「割愛」の意味とは?
「割愛」をそのまま訓読みにすると、「愛を割く」となります。「愛を割く」といわれると、恋愛関係を断つことのようにも思えますが、確かにそのような意味はあります。「愛着を断ち切ること」という意味ですが、この意味での使い方は語源とも関係があります。
では、現代では「割愛」をどのような意味で使うのかというと、「惜しいと思いながら省く」ということになります。この「惜しい」という意味があるために「愛」という言葉の意味が活きてきます。
実を言うと、「割愛」には「惜しいと思いながら省く」という意味のほかに「公務員が身分を移すこと」という意味もあります。他の自治体や民間企業、大学などに移ることですが、普通は前者の意味で使い方が多くなります。この記事でもその意味を中心に解説します。
「惜しいと思いながら省く」という意味の「割愛」ですが、与えられた時間やページ数、よんどころない事情などによりやむを得ず省くということになります。つまり、本当は省きたくないけれど、どうしようもないので省くという感じです。
「割愛」の語源
「愛」という言葉が使われている「割愛」ですが、その語源がどのようになっているのか見てみましょう。「割愛」の語源には2説あります。仏教用語が語源だとする説と養蚕用語が語源だとする説です。それぞれの語源説を検証してみましょう。
仏教用語が意味の語源だとする説
仏教では、僧侶になるために出家というものをします。出家とは、単に家を出るという意味ではなく、家族・友人・故郷など愛着あるものから別れることも意味します。この「愛着の気持ちを断つ」という意味の「割愛」が、現代の意味の語源だとされています。
現代の僧侶の場合、出家と言っても必ずしも家族・友人・故郷などの愛着あるものを断つわけではではありません。多くの場合は、そのままでも出家できます。しかし、お釈迦様の時代はこれらとのつながりを断つという意味合いが強かったので、それが語源となっているというわけです。
養蚕用語が意味の語源だとする説
養蚕とは、蚕(かいこ)を養い育てるという意味で、それによって絹を取ります。大切な産業の一つですが、この養蚕で使われる言葉が「割愛」の語源だとも言われています。養蚕で養う蚕は交尾の時にとても強くくっつきます。その状態を放置していると、弱ってしまいます。
弱ってしまっては困るので、雄と雌の蚕を離す作業が必要になります。つまり「愛を割く」というわけです。この「愛を割く」という意味の「割愛」が語源になって、ビジネスシーンでもよく使われる「惜しみながら省く」という意味が生じたのだとされています。
「割愛」の意味上の類語
「割愛」の類語(類義語)にはどのようなものがあるのか見てみましょう。類語を勉強することで、「割愛」の意味がより明確になるでしょうから、一つ一つ取り上げていきます。これで「割愛」という言葉の使い方をマスターしやすくなるでしょう。
省く
「割愛」とは「惜しいと思いながら省く」という意味なので、当然「省く」は類語です。その「省く」にはいくつか意味があります。「必要がないものとして取り除く」「余分なものを取り除いて少なくする」「節約する」「除名する」などの意味です。
ただし、「省く」には「割愛」に含まれる「惜しいと思いながら」という意味はありません。ただ、「必要ないものを取り除く」だけです。あとで、「割愛」と「省略」の違いを取り上げますが、その違いに似ています。
「時間がないので、詳細は省きます」と言った場合は、やや「惜しいと思いながら」というニュアンスも感じられます。この場合は類語の関係にある「割愛」と「省く」の意味がより近くなると言えるでしょう。
端折る
「端折る」とは、「省いて短く縮める」という意味です。この意味から言うと、「割愛」に似ているので、類語と言えます。しかし、「割愛」と「省く」の違いと同じですが、「端折る」にも「惜しいと思いながら」という意味は含まれません。
「端折る」は元来、「着物を挟むことで短くする」「裾をまとめる」という意味です。その意味から「省いて短く縮める」という意味が派生しました。「端折る」の漢字表記でも、そのもともとの意味も派生した意味もなんとなくわかるような気がするでしょう。
類語の「端折る」の使い方ですが、「話を端折る」「尻を端折る(話の最後のところを省くという意味)」のようになります。時々使われる言葉なので、意味と使い方をこの際覚えておきましょう。
