幸甚の意味とは?
「幸甚」という言葉をご存知でしょうか?「飲食店の屋号?」「お守りの名称?」「読み方はなんで読むの?」などさまざまな疑問が出てきます。今回はこの「幸甚」について詳しく特集していきます。
まずは読み方から。「幸甚」の読み方は「こうじん」となります。「非常にありがたいと思うこと(さま)、何よりの幸せであること(さま)」という意味です。
「幸甚」という言葉、どんな使い方をすることができるのか、今回は「幸甚」の特徴、英語表記、使い方と注意点を例文を合わせながら順に紹介していきます。本記事「幸甚」を読んで日常の生活に役立ててもらえれば幸いです。
幸甚の由来
「幸甚」はそもそもどんな由来で現在の意味を形成していったのでしょうか?その過程をご紹介いたします。
「幸」は訓読みの読み方で「幸(しあわ)せ」と読む事ができます。字源は手枷(てかせ)を表す漢字なりますが、「逮捕されるくらいで済んだので幸せだ」という説もありますが、具体的にどのような経緯でいまの意味になったかは定かではありません。
つぎに「甚」は訓読みの読み方で「甚(はなはだ)しい」と読む事ができます。度を超えているという意味で、字源は置き窯(読み方はかまど)を表す漢字です。
それがどういう経緯で今の「甚だしい」という意味になったかですが、その窯の火力から「煮過ぎるくらい激しい」という由来と、同じ発音に耽(たん)という漢字がありますが、その漢字から「深入りしすぎる」という意味の元になったとする説があります。
「幸」と「甚」ふたつの漢字を合わせて「度を超えるくらい幸せ」となり、現在の「非常にありがたいとおもう(こと・さま)、この上ない幸せ」という意味になりました。
幸甚の言葉の特徴
意味と読み方、由来は把握できましたが、まずは「幸甚」の言葉の特徴から。日常会話では馴染みが薄い言葉であるだけに、この「幸甚」という言葉はどんな場面で使われるか?以下からは「幸甚」の言葉どんなシーンで使われる言葉であるかをご紹介していきます。
手紙などで使われる
「幸甚」はいわば書き言葉の部類に入ります。では具体的にどんな場面で使われるか?「幸甚」という言葉を使う場面の一つに「手紙」などの書面があります。
使い方は、詳しくはあとで紹介する例文に譲りますが、相手になにかをしてもらう際、文章の終わりに「幸甚です」「幸甚の至りです」などと結んで終わります。
こういう表現をすることで、相手方にしてもらうことがこの上ない幸せであることを訴えることができるわけです。
手紙の末文などで「幸甚です」などと結べは、文章全体が肯定的なニュアンスで捉えられて、とても好感がもてる手紙となります。「幸甚」はそういう締めの言葉で使うことができる便利な言葉です。
ビジネスシーンで使われる事が多い
もう一つの特徴は「幸甚」はビジネスシーンで使われることが多い言葉であるという点です。ビジネスでは、取引先との人間関係が大切になります。社会人としての礼儀に適う言葉として「幸甚」が多用される背景にあります。
「幸甚」は先述したように、相手方にしてもらうことがこの上ない幸せであるという意味です。単に「してください」では、命令調で受け取った相手は良い気分はしません。「してください」ではなく、「してもらう」という表現が礼儀に適う発想です。
その点、「幸甚」は「してもらう」という表現を受けて文章を結ぶ言葉として使用されるケースが多いです。具体的には後述する例文に譲りますが、「していただければ幸甚の至りです」など謙譲語や丁寧語と一緒に用いられます。
また、現在のビジネスシーンは、年賀状、暑中見舞い、寒中見舞いなど、取引先へは手紙なども使うケースもありますが、日常の業務の大部分の連絡手段は電子メールになります。
電子メールも手紙と同じ意味合いを持ちますので、日常のビジネスメールを使う際は「幸甚」を使った表現をマスターすることは、さらなる業務上のマナーの向上の一助になる可能性があります。
幸甚の英語表記
次に「幸甚」を英語表記する場合にどのような表現ができるのかを紹介していきます。「幸甚」はいうまでもなく日本語で、日本語圏で通用することばですが、英語圏になると同じようなニュアンスの言葉はどのような表現が可能なのでしょうか?
