フェルマータの意味とは?
フェルマータという音楽記号は、楽譜を読む機会のある人ならよく目にする記号です。フェルマータは、クラシックだけでなくポップスやジャズでも演奏したり歌ったりする時に「音符や休符を程よく伸ばす」という意味の音楽記号です。
それでは、程よく伸ばすとはいったいどのくらいの長さなのでしょう。実際にはフェルマータの伸ばす長さに明確な規定はありません。演奏者の解釈によって自由に伸ばして良いとされています。
自由にと言われても、音楽の初心者にはわかりにくいのではないでしょうか。そこで「2〜3倍くらいの長さに伸ばしてみるのが一般的」とよく言われます。音符の上にフェルマータ記号がついていたら2〜3倍の長さに、休符でも同じように2〜3倍の長さを休むという意味です。
しかし、プロの歌手がエンディングの一節前のところを異常に長く伸し、そのあとに余韻を残しながら間を空けて最後の一節を歌い上げる場合などをよく耳にします。これはフェルマータを最大限に解釈して音楽を表現しようとする気持ちの表れです。
つまりフェルマータとは、演奏するミュージシャンが曲を解釈して、その時どう表現しようとする意思によって伸ばす長さはまちまちになる音楽記号です。
また同じミュージシャンが同じ曲を演奏する場合でも、コンサートライブで大勢の観客の前で演奏する場合と、スタジオでレコーディングする場合とではフェルマータの伸ばす長さが短い時も長い時など極端に違うことがあります。
ドイツのクラッシックの名指揮者と言われるカラヤンの演奏は、コンサートライヴとスタジオ録音では曲のテンポが変わる指揮者の一人です。フェルマータの長さもテンポによって変わります。
ライヴは臨場感で聴く音楽ですが、レコーディングCDは聴く人の状況が千差万別です。その聴く人の状況に合わせてカラヤンは演奏方法を変えているのでしょう。それにはフェルマータの使い方が非常に重要な意味を持っています。
そのくらいフェルマータの意味の解釈には幅があり、自由に長さを演奏者や指揮者が決めることができる音楽記号です。フェルマータの長さは、その時にその音楽をどのように表現したいかという意思によって決めるものなのです。
フェルマータの語源
フェルマータの語源はイタリア語の「Fermare(フェルマーレ)」と言われています。「Fermare(フェルマーレ)」は、動いているものを停止させる、英語の「Stop」という意味の動詞で、徐々に転じて名詞になっていきました。
イタリアのバス停の標識にはイタリア語でフェルマータ(Fermata)の文字が表示されています。つまり、もともとフェルマータは「止まる」という意味なので、バスが止まるバス停に使用されています。
音楽記号のフェルマータはイタリア語の「Fermare(フェルマーレ)」の「止まる」という意味が音楽の中で「音が止まる=長く伸ばす」という意味に転じたのが語源と考えられます。
フェルマータの意味の変遷
フェルマータの語源はイタリア語の「Fermare(フェルマーレ)」と紹介しましたが、その他の音楽記号フォルテ、フォルテッシモ、ピアニッシモ、ラルゴ、テンポ、コーダなども同じイタリア語が語源です。
音楽の授業などでよく使う、お馴染みの音階「ドレミファソラシド」もイタリアの修道僧が作り出したイタリア語が語源です。
最近のジャズやポップスの譜面では英語で「Slowly(ゆっくりと)」や「Fast(速く)」などがよく見られますが、ア・テンポやフェルマータなど音楽記号のほとんどは基本通りイタリア語で発音します。
音楽記号のほとんどが、何故イタリア語に語源があるのかには音楽の歴史が深く関わっています。バッハなどに代表されるバロック音楽は、教会のミサなどで演奏される宗教音楽に端を発しています。
宗教(キリスト教)の聖地はイタリア・ローマのバチカンです。バッハはドイツ人ですが、作曲するコラールなどの歌詞はラテン語(イタリア語)を使うのが宗教音楽としては自然な形です。音楽記号もイタリア由来の記号を当然使います。
またこれら宗教曲のほとんどの最後は、長く音を伸ばすことで締めくくります。その最後の音符にフェルマータ記号がついています。つまりその当時はフェルマータはここで曲が終了しますという意味の記号でした。
フェルマータの意味が変わった歴史
バロック音楽の時代のあと、モーツアルトやベートーベンの古典派といわれる大作曲家がフェルマータの意味や使い方を一変させてしまいます。
それまで曲の最後に使われていたフェルマータを曲の途中にも使い出したのです。もちろんフェルマータの部分で曲が終了しては困ります。バッハなどが曲の最後に音を長く伸ばす意味で使ったフェルマータを、曲中で使ったのです。