飛ばす
「飛ばす」と言っても、紙飛行機を飛ばすわけではありません。「飛ばす」には「途中を抜かして先へ進む」という意味があるので、この部分が「割愛」の類語になります。「わからないところは飛ばして読む」「大急ぎで飛ばし読みする」などの使い方があります。
カットする
「カットする」の文字通りの意味は、「ハサミなどで切る」ということですが、転じて「一部分を削ったり、省いたりする」という意味もあります。つまり、これも「割愛」の類語というわけです。
「賃金をカットする」と言えば「賃金を一部分削る」という意味なるし、「労働時間をカットする」と言えば「無駄な労働時間を省く」ということです。ただ、このような使い方の場合、そのまま「割愛」に入れ替えると、少し変です。「惜しいと思いながら」の意味が合いません。
スキップする
「スキップ」とは「軽く飛ぶ」ということですが、その意味から「順番を省いて先に進む」という意味が生じました。したがって、この「スキップ」も「割愛」の類語に加えることができます。
「この部分は割愛して、次の話に移ります」というのを「この部分はスキップして、次の話に移ります」と言い換えることもできます。例によって「惜しいと思いながら」というニュアンスはありませんが、このような使い方なら同じような意味と考えていいでしょう。
抜きにする
「途中を抜きにして、さっさと進んでくれ」という場合がありますが、これは「途中を割愛して」と似たような意味です。つまり、「抜きにする」も「割愛」の類語です。「抜きにする」とは、「一部に手を付けずに進行する」という意味です。
ただ、類語とはいっても「割愛」と「抜きにする」では使い方やニュアンスが一部異なります。たとえば、「今日は朝ご飯を抜きにして会社へ行った」とは言えますが、「朝ご飯を割愛して」とは普通は言いません。
オミットする
「オミットする」は英語の「omit」をそのままカタカナにしたものですが、意味は「省く」「抜かす」ということです。したがって、これも「割愛」の類語です。「割愛」と似たような使い方ができます。
「せっかく書いていただいた文章ですが、この部分はオミットしてください」というのを「この部分は割愛してください」と言い換えてもほぼ同じような意味です。「惜しいと思いながら」のニュアンスは出せませんが、それほど意味に大きな違いはありません。
除外
「除外」とは「ある枠に入らないものとして取り除く」という意味です。「割愛」とはやや雰囲気の違う言葉ですが、あえて類語にしてみました。したがって、使い方も微妙に違います。「大学生は除外します」とは言えても、「大学生は割愛します」とは言いません。
「割愛」の使い方
「割愛」の意味や類語を学んだところで、今度はその正しい使い方を例文で説明しましょう。例文を見れば、どのような場面でどのように使えばいいのかがわかるようになります。そのような例文をいくつも載せるので、参考にしてください。
例文①
時間の制約から、割愛したくないけれどやむを得ず割愛するという場合があります。そのような場合の例文は、「時間に限りがございまして、この部分の解説は割愛させていただきます」となります。
これを「この部分の解説は省略させていただきます」ということもできますが、それだと「惜しいと思いながら」「やむを得ず」という雰囲気が感じられません。この例文のように「割愛」という言葉を使うことで、話者の気持ちを込められます。
似たような例文に「時間の都合上、このフィルムの上映は割愛しました」があります。これもフィルムを上映したいのはやまやまだが、時間の都合でどうしようもなく割愛したという意味になります。
例文②
新聞や雑誌などに時折見られる例文ですが、「紙面の都合上、この部分の詳細については割愛させていただきます」というものがあります。紙面の都合とは、ページ数の関係かどうかはわかりませんが、このように説明されたらそれ以上の記事は期待できません。
同じような例文に「すべての作品を掲載したかったのですが、紙面の都合上残りの部分は割愛させていただきました」があります。編集者として全作品をみんなに読んでもらいたいのでしょうが、それができなくて残念という意味合いが含まれています。
例文③
