APFSDSについて徹底紹介!
APFSDSとは戦車の主砲などに使われる最先端の徹甲弾(砲弾)のことで、AP弾よりも装甲を貫く威力と貫通力が向上しています。
この記事では最先端の徹甲弾であるAPFSDSの形状や仕組み、威力や貫通力だけでなく、AP弾やHEAT弾との違いなどについて紹介します。
戦車を扱う職業に付いていない方にはあまり関りがない分野ではありますが、これから関係する職業に就く予定の方や興味のある方だけでなく、ゲームで関わる機会があるかもしれません。この記事を読めば、技術の進歩により砲弾も進化をし続けていることが分かるでしょう。
APFSDSとは
APFSDSの仕組みや威力などを紹介する前に、まずは「APFSDS」についてまとめました。APFSDSとはどのような砲弾でどのような形状をしているのか、詳しく見ていきましょう。ここからは、APFSDSとはについて紹介します。
最先端の徹甲弾
1番目に紹介するAPFSDSとは「最先端の徹甲弾」です。APFSDSとは「Armor-Piercing Fin-Stabilized Discarding Sabot」の頭文字を取った略称になります。
「Armor-Piercing」は徹甲という意味で、「Fin-Stabilized」は翼(フィン)で安定しているという意味です。そして、「Discarding Sabot」は砲弾を発射した直後に、装弾筒が分離して捨てられることを意味しています。
つまり、砲弾を発射後に分離して捨てられる装弾筒と砲弾を安定して飛ばすための翼がついた徹甲を壊すための砲弾ということです。日本語では「装弾筒付翼安定徹甲弾(そうだんとうつきよくあんていてっこうだん)」と呼ばれています。
徹甲弾は、装弾筒が使用されているタイプと使用されていないタイプの2種類の砲弾があります。AP弾やAPHE弾は使用されていないタイプに該当し、APFSDSやAPDS弾などはは使用されているタイプになります。そして、APFSDSはすべての徹甲弾の中で最先端の種類に該当します。
矢やダーツのような細い形状
2番目に紹介するAPFSDSとは「矢やダーツのような細い形状」です。最先端の徹甲弾であるAPFSDSは、矢やダーツのような細長い形状です。
弾体は砲の口径より小さいサイズのため、フィットしません。砲の口径のサイズにぴったりフィットさせるために、弾体は発射した直後に分離する装弾筒に包まれています。これが「Discarding Sabot」の由来になります。
また、弾体が飛ぶ間の砲弾の向きを一定に安定させるために翼がついています。これが「Fin-Stabilized」の由来になります。
細長い弾体と安定させるための翼、先が尖った形状は、まさに矢やダーツのような細い形状といえるでしょう。APFSDSの詳しい仕組みについては「APFSDSの仕組みとは?」の項で紹介します。
徹甲弾とは
APFSDSとは最先端の徹甲弾のことを指しています。では「徹甲弾」とはどのような特徴があるのでしょうか。徹甲弾は、装弾筒が使用されているタイプ(APFSDSやAPDS弾)と使用されていないタイプ(AP弾やAPHE弾)の2種類の砲弾があると紹介しました。
まずはAPFSDSの基礎となる「徹甲弾」についてもう少し詳しく見ていきましょう。ここからは、徹甲弾とはについて紹介します。
基本形の貫通力を高めたもの(AP弾・APFSDS)
APFSDSを含む徹甲弾とは「基本形の貫通力を高めたもの」です。徹甲弾は英語では「Armor-piercing shot and shell」と表記されます。「Armor-Piercing」は徹甲という意味で、「shot and shell」は弾丸という意味があります。
徹甲弾はAP弾やAPHE弾などの弾体の硬度と質量を高くしたタイプと、APFSDSなどの弾体を軽量化して速度を高くし運動エネルギーで貫通するタイプの2種類があります。
つまり、AP弾やAPHE弾、APFSDSなどを含む徹甲弾とは「相手の装甲(そうこう)を貫通するためにつくられた砲弾」ということです。AP弾と比較しても、APFSDSの弾頭(侵徹体)は硬く尖った形状と貫通力が非常に高いことが特徴です。
AP弾と違い、APFSDSは装弾筒を使用することで、発射された弾丸が持つ「運動エネルギー」により、装甲を貫通する威力が向上しています。徹甲弾は、着弾した時の衝撃に耐え、運動エネルギーを効率的に貫通力に変換する必要があります。そのため、硬さ・ねばり・重さ(物質)が重要になります。
AP弾・APFSDSを含め、徹甲弾とは主に鉄鋼・タングステン合金・劣化ウラン合金などの材質で作られています。鉄鋼は他の材質より劣ります。
劣化ウラン合金は優れた性能がありますが、加工に手間がかかり価格が高いというデメリットがあります。さらに放射線や毒性など人体に与える影響から制限があります。
タングステン合金がもっとも良質な材質ではありますが、材料価格自体が高く手間もそれなりにかかります。結果的に、価格の面では、劣化ウラン合金とタングステン合金は甲乙つけがたい材質であるようです。
相手の装甲を貫通
APFSDSを含む徹甲弾とは「相手の装甲(そうこう)を貫通するためにつくられた砲弾」で、徹甲弾の弾頭(侵徹体)は硬く尖った形状です。
最先端の徹甲弾である「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)」のほかに、AP弾(徹甲弾)・APBC弾(抵抗徹甲弾)・APC弾(被帽付き徹甲弾)・APCBC弾(低抵抗被帽付き徹甲弾)・APHE弾(徹甲榴弾)
APDS弾(装弾筒付徹甲弾)などさまざまな種類があり、技術の進歩により現在に至るまで貫通力を高めるために改良されてきました。
APFSDSの仕組みとは?
