「マッチポンプ」の意味
「マッチポンプ」はあまり馴染みのない言葉で、どんな意味を持つのか知らない人が多いのではないでしょうか。しかし最近は、あちこちの場面で使われることが増えてきています。
「マッチポンプ」のマッチは英語の「match」で、火をつける「マッチ」、タイトルマッチなどの「競争相手」、「マッチした服装」などと使う「ふさわしい」という意味です。
ポンプはオランダ語で「pump」で、水などを汲上げる「ポンプ」のことです。「マッチポンプ」は英語とオランダ語を組み合わせた和製英語(造語)なので外国人には伝わりません。それでは日本語「マッチポンプ」の意味を紹介します。
意味①自作自演
「マッチポンプ」の意味を一口でいえば「自作自演」です。しかしドラマや演劇で、自分で脚本を書き自分で演技する意味の「自作自演」とは少し意味合いが違います。
「マッチポンプ」の場合は、自分でマッチで物に火を付けて、そのあとでポンプを使って水をかけ自分で消火するように、一人二役を演じる意味の「自作自演」です。つまり「マッチポンプ」とは、偽善的な意図を持って自作自演を演じる行為のことです。
意味②利益の為に問題を起こし自己解決
「マッチポンプ」の自作自演の意味を言い換えると、「マッチポンプ」は、自分の利益のためにわざわざ問題やトラブルを引き起こして、それを自分で解決するために自作自演を行います。
自分がトラブルを解決することで、周囲の評価を高め自分の利益につなげる行為のことです。つまり「マッチポンプ」とは、狡猾(こうかつ)でずる賢い行為をする人を指す言葉です。
「マッチポンプ」の語源
「マッチポンプ」の語源は、マッチは火をつける道具でポンプは火を消す道具、つまり反対の目的のものを同時に使うことの矛盾を表すために、「マッチ」と「ポンプ」という反対のアイテムをつなげたのが語源といわれています。
その語源の意味が転じて、矛盾する事柄を詭弁(きべん)でゴマカシ平然と行うこと、自分の利益のために狡猾な自作自演を行う人などを「マッチポンプ」というように使い方が変化したと考えられます。
語源というものは「マッチポンプ」に限らず、実は確実なものはほとんどありません。○○が語源ではないか?○○さんが言い出したのが語源になったのでしょうくらい不確かなものです。しかし「火のないところに煙は立たず」ということわざがあるように、不確かな語源でもまんざら噓とは言い切れないのではないでしょうか。
1960年代の日本の国会で誕生
「マッチポンプ」という言葉が公の場に登場したのは、1961年4月の国会で、衆議院本会議の質疑の中で使われたのが初めてといわれています。その時の実際に発言した質疑の記録は国会会議録に残っていて次のような内容です。
「世に、いわゆるマッチ・ポンプ方式といわれるものがあります。右手のマッチで、公共料金を上げて、もって物価値上げに火をつけながら、左手のポンプでは、物価値上げを抑制するがごとき矛盾したゼスチュアを示すのをいうのでございましょう」
つまり公共料金値上げという「マッチ」で物価上昇に火をつけた一方で、物価抑制が重要のような見せかけの政策(ポンプ)で火消しを図る矛盾はおかしい!と政府を追及したのです。この発言が語源となり「マッチポンプ」という言葉が使われ始めたといわれています。
「マッチポンプ」の類義語と意味
類義語とは、似たような意味や似たような使い方をする言葉のことで、前述の「自作自演」もマッチポンプの類義語の1つです。その他マッチポンプの類義語には「偽装」「捏造(ねつぞう」「やらせ」「インチキ」「自己解決」など色々ありますが、どれも良い意味の使い方をされない類義語です。それでは主な類義語の意味を事例を交えて紹介します。
①偽装
マッチポンプの類義語の「偽装」の意味は「事実を覆い隠すため、他の物事や状況を装うこと」で、「偽装工作」「偽装結婚」のような使い方をします。推理小説や刑事ドラマによく出てくる言葉です。