現在はグローバル化が進み、ビジネスシーンにおいて日本でも続々と外資系企業が進出しており、今後ますます英語圏の企業とビジネスチャンスが生まれる可能性があります。そして取引先との関わり方ですが日本国内同様、英語圏でもマナーは存在しています。
今回は「幸甚」の英語表記として2つの表現をご紹介していき、それぞれの例文を詳しく解説していきます。
should be very happy
「幸甚」を英語で表現する場合、「should be very happy」が1つ目に挙げられます。読み方は「should (シュッド)be(ビー)very(ベリー)happy(ハッピー)」になります。
happyは「幸せである」という意味の形容詞です。veryは「とても、非常に」という意味の副詞で、形容詞の前に位置付けられます。shouldは「〜であろう、〜すべきだ」という意味。この単語はまだ成し遂げられていない事実に対して用いられる未来を表す助動詞です。
この二つの品詞が「幸甚」に置き換えられる存在となり、直訳すると「とても幸せである」という意味になります。
例文としては、「I should be very happy if you will reply by tomorrow.」という英文が挙げられます。読み方は「I (アイ)should (シュッド)be(ビー)very(ベリー)happy(ハッピー)if (イフ)you(ユー) will(ウィル) reply (リプライ)by (バイ)tomorrow(トゥモロー).」
直訳すると「明日までに返信いただければ、私はとても幸せでありましょう」これをくだけた和訳にすると、明日までに返信いただければ、幸せに存じます」となります。
日本語と同じく、相手にしてもらうことがこの上ない幸せであるという内容の文章となります。相手にしてもらうことに感謝することは英語圏でも変わらないビジネスマナーです。
We hope~
「幸甚」を英語の文章にすると、もう1つ「We hope〜」があげられます。読み方は「ウィー ホープ」となります。「We hope」は、通常の英語である主語+動詞+目的語や主語+動詞+形容詞のように完結しているひとつの文章の前に設置することができます。
「We hope〜」の意味は「〜できたらいいな」という意味です。似たような構文に「We wish〜(読み方はウィー ウィッシュ)がありますが、こちらは実現可能性が低い意味合いに使われ、日本語訳にすると「〜できたらいいんだけどな」というニュアンスになります。
例文としては、「We hope you'll respond by the deadline.」という文章が挙げられます。読み方は「We(ウィー) hope(ホープ) you'll (ユール)respond (レスポンド)by(バイ) the(ザ) deadline(デッドライン).」となります。
意味は直訳すると「期日までにご回答もらえればいいんだけどな」これをもっとくだけた解釈をすると「期日までにご回答をいただければ幸いに存じます」となります。
「should be very happy」「We hope 」ともに後につづく構文は未来のことを表現していることも着目すべきところです。前者はif以下の文章はwill、後者はhope以下の文章にはyou'll と、ともに未来を示す助動詞をつけて表現しています。
英語においては実現可能性が高い未来については、未来形の助動詞をつけて表現するので、実際に英語で「幸甚」を表現する際は、これから実現するであろう期待を込めて、未来形の助動詞をつけて表現することをご留意ください。
幸甚の使い方
英語圏でも「幸甚」に当てはまる構文も存在することも把握できました。今度は日本国内に話を戻し、実際の「幸甚」の使い方を見ていきます。
日本では英語圏とは違い、「幸甚」を使う際、敬語という用法も関わっていきます。相手に敬意を示す言葉使いが日本では存在しているからです。敬語は人間関係を円滑にしていく大事な言葉使いなので、この敬語の使い方も看過できません。
以上を踏まえた上で「幸甚」は日本ビジネスシーンにおいてどんな使い方がなされているのか?実際の4つの例文と合わせて紹介していきます。
例文①
1つ目の使い方として、取引先に対するメールとして「ご出欠の可否を確認させていただきますので、お忙しいところ大変恐れ入りますが、◯月◯日までにご返信いただければ幸甚に存じます」という例文が挙げられます。
この例文はビジネスシーンにおいて、社外向けの配信になります。社外向けであるために、かなりフォーマルな文章に仕上がっています。前段では、一番伝えたい文章の内容の部分が来て、後段にその内容を期日までに返信することをお願いしています。
ここで敬語を見ていきます。敬語は尊敬語と謙譲語と丁寧語があり、この中で丁寧語は「です」「ます」などの言葉遣いが該当いたします。上記文章の場合、前段、中段、後段にそれぞれ1つずつ使われています。
