「鬼籍」の意味とは?
「鬼籍」とは亡くなった人の名前や命日等が記録された帳簿・リストのことを意味します。読み方は「きせき」です。実際に「鬼籍」が使用される際には、「鬼籍」という言葉だけ使用されることは少ないです。
「鬼籍」の使い方ですが、実際の使用時は慣用表現の形で使われることが殆どで、「鬼籍に入る」という表現が用いられます。ちなみにこの「鬼籍に入る」の「入る」の読み方は「はいる」ではなく「いる」である点に注意が必要です。
「鬼籍」の対義語・類義語
「鬼籍」という言葉が「亡くなった人の情報について登録されたリストや帳簿(のようなもの)」を意味し、また「鬼籍」という言葉を用いた「鬼籍に入る」という表現が「人が亡くなったこと」を表す為の使い方をされる点について説明してきました。
なお、この「リスト」や「帳簿」は、あくまで死者が存在する世界が前提となっている言葉ですから、現実の世界において存在している帳簿を指す表現ではありません。
ここでは「鬼籍」「鬼籍に入る」とは逆の意味で使用される言葉、つまり対義語と、「鬼籍」「鬼籍に入る」とほぼ意味を同じくする類義語について紹介していきます。
「鬼籍」や「鬼籍に入る」の対義語
「鬼籍」「鬼籍に入る」は死そのものや、死にまつわる事柄、また死者のリストや帳簿という意味で用いられることはここまでに述べてきました。加えて「鬼」という漢字が使われていることから、「鬼籍」という言葉そのものがどこか怖いイメージを抱かれがちです。
「鬼籍」「鬼籍に入る」という言葉の由来がどのようなものであったかについて気になる人もいるかもしれません。「鬼籍」の由来や歴史についてはこの記事の後半で詳しく説明することにします。
命の終わりを意味する死に対し、この世に新しく生まれてくる命が当然存在します。ここでは死にまつわる事柄についての表現である「鬼籍」とは反対の意味、「生」を表す「鬼籍」「鬼籍に入る」の対義語について紹介していきます。
誕生する
「鬼籍」「鬼籍に入る」という言葉が死を迎えることや、それに関連する事柄を表現するのに対し、「誕生」「誕生する」という言葉は「人が生まれること」という命の誕生を表す言葉です。
元々は人間や動物の生命としての誕生ということが由来ですが、「新しいものが生み出される」の意味として、例えば「新たな政権の誕生」や「新たな金メダリストやチャンピオンの誕生」のような物事の新たな一歩という意味での使い方もあります。
生存している
「鬼籍」「鬼籍に入る」が死そのものや、死にまつわる事柄を表すのに対し、「生存」や「生存している」という言葉は今まさにこの世で生きている状態、この世に命がある状態を表します。
「死者の世界に魂が飛んで行った」状態の「鬼籍に入る」に対して、「今の世でま命がある状態」を「生存している」と表現します。人が生きているかの確認する行為を「生存確認」と呼びますが、この言葉は「生存」という言葉で最も頻度が高い使い方の一つと言えます。
「鬼籍」や「鬼籍に入る」の類義語
「死」や「人が亡くなったこと」は一般的に直接的な言い方(「死んでしまった」等)での言及は避け、なるべく婉曲的に表現することが好まれます。ここからは類語について、どのような言葉や表現があるのかに複数例文を挙げながら一つ一つの類語表現について紹介していきます。
冥土へ行く
冥土とは人が亡くなった後に死者の魂が行くとされる世界のことです。読み方は「めいど」です。死者の世界における「リスト・帳簿」という意味の「鬼籍」との意味の関連性で考えると、最も身近な類語表現の一つと言えます。
また冥土は「あの世」という言葉でも表現される機会が多いです。「まだあの世に行くには早いよ!」とか、「冥土の土産に…」なんて会話がされるのを聞いたことがある人もいるでしょう。周囲の人にも比較的通じやすい類語表現と言えるのではないでしょうか。
三途の川を渡る
「三途の川を渡る」という慣用表現も、人が亡くなった時に使用される表現で、「鬼籍に入る」の類語表現です。「三途の川」の元々の意味は、人が亡くなると、亡くなってから7日目に渡ると言い伝えがある川のことです。
「三途」という名前が付いている理由は、この川には水の流れの速さが違う3つの瀬があり、死者が生前にどのような行いをしているかにより、渡る場所が変わってくることから、この名で呼ばれるようになったと言われています。