実際にあった事例に、1964年にアメリカ軍がベトナム戦争への介入を決定づけた偽装工作「トンキン湾事件」があります。
この事件は、アメリカ軍の艦艇が北ベトナム軍にトンキン湾で攻撃を受けたと、当時報道されました。その報復手段としてアメリカ軍は北ベトナムに攻撃を開始したのです。
しかし「アメリカ軍の艦艇が攻撃を受けた」という事実は偽装で、アメリカ軍の自作自演であったことが今では判明しています。ベトナム戦争に介入するきっかけを作るためのアメリカ軍の偽装工作で、まさに「マッチポンプ」の事例です。
②捏造
マッチポンプの類義語の1つ「捏造(ねつぞう)」は「事実でないことを事実のように作る」「でっちあげる」という意味で、「記事を捏造する」「帳簿を捏造する」などの使い方をします。
「捏」は「土に水を入れてこねる」という意味で、「捏造」は「土をこねて形を作る」という語源が転じて「形だけの偽物を造る」という意味に、さらに「無いことを有るかのように造る」意味に転じたとされています。
最近良くある事例に芸能人のスキャンダル事件があります。この場合は報道するメディア側の思惑に、雑誌なら発行部数をあげるため、テレビなら視聴率を獲得するためなら、多少のことは捏造してもという意図が働きます。
芸能人側には、自分に注目が集まり知名度が上がるなら多少の事実は捏造してもという思惑で、記者会見を開く事例がよく見られます。これもマッチポンプと言えるのではないでしょうか。
③やらせ
類義語の「やらせ」は意味を解説するまでもなく「やらせること」です。よくテレビの番組などで使われる手法です。
視聴者参加番組の事例で、ディレクターが「では皆さん私が手を回したら大きく拍手して下さい」「私が手を上下に振ったら驚いたような声を出して下さい」などの「やらせ」を要求します。
また食べ歩き番組などの食レポで、タレントがみんな美味しそうに食べ、口をそろえたように「うわー美味しい、口の中でとろける」などと声をあげますが、タレントだって人の子、食べ物の好き嫌いは必ずあります。
しかし番組の中ではたとえ嫌いな料理でも「うわー美味しい」と言わなければなりません。これが「やらせ」というマッチポンプの事例です。
「マッチポンプ」の使い方
これまで紹介してきたことでマッチポンプの意味は何となく理解できたのではないでしょうか。今度はその使い方に焦点をあわせ例文を交えて紹介します。
マッチポンプと言う言葉は普段の会話ではあまり出てきません。しかし今後色々な場面で使われる可能性がある言葉なので、適切な使い方や特殊なネタとして覚えておくのも良いでしょう。使い方の例文として前述の事例に絡めて紹介します。
例えば「あの芸能人のスキャンダルは、本人の自作自演のマッチポンプだったけれど、知名度が大きく上がったのは事実です」のような使い方をします。
また「先日、某番組のやらせ報道のマッチポンプが暴露され、番組の視聴率が落ちてしまった」のような使い方をします。
マッチポンプの使い方は、事例を参考に色々と意味を考えて例文を作ってみるとよく分かります。マッチポンプの意味をよく知らない人が多いので、類義語を混ぜて例文を作ると理解されやすいでしょう。
自作自演で問題を起こした際に適切な表現
このようにマッチポンプの事例や例文をみると、自作自演で問題やトラブルを起こし、そのトラブルを元に自分の利益につなげようとする行動を表現する場合に「マッチポンプ」ほど適切な言葉はありません。
だからこそ「マッチポンプ」という表現が、芸能界や政治界、経済界、犯罪を取り締まる分野など様々な場面で使われ出しているのではないでしょうか。
「マッチポンプ」の例文
マッチポンプという言葉そのものは普段あまり使われませんが、実際にはマッチポンプといえる行為や事例は日常茶飯事のように起きています。
