「ご参考ください」の意味
「ご参考ください」はビジネスシーンでとてもよく使われる言葉で、丁寧語としての接頭辞である「ご」、何らかの情報を利用して自分の考え方をまとめるという意味の「参考」、なにかを依頼するときの敬語・丁寧語としての「ください」を合わせて作られています。
会議やビジネスメールにおいて便利に使える「ご参考ください」ですが、あまり状況を考えずに使っていると受け取った相手が違和感を感じたり、敬語と思って使っていたのに場合によっては相手に失礼になってしまうこともあるようです。
ビジネスシーンに対応した表現の仕方や目上の方へ伝えたい時など、実際の使い方はどのようにすればいいのでしょうか。まずは言葉そのものの意味をしっかりと確認して、正しく使えるようにしていきましょう。
なお、今回使用している「〇〇ください」という書き方は、他所において「〇〇下さい」と書かれている場合がありますが、「ください」を補助動詞(何かをお願いするときや、敬意を表す尊敬・丁寧表現)として記述する場合は平仮名の方が正しいとされています。
「〇〇を下さい」のように、「ください」自体が実質動詞となる場合は漢字表記となりますので、以下、このルールに基づいて記載してまいります。
相手の考えを決める手がかりを渡す
「ご参考ください」は、実際には会議やビジネスメールなどにおいて、データや文書などの資料を提供した相手に対して伝えられる言葉です。これは「相手の考えを決める際の手がかりを渡す」という意味を持った表現となります。
状況としては、こちらから相手の役に立ちそうな情報を示したり、提供したりしているのですが、その情報が相手にとって有益かどうかは受け手の判断に委ねられているような状態です。
このため、相手に対してなにかを強制するものではなく、助けになるかどうかは確証はないが、もしお役に立つのであればどうぞご利用ください、といったニュアンスを含んでいます。
「ご参考ください」の言い換え
「ご参考ください」と同じように資料などを提供したり、書類を見てもらいたいときに使う言葉として、ビジネスシーンで利用頻度の高い表現はいくつかありますが、文言によって少しずつ意味合いが変わってきます。
今回はビジネスの場においてよく使われる「ご参照ください」「ご一読ください」「ご覧ください」の3つの言い換えについてご紹介します。
様々な表現方法を理解しておくことによって、シーン別に言葉の使い分けをすることができるようになると大変便利です。それでは、このような言い換え表現の使い方を詳しく確認していきましょう。
ご参照ください
「ご参照ください」は、照らし合わせて参考にすること、という意味の「参照」と、敬語としての「ください」を合わせた言葉です。今回のテーマである「ご参考ください」と「ご参照ください」はよく似た言い回しですが、少々意味が異なります。
「ご参考ください」の「参考」は相手に取捨選択の判断を委ねた広い範囲の情報提供ですが、「参照」はより具体的で狭い範囲の情報提供を行うことを意味しています。
もう少しわかりやすくご説明しますと、既に示された情報について、他の情報と照らし合わせることでより深く理解を得るといった場合に使用されます。
例えば、あるプレゼン資料に記載されたグラフなどのデータについて詳しく知りたい方に対し、そのデータの元となる数値などが書かれた調査資料を提供する時は「ご参考ください」ではなく、「ご参照ください」を使うのが適しています。
このことから、「ご参照ください」は少なくとも参照するのに役立つ情報提供があることが前提になりますが、「ご参考ください」には参考にするのに役立つ情報があるかどうかの確証はありません。
そのため「ご参考ください」には、送り手の情報が有益かどうかを判断する裁量は受け手に委ねられている部分がある反面、その情報を参考にするかどうかを送り手が受け手に考えさせるという意味合いにとらえられる場合があります。この点は後述いたしますが、少し使い方に注意が必要です。
ご一読ください
「ご一読ください」は、文字通りひと通り読むという意味の「一読」と、敬語としての「ください」を合せた言葉です。