尊敬語は、相手の行動や状態に対して敬意をはらう言葉遣いです。上記文章の場合、相手の行動や状態に該当する箇所は「出欠」「忙しい」「返信」になります。この場合それぞれの言葉に「ご」「お」などの接頭語を用いて表現していきます。
謙譲語は、自分の行動や状態に対して、自分を謙る(読み方はへりくだる)ことで相手を立てるという敬語の用法になります。上記文章の場合、メール発信者が自分になります。自分の行動や状態に該当する箇所は「確認させていただく」「幸甚に存する」になります。
また、「恐れ入ります」の「恐れ入る」はそれ自体敬語であるので、語尾を丁寧語にしておくだけとなります。「幸甚」は発信者側の行為なので「存する」という謙譲語の語尾+丁寧語もしくは慣用的に「幸甚です」と丁寧語に変換することが大切なポイントです。
例文②
2つ目の使い方として、手紙などの書き言葉として使われる「幸甚」です。「未熟なこの私に数多くのご教示をしていただき幸甚の至りでございます」という例文が挙げられます。
この例文は御恩にたいして感謝するシーンで、手紙などで改めて謝意を伝える際に使うことができます。目上の方や大恩のある大切な方に対して電子メール以上に敬意と誠意を伝えることができます。前段では、一番伝えたい文章の内容の部分が来て、後段にその感謝の意を表現しています。
上記文章の場合の尊敬語は、相手の行動や状態の箇所が該当箇所なので「教示」になります。この場合「教示」の言葉に「ご」の接頭語を用いて表現していきます。
上記文章の場合の謙譲語は、自分の行動や状態の箇所が該当箇所で、手紙の差出人が自分になります。この場合の謙譲語は「いただく」になります。
また、丁寧語は「幸甚の至り」に「ございます」とつけて文章を結びます。「ございます」を先述した謙譲語「存じます」に変えても間違いではありません。
また「幸甚の至り」という語句も慣用的に使われる言葉です。「至り」というのは「極み」という最高の状態を示す言葉で、「幸甚」をより丁寧に表現することができます。
「幸甚」は未来の行為に対して敬意と感謝を込めて表現することが多いですが、上記のようにしてもらった行為に対して使うことも可能なのでご留意ください。
例文③
3つ目の使い方として、社内向けに対するメールとして「お心当たりがおありの方は、大変恐れ入りますが、総務部までにご一報いただければ幸甚です」という例文が挙げられます。
この例文はビジネスシーンにおいて、社内向けの配信になります。社内向けであっても一斉配信するなどオフィシャルでアナウンスする場合はフォーマルな文章を使うことに問題はありません。前段では、対象者に対して呼びかけて、後段にしてもらう内容をお願いしています。
上記文章の場合の尊敬語は、相手の行動や状態の箇所が該当箇所なので「心当たり」「ある」「一報」になります。この場合「教示」の言葉に「お」「ご」の接頭語を用いて表現していきます。
上記文章の場合の謙譲語は、自分の行動や状態の箇所が該当箇所で、メールの差出人が自分になります。この場合の謙譲語は「いただく」になります。
また、丁寧語は「幸甚」に「です」とつけて文章を結びます。「です」を先述した謙譲語「存じます」に変えても間違いではありませんが社内用なので、過度にかしこまり過ぎないようにするようご留意ください。
例文④
4つ目の使い方として、御礼の手紙やメールとして「ご出席の感謝の意を込めて返礼品をお送りさせていただきます。ささやかな粗品ですが、お気に召していただければ幸甚に存じます」という例文が挙げられます。
この例文はプライベートな場面においての書き言葉になります。ビジネス以外でも使う事ができる一例です。前段では、内容物について言及しており、後段にでは発信者の主観を述べています。
上記文章の場合の尊敬語は、相手の行動や状態の箇所が該当箇所なので、相手の行動や状態に該当する箇所は「出席」「お気に召す」になります。「出席」には接頭語の尊敬表現の「ご」をつけています。
「お気に召す」は「気に入る」の尊敬表現で、この場合の「お」は丁寧語の「お(御)」になります。「召す」は補助動詞としての役割をしており、つけた言葉の尊敬語の意味を強める働きをしています。
上記文章の場合の謙譲語は、自分の行動や状態の箇所が該当箇所で、メールや手紙の発信者が自分になります。自分の行動や状態に該当する箇所は「お送りさせて」「いただく」「幸甚に存する」になります。
また、「ささやかな」「粗品」は他人に贈呈するにあたり、送る側を謙って表現している謙譲表現です。その言葉自体に謙遜のニュアンスが含まれているので、お知りおきください。
幸甚を使う際の注意点
次に「幸甚」を使う際の注意点をご紹介いたします。ビジネスなどでも「幸せの最上級」として多用されている「幸甚」。使い方にどのような注意点が含まれているのでしょうか?
