「悦に入る」の意味とは?
「悦に入る」という言葉、その多くは小説や映画などで使用されていますが、どのような意味があるかご存知ですか?使用されている文脈からなんとなく意味を推測できるかもしれませんが、正しい意味を知っている方は少ないです。
この記事では「悦に入る」の意味、使い方・例文、語源や類語を解説していきます。「悦に入る」という言葉をなんとなく知ったつもりになっていた方も、この記事で正しい意味を理解しましょう。
また、似たイメージの言葉である「悦に浸る」との違いも解説していきます。似た意味の言葉ではありますが、その違いを理解して上手に使い分けましょう。正確な意味を把握することで、ボキャブラリーを増やすことができます。
「悦に入る」は「満足して喜ぶ」という意味
「悦に入る」という言葉、これは「えつにはいる」と読んでしまうことが多いですが、正確には「えつにいる」と読みます。普通の読み方であれば「はいる」と読んで大丈夫ですが、「悦に入る」という言葉の場合は「いる」と読みましょう。
また、「悦に入る」という言葉は「事がうまく運び、満足して喜ぶ。」という意味を持つ慣用句です。「悦に入る」の「悦」という字には「心の中の不安が消えて、喜ぶ」意味があります。
つまり「悦に入る」は、他の誰かと一緒に喜ぶ様子ではなく、一人で心の中に満足感を得て喜んでいる状態を表現した慣用句です。何かが自分の思っていた通りうまくいき、その様子に満足して喜んでいる状態の時にぴったりです。
「悦に入る・悦に浸る」の対義語・類義語
「悦に入る」はどちらかといえば普段あまり使うことがない表現です。ですが、「内心満足して喜んでいる」という状態を表したいときは誰しもあるでしょう。そんな時に役立つ「悦に入る」の類語を解説します。
また、「悦に入る」とは逆の状態を表すための「対義語」も解説していくので、会話や文章のボキャブラリーのひとつとして役に立ててください。
類語①
「悦に入る」の類語一つ目は「ほくそ笑む」です。「うまくいったことに満足して、一人ひそかに笑う。」という意味があります。
この「ほくそ笑む」の「ほくそ」は「北叟(ほくそう)」を言い、故事「塞翁が馬」に出てくる「塞翁」を指しています。
「塞翁は喜憂いずれに対しても少し笑った」という故事から、喜びに対して大きく笑うのではなく小さく笑うことを「ほくそ笑む」というようになりました。
類語②
「悦に入る」の類語二つ目は「愉悦」です。「心から喜び楽しむこと」という意味があります。「愉悦を覚える」「勝利に愉悦する」といった使い方が主な例文です。
愉悦の「愉」には「わだかまりがなく心が軽い、楽しい」という意味があり、「心から喜ぶ」という意味の「悦」と合わせることで「何の不安もなく、心から喜び楽しむ」という意味になります。「悦に入る」をさらに強めた言葉と言っても良いでしょう。
類語③
「悦に入る」の類語三つ目は「堪能する」です。意味は「十分に満足すること」又は「納得すること」です。この言葉は「足る(たる)」という言葉が変化した「足んぬ」(満ち足りること)という言葉が語源であり、音変化と当て字によって生まれた単語です。
「悦に入る」の類語となるのは「納得する」の部分が当てはまります。つまり、誰かの評価や誰かの基準ではなく「自分の基準で自分が納得している」点が重要であり、人の基準ではない、自分の物差しで得る深い喜び指しています。
また「堪能」は「たんのう」「かんのう」の二つの読み方があり、「かんのう」は仏教用語で「その道に精通しているもの」という意味になるので使い方には気をつけましょう。
「悦に入る・悦に浸る」の対義語
「悦に入る」には明確な対義語がありません。なので、類語に対する対義語をひとつご紹介します。類語「愉悦」の対義語「懊悩」です。「おうのう」と読み、「悩み悶えること」を意味しています。
「愉悦」が「心から喜び楽しむこと」という意味であり、心が軽い状態であるのに対して、「懊悩」は心がずっしりと重く、悩みの種がいくつもある状態だと言えるでしょう。
「悦に入る・悦に浸る」の使い方・例文
ここからは「事がうまく運び、満足して喜ぶ」という意味がある「悦に入る」の使い方を、例文と共にご紹介していきます。聞きなれない言葉である「悦に入る」の使い方のイメージを、例文を見ながら掴んでいきましょう。
