私事の意味とは?
私事とは、「個人に関わる私的なこと」や「一身上の事柄」という意味です。ビジネスを始めとするオフィシャルな場面において、公ではない、自分の個人的なことについて言及する際に使われる言葉です。
上で述べた「個人的な事、一身上の事柄」という一般的な意味に加え、私事という言葉は、あまり他人には明かしたくない(離せない)個人的な秘密や秘め事という意味でも用いられることもあります。
しかしビジネスを含む公の場では、「私事」という言葉は主に「ビジネス等に直接関係のない、一個人としての行動や出来事、また家族に関すること」を意味することが一般的です。「私事」は公の場での畏まった会話や改まった場面で使うことが可能です。
私事の由来
「私事」という言葉の由来についてですが、これにはまず「私事」の読み方について触れておく必要があります。「私事」には「わたくしごと」という読み方と「しじ」という読み方の2通りの読み方があります。「私事」の意味の由来はこの「わたくしごと」から来ていると言われています。
「わたくしごと」に使われている「わたくし」という言葉は、江戸時代初期から「自分」を表す一人称の丁寧語として使われるようになりました。しかし、「わたくし」は元々、公の反対語として「内内に」「内向き」の意味で古くから使われていたようです。
例えば平安時代に著された『源氏物語』にも、「内内のこと(内部のこと、家のこと)」という意味で「わたくし」という表現が使われていました。ゆえに「わたくし」という言葉は「家のこと、内内のこと」という意味で古くから使用されていたと推測されます。
また、「私事」の読み方が「わたくしごと」という読み方と「しじ」という読み方の2通りが存在することは上でも触れましたが、どちらも意味の上では全く違いがありません。「わたくしごと」と読んでも「しじ」と読んでも意味は全く同じです。
「私事」というのは公の場で自分自身のことを指すというのは勿論ですが、この際の「私事」とはビジネスの場等、あくまで「その場に関係のないこと全般」が含まれるので、場面によっては「私事」が自分自身だけではなく自分の家族や、ひいては関係する第三者も含むケースもあります。
このような場合「わたくしごと」の読み方だと、自分自身のことだけを指しているようにも受け取られる可能性もあり、相応しくないケースも考えられるので、「しじ」の読み方も使われるようになったと言えます。
ただ「しじ」という読み方は、「指示」「支持」「師事」と全く音が同じですので、話し言葉の場合、読み方で違う「しじ」と聞き間違えられ、誤解されるというケースも考えられます。そのため、話し言葉で用いる際には前後の文脈に気を付ける等、使い方にも注意が必要です。
私事の特徴
ここまで「私事」という言葉の意味や由来について説明してきました。ところで「私事」という言葉の使い方にはある特徴があります。それは「私事」が使われる場面は、圧倒的にビジネスに関わる場面が多いことです。
「私事」の具体的な使い方については後ほど例文を用いながら詳しく説明していきますが、ビジネスの世界では「公」と「私」を分ける必要があるという特徴があります。よってビジネスシーンでは敢えて「私事=わたくしごと」であることをはっきりさせたい場面で使用されます。
「私事」の英語表現
「私事」の意味や由来、またその言葉が表す特徴についてここまで説明してきました。主にビジネス等の公の場における個人的な事柄について言及する際に用いられる言葉ですが、グローバル化の時代、「私事」について言及する際に英語表現が必要な場面も出てくるでしょう。
ここでは「私事」を説明する際に使用できる英語表現について紹介していきます。英語表現についても知っておくことで、英語でのビジネスシーンでもきちんとこちらの事情を説明できるようにしておくことも大切です。
先に述べた通り、「私事」とは主にビジネスの場面で敢えて「私事=わたくしごと」であることをはっきりさせたい場合に使う言葉です。例えビジネスが英語で行われる場面であっても、英語できちんと「私事」であることを説明できることはビジネスパーソンとしては不可欠なことです。
