「是非に及ばず」の意味とは?
「是非に及ばず」とは、織田信長が本能寺の変で明智光秀の軍勢に攻められた際、発した言葉としてとても有名です。
攻め寄せた軍勢が明智であると聞いた織田信長が、「もはやどうしようもない」との意味で発言したと言われていましたが、近年の研究から「是か非か考えている暇はない。武器を持て!」という、部下への命令であったとも捉えられるようになりました。
そこから現在「是非に及ばず」とは、主に「仕方がない」「どうしようもない」「やむを得ない」などの意味で使われますが、別の解釈から「どうこう考えている暇はない」「今起きている事に対処せよ」という前向きな意味でも使われています。
「是非に及ばず」の対義語・類義語
「是非に及ばず」の類語や、対義語はあるのでしょうか。類語は、同じ、または似た意味の言葉、対義語とは、反対の意味や対照的な意味を持つ言葉です。
普段の会話で「是非に及ばず」を使うのは少しハードルが高いですが、類語を知って使いやすいものを覚えておくのも良いでしょう。
対義語については「是非に及ばず」という言葉に、これが対義語であるというはっきりしたものはありませんが、その意味から考えて対照的な言葉をピックアップしてみました。
対義語
まずは「是非に及ばず」の対義語について。「是非に及ばず」を「諦め」ととるか「四の五の考えず行動」ととるかで変わってくるでしょう。あなたの好きな解釈はどちらでしょうか。ここではそれぞれのパターンをご紹介します。
「是非に及ばず」対義語①「諦め」の意味と解釈する場合
「是非に及ばず」を「仕方ない」など諦めの意味としてとらえるなら、対義語になる言葉は「粘る」「こだわる」という意味の言葉です。
現代風に表現するなら、「まだやれる」「まだいける」などでしょうか。本能寺の変で、諦めず武器を取って戦った織田信長も、そう思っていたかもしれません。
「是非に及ばず」対義語②「考えるより行動」の意味と解釈する場合
「是非に及ばず」を「考えている場合ではない、行動だ」という意味としてとらえるなら、その対義語は「考える」「論じる」という意味の言葉になるでしょう。
「熟考」「思索」「審議」あたりが対義語であると言えそうです。現代語風にするなら、「ちょっと考えさせて」といった感じでしょうか。本能寺で、織田信長も本当はそう言いたかったかもしれません。
類義語
「是非に及ばず」の類語も、ふたつの解釈によって変わってきます。「もはやどうしようもない」という諦めととるのか、「是非を論じている暇はない。とにかく行動せよ」という前進につながる言葉ととるのか。それぞれふたつの類語をご紹介します。
「是非に及ばず」類義語①「諦め」の意味と解釈する場合
織田信長が言い放った「是非に及ばず」を「諦め」の意味として捉えるなら、類語はどんなものになるのでしょうか。この場合の類語は「仕方ない」「やむを得ない」「致し方無い」「お手上げ状態」などです。
古風に表現するなら「もはやこれまで」といったところでしょう。本能寺で織田信長の発言した「是非に及ばず」とはそのような意味であると長い間認識されてきましたが、近年違う観点からの解釈も出てきて論争を巻き起こしています。
「是非に及ばず」類義語②「考えるより行動」の意味と解釈する場合
「是非に及ばず」が「とにかく武器を持て」という意味だったとするなら、その類語は「考えるより行動」という意味の言葉になるでしょう。「先手必勝」「現状打破」などが近いと言えそうです。
ことわざなら、「祈るより稼げ」という言葉が類語としては近いでしょう。これは神仏に祈っているだけでは何にもならない、という意味です。織田信長もそんな心境だったかもしれません。
「是非に及ばず」の使い方・例文
「是非に及ばず」は古い慣用句ですが、現代でも十分使いどころがある言葉です。実際の会話で使う場合、どのように使えば良いのでしょうか。さらっと使いこなせるようになりたいところです。使い方や例文について見ていきましょう。
例文①
まずひとつ目に、「是非に及ばず」をビジネスシーンで使う場合の例文をご紹介します。例文としては、「良い案だと思ったが上司の許可が降りないのでは是非もなし。別の案を練ろう。」といった使い方ができます。
仕方がないが状況を飲み込んだうえで行動しよう、といった場面で「是非に及ばず」を使うことができるでしょう。
例文②
次は「是非に及ばず」を学業や資格勉強のシーンで使う場合の例文についてご紹介します。例文として、「期末テストが明日に迫っているが、テスト範囲を勘違いしていた。是非に及ばず、今から詰め込むしかないだろう。」といった使い方をすることができます。