APFSDSの仕組みとして、この記事では「弾頭(侵徹体)」と「装弾筒」、「APFSDSが起こす侵徹」の3項目をピックアップしました。
APFSDSの弾頭(侵徹体)や装弾筒などの仕組みにより、どのような侵徹現象が生まれるのかなど見ていきましょう。ここからは、APFSDSの仕組みとは?について紹介します。
弾頭
1番目に紹介するAPFSDSの仕組みとは?「弾頭(侵徹体)」です。APFSDSの弾頭(侵徹体)は、矢やダーツのような細い形状です。また、弾体が飛ぶ間の砲弾(侵徹体)の向きを一定に安定させるために翼がついています。
そして、弾頭(侵徹体)には装弾筒をしっかり固定させるためのかみ合わせの溝がつくられています。弾頭(侵徹体)の材質は重金属が一番適しています。もっとも適正度が高い重金属は、レアメタルの「タンタル」です。ただし、レアメタルということで希少価値が非常に高いというデメリットがあります。
そのため、現在使われている弾頭(侵徹体)の材質の主流は「基本形の貫通力を高めたもの」の項で紹介したように「劣化ウラン合金」や「タングステン合金」になります。
確かにタンタルよりは劣化ウラン合金やタングステン合金のほうが価格は安いですが、それでも1発で30万円ほどかかる高価な材質であることに変わりはありません。
装弾筒
2番目に紹介するAPFSDSの仕組みとは?「装弾筒」です。装弾筒(そうだんとう)とは、 Sabot(サボ)ともいわれます。
弾体を包む構造で、砲の口径より小さいサイズの弾体をぴったりフィットさせるための役割があります。また、弾頭(侵徹体)を戦車から発射させた時、ガス圧を吸収して飛ばす役割もあります。
APFSDSなど特殊な形状の弾頭(侵徹体)を飛ばすためには、装弾筒で形状補正をする必要があります。戦車は砲身内が短いため、効率よく速度を上げるためには装弾筒は必要不可欠な詰め物です。
装弾筒はいくつかの層になって作られており、戦車から発射された時のガス圧を吸収し弾頭(侵徹体)の速度を上げます。そして、発射された直後に風の圧力により3つ・4つに分離します。装弾筒の役割により、弾頭(侵徹体)の速度は無駄を最小限に抑えて上がり、効率的に飛ばすことが可能になります。
APFSDSが起こす侵徹
3番目に紹介するAPFSDSの仕組みとは?「APFSDSが起こす侵徹」です。弾頭(侵徹体)は装弾筒の役割により最大限の威力を発揮し、加速度が1,500m/s程度の状態で装甲に着弾することになります。
金属のような結晶質物質でも条件により形状が変形する塑性流動(そせいりゅうどう)と呼ばれる現象が起き、強度につくられている装甲も流動的に形状が変形してしまいます。
装甲に対してほぼ平行に着弾する以外は、塑性流動と呼ばれる現象により、装甲は意味をなさないことになります。APFSDSが起こす侵徹は、いかに恐ろしい貫通力があり、高い威力があることが想像できるのではないでしょうか。
APFSDSの威力
APFSDSの仕組みにより、APFSDSが起こす侵徹について理解できたのではないでしょうか。APFSDSが着弾した時の威力について、もう少し詳しく見ていきましょう。ここからは、APFSDSの威力について紹介します。
着弾時の特性
装弾筒の役割により最大限の速度で装甲に着弾したAPFSDSの弾頭(侵徹体)の先端は、マッシュルーム状に広がりながら装甲の中を穿孔してめり込んで侵入します。弾頭(侵徹体)は、穿孔により先端から消耗されていくため、急激な速さで長さと速さを失っていきます。
APFSDSの長さより装甲の厚みが勝てば、弾頭(侵徹体)がなくなり穴だけが残される状態になります。装甲の厚みよりAPFSDSの長さの方が勝てば、装甲を貫通して残った部分が内部まで壊します。
弾頭(侵徹体)は穿孔により速度も急速に失われるため、侵徹速度が穿孔できないほど失われた時点で穴の中に弾頭(侵徹体)の残りが残るという現象が生まれることがあります。