また、「悦に入る」は「悦に浸る」と同じように用いることができます。例文の「悦に入る」部分を「悦に浸る」と置き換えて使用してみてください。
例文①
「悦に入る」の使い方、一つ目の例文です。「仕事で行ったプレゼンがとても上手く行ったようで、彼は悦に入った様子で座っていた。」
「悦に入る」は自分の心の内での喜びを表現する言葉ですが、相手を客観的に見たとき「満足気に喜んでいる」様子を表現する場合にも使うことができます。この例文の場合、仕事が上手くいき満足気な同僚の様子を客観的に表しています。
例文②
「悦に入る」の使い方、二つ目の例文です。「あのときは、ビジネスが上手くいったと思いひとり悦に入っていた。」
「悦に入る」という言葉、本来「満足して喜ぶ」という意味ですが、現在会話や文章の中で用いられる場合あまり良い意味の使い方はされません。どちらかといえば、自分に酔っているような意味に捉えられがちです。
言葉の意味自体にそのようなニュアンスがないとしても、受ける印象というのはその言葉の使い方によって変化してきます。その点を考慮することも大切です。
例文③
「悦に入る」の使い方、三つ目の例文です。「彼女はわざと悦に入ったような表情をして、私に笑いかけた。」
「悦に入る」という言葉を比喩表現に用いた例です。「悦に入ったような表情」は、言葉の意味から「満足気に喜んでいるような表情」と言えます。なので、「悦に入ったような表情」を「満足気な表情」としても大差なく使うことができる例文です。
「悦に入る」と「悦に浸る」の違い
「悦に入る」という慣用句には「事がうまく運び、満足して喜ぶ」という意味がありましたが、巷では「悦に浸る」という言葉も同じような意味の言葉として耳にする事があります。
実はこの「悦に浸る」という言葉、本来正しい言葉ではないんです。「悦に入る」と「喜びに浸る」という言葉がいつしか混同され、「悦に浸る」と誤用されたまま広まりました。
ですが、現在では「悦に浸る」は「悦に入る」よりもよく使われる言葉として広まっています。誤用されたまま広まってしまいましたが、現在は「転用」という位置付けで辞書に記載されている場合もあるので、あえて間違いを指摘する必要はないでしょう。
「悦に入る」の語源
「悦に入る」という言葉の語源は、言葉の中に使われている「悦」という漢字に詰まっています。「悦」という漢字は「心」と「兌」が合わさって成り立っており、「悦」の意味の語源は「兌」に由来しています。
「兌」は「ダ」と読み、様々な意味の中の一つに「変える、取り替える」という意味があります。これに「心」を表すりっしんべんが合わさることで、「心を変える、心を取り替える」という直訳から少しずつ派生がおきました。
「心を変える」から「不安な気持ちを変える」「不安な気持ちを取り替える」となり、最終的には「心の中から喜ぶ、不安がなくなり心から喜ぶ」という意味になったのです。
「心の中から喜ぶ」という意味の「悦」に合わせ、「入る」という言葉がついていますがこれにもしっかりした意味があり、語源となってます。
「入る」には「内に収めること」「外から中へと移ること」を指す言葉です。このことから、「悦」で表した「心の中から喜ぶ」状態が内側で起こることだということが表現されているのです。
それぞれの言葉が語源となり、「悦に入る」は「事がうまく運び、満足して喜ぶ。」という意味になりました。「悦に入る」という言葉が、誰かと分かち合う喜びよりも、一人しみじみ噛みしめる喜びであることがよくわかる語源です。
「悦に入る・悦に浸る」は「満足して喜ぶ」という意味
いかがでしたでしょうか。この記事では「悦に入る」という言葉の意味・使い方と例文、類語と対義語、語源、「悦に浸る」との違いを解説してきました。
「悦に入る」は「えつにいる」と読むこと、同じく使用される「悦に浸る」という言葉は元々誤用だったことなど、ご存知ないことも多かったのではないでしょうか?
「悦に入る」という言葉の本来の意味は「満足して喜ぶ」でしたが、現在はその使われ方によって自己陶酔的なニュアンスが含まれます。そのようなことを理解した上で、語彙のひとつとして「悦に入る」を使ってみてください。