文」をふんだんに使って「ひとまず」をマスターできるよう特集していきます。
「ひとまず」の類義語
まずは「ひとまず」の類語から。普段使っている「ひとまず」という言葉にはどんな類語が存在しているのでしょうか?
「ひとまず」はその意味「後の事はともかく。さしあたり」から、文章の中の言葉の機能として、本題に移すための橋渡しの役目を担っています。
そんな意味がある「ひとまず」の類語を知ることは、語彙力を高め、「ひとまず」の意味づけをより明確にするきっかけとなります。以下から「ひとまず」の類語を紹介していきます。
「現時点において」の意味
まずは「ひとまず」の類語です。1つ目は「差し向き」が当てはまります。類語「差し向き」は表題のように「現時点において」を意味します。
現在でも「その現場は差し向き、建設が困難になっていて、進行が止まっている」という言葉で使うことが可能です。ただ、「差し向き」という言葉自体古い表現で、使われることが少なく、「ひとまず」に比べ「後の事はともかく」というニュアンスはありません。
「今のところ」の意味
「ひとまず」の類語の2つ目は「差し詰め」が当てはまります。類語「差し詰め」は表題の「今のところ」や「さしあたり」を意味します。
この容赦も現在でも「差し詰め食べ物には困らない」という言葉などで使用することができ、「ひとまず」と意味が近しいニュアンスを持った言葉です。ただ、「差し詰め」上記の意味の他に「行き詰まってしまうこと」や「直接かかわること」「結局」という意味も存在しています。
「差し詰め」は多義語なのでなかなか使用するには利便性がある言葉ですが、多義語故に誤解が生じやすい面もある語です。「今の差し詰めの意味はどんな意味で言ったのか?」と疑問に思われることも少なくありません。
「一時的に」の意味
「ひとまず」の類語の3つ目は「いったん」が当てはまります。類語「いったん」は表題の「一時的に」を意味します。
この容赦も現在でも「いったん帰宅してまた来ます」という言葉でも頻繁に使われている語です。ただ、類語「いったん」も左記の例だけではなく、「ひとたび」や「もし〜なら」という意味も存在する多義語です。
また、類語「いったん」は「一旦」と書きますが、「片端」意味では「一端」、「一度ため息をつくこと」では「一歎」と「同音異義語」でもあり、「ひらがな表記」は、多義語も合わせ、意味に広がりがあり、場合によっては解釈に誤解を招く恐れがあります。
「ひとまず」の使い方・例文
では「ひとまず」は実生活でどのように使うことができるのでしょうか?私たちの暮らす生活は、さまざまな出来事が目まぐるしく変化しています。
そんな取り巻く状況の中で、「ひとまず」はその意味で、ビジネスシーン、日常生活、習い事などさまざまなシーンで使う事ができる言葉です。
「ひとまず」という言葉は日常生活において汎用性がある語なので、今後も馴染み深い言葉として身近な存在であり続けます。特にビジネスシーンでは「ひとまず」を使用する場合はその実用性を鑑みて、併せて大切になってくる表現は「敬語表現」です。
「敬語表現」は「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」を状況に合わせて使い分けていく必要があります。つまり相手方との「関係性」が「敬語表現」においては大切になってきます。
上記を踏まえて「ひとまず」の例文を下記にケース別でご紹介しますので、その使い方をご参考いただければ幸いです。
例文①
「ひとまず」の使い方の1つの例文として、会議などのビジネスシーンが上げられます。ミーティングなどで「ひとまず」が使われています。
「ひとまずこの企画は採用の運びとなったのでほっとしました。あとは具体的な調整を図りながら、事の運びを見守っていきます」このような営業ミーティングで「ひとまず」という用語の使い方が想定できます。
先述のように、このビジネスシーンには敬語が使われています。丁寧語「ました」「ます」という敬語が使われている事がわかります。
例文②
「ひとまず」の使い方の1つの例文として、メールなどのビジネスシーンが上げられます。相手方に送るメールなどで「ひとまず」が使われています。
