「略儀ながら」の意味とは?
社内文書やメール、またお歳暮やお中元のお礼等で目にする「略儀ながら」とは、「本来とるべき正式な方法を略した形式ですが」または「本来とるべき手段の省略をしておりますが」という意味です。
この「略儀ながら」が用いられるシチュエーションとしては、お礼をしたり取り急ぎの連絡をしたりとコンタクトを取りたい相手が遠方にいる場合や、また多忙等の理由で直接会って話すことができない場合等です。
代表的な使い方としては、「略儀ながら取り急ぎ書面にてご挨拶とさせていただきます」のように使います。近年では手紙や会社間の取引文書で使われるのに加え、メール等でも使われるようになってきています。
「略儀ながら」の使い方としては、ビジネス上では契約書を受け取った際の受領報告や、お中元・お歳暮のお礼を伝えるためとして、また日常生活では季節や年末年始の挨拶、お礼、お詫び、お祝い、お悔やみを伝える目的で「略儀ながら」が使われる機会が多いです。
「略儀ながら」の由来
「略儀ながら」はビジネスシーンや日常生活上のお付き合いに至るまで、季節の挨拶、お礼、お詫び、お祝い、お悔やみに至るまで様々な使い方ができる表現であることを説明してきました。では「略儀ながら」という言葉は由来はどのような点にあるのでしょうか?
「略儀ながら」の文字を見たまま品詞分解すると「略儀」+「ながら」で構成されている言葉です。「略儀」は漢文で言う書き下し文で表現すると「儀を略す」と記せますが、これは「本来とるべき儀礼的な正式な手続きを、何某かの理由で簡略化して表現すること」を意味します。
つまり、「略儀ながら」の意味は、「略式」という表現と同意であると言えます。「ながら」は接続助詞ですが、「略儀ながら」の形で使用する際は、前後で内容が矛盾している二つの要素を繋ぐ働きをしています。「〇〇ではありますが」という表現に言い換えると理解しやすいでしょう。
以上のことから「略儀ながら」という言葉は、「本来取るべき正式な手続きと比較すると簡略化したやり方となりますが」すなわち、「正式な方法とは異なりますが」という、いったん相手に断りをいれるクッション言葉のような意味となります。
「略儀ながら」の特徴
一見、使いづらそうな表現に思える「略儀ながら」ですが、「略儀ながら」の表す意味やその言葉の由来を知ると、意外に汎用性の高い表現であると感じた方もいるのではないでしょうか?本来はこうするべきだけど、差し当たりはということを表現したい時には重宝します。
ここからは「略儀ながら」の表現の持つ特徴や、具体的な書面やメールにおける使い方について、似たような用法で使用される他の表現との違いについて触れながら、順を追いながら説明していきます。
幅広い使い方が可能!
「略儀ながら」は「本来取るべき正式な方法や手続きを略した方法ですが」と一言断りを入れる表現です。これとよく似た使い方で登場する機会の多い言葉が「取り急ぎ」です。「取り急ぎ」は「取り敢えず急いで〇〇させて頂きます」という意味の言葉です。
この2つの表現はどちらも「取り敢えず〇〇させて頂きます」という意味合いを持つという点では共通していますが、実際にこれらの表現を使用した後に、その後の対応で相手から求められる内容が異なるという点では用途が違います。
「取り急ぎ」という言葉には「取り敢えず今は急いで〇〇させて頂きます(連絡しますという使い方が多いです)が、後で改めてお礼をさせて頂いたり、改めてご連絡させて頂きます」という意味が込められています。従って、後で相手に対してフォローを行うことが求められます。
これに対して「略儀ながら」は直接会って話せない相手に対して、「略儀ながらご連絡させて頂きます」の形で使われますが、再度連絡を入れたり、実際に直接会って話をすることは求められません。つまり、実際に会ったり、連絡を入れる予定がなくても使用可能です。
従って、後から相手へのフォローが必須である「取り急ぎ」と比較して、「略儀ながら」は後でメールでお礼やフォローをしたり、直接会ったりできるか見通しが立たない場合でも使用できるので、「略儀ながら」の方がより汎用性の高い表現だということができます。
「略儀ながら」の類義語