国際間の問題、政治の事例、詐欺の手法、芸能人や有名人の行動、経済界の商法などにマッチポンプな行為が過去にも現在にも沢山見られます。
最近では日本と某隣国とのやり取りで、マッチポンプな行為に思い当たることが多いのではないでしょうか。それではケース毎に、マッチポンプの事例や例文をあげて分析してみましょう。
①政治の場合
国会の討論で、ある大臣の失言をめぐって野党の議員が追求する場面がよく見られます。メディアも踊らされて「失言は大臣の資質に関わる問題」と連日のように報道します。
本来国会はそのような議論で時間を費やす場ではないはずです。重要な法案や政策を議論する場です。ところが政府与党にとって失言問題はチャンスとばかりに、少し難点のある法案の議論をさけ、時間を与えないで強引に通そうとする作戦が見え隠れします。
大臣の失言も「やらせ」かも知れません。マスメディアを失言問題に巻き込むのは、国民の関心をその法案にあまり向けさせないため政治家の得意な方便です。
このような政治家を皮肉って「表では困ったという顔、裏ではニヤリとしている、まさにマッチポンプの顔」という例文が成り立つかも知れません。政治の世界では日本に限らず、あちこちの国で敵対する政党や議員を潰すためや、メディアから不利な情報を隠すためにマッチポンプが行われています。
②詐欺の場合
パソコンを開いたら「このパソコンはウイルスに感染しています。いまなら10ドルでウイルスが駆除出来ます」というメセージが流れました。
この例文のようにウイルスを仕掛けておいて、お金を支払えばウイルスを取り除くという、インターネット詐欺があります。これは自作自演の典型的マッチポンプ商法です。
また詐欺スレスレのマッチポンプ商法に「自社のハンドクリームを使えば、洗剤などの手荒れがスベスベに」などのコマーシャルを平然と流す洗剤会社があります。
自社の洗剤で起こった手荒れを、自社のクリームで直すというマッチポンプ商法です。しかし例文のような商法は現在の法律では取り締まれないのが実情です。
③芸能人の場合
「テレビ番組で大喧嘩をした2人のタレントが、次週の同じ番組で今度は仲直りをして視聴率を稼いでいた」この例文の場合は、制作側の「やらせ」のマッチポンプです。
このように芸能人は食レポでも紹介したように、番組制作側の「やらせ」などのマッチポンプに利用されることが多いようです。
またある芸能人はすぐ暴言を吐き相手に喧嘩を売ることで有名で番組によく起用されるタレントがいます。相手を良く見て歯に衣を着せぬ辛口な批判なら納得出来ます。
しかしなんの根拠も無くただ喧嘩を売り暴言を吐き、盛り上げれば次も使ってもらえるという自分の利益のための行動ならマッチポンプです。しかし自分で解決しないので不完全なマッチポンプです。ただこれは、視聴率を上げるためなら何でも良いという番組制作側の姿勢にも問題があると言えるでしょう。
④経済の場合
ある外資系の証券会社Bが、IT企業A社の評価をダブルAからトリプルAに上げた。結果IT企業A社の株価が大幅に高騰し、その機に保有していたA社の株を売却して大儲けをする。
このような取引は金融業界では多く行われています。しかもインサイダー取引として取り締まられないように、上手く水面下で行っています。「自分で評価を上げ株価を操作しておいて売り逃げる取引は、まさにマッチポンプ商法だ」と言えるのではないでしょうか。
マッチポンプ商法のビジネスでの事例や意味
これまで紹介したことで、現実の社会で実に多くのマッチポンプが横行していることが理解できたのではないでしょうか。では具体的にビジネス界でどのようなマッチポンプ商法が存在しているのでしょう。
実はマッチポンプ商法は「景表法」という法律に觝触する可能性があります。「景表法」とは「景品表示法」のことで、公正な競争を確保するため過大な景品付販売や誇大な表示を禁止する法律です。
