損益通算とは
損益通算とは、所得税計算において一定の期間の内に発生した利益と損失を相殺させる事です。個人の所得に対してかかる所得税は、発生した利益(プラスの数字)に対してかかります。
株式などで損失(マイナスの数字)が出た場合には、その利益と損失の額を正しい順序に沿ってたし合わせて相殺させる損益通算を行う事によって、確定申告をするときに、所得税を節税することが可能です。
一定期間内の利益と損失を相殺
一定期間内での上場株式・不動産などでの投資を行って出た譲渡利益や配当が発生した場合、その利益の額に所得税がかかりますが、一方で損失を出してしまった場合には発生した利益額から出てしまった損失額を差引いて、その分だけ税金を減らすことが可能です。
発生した利益額と出した損失額を計算して、合計がマイナスの額になるようであれば確定申告を行う事で最長で3年間繰り越してマイナスの額を所得税がかかる所得から控除することもできます。
損益通算・節税可能な所得
全ての所得で損益通算ができるわけではありません。対象の所得の金額を足し合わせて損失が出た場合に、それらの所得で損益通算の計算を行い、支払う所得税の節税をすることが可能です。事業所得・不動産所得、総合課税の譲渡所得、山林所得の3種類の所得について説明いたします。この3項目の所得が損益通算の計算の対象となる所得です。
①事業所得・不動産所得
事業所得・不動産所得は損益通算のができる所得の対象です。損益通算をして確定申告で所得税を抑えることができます。
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人が行った事業によって得られた所得の事です。ただし、不動産の貸し付けや、山林の譲渡によって得られた所得は事業所得とはならずに、それぞれ不動産所得、山林所得となります。
不動産所得とは、土地や建物などの不動産の貸し付けや、地上権(他人の土地の上で工作物を所有するために土地を使用する権利)など不動産の上にある権利の設定や貸し付け、船舶や航空機の貸し付けで得られる所得の事です。事業所得、譲渡所得に該当するものは除きます。
②総合課税の譲渡所得
総合課税の譲渡所得とは、土地、建物、ゴルフ会員権、株式以外の資産を譲渡することによって得られる所得の事です。そしてそれらの資産を売ったときに得られた所得は、給与所得や事業所得などの所得と合わせて総合課税の対象となります。総合課税とは、該当するいくつかの所得を合算して所得税を計算する制度です。
譲渡所得には、総合課税の譲渡所得とは別に株式などにかかる申告分離課税があります。上場株式などにかかる申告分離課税の譲渡所得はその他の所得と合わせて損益通算できません。申告分離課税の上場株式における譲渡で発生した損失は、その年の他の上場株式譲渡の利益や配当所得の金額のみで損益通算することが可能です。
③山林所得
山林所得とは、山林を伐採して譲渡したり、立木のままの状態で譲渡することによって得られる所得の事を指します。ただし、山林を取得してから5年以内に伐採したり譲渡を行った場合には山林所得とはならずに、事業所得または雑所得になります。山林を山ごと譲渡する場合の土地の部分は、譲渡所得に分類されます。
損益通算・株で損したら確定申告!
