「千秋楽」とはどんな意味?
ニュースやテレビを見ていて、「今日は千秋楽です」などのかたちで「千秋楽」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
しかし、千秋楽とは何か、なんで千秋楽という言葉ができたのかといったことを説明できる人は少ないかもしれません。そこで、この記事では千秋楽の意味や、千秋楽をよく使う「大相撲」や「歌舞伎」では千秋楽で何をしているのかを説明していきます。
また、「千秋楽」と「千穐楽」の違いについても、分かりやすく解説をしていきます!これを読んで「千秋楽」という言葉についてマスターしてください!
千秋楽とは興行最終日の意味
千秋楽とは、お芝居や音楽のライブ・コンサート、スポーツなどで有料でお客さんを集めて、それを見せる「興行」の最終日のことを意味する言葉です。
興行のうち、お芝居をする舞台や歌舞伎、大相撲などでよく使われていて、告知などで目にするという方もいるかもしれません。また、舞台などだと出演者の方がブログなどで「明日は千秋楽です」などのかたちで使っていることも多いです。
ちなみに、「千秋楽の日」を略して、「楽日」や「楽」と呼ぶ場合もあります。「今日は楽日だよ」などのかたちで使えば、通な感じを演出できるかもしれません。
千秋楽の「楽」の意味
千秋楽には「楽」という文字が使われていますが、この「楽」はどういう意味を持っているのでしょうか。これは語源に関係してきます。語源の詳細はまたあとで詳しく書きますが、千秋楽がもともと曲の名前であることから「楽」が使われています。
ここでいう音楽というのは、私たちが普段書いているような音楽ではなく、宮廷などで演奏されていた伝統的な雅楽のことです。千秋楽とは、その雅楽の中の1曲でした。
「楽」というのはそもそも弦楽器をかたどった象形文字だったと考えられています。したがって、「楽」で楽器で音を鳴らす、音楽という意味になります。なお、「楽しい」という意味は「音楽が楽しい」というところから派生したのではないかと言われています。
したがって、千秋楽の「楽」は、音楽あるいは曲という意味があるというのが最も有力な説になります。
「大千秋楽」の「大」の意味
また、「大千秋楽」という言葉もあります。この「大千秋楽」と「千秋楽」には意味の違いが何かあるのでしょうか。
大千秋楽というのは、すべての興行が終わる日のことを指します。演劇などでは、1つの演目を色々なところで行うことがあります。舞台などのポスターを見ていると、「東京公演」、「大阪公演」、「福岡公演」などに分かれていることがよくあります。
このような一連の予定されている興行がすべて終わる日を「大千秋楽」と呼ぶのです。この場合の「大」の意味は大きいということではなく、物事の根本や極限という意味になります。
ほかの言葉でこの意味が使われているのをあげると、「大晦日」や「大もと」などをあげることができます。
千秋楽とは【4つの語源】
千秋楽とは何かということに続いて、ここからは千秋楽の語源について解説をしていきます。千秋楽の語源には大きく4つの説があります。
それぞれの説について分かりやすく説明していきますので、語源を理解したうえで、千秋楽という言葉を使えるようになりましょう。
雅楽
千秋楽の語源として最も有名なのが、先ほども書いた雅楽の曲に由来するというものです。この曲は後三条天皇の大嘗会(だいじょうえ。新天皇が行う収穫感謝などを祈る大嘗祭の宴)のためにつくられた曲だと言われています。
これが法会(ほうえ。仏教の儀式)の終わりに演奏されていたことから、歌舞伎や相撲の最終日を千秋楽と呼ぶようになったのではないかというのが、雅楽由来説です。
ただ、法会が必ずこれで終わっていたわけではないという説も唱えられていて、本当にこれが千秋楽の語源なのかは、はっきりしていません。
謡曲の「高砂」
別の説として、能の「高砂」という謡曲(能における脚本)の最後に、「千秋楽は民を撫で」というセリフが出てくるところに語源があるという説もあります。
ちなみに、ここで出てくる千秋楽も先ほど説明した雅楽の「千秋楽」のことです。現代語訳としては「千秋楽を演奏して、その音楽で民をいつくしみ」といったような意味です。
これがおめでたい歌だということで、付祝言(つけしゅうげん)として能の最後にお決まりで歌うようになったことから、能などの最後と言えば「千秋楽」になりました。今でも結婚式などのおめでたいイベントで歌われることがあります。
ここから歌舞伎や相撲などの世界でも、興行の最終日という意味で使われるようになったのではないかというのが、「高砂」語源説になります。
当て字から発生
3つ目の説として紹介するのは、千秋楽の「秋」が「終」、「楽」が「落」と音が同じなので、そこから興行の最終日のことを千秋楽と呼ぶようになったのではないかという説です。