タングステン合金の弾頭であれば850m/s以上、鋼鉄製の弾頭であれば1,100m/s以上の速度がなければ、液体としての侵徹の効果はなくなり、塑性流動と呼ばれる現象は起きません。個体としての物理作用へと変化します。
HEAT弾とは
砲弾は主に2種類に分類され、最先端のAPFSDSを含む徹甲弾とHEAT弾があります。徹甲弾の弾頭(侵徹体)に使われる材質は重金属が一番適しており、この金属の塊を発射させ、直接攻撃して貫通させる運動エネルギーを使ったタイプです。
一方、HEAT弾は火薬などを忍び込ませて爆発させる科学エネルギータイプです。HEAT弾を爆発させた圧力により高温になり、金属が液体状に変化します。そして、装甲に着弾して侵徹します。
弾頭のタイプは、従来タイプとAPFSDSのように装弾筒を組み合わせたタイプの2種類があります。APFSDSを含む徹甲弾との違いを知るためにも、HEAT弾について詳しく見ていきましょう。ここからは、HEAT弾とはについて紹介します。
HEAT弾の仕組み
1番目に紹介するHEAT弾とは「HEAT弾の仕組み」です。HEAT弾の仕組みとして、この記事では「HEAT弾に使用されるモンロー/ノイマン効果」と「恐ろしい貫通力」の2項目をピックアップしました。
HEAT弾とは「High-Explosive Anti-Tank」の頭文字を取った略称になります。「High-Explosive」は榴弾(りゅうだん)という意味で、砲弾の種類のひとつです。「Anti-Tank」は対戦車のという意味があります。つまり、対戦車榴弾という意味になります。
HEAT弾は、成形炸薬弾・成型炸薬弾(せいけいさくやくだん)/shaped chargeの対戦車を目的としてつくられています。
HEAT弾の仕組みについて詳しく見ていきましょう。ここからはHEAT弾の仕組みについて紹介します。
HEAT弾に使用されるモンロー/ノイマン効果
1番目に紹介するHEAT弾の仕組みは「HEAT弾に使用されるモンロー/ノイマン効果」です。モンロー効果とは、砲弾の筒の内側に炸薬を凹型に詰め込み、その窪み部分から点火します。すると、爆発の衝撃波が前方1点に集中することになり、強い穿孔力が生じます。
通常、爆発は中心から全方向に爆風が飛び散り、エネルギーが分散されてしまいます。そのため、装甲を破壊するエネルギーはありません。しかし、モンロー効果によりエネルギーを1点に集中することができ、結果的に装甲を破壊できるほどの威力になります。
ノイマン効果とは、APFSDSのように塑性流動と呼ばれる現象により爆発させます。具体的には、炸薬を凹型に詰めた筒に円錐形のふたを取り付けます。そして、爆発したときにライナーと呼ばれる金属の内張りが円錐の先端に集中し、圧力がかかります。この状態が塑性流動の現象を引き起こします。
モンロー効果によりノイマン効果の威力が最大限発揮され、装甲を破壊するほどの力が生まれることになります。
HEATとは、モンロー/ノイマン効果を活用した対戦車砲弾です。モンロー/ノイマン効果を活用した炸薬を成型炸薬というため、HEAT弾は成形炸薬弾とも呼ばれます。
恐ろしい貫通力
2番目に紹介するHEAT弾の仕組みは「恐ろしい貫通力」です。モンロー/ノイマン効果により放出される液体金属のメタルジェット(超高速噴流)の速さは、7000~8000m/sに達するといわれています。
HEAT弾は、APFSDSと同じように金属が液体のように形状が変形する塑性流動といわれる現象が発生し、硬い装甲でも無力化して貫通する貫通力があります。
ただし、HEAT弾はAPFSDSよりも優れている部分があります。それは、砲弾の発射速度です。APFSDSは速い速度で発射することが絶対条件ですが、HEAT弾は爆風により圧力をかけるので発射速度は遅くても問題ありません。
このメリットにより、速度を出しづらい人間が使用する歩兵用にも使用されています。装甲は複合材質でつくられているものが多く、金属以外のセラミックなども定番の材質として使われています。