そのためにマッチポンプ商法は、法律の穴をすり抜けるため誇大広告と分からないような方法で行っています。私たち消費者は知らず知らずにその商法に乗っている場合が数多くあります。それではマッチポンプ商法を具体的な事例で紹介します。
①ステルスマーケティング
ステルスマーケティングとは、企業などが自社の製品やサービスの広告を、それが広告であることを隠して宣伝をすること。またはメディアに広告を伏せて情報を流すことです。
例えばウイルス対策ソフトを販売しているIT企業が製品説明に「当社の製品は特定のウイルスの感染から守るにはとても有効です」とうたっています。
しかしその特定のウイルスをその企業が作り出したものなら、間違いなくステルスマーケティングのマッチポンプ商法です。
また新しくオープンした店舗にアルバイトを雇って行列を作り、これをメディアに取材させてさも人気が沸騰しているように装う事例が多く見られます。行列ができるものには不思議と人が人を呼び、注目度が高まります。このように広告・宣伝と分からないように自社の商品や人気を煽(あお)るのがステルスマーケティングです。
➁商品やサービスの宣伝を芸能人に依頼
芸能人や有名人に代理店などを通してギャラを渡し、広告宣伝であることを隠してブログやSNSで商品やサービスを紹介してもらう事例があります。
芸能人や有名人には影響力があります。ほとんど一般的に知られていない商品でも、芸能人や有名人が紹介すれば効果は絶大です。また口コミサイトでも同様なことが行われています。
これらは全てマッチポンプ商法でステルスマーケティングと同じです。しかしそれらをマッチポンプ商法と見分けるのは非常に難しいことです。大切なのはブログやSNS、口コミサイトを参考にして、自分にとって必要な商品やサービスなのかをじっくり考えることが必要です。
③炎上商法
本来「炎上」とは火が燃え上がることですが、インターネットが普及した現在で「炎上」といえば、ネット上で非難が殺到して大騒ぎになることです。
炎上商法とは、意図的にネット上で「炎上」を起こして世間の注目を集め、知名度の向上や広告宣伝に利用する商法です。炎上商法はSNSなどの書き込み1つで情報を広範囲に拡散し、コストがかからずに広告宣伝出来るのですから有効な商法には違いありません。
芸能人の中にも炎上商法と思われるブログなどがあります。「他の芸能人の悪口を言う」「不謹慎な発言をする」「自分の秘密を暴露する」などで炎上を起こす事例があります。しかし逆に叩かれ過ぎてイメージを悪くするリスクもあります。つまり「炎上商法」はリスクをともなったマッチポンプ商法と言えます。
「マッチポンプ」にならないために
マッチポンプは人を欺く卑劣な行動です。しかし普段の生活の中で気づかないうちに、自分がマッチポンプ的な行動をとってしまうことが意外に多くあります。例えば仲間同士で雑談をしている時に、そこにいない人の悪口を言うことがよくあります。
その人の欠点を指摘して、そうならないよう反省して注意をするためならば良いのですが、その人を非難することで自分の価値を高めたいと思う気持ちがあればマッチポンプ的発想です。
人は上に見られたいという願望を常に持っています。しかし人を蹴落として上に立っても本当の上位ではありません「マッチポンプ」にならないためには意図的に上位に立とうとしないことです。自分の仕事内容や行動の成果として上位になるよう心がけて下さい。
「マッチポンプ」は自作自演を意味する
「マッチポンプ」は自分の利益のために自作自演をする行為です。わざと問題を起こし解決してみせることで、自分の非力を隠し自分を大きく見せるずる賢い行為です。
世の中にはマッチポンプを利用したステルスマーケティングが沢山あります。これまで紹介してきた事を参考にしてマッチポンプ商法に騙されないように、また自分がマッチポンプにならないように心がけて下さい。