ここまでで「略儀ながら」が季節の挨拶やお礼状、お詫び状として手紙やメールなどの書き言葉を中心に使われている旨を説明してきました。「略儀ながら」の他にも同じ意味や似たような意味で手紙やメールで用いられる言葉があります。
「略儀ながら」の類義語にはどのような言葉があるのでしょうか?ここからは「略儀ながら」の類義語として季節の挨拶やお礼、お詫びを伝える際に使用できる表現を、例を挙げながら紹介していきます。
失礼ながら
読んで字の如く、「失礼ながら」は「こう申し上げるのは失礼ということは承知しておりますが」という意味の言葉です。「略儀ながら」の「本来は〇〇すべきですが」の意味と「失礼ながら」の「こういうのは失礼だけど」の意味とはどちらも逆接表現である点で似ています。
自分がこれからやろうとしていること、言おうとしていることは礼を失することはわかってはいるけど、それでもやらなければならない、言わなければならない、という際に使われる表現です。
例えば「(上司に対し)失礼ながら、今期の営業利益が赤字なのに、新規事業に手を出すのは無謀だと思います」というような使い方が可能です。上の例文のように目上の人に対しては言いづらいことでも、敢えて言わなければならない場面での使用が想定されます。
不躾ながら
「不躾ながら」は主に自分の行動や発言に対して使う表現です。本来「不躾」という言葉が、「礼儀をわきまえていない」「無作法」を意味するので、「不躾ながら」という表現になると、「とても失礼で申し訳ございませんが」と自分の行動をへりくだる意味となります。
この表現を使うことが自分をへりくだること=謙譲表現となるので、目上の人に対しても使用することが可能です。目上の人に対する言葉遣いで「こういうことを言うと失礼になるのではないか?」と迷う場面でも、問題なく通用する使い方です。
「不躾」は一般的には話し言葉としての使い方が多いですが、メールや手紙など、書面でやりとりされる機会も多く、書き言葉としての使い方もよく見られます。
略式ながら
略式ながらは、やはりビジネスの文書や手紙、メール等の書面でよく使用される表現で、本来は直接伺ってご挨拶・お礼をするべきところを、とりあえず手紙や書面でご挨拶やお礼を申し上げますという意味合いで使われます。
ただ、この「略式ながら」はのニュアンスは「略儀ながら」と比較した場合には若干ニュアンスに違いがあります。「略儀ながら」が畏まった印象を与えるのに対して、「略式ながら」はやや軽いフランクな印象を与えます。
ゆえにビジネスシーン等で使用を考える際にも、より改まった正式な場面や自分より目上の方や取引先の相手に対して使う際には、「略式ながら」よりも「略儀ながら」を用いるようにする方が良いでしょう。
「略儀ながら」の使い方
これまで「略儀ながら」の意味や由来、またどのような時、どのような状況で使うのかについて説明してきました。ビジネスシーンにとどまらず、日常生活での挨拶や冠婚葬祭に関わる場面にも使用できる、極めて汎用性の高い言葉ということができるでしょう。
ここからは実際に「略儀ながら」をどのような使い方で用いるかについて実際の例文を使い、いざという時に実践に役立つように具体的な「略儀ながら」の使い方について説明していきます。
例文①
「ご結婚おめでとうございます。お2人の今後のご活躍とご多幸をお祈り申し上げます。略儀ながら取り急ぎ、メールにてお祝いと不参のお詫びを申し上げます。」
結婚する人へのお祝いを表す際の「略儀ながら」の例文です。本当はお祝いに駆け付けたかったという気持ちがあったにも関わらず、遠方に住んでいたり、諸事情で結婚式等に参加できず、直接お祝いに行けない場合にメールで祝意を伝える使い方です。
例文②
「この度は〇〇様の訃報に接し、急なことでただただ驚いております。ご遺族様のご心痛はいかばかりかと存じます。本来であればすぐにでも駆け付けさせていただくべきところ遠方のため叶わず、略儀ながら書中をもってお悔やみを申し上げます。」
知人の訃報に接し、お悔やみの気持ちを伝える例文です。結婚等のお祝い事とは異なり、訃報は突然に来るもの。遠方に住んでいる、仕事が外せない等の理由に加えて高齢のためすぐには駆け付けられない等の事情もあるでしょう。