相手に何かを見てもらうことをうながす意味は同様ですが、「参考」や「参照」のように、提供した情報を何かに活用してもらうような意図は入っておらず、受け手に対してこちらが作成した資料などを読んでほしい、確認だけしてほしいという意味合いになります。
文字のイメージ的には、さっと目通ししてほしい、という感じを受けますが、相手にきちんと読んでほしい書類についても強制感の薄い、控えめな表現として使うことができるので、とても便利な言い回しです。
使い方としては、お客様へ商品の取り扱いに関する資料や購入判断に関わるパンフレットなどを提供する場合や、上司に対して書類のチェックを依頼する際などに使用される表現となります。
ご覧ください
「ご覧ください」は「見てください」の尊敬語表現になります。この場合、参考としてほしい、確認してほしいなどの意図は入っていないため、純粋にこちらの情報を見てもらいたい場合に使います。
具体的には、ビジネス上で目上の立場であるお客様や上司などへ、特に判断を要しない資料提供を行う場合の表現となります。
注意点としては、自分が作成した資料を見てもらいたいだけの場合や、確認が面倒な資料を見てもらうなど相手に負担になるような依頼をする状況では使わないことです。
その場合は「ご一読ください」もしくは「ご確認ください」などを使いますが、ビジネスメールなどにおいては、できれば「ご一読いただきますようお願いいたします」など、丁寧な表現にしたいところです。
このように「ご覧ください」は相手に余計な負担をかけない内容や、有益な情報を気軽に見てもらうような時に使うのがよいでしょう。
「ご参考ください」は敬語として間違い?
「ご参考ください」という表現については、先述しましたとおり、提供した情報の活用については受け手に委ねられるものの、相手に自分で考えさせるような意味合いに感じられることがあるため、少々言い回しに違和感や不快感を感じる方がおられるようです。
また、敬語としても間違った言い方とされることもあります。はたして、この表現は本当に間違っているのか、間違っているとすればどのように直すべきでしょうか。
また、どうすれば違和感なく使用することができるのでしょうか。ビジネスシーンで失敗しないよう、考えられる点について詳細をしっかりと確認していきましょう
「参考する」という動詞はない
「ご参考ください」が敬語の使い方として間違っているという指摘の理由として、「参考する」という動詞が無い、ということがあるようです。辞書を確認すると、確かに「参考」は名詞であり、動詞ではありません。
しかしながら、「名詞」+「する」という形により名詞を動詞化する語法があります。例えば、「勉強する」「動揺する」「運動する」といった言葉がありますが、このような文法はサ行変格活用動詞と呼ばれています。
このため「参考する」は動詞であるといったとらえ方もできますが、似た言葉で同じく名詞である「参照」は「参照してください」とできるところ、「参考」は「参考してください」となり、おかしな文章になってしまうため、「参考にする」といった表現が正しい、とされることもあります。
このようなことから、「ご参考ください」でもおかしいとは言えないのですが、全く問題ないとも言い切れません。総合して考えると、実際に違和感無く使用するにあたっては「ご参考にしてください」という使い方が一般的にはしっくり来ると考えられます。
「ご参考ください」の使い方
このように「ご参考ください」という表現については、日本人の中でも意見が分かれるような状況です。また、前述したとおり、情報の採用についての裁量は受け手側にあるにしても、それは自分で考えるように、という少々突き放した表現にとらえられるなど、不快感を感じる方もいます。
「ご参考ください」をビジネスシーンで使用するには、もう少し上手に言い換えをするなど、使い方をしっかり考えた方が良さそうです。
ここからは「ご参考ください」の本来の意味を損なわないようにして、どのように言い換えをすれば違和感なく様々なシーンで利用できるか、実際の会議の場やビジネスメール、目上の方に対しての使い方など、場面を想定しながら考えていきましよう。
会議の場などで直接言いたい場合