「この案件はひとまず弊社内に持ち帰らせていただきまして、後日その対応をご報告させていただきます」このような営業メールで「ひとまず」という用語の使い方が想定できます。
このビジネスシーンの敬語表現としては、敬意表現である「弊社」、謙譲語「いただき」、丁寧語「ご報告」「ます」という敬語が使われている事がわかります。
例文③
「ひとまず」の使い方の1つの例文として、打ち合わせなどのビジネスシーンが上げられます。クライアントとの商談などで「ひとまず」が使われています。
「この企画の趣旨をご確認していただくために、ひとまずたたき台を作成し、再度伺わせていただく所存です」このような打ち合わせの際「ひとまず」という用語の使い方が想定できます。
このビジネスシーンの敬語表現としては、敬意表現である尊敬語「ご確認」、謙譲語「いただき」「伺う」「所存」、丁寧語「です」という敬語が使われている事がわかります。
例文④
「ひとまず」の使い方の1つの例文として、自宅でのプライベートシーンが上げられます。家族や恋人との会話などで「ひとまず」が使われています。
「ひとまずここ片付けておいたんで、後でしっかり配置し直して」このような何気ないシーンで「ひとまず」という用語の使い方が想定できます。このプライベートシーンは身内側だけでのやりとりなので、特段敬語として表現する必要はありません。
「ひとまず」と「とりあえず」の違い
使い方を一通り紹介したところで、次は「ひとまず」と「とりあえず」との違いについて紹介していきます。この「とりあえず」は「ひとまず」に非常に似た意味を持つ有名な言葉です。
では両者の意味にどんな違いがあるのか?「ひとまず」と「とりあえず」の言葉の意味と例文をそれぞれ比較していきながら、以下にてその違いを説明していきます。
「とりあえず」は「なにはさておき」の意味
「とりあえず」は「なにはさておき」「まず第一に。他のことはさしおいて」を意味する語です。対して「ひとまず」は「後の事はともかく。さしあたり」を意味しています。
上記を比べてみるとはっきり言ってよくわかりません。微妙なニュアンスの問題だからです。ですので例文を使って比較していきます。
先に「とりあえず」から。「とりあえずビールもらえる?」「何か緊急な用事があると困るから、とりあえずお金だけ渡しておくね」「とりあえず必要になる備品だけとりそろえた」などがあげられます。
次は「ひとまず」です。上記「使い方」の例文の他に「ひとまず帰って報告するわ」「ここはひとまず静観して様子をみてみよう」
ここで注目すべきポイントは「とりあえず」は「行動が途切れていない」ことに対して、「ひとまず」は「行動に対して一旦区切りをつけている」ところです。「とりあえず」はシーンが「同じまま」であることに対して、「ひとまず」はシーンが「変わり」ます。
「ひとまず」を使う際の注意点
「ひとまず」を使う上で気をつけなければならない点はどこにあるのでしょうか?「ひとまず」は「後の事はともかく。さしあたり」という意味があることが先述しました。実はこの意味と注意点は関係性があります。
上記の点を踏まえて以下に「ひとまず」を使う際の注意点をご紹介していきます。ビジネスなどの実用に直結大切な部分なので、実際に「ひとまず」を使う際、先述の「使い方」と一緒に参考になれば幸いです。
完成形では使えない
「ひとまず」を使う上で注意すべきポイントは「完成形」では使う事ができないことが大きなポイントです。というのは「後の事はともかく。さしあたり」という意味には、「十分ではないが」という意味も含まれているからです。
例えば、「ひとまず納品いたします」などの場合、納品先からは「じゃ、この納品で終わったわけではないのだな」と認識いたします。後日なんのアクションもないと、納品先からは「あの時、ひとまずって言ったでしょ」とクレームや対応を求める連絡が来るはずです。
このように「ひとまず」は「完成された形」で終わらせる際に使う言葉ではありません。たしかに使いやすい語ではありますが、「後の事はともかく」と一旦「なにかを後回しにしており、十分ではないが」というニュアンスがあるが故に「後にそのフォローがある」ことを意味する言葉でもあります。
「ひとまず」の由来・歴史
「ひとまず」の意味、類義語、他の語との違い、使い方が理解できたところで、「ひとまず」の由来はどこにあるのでしょうか?