HEAT弾のメタルジェットは金属を液状化させることはできますが、セラミックは液状化させることができません。そのため、セラミックがメタルジェットの威力を低下させ、貫通力が弱くなってしまいます。
HEAT弾のメタルジェットは、距離も数十センチしか効果がありません。数十センチ離れるだけで威力が下がってしまうので、戦車の砲弾としては不向きであり、対戦車兵器として確固たる地位を確立している砲弾です。
HEAT弾の威力
2番目に紹介するHEAT弾とは「HEAT弾の威力」です。HEAT弾の威力として、この記事では「効果が短い」の1項目をピックアップしました。HEAT弾の威力の特徴を詳しく見ていきましょう。ここからはHEAT弾の仕組みについて紹介します。
効果が短い
HEAT弾の威力は、残念ながらAPFSDSより少しではありますが短いです。APFSDSの弾頭(侵徹体)の先端は、マッシュルーム状に広がりながら装甲の中を穿孔してめり込んで侵入します。一方、HEAT弾のメタルジェットは直線状に進み、線周辺のみにしか侵入することができません。
そして、液状化したメタルジェットは個体に戻る性質があるため、貫通力が高い時間は短くなってしまいます。
HEAT弾を使い効果的な威力を発揮するには、メタルジェットが侵入する先に、火薬や燃料などの燃焼物が必要になります。燃焼物により誘爆の可能性が高くなり、貫通力と威力が爆発的に向上します。
APFSDSとHEAT弾の違い
APFSDSとHEAT弾の違いとして、この記事では「エネルギーの使い方」と「発射する戦車などの反動に影響」の2項目をピックアップしました。
徹甲弾の種類のひとつAPFSDSとHEAT弾の違いについてまとめたので、詳しく見ていきましょう。ここからは、APFSDSとHEAT弾の違いについて紹介します。
エネルギーの使い方
1番目に紹介するAPFSDSとHEAT弾の違いは「エネルギーの使い方」です。砲弾は、紹介したように大きく分けて運動エネルギー弾と科学エネルギー弾AP弾の2種類に分類されます。
運動エネルギー弾は、AP弾やAPHE弾などは含まれない、APFSDSやAPDS弾など装弾筒が使用されているタイプの徹甲弾で、弾頭(侵徹体)に使われる材質は重金属が一番適しており、この金属の塊を発射させ、直接攻撃して貫通させます。
科学エネルギー弾は、HEAT弾と呼ばれる火薬などを忍び込ませて爆発させます。どちらも装甲に圧力をかけて流動的に形状が変形する塑性流動と呼ばれる現象が起きる点は同じですが、エネルギーの使い方が違います。
運動エネルギーであるAP弾やAPFSDSを含む徹甲弾は、基本的に発射された時のガス圧を吸収し弾頭(侵徹体)の速度を上げる「運動エネルギー」により、塑性流動の現象を引き起こし装甲を貫通する仕組みになっています。
科学エネルギーであるHEAT弾は、モンロー効果により爆発の衝撃波が前方1点に集中することになり、強い穿孔力が生じます。さらにノイマン効果を組み合わせることで、ライナーと呼ばれる金属の内張りが円錐の先端に集中し圧力がかかります。
HEAT弾に使用されるモンロー/ノイマン効果により、塑性流動の現象を引き起こし「科学エネルギー」により放出される液体金属のメタルジェットが発生し、装甲を貫通する仕組みになっています。
発射する戦車などの反動に影響
2番目に紹介するAPFSDSとHEAT弾の違いは「発射する戦車などの反動に影響」です。APFSDSは速度(運動エネルギー)が必要なため、発射するとき戦車などの反動に対する影響は高いです。一方、HEAT弾は速度はあまり重要ではないため、反動に対する影響は低いです。
APFSDSは最先端の徹甲弾!
APFSDSは最先端の徹甲弾で、AP弾のような金属の塊ではなく、矢やダーツのような細い形状で装弾筒に包まれています。技術の進歩により進化してきた砲弾のひとつである徹甲弾は、原始的な矢やダーツの形に戻ていることが分かりました。