personal leave
例えば、「私用での休暇」と言いたい時に使用するのは「personal leave」という表現です。「personal」が「個人的な、プライベートな」という意味を表しますので、この言葉が「私用で」というニュアンスを表します。
ちなみに「私用で休暇を取得する」は「take a personal leave」と表現します。「take」が「(休暇等を)取得する」という動詞で、そして「leave」は「出発する、離れる」の意味で動詞として用いられることが多い語句ですが、この場合は「休暇」を表す名詞としての使用になります。
personal matter
また、「personal matter」という表現は「個人的な事柄、プライベートな事柄」という意味となります。「personal matter」で「私事」という使い方ももちろん可能ですが、この「personal matter」はより「個人的な事柄」という意味が強いニュアンスです。
例えば「家族の用事で」というような比較的当たり障りの少ない事柄を表現することもできますが、よりデリケートな事柄、具体的には不倫や離婚をしたとか家庭内のトラブルとかあまり他人に触れられるのが好ましくないような事柄を暗に含んで「personal matter」と表現されることもあります。
言い換えると「personal matter」はあまり他人に理由を詮索されたくない、さりげなく事を察してもらう際に仕える便利な表現とも言うことができるでしょう。逆に相手の話に「personal matter」という言葉があった場合には、それ以上の無駄な詮索をすることはタブーと言えます。
「私事」の使い方
これまで「私事」という言葉の意味や由来に加えて、グローバルなビジネスシーンで必要な「私事」の英語表現についても説明してきました。日本語でも英語でも、ビジネスシーンで自分の個人的な事情を説明する際の言葉の使い方を知ることは、ビジネスパーソンとして欠かせません。
ここからは具体的な例文を用いて「私事」の使い方を確認していきます。ビジネスシーンでスマートに「個人的な事情=私事」を伝えられることはとても大切です。ここで正しい使い方を覚えておきましょう。
例文①
「私事で恐縮ですが来月の5日に、子供の参観日と懇談会があるので、有給休暇を取得させていただきたいのですが」
個人的な事情や用事のために、職場で有給休暇や遅刻・早退の申請をする際に使われる例文です。「私事」という言葉は話し言葉としても用いられますし、またメールや文書等での書き言葉としても用いることができます。
またこの例文には「子供の参観日と懇談会」とありますが、私事(=わたくしごと、個人の事情)には自分自身のことだけではなく、自分の周りの家族の事情等も含めることが可能です。現に子供の病気や親の病院付き添い等で休暇を取った経験のある方もいるのではないでしょうか?
例文②
「私事で大変恐縮なのですが、その日は義父の3回忌法要で帰省する予定がありますので、来週の土日の休日出勤ができません」
業務上の都合で休日出勤を打診されたものの、その日に既に法事や結婚披露宴等の冠婚葬祭があったり、その他どうしても外せない個人的な用事があって休日出勤を断りたい場合にも「私事で恐縮ですが」という使い方ができます。
特に日本ではまだまだビジネスの都合は私用よりも優先されるものという考え方の職場もあったりしますが、ビジネスよりも優先されなければならない私用(特に冠婚葬祭や家族の事情等)もあるでしょう。そのような場合にも「私事で恐縮ですが」はとても便利な表現です。
例文③
「私事で恐縮ですが、この度結婚することになりました。お相手は学生時代から交際を続けていたゼミの1学年先輩の方です。つきましては披露宴への出席をお願い致したく、ご報告させて頂きます。」
職場の上司に結婚報告と結婚披露宴への出席を依頼する際の例文です。「結婚」というのは確かに個人的な事柄・イベントではあるものの、結婚でそれまでの働き方に変化を及ぼすこともあるので、私事とは言えビジネスにも影響を及ぼすイベントであるとも言えます。