「ひとまず」は例文などでご紹介したように、ビジネスシーンやプライベートなどでも頻繁に使っている言葉です。そんな利便性ある言葉なので日本では古くから使用されてきた可能性があります。
上記を踏まえて「ひとまず」の語源と「ひとまず」が日本で使われていた使用時期を遡っていき、「ひとまず」の由来と歴史を深堀していきます。
由来
まず「ひとまず」はどんな由来をもっているかを紐解いていきます。「ひとまず」は「ひと」と「まず」に分けて意味を分解することができます。「ひと」は「ほんの少し」という意味です。「まず」は「ともかく。何はともあれ」という意味です。
つまり「ひとまず」で「ちょっとだけ、ともかく」となり「あとのことはともかく。さしあたり」という意味となりました。
歴史
上記の点を辿る資料として「ひとまず」は過去の文献でも確認することができます。その1つ目は小説家の芥川龍之介が、1922年(大正11年)「良婦之友」に発表した「三つの宝 」に見られます。
次の一説から確認できます。「主人(なだめるように)まあ、あなたなどは御年若なのですから、一先御父様の御国へお帰りなさい」
「ひとまず」の使用時期の由来を辿るその2つ目は小説家の森鴎外が「ホトトギス」に1913年(大正2年)に発表した「護持院原の敵討」という作品です。下記の一説を紹介します。
「りよは小笠原邸の原田夫婦が一先引き取ることになった。病身な未亡人は願済の上で、里方桜井須磨右衛門の家で保養することになった」となります。
この2人の偉大な先人の文献から、「ひとまず」は今から約100年前の大正時代には使われていたことが確認できます。
「ひとまず」の英語表記
英語圏では「ひとまず」はどのように表現できるのでしょうか?英語では「ひとまず」を表現するには、いろいろな表現方法があります。
まずは英語イディオムの「for the time being」が上げられます。「watch guietly for the time being(ひとまず静観する)」「lay it down for the time being(ひとまず伏せておく)」などの英語表現をする事ができます。
または、別な英語イディオムの「for the present」が上げられます。「Let's leave it like that for the present.(ひとまずそうしておこう)」と英語表現をする事ができます。
さらに、別な英語イディオムの「for now」が上げられます。「Bye for now.(じゃ、またね)」と英語表現をする事ができます。
上記の英語表現はいずれも文章の語尾に英語イディオムが接続する形になるので、簡単で便利な使い方です。英語を日常で使う際は是非ご参考いただければ幸いです。
「ひとまず」の漢字
「ひとまず」を漢字表記するとどのような漢字があてられるのでしょうか?「ひとまず」は日常ではひらがな表記で使われるととが多い言葉ですが、場合によっては「漢字」に出会す可能性も否定できません。
「ひとまず」の漢字は「一先ず」となります。まずは「一」。この語は指示文字で、訓読みで「一(ひと)」「一つ(ひとつ)」と読む事ができます。横線一本で数のはじめの意味が語源です。そこから「由来」でご紹介した「すこし」「わずか」という意味が生まれました。
次は「先」です。この語は会意文字で二字以上の漢字を組み合わせて一つの意味を成す文字のことを指します。「先」は儿と、之(読み方:し)(足あと)とから成り、人よりもさきだつ意味が語源です。転じて「由来」で紹介した「ともかく」「なにはともあれ」という意味が生まれました。
「ひとまず」は「さしあたり」という意味
「ひとまず」の意味、類語、使い方、「とりあえず」との違い、注意点、由来・歴史、英語表記、漢字を順を追って見てきました。「ひとまず」はその由来でも紹介したように「ちょっとだけ、さしあたり」を語源としている言葉です。
他の類語や「とりあえず」との違いなど、ニュアンスのちょっとした違いが難しさを感じる言葉である「ひとまず」ですが、意識しなくても感覚的な使い分けが案外できている言葉でもあります。臆せずに「ひとまず」をご活用していただければ幸いです。