会議の場など、直接の会話において使う場合の言い回しとして、「よろしければ、ご参考にしてください」のような言い方があります。「ご参考ください」を会話の中でダイレクトに使うのは不快感を感じる方もいらっしゃると考えられます。
クッション言葉として「よろしければ」を追加し、「ご参考にしてください」と丁寧な形に言い換えすることで、参考にするかどうかは相手の裁量次第という印象をやんわりとより多く与えることができ、相手に不快な印象を与えずに情報を提供することが可能となります。
ビジネスメールで書きたい場合
「ご参考ください」をビジネスメールで使用する場合、そのままの表現ですと少々ぶっきらぼうにとらえられてしまいそうです。ビジネスメールでは「ご参考になりましたら幸いです」「ご参考にしていただければと思います」のようにして、少し柔らかめの言い回しにするとよいでしょう。
また、「ご参考までにご覧ください」など、別の表現と合せる表現も考えられます。これらのような表現は、より相手に譲歩した表現となり、相手にとっては情報を採用することについての自由度が高い印象になります。
ビジネスメールは顔が見えないコミュニケーションですので、敬語や言い回しを上手く使って相手に不安や不快感を与えない配慮が必要となります。
更に丁寧に言いたい場合
「ご参考ください」を更に丁寧な表現とする場合はどのようにしたらよいでしょうか。その場合は「よろしければご参考になさってください」のような表現がよいでしょう。先にもご紹介したクッション言葉の「よろしければ」、「してください」の尊敬語である「なさってください」を使います。
「ご参考ください」を目上の人に使わない理由
ここまで「ご参考ください」の使い方について説明してまいりましたが、実際にする場合、目上の方に使ってもよい表現なのでしょうか。
敬語表現はできると考えられていることもありますので、使うこと自体は間違っていないと考えられますが、そもそもの意味合いを再度思い返してみると、実際は目上の方に使うには適していないのかもしれません。
「考えの手がかりにしてくれ」はおかしい
「ご参考ください」は先にご説明しましたとおり、あなたの役に立つかどうかはわからないが、こちらから情報を提供するので、それを考えの手がかりにしてあなた自身で考えてみてください、というニュアンスを含んでいます。
このため、「ご参考ください」をどのように丁寧な敬語に言い換えをしたとしても、この意味合いがなくなることはありません。
「ご参考ください」という表現はこちらにその気は無いにしても目上の方に何か指示をしているような形になってしまいますし、そもそも敬意を払うべき相手に、役に立つかどうか確証がないものを押し付けていることになってしまいます。
もし、目上の方とある程度親密な関係であり、実際に必要な状況で使用するのであれば問題ないと考えられますが、会議やビジネスメールでのやり取りにおいて、多くの場合はきちんとした組織上の上下関係があるものと考えられますので、目上の方に使用するのは避けたほうが賢明でしょう。
「ご参考ください」は考えの手がかりを渡すこと
いままで見てきましたとおり、ビジネスシーンで便利に使える「ご参考ください」の言い回しは、違和感を感じるものの、文法的にも間違っているとはいえない表現と言えます。
会議やビジネスメールでの相手に対して、自分で考えてもらうための手がかりを渡す意味合いですが、相手に考える裁量を委ねているとも、自分で考えるように仕向けているようにも受け取ることができてしまいます。
いくつかの言い換えや表現方法を織り交ぜることによって、様々な場面に対応することができます。しかし、受け取られ方の可能性を考えると、正しい敬語や言い換えを使ったとしても、目上の方に使うのは避けるべき表現ということがわかりました。
いくつかご紹介した似たような言い換え表現もそれぞれ意味合いが異なりますので、相手に間違ったメッセージを送ってしまったり、失礼に感じられることが無いようにきちんと使い分けをする必要があります。
便利な言葉ではありますが、ビジネスシーンで失敗しないようにしっかりと使い方を理解して、上手に活用していきましょう。