従って、ビジネスシーンとは言え、ビジネスに関連する人々(例:職場の上司、同僚、場合によっては社外の取引先等)に然るべき形で報告をして、今後も関係がスムーズに運ぶようにするということも大切なことです。
例文④
「私事で大変申し訳ございませんが、7/6~10まで夏季休暇を頂きます。こちらの都合で大変恐縮なのですが、〇〇の契約に関するご相談・打ち合わせの日程を7/13以降で調整させて頂きたく、ご検討をして頂けますでしょうか?」
取引先の担当者にこちらの休暇のため、アポイントの日程の調整をお願いする際の使い方です。上司や同僚と言った社内の関係者と比べ、取引先等の社外の関係者に対してはこちらの私事都合でスケジュールを調整してもらう際にはより丁重なお願いが必要となります。
自分の個人的な事情の「私事」は一見、ビジネスには全く無関係という印象ですが、個人の「私事」によるスケジュール変更がビジネスにおける関係者に影響を及ぼすことはよくあることです。それゆえ、きちんと事情を明かした上で相手に極力迷惑を掛けないような配慮が必要です。
「私事」の注意点
ここまで「私事」の意味や由来についてや、例文を用いながら具体的な使い方について説明してきました。また「私事」が使われる場面は圧倒的にビジネス場面が多い点についても触れましたが、では「私事」を用いる際に使い方に注意が必要な点はどのような点があるのでしょうか?
次の章では「私事」という言葉を使って話をする際に気を付けなければならない点について説明し、またシチュエーションによっては他の類似表現を使う方が良い場面についても紹介していきます。
「私事」についての話はタイミングに気配りが必要
言うまでもありませんが、ここまでにも述べてきた通り、「私事」はあくまで「個人に関わる私的な事柄」です。結婚や妊娠等、個人にとっては一大イベントであっても、あくまで仕事とは直接関係のないプライベートな事柄=私事なのです。
従ってビジネス=「公の場」では、周囲の人に話を切り出す際にはタイミングやシチュエーション等に気配りが必要です。仕事の関係者に報告する際には就業時間中は避け、就業時間外に時間を作ってもらい報告を行う、内容によっては別室で伝えるようにする等の配慮が大切です。
退職の報告をする際には、「私事」よりも「一身上の都合」が一般的
「私事」はビジネス(=公の場)で使用されるケースが多いことは既に述べましたが、ビジネス上における「私事」には結婚や妊娠というイベントに加えて、目にする機会が多いのは実は「退職」にまつわる使い方ではないでしょうか?
退職ということとなると、直属の上司に対して退職の意思報告をすることに始まり、業務の引継ぎや仕事で関わった社内・社外の関係者への報告・挨拶、最後には「退職の挨拶」という形で全体に対してBCCメールで挨拶を済ませるという手順が一般的です。
退職も私事の一つですから、挨拶の文面には「私事で恐縮ですが」という使い方でも間違いではありませんが、退職に関わる報告の際には、「私事で恐縮ですが」の代わりに「一身上の都合で〇月〇日をもちまして...」という表現の方が普遍的です。
「私事」は「個人的な事情」という意味
この記事では「私事」の意味、由来、具体的な使い方についての説明に加え、グローバルビジネスに対応する際に必要な英語表現での「私事」についても説明してきました。目にする機会が比較的多い「私事」ですが、その言葉の正確な意味や由来については案外知らない方もいたのではないでしょうか?
学生のうちであれば多少の言葉遣いの間違いや礼を失することも見逃してもらえたこともあったでしょうが、社会人としてビジネスの場に身を置くようになった以上、やはり正しい言葉遣いやマナー、気配りについて心得ておくことは必要であり、常識とされることです。
いざ自分が「私事=個人的な事情」について公の場で報告しなければならないとなった際に慌てたりすることのないよう、日頃から公の場でどのように振る舞うべきか、どのような言葉選びをするべきかについてきちんと調べて習得する習慣を今のうちに身に着けておきましょう。