これはいわゆる当て字と言われるもので、洒落っ気のある説だと言えます。今で言うギャグのような感じですが、日本語は当て字が多く、特に伝統芸能の世界は洒落っ気を大事にしてきた歴史もあるので、この説も有力ではないかと考えられています。
「千秋」という言葉
最後に紹介するのは、千秋楽の語源というよりは、千秋楽の中の「千秋」の語源についての説になります。
そもそも「千秋楽」の「千秋」には「長い年月」という意味があります。これは「秋」に「年月」という意味があるためです。ここでいう千というのは数字の1000という意味ではなく、長いことの例えになっています。
雅楽の「千秋楽」というタイトルはこの言葉に由来している可能性があると言われています。したがって、現在主に使われている「千秋楽」の語源の1つとも言えます。
千秋楽とは【千穐楽との違い】
ここでは、千秋楽の表記として使われることのある「千穐楽」という言葉について説明していきます。
「千穐楽」も千秋楽と同じタイミングで使われる言葉ですが、意味に違いはあるのでしょうか。仮に違いがなかったら、なぜ2つの表記があるのでしょうか。
ここではそんな部分も説明していきますので、これを読めば千秋楽だけではなく、「千穐楽」という言葉も正しい使い方で使えるようになります。
どちらも意味は同じ
千秋楽と千穐楽に意味の違いはあるのかですが、千秋楽と千穐楽に意味の違いはありません。どちらも同じく、「興行の最終日のこと」を意味しています。「穐」という字はなじみがありませんが、読みも「せんしゅうらく」と同じです。
意味も同じ、読みも同じなのに、なぜ「千秋楽」、「千穐楽」という表記の違いが存在するのでしょうか。ここからはそれについても見ていきましょう。
「千穐楽」の方が好まれる
千秋楽と千穐楽は意味に違いはないということは先ほど説明しましたが、実際の使い方としては千穐楽のほうを使うのが好まれています。これは縁起と関係があります。
具体的に言うと、千秋楽の「秋」が縁起が良くないとされているために、千穐楽を使うのが好まれています。また、「穐」は縁起が良いということも、千穐楽が好んで使われている理由になっています。
特に、舞台など演劇の興行では「千穐楽」のほうを使うことが好まれています。舞台ののぼりなどを見ると「千穐楽」と書いてあるのを見ることができるかもしれません。
縁起がいい意味の「亀」
千穐楽に使われている「穐」という文字は、「秋」の異体字です。異体字というのは標準の字体ではないものの、通用する文字のことを言います。そして、なぜ異体字の中で「穐」が使われているのかというと、「穐」の中に「亀」という文字が使われているためです。
この「亀」という文字は昔から縁起が良いとされています。中国では、亀を仙人が住む地と言われていた逢莱山の使いだと考えていました。このため、亀と言えば長寿というイメージが形成されました。
このイメージは日本にも浸透しています。長寿の例えとして「鶴は千年、亀は万年」と言いますが、これはこの中国で形成されたイメージがもとになっています。
この「亀=長寿」というイメージから、亀と言えば縁起が良いという認識が日本では広がって、縁起の良さが求められる場面ではいろいろなところで使われています。
このため、「亀」という文字が使われている「穐」のほうを使った千穐楽のほうを使うのが好まれているのです。
ちなみに、東京に亀有という地名がありますが、あれは亀無という地名だったのを縁起が悪いということでわざわざ変えた地名です。このように日本人は縁起を昔から重要視しており、それが「千穐楽」という表記を生み出したと言えます。
縁起が悪いとされる「秋」の意味
千穐楽を使うのは舞台などの演劇が多いと先ほど説明しましたが、ここからはその理由について説明していきます。
演劇で千秋楽が好まれないのは、「穐」の縁起の良さもありますが、「秋」という文字の縁起の悪さが嫌われていることが大きいです。しかし、一般的に「秋」に縁起が悪いというイメージはありません。どういうことでしょうか。
「秋」の問題は漢字のつくりにあります。「秋」はつくりに「火」を使っていますが、この「火」が演劇をする人々には大きな問題でした。
というのも、当時の芝居小屋は木造で、紙も多く使われていたので、演劇をしていた人々は火事を最も嫌っていたのです。そのため、「火」がつく「秋」という漢字を彼らはとても嫌がりました。
ここから、秋という文字を使った千秋楽ではなく、縁起の良い「亀」を使った千穐楽のほうを使うのを演劇の分野では特に好んでいるのです。今は劇場などは木造でないことが普通ですが、昔の名残で「千穐楽」がよく使われています。
大相撲の千秋楽とは?