生前の行いが良かった人は金銀等丈夫な材料で造られた橋を渡り、軽微な罪を犯した人は山の上に位置する浅瀬を渡ったと言われています。そして重罪を犯した人は川の麓にある深くて速い流れを難儀しながら渡って行ったと言われています。
不帰の客となる
また「不帰の客となる」という表現も、死を婉曲に表す使い方として良く目にする慣用表現で、「鬼籍に入る」の類語表現です。読んで字の如く、「不帰の客=帰らざる客=この世にはもう戻ってこない、亡くなった人」という意味としてよく使われます。
神に召される
「神に召される」とは主にキリスト教で使われる表現で、これも「亡くなる」を意味しますので「鬼籍に入る」の類語表現の一つと言えます。キリスト教においては、「死=神のもとに召される」であり、死はまた永遠の命の始まりであるとの考え方がされています。
「神に召される」という言葉は直接的な「死」というイメージを和らげて、あくまで別の世界に安らかに旅立っていく柔らかいイメージに変えて伝えることが可能になるという意味で、汎用性の高い類語表現と言えるでしょう。
「鬼籍」「鬼籍に入る」の使い方・例文
「鬼籍」「鬼籍に入る」の正しい意味に加え、対義語や類語表現についても複数例文を挙げて説明してきました。ここからは更にこの表現の使い方について理解を深めるために、「鬼籍」「鬼籍に入る」の具体的な使い方を、例文を用いて説明していきます。
例文①
「先日届いた高校時代の同窓会名簿を見たら、当時の同級生数名が既に鬼籍に入っていたことを知り、衝撃を受けた。」
昔の同級生や知り合いが既に亡くなっていてショックを受けた、衝撃を受けたといったことを表現する際に「鬼籍に入る」が使われています。「死」という事実を表現しなければいけないものの、直接的な表現ではなく婉曲に表したい際に便利な使い方です。
例文②
「友人のお父さんは癌で長い間にわたって闘病生活を送っていたが、残念なことに昨日の夜鬼籍に入られた。」
こちらも「鬼籍に入る」という言葉で友人の家族の死を表現しています。「鬼籍に入る」という言葉を、使う相手が友人の父で目上の人なので「鬼籍に入られた」という表現で敬語表現に近い形にする使い方もできます。
例文③
「当時の事件の関係者がここ数年で相次いで鬼籍に入り、当時の状況やことの真相を直接知る人はもういなくなってしまった。」
過去に起きた事件がまだ未解決の状態であり、どうにか事件の真相を解き明かして解決したいという願いはありつつも、当時の関係者はもう皆この世にはいない…という状態を説明する際にも「鬼籍に入る」という表現で表すことができます。
「鬼籍」「鬼籍に入る」を使う際の注意点
「鬼籍」「鬼籍に入る」という言葉は、死について言及する際に直接的な表現を避け、婉曲に伝えたい際に非常に便利な表現です。しかし、「鬼籍」「鬼籍に入る」の意味を正しく理解せずに間違った使い方をしてしまうと、読み手は話し相手に対して誤解を与えてしまう可能性もあります。
ここでは、「鬼籍」「鬼籍に入る」という言葉を使う際に注意た必要な点について具体的な例文も用いながら説明します。
「鬼籍です」という表現では使えない
「鬼籍」という言葉が亡くなった人の行く世界における「死者のリスト・帳簿」を意味する点についてはここまでの文章で説明してきました。しかし注意しなければいけないのは、この「鬼籍」は死にまつわる言葉ではありますが、あくまで「死者の帳簿」の意味である点です。
従って、例えば「私の母は亡くなりました」と表現したい際に「私の母は鬼籍です。」といった使い方は間違いという訳です。「私の母は鬼籍です。」だと「私の母は帳簿です。」と言っているのと同じような意味となってしまいます。
あくまで「鬼籍」は、亡くなった人のリスト・帳簿です。従って「私の母は亡くなりました」と言う際の「鬼籍」の正しい使い方は「鬼籍に入った」、もしくは「鬼籍の人となった」という表現にして使う点に気を付けましょう。
「鬼籍」「鬼籍に入る」の由来・歴史
ここまで「鬼籍」という言葉の意味や類義語、使い方や例文について紹介してきました。「鬼籍」という言葉の意味について知ったところで、次はそもそも「鬼籍」という言葉はどのような由来があり、どのような歴史的背景を持って生まれたのでしょうか?