皆さんがよくご存知のベートーヴェンの交響曲第5番「運命」ので出しは「ジャジャジャーン」を2回繰り返して始まります。実はこの「ジャーン」の音符にフェルマータ記号がついています。
フェルマータがここで終わりという意味ならば「運命」は始まった途端に曲が終了してしまいます。もちろんベートーヴェンはそんな意味でフェルマータを使ったわけではありません。
「ジャーン」という音の響きの残像を残すことにより、次につながる音楽へ心を惹きつける期待の効果を狙ったのです。つまりフェルマータを「止まる・終わる」という意味でなく時間と音の空間を伸ばす意味で使ったのです。
これ以降、音楽ではフェルマータは音符や休符を程よく伸ばす記号として使われるようになり、現在でもそのような意味に解釈されています。
フェルマータの意味の解釈
フェルマータという音楽記号の語源や歴史をたどることにより、解釈の仕方も時代とともに変わってきたことが理解できたのではないでしょうか。
現在ではフェルマータは程よく伸ばす意味と解釈されています。バロック時代では単に終わりを意味する記号でしたが、現在の解釈により当時の曲の楽譜でもアレンジャーによりフェルマータを使用した楽譜に多少訂正が加えられているようです。
それではフェルマータ記号がついている楽譜を実際に演奏する場合には、具体的にはどのように意味を解釈すれば良いのでしょう。
音符や休符の伸ばし方
フェルマータで程よく音を伸ばす場合にもいろいろなパターンがあります。これはクラシックに限らずポップスでもジャズでも同じです。
フォルテッシモで強く長く伸ばしたままバシッと切って終わらせることもあれば、だんだんと音が小さくなるように最後はピアニシッモで終わるように伸ばす場合もあります。
また長く伸ばすのが、最後のエンディングの場合もあれば、曲の途中にフェルマータを使う場合もあります。そのあとに続く音のない時間の使い方も音楽には大切な表現方法です。
感性により長さが違う
フェルマータのついている音符や休符は前述のように、曲想により演奏方法はまちまちでケースバイケースで自由に解釈して良い音楽記号です。
また音の長さにも決まりはありません。作曲者やアレンジャーはここで音を伸ばして欲しいという意味でフェルマータを楽譜につけますが、演奏者にはそれを守らなければいけないという義務はありません。
フェルマータがついている音符は2倍以上必ず伸ばさなければいけないと思う方がいますが、伸ばす長さや伸ばさないの判断はすべて演奏者の感性に任されているのです。
音楽は数学のテストと違って、どんなことをやっても間違いにはなりません。ただ音楽は聴く人に感動を与えられるかどうかで評価が決まります。
聴く人に感動を与えるためにもっとも効果のある演奏が、フェルマータをいかに上手く曲中で使うかです。譜面でフェルマータが付けられていない部分で長く伸ばして演奏しても聴く人が心地よければかまわないのです。
フェルマータの演奏方法
フェルマータのついている音符や休符を実際に演奏する場合は、演奏者の感性に委ねられているといっても、一人で演奏する場合は自分の感性のまま自由で良いのですが、何人かで一緒に演奏する場合には、音の長さや強さを合わせなければなりません。
いくら感性任せといっても、それぞれが勝手に伸ばしたのでは音楽になりません。指揮者がいる場合は指揮者に合わせます。トリオやカルテットなど少人数で指揮者がいない場合は、お互いのアイコンタクトやリーダーの合図などで呼吸を合わせて演奏します。
つまり何人かで一緒に演奏する場合は、フェルマータの長さや強さだけでなく、どのように表現するかという感性や表情もお互いに合わせる必要があるのです。
フェルマータは「程よく伸ばす」という意味
音楽記号のフェルマータは、音符や休符を程よく伸ばすという意味です。またフェルマータの語源はイタリア語で「止まる」という意味から、時代を経て現在では「程よく伸ばす」という意味になった歴史を紹介しました。
実際に演奏する場合には、演奏者の感性のままに解釈して良いのですが、数人またはオーケストラにように大人数で演奏する場合には、長さや強さ表情などを指揮者やリーダーの合図に合わせる必要があることも紹介しました。
フェルマータがなければ曲は味気ないものになってしまいます。そのくらいフェルマータは音楽には欠かせない音楽記号です。これらの記事を参考にして、フェルマータを上手く使いこなして、素敵な音楽を演奏する手助けになれば幸いです。