結婚式でも「割愛」という言葉を使う場面があります。司会者が祝電を紹介する時です。その場合の例文は、次のようになります。「その他多数の祝電をいただいておりますが、時間の制約がございまして、残りは割愛させていただきます」。
このケースを見ればわかるように、「割愛」は、省略したくはないけれど泣く泣く省略するという場合に使われます。したがって、この例文も司会者の惜しいという気持ちが強く感じられるようになっています。
例文④
ただ割愛するだけだと、相手にとっては物足りなく感じる場合があります。そのような場合は、補足を後に付け加えると親切になります。次のような例文にするといいでしょう。「時間の都合上、一部の説明を割愛したしますが、詳細については配布資料をご覧ください」。
これなら出席者も割愛された内容の確認ができます。「割愛」と言われると、後のことはどうなっているのだろうという気にもなるでしょうが、補足説明があればみな納得してくれるでしょう。
例文⑤
会社のプレゼンなどで現在進行中の意味を込めた文章を使う場合がありますが、そのような場合は、「割愛しております」と言えばいいでしょう。例文は、「このプロジェクトに関する説明は割愛しておりますが、詳しいことは後程資料を配りますので、そちらでご確認ください」。
「割愛中」という言い方はないので、「割愛しております」を上手に使って現在の状況を表すといいでしょう。そのうえでさらに補足説明を加えれば丁寧になります。
例文⑥
「大切な部分ではありますが、時間も押してきましたので、次のページは割愛いたします」という例文があります。この場合は、大切であることは重々承知しているが、やむを得ず省略しますという意味です。
大切な部分を省略するというのは非常に残念なことなので、あえて「省略」という言葉を使わずに「割愛」という表現にしています。このほうが話者の思いが込められています。
「割愛」と「省略」の違い
これまでの説明で「割愛」と「省略」の違いは何となくおわかりになったでしょうが、改めて違いを考えてみましょう。「割愛」も「省略」も「省く」という点では同じですが、微妙なニュアンスの違いがあります。
まずは「省略」の意味から
「省略」とは「一部分を省く」という意味ですが、もう少し詳しく説明すると、「繰り返す必要のないことや説明の必要のないことを省く」ということです。つまり、「不必要な部分を抜いておく」という意味になります。
「割愛」と「省略」の使い分け
「この部分の説明は割愛いたします」と「この部分の説明は省略いたします」では似たような感じがします。実際に違いを意識せずに両方の表現を使っている人もいますが、両者の意味には大きな差があります。
まず、「割愛」のほうですが、「惜しいと思いながら省く」ということであり、「説明が必要なことはわかっているが、やむを得ない事情により省く」という意味になります。一方、「省略」は、「説明が要らないないから省く」という意味です。
このように明確な意味の違いがあるのですから、実際にそれぞれの言葉を使う場合は、違いをよく認識しておく必要があります。さもないと、誤解を生みかねず、無礼になることがあります。どのような場合に無礼になるのか見てみましょう。
「割愛」の例文のコーナーで結婚式に使う例を紹介しましたが、もしここで「省略」という言葉に入れ替えると大変無礼になります。「祝電を割愛」と言った場合は、「時間の都合上致し方ないのでは省く」という意味であり、特に失礼な表現ではありません。
実際には省かれるのが本意でないという人がいるかもしれませんが、この場合は受け入れざるを得ないでしょう。しかし、「祝電を省略」となると状況が変わってきます。この場合は、「ほかの祝電は不要なので省く」という意味になり、祝電を送ってくれた人に対して無礼となります。
したがって、正しくは「他にも多数の祝電をいただいておりますが、時間の都合上、割愛させていただきます」ということになります。ただ、この例文はほぼ慣例句となっているので、間違える人はあまりいないでしょう。
「割愛」は惜しいと思いながら省くという意味
ここまで、「割愛」の意味、語源、類語、使い方、「省略」との違いなどについて解説しました。「割愛」とは「惜しいと思いながら省く」ということであり。この「惜しい」という点がポイントです。ただ「省く」という意味なら別な表現を使うので、上手に使い分けましょう。