「鬼籍」という漢字の持つ意味についてやその由来にも触れながら、また元々この漢字が古くから使われていた中国ではどのような歴史的背景を持って生まれた言葉なのかにも言及しながら説明していきます。
由来
「鬼籍」の由来とされているのは、死者が行く世界の閻魔大王が所有する閻魔帳であると言われています。閻魔大王は死者がやってくると、その死者が極楽へ行くのか、あるいは地獄へ行くのかを決める存在で、その際に閻魔帳の内容を参考にするのです。
この閻魔帳に何が記録されているのかというと、死者の名前や命日に加え、生前の行いにまで及ぶと言われています。閻魔大王は閻魔帳を確認して死者の行先を決定しますが、この閻魔帳の別名が「鬼籍」なのです。「鬼籍」の由来はまさにこの閻魔帳という訳です。
閻魔帳に登録されるのは死者=亡くなった人ですから、閻魔帳に登録される=亡くなる意味となります。閻魔帳=鬼籍の意味ですから、「鬼籍に入る」という言葉が「亡くなる」という意味を持つようになったのです。
歴史
閻魔帳の別名が「鬼籍」であることはこれまでに述べてきた通りですが、ではなぜ死者の情報が記録される帳簿たる閻魔帳に、「鬼」という感じが入ることになったのでしょうか?
これには「鬼」という漢字の歴史が関連しています。古くから「鬼」の漢字が使用されていた中国では、「鬼」は「いわゆる日本の昔話に登場する鬼」の意味では用いられません。「鬼」は漢語で「亡くなった人」を意味し、ひいては「死者の魂」を意味するようになりました。
また「鬼籍」の「籍」の漢字がリスト、登録簿という意味を持ちます。従って「鬼籍」という言葉はすなわち「死者の登録簿」→「亡くなった人のリスト」を意味することとなります。
「鬼籍」「鬼籍に入る」の英語表記
「鬼籍」の意味や「鬼籍に入る」の実際の使い方についてこれまで説明してきました。では、「鬼籍に入る」=「亡くなる」という意味を英語で表記したり、実際に英語の会話の中で用いるにはどのような使い方をすれば良いのでしょうか?
pass away
「鬼籍に入る」は元々、「死ぬ、死んでしまった」ということを丁寧に、婉曲に表現した言い方です。英語で「死ぬ」を意味する言葉は「die」ですが、これを婉曲に表現するには「pass away」という言葉を使います。
例えば、「私の祖父が鬼籍に入ってから、5年が経っています。」を表すには「It has been five year sincee my grandfather passed away.」という使い方をします。
be killed
「be killed」も「亡くなる」という意味を表す英語ですが、この英語は元来は「殺される」という意味の受け身を表す表現です。「死に至ることになった何かはっきりとした原因がある」という状況で、「死ぬ原因によって殺される、亡くなる」という意味を表します。
例えば、「The precident was killed by traffic accident.」で「その大統領は交通事故で亡くなった。」という意味となります。
be gone
上に挙げた2語と比較すると目にする機会は少ないものの、「be gone」という表現も「死ぬ」を婉曲に言い表す英語表現です。この英語を日本語に直訳すると「いなくなった」という意味ですが、この英語が示す真の意味は「この世にはいない」ことを指します。
例えば、「I'm really sorry to say that she is already gone.」という英語は、「こう言わなければならないのはとても残念ですが、彼女は既にこの世にはいない(亡くなっている)」という意味となります。
英語をの文章を構成するひとつひとつの英語の単語からだけではなかなか推測しづらい意味に思えますが、「be gone→行ってしまった→もうこの世から旅立ってしまった」というように考えると、解釈がしやすいのではないでしょうか。
「鬼籍」「鬼籍に入る」は「人が亡くなりあの世へ行く」という意味
この記事では「鬼籍」「鬼籍に入る」の正しい意味からこの表現ができるに至った歴史や由来に始まり、類語表現の紹介や例文を用いた具体的な使い方についても紹介してきました。
毎日平穏な生活を送っているつもりでも、月日が経つにつれて避けて通ることができないのが「周りの人の死」です。周りの人の死に言及する際に、婉曲的な表現が望ましい場面でうっかり直接的に表現してしまうことで恥をかくことは避けたいものです。
「鬼籍」の正しい意味や由来、歴史について理解を深め、関連する類語表現とともにいざという時にスマートに使えるようにしておきましょう。