例文③
次に日常生活の中での「是非に及ばず」の使い方をご紹介します。例文としては「高速道路が渋滞しているらしい。これでは是非に及ばず、一般道を走っていこう。」といった内容で使うことができます。
いらいらしてしまいそうな状況下でも、「是非に及ばず」と言ってみることで良い意味で諦めがつき、建設的な考えにシフトすることができそうです。
例文④
最後の例文に、もうひとつ日常生活の中での「是非に及ばず」の使い方をご紹介します。普段の家事など日常の中での「是非に及ばぬ」状況は、人それぞれに経験があることでしょう。
例文としては、「カレーライスを作ろうとしたがカレー粉を買い忘れてしまった。是非に及ばず、ここは肉じゃがを作ることにしよう。」といった内容で使うことができます。
四つの例文で、「是非に及ばず」というシーンは仕事や日常生活の中にたくさんあることがお分かりいただけたでしょうか。考えても仕方のないことに囚われすぎず、前向きに方向転換したいものです。
「是非に及ばず」を使う際の注意点
重々しい響きに反して意外に日常生活で使いどころの多そうな「是非に及ばず」ですが、使い方には注意する点もあります。発言するときには何に気を付ければ良いのでしょうか。気になる注意点を見ていきましょう。
敬語が必要なシーンでは使えない
「是非に及ばず」は敬語ではありません。目上の方に対して使用する場合は、「是非に及びません」「是非もありません」など敬語表現に変えて話すようにしましょう。
でも、もし気心知れた上司が時代劇好きなら、あえてそのまま「是非に及ばず」と言ってみるのも一興かもしれません。面白がって同じノリで返事をしてくれるかどうかは、あなたの上司のユーモア次第です。
「是非に及ばず」の由来・歴史
冒頭でも少し触れましたが、「是非に及ばず」とは本能寺の変の際、明智軍に取り囲まれた織田信長が放った言葉が由来であると言われています。
当時どんな状況だったのか、織田信長はどのような行動をとったのか、ここで少し歴史を見ていきましょう。
由来
本能寺で織田信長が言ったとされる「是非に及ばず」。本能寺を包囲された際、敵方の軍勢が明智であると側近の森蘭丸から報告を受けた際にこう言ったと言われています。
これまで、圧倒的不利な状況を見て取った信長が、もはやこれまでと腹をくくって観念した意味の発言であると言われていました。
しかし、そこで希望を失っていたのなら、そのまま腹を切りそうなものですが、信長はこの発言ののち武器を持って応戦。傷を負って初めて後方へ下がり、女達を逃がしてから自刃したと言われています。
悪あがきとも言えそうな、最後まで粘り、可能性を捨てなかった織田信長の姿。ここから「是非に及ばず」とは諦めではなく、腹をくくった上での前向きな行動であるとも捉えられるようになりました。
歴史
歴史では、織田信長の最後は本能寺に火をつけ、自刃して果てたと言われています。しかし死体は見つからず、現在まで多くの謎が残っています。
側近や小者までみな討ち死にしたと言われる本能寺の変。信長が残した「是非に及ばず」という言葉は誰が伝えたのでしょうか?
生き残った側近が、信長が逃がして助かった女達に話を聞き記録に残したとか、信長が気に入っていた黒人の側近は明智方に捕まったが解放され、彼が語り伝えたとか、そういった逸話が残っています。真相は闇の中ですが、いつか本能寺の真実が解き明かされる日はやってくるのでしょうか。
「是非に及ばず」の英語表記
「是非に及ばず」を英語表記にすると、どういった文章になるのでしょうか。「仕方がない」「どうしようもない」という状況を英語にすると「it is what it is」となります。
少し深刻な状況で使う英語です。面接に遅刻しそう、彼女と別れた、などの場面で「It is what it is.(是非に及ばず)」と英語で呟いてみましょう。
また少し違う表現では、「That can't be helped.」という英語表現もあります。直訳すると「それは救われない」となります。状況次第でこちらを「是非に及ばず」の英語表現として使っても良いでしょう。
「是非に及ばず」は「やむを得ない」という意味
「是非に及ばず」とは、「仕方がない」「やむを得ない」など諦めの意味、または、どうしようもない状況を飲み込んだうえで「考えても仕方がない」「考えるより行動」「ここを切り抜けよう」という意味で使われます。
「こうするしかない」「他にどうしようもない」という状況は、日常生活の中であちこちに転がっています。つまずいて転んだままにならないように、「是非に及ばず」と呟いて、頭の切り替えを行いましょう。