千秋楽がよく使われている代表格の1つが大相撲です。大相撲はテレビで見たことがあるという人も多いのではないでしょうか。
ここからは、大相撲では千秋楽がどういう使い方をされているのか、どんなことをする日なのかを詳しく説明していきます。大相撲での千秋楽の使い方をここできちんと理解しておきましょう。
千秋楽とは興行日数15日の最終日
大相撲の本場所(ほかのスポーツでいう公式戦)は年6場所行われます。初場所や名古屋場所など、名前を聞けば聞いたことはあるという方は多いでしょう。
この本場所は1場所15日間行うと決まっています。したがって、大相撲の千秋楽というのは最終15日目のことを意味しています。基本的に演劇などと使い方に違いはありません。
この日にテレビで相撲中継などを見ると「本日は千秋楽となります」といった実況を聞くことができます。
千秋楽に行わわること
ここからは大相撲の千秋楽では何が行われるのかについて、分かりやすく説明していきます。千秋楽とは単に最終日というだけではなく、ほかの日には行われないことも行われます。これを知ることで、大相撲での千秋楽の使い方もしっかりと分かりますし、テレビの中継を見るときの楽しみを増やすこともできます。
優勝力士の表彰
大相撲の千秋楽では、優勝力士の表彰が行われます。大相撲は番付に従って、いくつかカテゴリーがありますが、それぞれのカテゴリーの優勝力士が表彰されます。幕内優勝の表彰はすべての取り組みの後に、十両以下の表彰は十両までの取り組み終了後に行われます。
幕内優勝力士の表彰は千秋楽の17時半ごろに行われるのが通例です。大相撲では、通常18時ごろに取り組みが終わるようにスケジュール管理されていますが、千秋楽のみ30分ほど早く取り組みが終わるようになっています。
神送りの儀式
優勝力士の表彰のあと、「出世力士手打式」と呼ばれる次の場所でデビューする力士のお披露目が行われます。
このあと、「神送りの儀式」と呼ばれるものが行われ、その場所の幕が閉じます。「神送りの儀式」は場所の初日に呼んだ神様を送り返すという意味があります。何をするかというと、一番格下の行司(はっけよい残ったと言っている人)を胴上げします。
このような儀式がまだ残っているのは、相撲がもともとは神事であった証です。今後もかたちが少しずつ変わることはあるかもしれませんが、千秋楽の流れは受け継がれていくでしょう。
歌舞伎の千秋楽とは
大相撲と並んで千秋楽という言葉をよく使っているのは、伝統芸能の中でも根強い人気をほこる歌舞伎になります。
この歌舞伎でも千秋楽はほかの日とは少し違うものが見られる場合があります。ですので、ここからは歌舞伎で千秋楽がどのような使い方をされているのかを説明していきます。
特別なサプライズが行われる場合があり
歌舞伎の千秋楽では、メインのお芝居に加えて、そそり芝居と呼ばれるおふざけが入ったお芝居が⾏われることがあります。そそり芝居ではセリフにアレンジを加えたり、配役を変えたりすることがあります。また、サプライズで特別なゲストが呼ばれることもあったりします。
一世一代の千秋楽は見逃せない
歌舞伎の世界では、役者がこの演目をやるのはこれが最後だと明言して舞台に上がることがあります。このようなとき、「誰々の一世一代の大舞台」などと銘打ちます。
お客さんからすると、一世一代を銘打った役者がその演目を演じているのを見ることができるのは千秋楽の公演が本当の最後になります。このため、やはり千秋楽はプレミア感が出ます。
千秋楽ほど「筋書」が充実
歌舞伎の大きな特徴として、初日と千秋楽では「筋書」(プログラムやパンフレットにあたるもの)の内容が変わっているということがあります。舞台や映画などでは通常起こらないので、これは歌舞伎ならではです。
歌舞伎はだいたい1か月間は同じ演目で公演を行いますが、20日ほど過ぎると筋書が舞台写真ありのものに変えられるのです。このため、千秋楽に筋書を買うと、必然的に初日とは内容が変わっているのです。
このため、筋書を買いたいという方は、千秋楽、少なくとも公演期間の終わり間近に買うとお得だと言えます。
千秋楽とは興行最終日の意味!使い方を知っておこう
ここまで、千秋楽は興行最終日のことであるということや語源、大相撲や歌舞伎での使い方などを紹介してきました。
千穐楽と千秋楽の違いなどについても説明しましたので、千秋楽の使い方や意味などについて大事なところはしっかりとおさえることができているでしょう。千秋楽はよく目にする言葉ですので、正しい使い方で使って、かっこいい大人を目指していきましょう!