「従来」の意味とは?
「従来」という言葉は普段から結構耳にしたり目にします。よく使われる言葉ではありますが、正確な意味はと聞かれると「以前から」などという答えが返ってきます。
しかし、ここで疑問がわきます。「以前から」は「いつが起点なのか?」、また、終点は「いつまで?」なのでしょうか。安易に使っていて間違った使い方をしていませんか。
「従来」の意味は「以前から今まで・これまで」と多くの辞書にあります。結論から言うと、「以前から」は特に定義はなく、重要なのは終点の「いつまで」の定義で、これは「今」を指しています。
多くの辞書を見ても、上のような意味の説明しかなく、それでもただ何となくわかったような気がして今まで使っていたという人が多いようなので、今回、正しい意味や使い方、類義語や対義語についても紹介します。
「従来」の由来
「従来」を一つずつ漢字の意味で調べると、「従」は「したがう」で「あとについて行く」の意味があります。「来」は「くる」で、「距離的・時間的に近くに移動する」の意味ともうひとつ「ある状態に立ち至る」という意味もあります。
この2つの漢字を組み合わせた「従来」は、「あとについて行って今に至る」という意味になり、そこから「過去から続いて今に至るまで」の意味を指す言葉となりました。
「従来」の特徴
「従来」はよく使われる言葉と言いましたが、この言葉にはあとに説明する類義語とは意味的に違った、大きな特徴があります。それは「従来」の意味のところで説明した、時間的なことによる特徴です。「従来」の意味における特徴について、類義語を挙げてその違いを紹介します。
「従来」を使うことの効果は?
ビジネスにおいて「従来」という言葉が多く使われるのは、商品開発の場面や改善活動の報告など、新しい物や局面についての説明・プレゼンテーションなど多くの場面があるからです。
新商品についての説明でただ新しい機能を紹介しただけでは今ひとつ訴えるものが不足しがちです。また、改善活動についても現状が分からなくては改善して何が良くなるのかこちらも説得力に欠けます。
そんなときに今までの現状を引き合いに出せば、何ができなかったために新機能が追加され、できるようになったのか、また、何が悪くて改善するに至り、その結果が前と比べてどう良くなったのかがより効果的に伝わります。
「従来」という言葉の意味には、過去のさまざまな状態を引き合いに出す効果があって、それゆえにビジネスシーンでより大きな効果を示すために多く使われているのです。
「従来」の類義語と意味の違い
「従来」の類義語に「従前」、「以前」があります。それぞれの類義語の意味は「従前」は「今より前」、「以前」は「ある時点を起点にそれよりも前」ですが、これだけでは「従来」との意味の違いはよく分かりません。
3つの意味の違いをうまく説明するのはなかなか難しいのですが、微妙な意味の違いは「起点」と「終点」の定義にあります。「従前」は「現在を起点にしてそれよりも前」と起点は「現在」です。
「起点」と「終点」の違いを使って、「従来」と「従前」や「以前」との意味の違いや使われ方について以下に説明します。
「従前」は日常的に使われない
「従前」(じゅうぜん)は起点が現在で、それからさかのぼるような意味に使われることを紹介しました。なので、「以前から今まで」と現在が終点になる「従来」とは視点が異なります。
また、「従前」は日常ではあまり使わない言葉で、役所などの公的機関で主に使われています。具体的な使われ方としては、見たことがある人もいるかもしれませんが、住民票で以前住んでいた家の住所を記入する欄に「従前の住所」と書かれています。
「従前」はお役所などの公的機関で使われることが多く、文章としては「従前より」、「従前から」、「従前通り」など「従来」と同じような使われ方をします。
「以前」は日常会話では「従来」とほぼ同じに使われる
「従来」のもうひとつの類語である「以前」は、起点の区切りを入れることができるのが、「従来」の意味と違う大きな特徴です。
「従来」との意味の違いが最も分かりやすい例文は「以前は○○と△△の2つの問題があって、○○は先月解決し、残っていた△△の問題も今回解決することができました。」
この例文では「以前」の時間軸は2段階になっています。これに対して、「従来」はこのような使い方はしません。あくまでも終点が「今」を意味するため、この例で言うと、「従来から△△の問題がありましたが、無事解決しました」のように今回解決した事柄のみに使用されます。
終点を「今」とした場合は「従来」と同じ意味になるので、「以前は」、「以前から」などと「従来」と同じ使い方がされます。ただし、ビジネスにおいては「以前」はあまり使われず、「従来」が使われるのが普通です。
「従来」の対義語は?その使い方も紹介!