「幸甚」の主体が「発信者」であり「最上級表現であり」フォーマルで「かしこまった言葉」であるということが注意点を見分けるポイントになります。
今後ビジネス上などのやりとりで「幸甚」を使う際、以下の注意点も鑑みて使用していただければ幸いです。
発信者主体の言葉であること
「幸甚」の1つ目の使い方の注意点としては、「発信者主体の言葉である」ことです。幸せであるということは、主体が自分であるので、「幸甚」もその類を脱しません。
他人が「幸甚」であるという表現をすることは、他人からしてみれば「自分が幸甚であるかどうかは、他人が決めることではない」と感じてしまうので、使い方としては間違っています。「幸甚」を使う際は、「幸甚の主体はあくまで自分である」というポイントをぜひご留意ください。
ちなみに同じようにビジネスメールとして使う言葉に「高配」があります。「いつも弊社が格別のご高配を賜りありがとうございます。」などの冒頭でよく使われることがあります。
これは「幸甚」とは逆に「相手が自分にしてくれる配慮」になり自分が「高配」することはできないのでご注意ください。
このように普段多用するビジネスメールにおいても、「自分が主体のみ」「相手が主体のみ」などそれぞれ主体が限定される言葉があるので、ご留意ください。
一書面の中で多用しない
「幸甚」の2つ目の使い方の注意点としては、「一書面の中で多用しないこと」です。「幸甚」はこの上な幸せであるという幸せを最大級に端的に表現した言葉です。
メールでも手紙でも、「幸甚」の言葉が持つその最大級の幸せであるという意味を持つ表現は最小限に止めることで、その言葉の希少さと貴重さが際立ちます。
使い手にとって「幸甚」を多用し、相手への敬意を表現していきたいところですが、「幸甚」自体の言葉の影響力を鑑み多用を控えることが書面構成全体のバランスが図れます。
親しい間柄では使用しない
「幸甚」の3つ目の使い方の注意点としては、「親しい間柄では使用しないこと」です。「幸甚」はビジネスなどの対外的な取引関係者へのフォーマルな言葉使いとしてその関係性を円滑にさせる言葉です。
「幸甚」の言葉自体、かしこまるニュアンスが含まれるため「幸甚」の使う場面の前提となるのは、目上であっても同僚であっても親しい人へは使わない事が無難です。
親しい間柄に使うとなると、受けては一定の距離感を感じてしまいます。「幸甚」にはざっくばらんで気取らない間柄には不向きな言葉であることをご留意ください。
幸甚はこの上ない幸せであるという意味
これまで「幸甚」の意味、読み方、言葉の特徴、例文を交えた英語表記、例文を交えた日本語での使い方、注意点をご紹介してきました。「幸甚」はこの上な幸せであることをかしこまって表現した言葉です。
日本語においては、ビジネスシーンや手紙などの感謝のシーンで使われる言葉ですが、社会生活の慣行上、他の敬語表現も合わせて使っていく場合がほとんどです。
ビジネスメールや手紙を書く際は本記事を参考にしていただき、「幸甚」という文言を活用して、さらなる豊かな人間関係の構築の一助になれれば幸いです。