そのように直接弔問ができない場合にも、訃報を受け取ったらいち早く遺族にお悔やみの気持ちを伝えたいものです。「略儀ながら」はそのような場合に取り急ぎ電報等の書面を用いてお悔やみを述べたい際に使うことができます。
例文③
「この度は弊社の設備トラブルにより納品が遅れてしまう件につき、御社に対して多大なご迷惑をおかけ致しますこと大変申し訳ございません。追ってお詫びに直接お伺いさせて頂く所存ですが、略儀ながらまずは書面にてお詫びを申し上げます。」
得意先から受注した製品が納期に間に合わないことが発覚し、謝罪を伝える際の例文です。正式には後日得意先へ直接出向き、改めて謝罪をしなければいけないにせよ、まずは書面で第一報の報告とお詫びをする際の使い方です。
言うまでもなく自分達の落ち度により相手に迷惑をかけるケースでは、とにかく迅速な対応が必要となります。例えすぐに相手の元に出向いてお詫びができなくとも、まずは書面で至急「略儀ながら」お詫びを伝えることが何よりも求められる場面での使い方です。
例文④
「この度人事異動により、4月1日付でサンフランシスコへの赴任が決まりました。〇〇様には大変お世話になりまして厚く御礼申し上げます。後日引き継ぎも兼ねて後任の人間を伴い正式にご挨拶に伺う所存ですが、略儀ながらまずは書面にてご報告させて頂きます。」
長く付き合いのある取引先に対し、人事異動で担当を離れることになった旨を報告する例文です。自分が担当を外れてからもスムーズな取引を続けていくためにも、相手に対する挨拶と報告は欠かせないものです。ビジネスを円滑に進めていく為に覚えておきたい使い方です。
「略儀ながら」の注意点
ここまで「略儀ながら」の使い方について例文を用いて説明してきました。「略儀ながら」は非常に使いやすい表現ですが、使うにあたっては注意が必要な点があります。「略儀ながら」を使う際に気を付けるべきポイントについて説明していきます。
「略儀ながら」は結びの表現として用いる
「略儀ながら」という表現は一般的に挨拶状やお礼状、お詫び状等の書簡におけるの結びの表現です。「略儀ながら」は「本来行うべき礼儀を何かの都合で敢えて省略して」という意味を表し、その手紙やメールにおける文章の最後を締めくくるいわゆる定型句の役割をしています。
そのため、「略儀ながら」という表現は基本的には文末で使用される表現であり、文の冒頭や本文中で使われる表現ではありません。
「略儀ながら書面にてご挨拶させていただきます。この度は結構なお品を頂戴いたしまして、ありがとうございました」等と冒頭の挨拶で「略儀ながら」を用いるのは誤った使い方ですので、気を付けましょう。
「略儀ながら」は書き言葉として用いる
「略儀ながら」は「本来のやり方を省略したやり方ではありますが」を表す意味ですが、一般的にはメールや挨拶状、お礼状と言った書面上で、文字でしたためられる「書き言葉」として使われます。
「略儀ながら」をスピーチ等で話し言葉として使用するのも間違いではありませんが、聞き手にかなり堅い印象を与えてしまいます。「略儀ながら」と同じ意味を話し言葉で表現したい場合は、「簡単ではございますが」のような表現が一般的です。
例えば結婚式のスピーチや乾杯の挨拶等で「簡単ではございますが、以上をもちまして私からのお祝いの言葉とさせていただきます」という使い方がしっくりくるでしょう。
「略儀ながら」は「本来の方法を略しておりますが」という意味
本記事ではビジネスシーンや、日常生活におけるお付き合い等で使用機会の多い「略儀ながら」について、言葉の意味や由来、類義語や類義語との使い分け方や、実際の使い方について説明してきました。
「略儀ながら」という言葉には何となく難しいイメージがあってなかなか今まで使用したことがなかった人もいたかと思いますが、一旦適切な使い方をマスターすれば、書面で挨拶、お礼やお詫びをすることができ、とても便利な表現ということがおわかり頂けたのではないでしょうか。
然るべき場面で正しい日本語をきちんと使いこなせる人は、ビジネスに置いても普段の生活においてもそれだけで「きちんとした人だ」という印象を周囲に与えることができます。是非この機会に正しい使い方をマスターし、普段の仕事や生活に役立てていきましょう。