損益通算・株で損が出たら正しい順序で確定申告をしましょう。株の売買などでは損失が出ることもあります。そして利益が出れば、得られた所得に対して所得税がかかってしまいます。株で利益が出た人はもちろん確定申告が必要ですが、損した人も確定申告をした方がいいでしょう。損益通算をして確定申告をすることで所得税の節税が可能です。
確定申告をする事で節税出来る
損益通算は所得税計算で、不動産・事業・譲渡・山林所得における赤字と黒字を定められた順序で相殺させることです。損益通算を行う事によって、確定申告をするときに全体で支払う所得税が少なくなるため、節税の効果があります。
ただし上場株式などの申告分離課税のかかる譲渡所得では、株式などにかかわる譲渡所得以外の所得とは損益通算をすることができません。上場株式などでの譲渡損失については、同じ申告分離課税を選択した上場株式の譲渡、配当金とであれば損益通算や繰越控除を行う事が可能です。
上場株式の譲渡損失計算例
上場株式での譲渡で損失を出した場合ですが、仮に1つの株式の譲渡で出た利益が50万円あったとします。通常はこの50万円に一定の税率をかけ税金が徴収されます。一方その他の株式で50万円の損失が出ていたら株式での利益は0ですが、先に出た利益の50万円にかかった税金は残ります。つまりこのまま放置していれば税金の分だけマイナスとなってしまいます。
ここで損益通算を行ない、出した利益と損失を相殺させて確定申告をすれば、利益0にかかる税金はもちろん0となるので先の50万円にかかって徴収された税金は全額還付金として戻ってきます。実際に損益通算をすることでどのくらいの金額が戻ってくるのでしょうか。税率をかけて計算してみましょう。
所得税を含めた税率20.315%
上場株式の配当金額にかかる税率は所得税の税率15%を含めた20,315%です。先ほどの計算例に出した株式での配当利益50万円に20,315%をかけると、101,575円という金額になります。損益通算をして確定申告をさえすれば、およそ10万円という金額の税金を抑えることができます。
損益通算・特定口座利用時の確定申告
証券会社などで株式などを売買する時に、特定口座を開設します。特定口座とは、株式などの金融商品の取引によって発生した譲渡損益などの計算を、銀行・証券会社等の金融機関が個人に代わって行ってくれる制度でで、確定申告がしやすくなります。
特定口座には「源泉徴収ありの特定口座」と、「源泉徴収なしの特定口座」の2種類あり、源泉徴収ありの口座を選べば基本的には個人での確定申告は不要になります。初心者の投資には非常に便利な特定口座ですが、損益通算で損失があった場合は、確定申告を行なった方が有利になる事があります。
損益通算できる譲渡損失がある
譲渡損失がある場合は確定申告をすることで所得税の節税が可能です。先の項目で説明したように、確定申告をしなければ株式の売買で出た損失は無視して利益にだけ税金がかかり続けます。損失が出ている場合は損益通算を行なうことで利益と損失を相殺させて、節税することができます。
もしここで利益額と損失額を相殺させてマイナスが残った場合は、その損分を確定申告をすることで翌年以降3年間にわたって繰り越すことも可能です。株式で100万円投資して配当が10万円だと損益通算をすれば、90万円の損失となり税金は0円です。
翌年にその株の配当金が30万円でると、確定申告で繰越控除を行なわなければ30万円に税金がかかってしまいますが、繰越控除を行なえば前年の90万円の損失と損益通算を行う事ができ、節税が可能です。
譲渡損失を繰越控除する場合
対象の所得で譲渡損失があった場合は、その年の他の通算可能な所得の金額と損益通算を行ないます。損益通算しても控除しきれない損金は、その次の年から3年間は確定申告をするときに不動産・事業・譲渡所得などで得られた所得金額より控除することができます。
繰越控除をする場合には、次の年に譲渡損失を繰り越すために継続して確定申告をしなければいけません。3年間で不動産や株式などの譲渡を行なわなかった場合でも損失を繰り越したい場合は、3年間毎年継続して確定申告を行なう必要があります。
源泉徴収のある特定口座・確定申告不要
株などの投資で利益が出たら、確定申告をしなくていけません。ですが特定口座を開設する際に、源泉徴収ありの特定口座にしておくと、確定申告が不要になります。源泉徴収ありの特定口座であれば株式を取引している証券会社が利益を振り込む際に、利益にかかる税金を天引きします。
特定口座には、源泉徴収ありと源泉徴収なしと種類が2つありますので、源泉徴収なしの特定口座だと利益を得たときは自分で確定申告をする必要があります。証券会社の中には特定口座を開設する際に、源泉徴収なしの口座を開設できない場合もあります。