「従来」の対義語にはどのようなものがあるでしょう。「従来」の対義語は「今後」です。「今後」の意味と「従来」の意味の対比は「起点」と「終点」を使うとよくわかります。
「従来」の起点は「これまで」や「以前」で、特に「いつから」は具体的に決まっていません。また、終点は「今」です。
これに対して「従来」の対義語である「今後」は起点が「今」で、終点は「未来」です。時間的には「従来」と「今後」はまるっきり対称形になります。
「従来は旅行者でホテルを予約していましたが、今後はインターネットで予約します」など、今までしていたことをこれから先は変えていくような場合にこの対義語が使われます。
「従来」の英語表現と日本語との意味の違い
「従来」は英語で何というのでしょうか。また、日本語の「従来」と英語の「従来」ととは、意味や使われ方は同じなのでしょうか。
日本語の「従来」と同じ意味に使われる英語の「従来」は、いろいろなシーンにより変わってきます。どのようなシーンにどのような英語が使われるのか、使われる場面によって比較しながら説明します。
「従来」の英語表現は?
ただ「従来」という日本語を英語に置き換えるのであれば、"conventional"や"traditional"などが意味としては適切です。
ただし、英語の文章を日本語に翻訳するときに「従来」という言葉を使う方がしっくりする場合があり、必ずしも上の2つではありません。
例文として、「新開発の製品のひとつ前の製品」は「従来の製品」と置き換えられます。この場合の「従来の」の英語訳は、"previous"や、"original"で、この方が相手に伝わりやすい表現です。
この他にも「従来通り」という意味で使う場合には、"as usual"や、"before"の方が意味としてはピッタリです。
「従来」はいろいろな英語の意味を表せる万能の言葉!
前の項でも挙げたように、「従来」という日本語を単純に"conventional"や、"traditional"と英語訳するよりも、日本語の文章の意味を考え、それに合った英語の類義語を使った方が、相手にうまく伝わります。
それだけ日本語の「従来」という言葉は幅広い意味を持ち、その状況によって万能に使うことができる、優れた言葉です。
「従来」の使い方
「従来」は結構目にしますが、その使い方もいくつかあります。ここではいくつかの例文を紹介し、どのような場合にどのような使い方がされているのかを説明します。今までの説明と合わせると、正しい理解が深まるのではないでしょうか。
例文①
これまでも説明の中で挙げた「従来はなかった新機能」のような使い方は最も一般的です。この文例はプレゼンなどで新商品をアピールする時などに有効な手法です。この時の使い方は単に、「従来」という表現です。
例文②
「従来」の意味は終点が「今」と紹介しましたが、「従来通り」という風に表現すると、終点である「今」までのことが今後も継続するという意味になります。
「運営方法は従来通りとします」とすると、「今」までの運営方法を変えずに、今後も同様の運営方法で進みます、という意味になります。
例文③
例文、「こんなことは従来なかった」は、終点の「今」が少し過去のことになる、ちょっと違った使い方になります。
本来の「従来」の終点は「今」、すなわち「現在」のことでしたが、ここでは従来なかったことがすでに発生しているため、「今」という終点が発生した時点を指します。この場合の「従来」は「これまでに」と同じ意味になります。
例文④
「従来」の対義語である「今後」と組み合わせた表現で、「今」を境にその前と後を比較するような場合に使います。
「今後も従来通りの活動を続けます。」、「今後は従来の方式ではなく、見直した方式を適用します。」などのように組み合わせた表現になります。前者は継続、後者は変化を表す意味の使い方です。
「従来」の注意点
「従来」はビジネスにおいてよく使われる言葉です。そのため、間違った使い方をすると、恥をかいたり、評価が下がったりするので注意が必要です。
ここでは特に普段使っている人が多い、誤った「従来」の使い方について、どう間違っていて、正しい表現は何かを紹介します。
「従来」の間違った使い方に注意
たまに「従来から~」や「従来より~」という表現を目にしますが、この使い方は誤りです。「従来」の意味をあらためて確認すると、「以前から今まで、これまで」とあるように、すでに「から」や「より」という意味を含んでいます。
なので、「従来から~」や「従来より~」という表現は、「から」や「より」が重複していることになります。「従来、~」だけで「から」や「より」という意味になります。
「従来」は「これから先をどうしていくか」という意味
以上、「従来」について紹介してきましたが、正しい使い方や英語表現について理解していただけたでしょうか。注意点のところで例に挙げた誤った使い方などしていなかったでしょうか。
これまでの「従来」の説明から、「従来」で示すのは今より前のことを指し示し、そうした状態を踏まえてこれから先、どうしていくのかを表現するときに使われます。
その中には常に「これから先は」という「従来」の対義語である「今後」という意味が隠れていると言えます。
なので、過去を反省して将来の発展につないでいかなければならないビジネスにとっては、「従来」という言葉は重要なのです。