損益通算・順序
損益通算を行なう際には順序があります。不動産、事業、山林、株式など譲渡で得たそれぞれの所得金額を計算して損失があれば順序に沿って損益通算を行ないます。損益通算は相殺できるパターン・順序が決まっています。難しく感じるかもしれませんが、損益通算の順序は3段階の順序でほぼ完了させる事ができます。
第1次通算
第1次通算で行う事は、不動産所得と事業所得で損失を出した場合は、その他の経常所得(不動産・事業所得を含む利子・配当・給与・雑所得の事を指します。)のうち黒字になった所得金額を差引いていきます。
譲渡所得で損失を出した場合は一時的所得のグループである譲渡所得・一時所得の2つで1次通算を行ないます。譲渡所得の損失が譲渡所得の中で内部通算仕切れなかった部分だけ、一時所得と損益通算することが可能です。
第2次通算
第1次通算を行なって損失が相殺しきれなければ第2次通算を行なう事になります。不動産・事業を行なって出した損失を第1次通算を行なって相殺しきれなかった額を譲渡所得から差し引いていきます。それでも損失額が残るようであれば、一時所得からも差引いていきます。
逆のパターンで、譲渡所得の損失を第1次通算で相殺しきれず残した場合は、経常所得からその損失を差引いていきます。第2通算を行ない計算で出された額は、総所得と言います。
第3次通算
第2通算を行なっても残ってしまった損失は、最後に第3通算を行う事ができます。最後の第3通算では、残ってしまった総所得の損失額と山林所得・退職所得で損益通算を行ないます。退職所得とは一般的な退職金と呼ばれるもや退職に伴って発生する一時金などの所得の事です。
原則として、総所得と山林所得で損益通算をした後に退職所得で損益通算します。退職所得は特別控除がかかり、実際の所得の二分の一の額で損益通算を行ないます。
その逆のパターンで山林所得で損失が出ていて総所得が黒字であった場合は、損益通算の順序は経常所得、一時所得、退職所得の順番で損益通算を行なっていきます。総所得・山林所得の両方で損失が出ている状態であれば総所得と退職所得を損益通算し、退職所得の黒字が残れば次いで山林所得の損失額と損益通算を行ないます。
一時所得と退職所得は、控除をしてから損益通算の計算にかけるので、損失額の過少申告とならないように注意が必要です。
赤字が残っている場合の順序を守る
上の項目の説明であったように、不動産所得、事業所得、総合課税譲渡所得、山林所得のどれで損失を出したかによって、損益通算する順序が決まっています。損失がの頃続ける限り、正しい順序で損益通算を行なう事は必ず大事になっていくので損益通算の大まかな順序は確認して覚えておくと役にたつでしょう。
損益通算の詳細
損益通算について大まかな流れ説明をしてきました。ここでは上で説明したことの補足的な事柄を取り上げます。損益通算できない資産の損失などについても説明していきます。主に娯楽やギャンブル、鑑賞などに関わるような資産はたとえ不動産所得であっても、損益通算の対象とはならないので確認が必要です。
経常所得の利子所得や退職所得では、所得金額の計算において損失が出ることはありません。配当所得・給与所得・一時所得および雑所得は所得金額の計算でマイナスが付くことがありますが、それによって損益通算を行う事はできません。
生活に必要ない資産での損失は損益通算不可
生活に通常必要でないところでの損失は損益通算できません。競走馬のオーナーその他射幸的な手段などで損失を出しても損益通販はできません。別荘などの娯楽目的で購入した不動産の貸し付けなどによっての損失、ゴルフ会員権などの娯楽的な資産、生活で使っていても1つ又は1組の価格が30万円を超える貴金属、骨董品なども損益通算はできません。
副業でも損益通算して節税ができる
サラリーマンの副業での所得でも、事業所得・不動産所得での損失であれば給与所得との損益通算が可能です。雑所得なのであれば損益通算は不可です。マンションなどの不動産投資を行なえば節税対策になるというものは、不動産所得における給与所得との損益通算を行った際に起こるものの事です。
損をしてしまった場合に損益通算で節税しよう!
株式の売買などはどんなに緻密に行なっていても損失を出してしまうことは少なくありません。損益通算を行なって確定申告して節税を行なえばマイナスを最小限に抑える事が可能です。どの所得で損益通算を行えるのかを把握しておけば、あなたの助けとなるでしょう。一度あなたが払っている所得税を見直して、必要であれば損益通算・確定申告を行ないましょう。