怒髪天を衝くの意味とは?
「怒髪天を衝く」は「激しい怒りの形相になる」という意味を表す言葉となっています。読みは「どはつてんをつく」と読みます「怒髪天」とも略されますので読みを切る場所がわかりにくく混乱してしまいますが「怒髪」「天を衝く」が正しい読みの区切りとなります。
「怒髪」は「怒りで髪が逆立つ」を意味し「天を衝く」は「天に届くほど高い」という意味があります。2つを組み合わせて「激しい怒りの形相になる」という様子を意味する表現となっています。
そんな「怒髪天を衝く」の由来や特徴を解説し「怒髪天を衝く」の類語・意味と「怒髪天を衝く」の使い方を例文を挙げながら紹介します。
怒髪天を衝くの由来
「怒髪天を衝く」の由来は中国の戦国時代の故事が由来です。戦国時代、趙の恵文王が楚の宝「和氏の璧」(かしのへきと読みます)を手に入れました。
恵文王が「和氏の璧」を手に入れた話はあっという間に秦の昭王の知るところとなり、昭王は「和氏の璧」を欲し、街15個と「和氏の璧を交換したい」と恵文王に使者を出しました。
恵文王は困りました。街をくれる筈はない。しかし断れば秦が大挙に軍を引き連れてくる。このままではタダで「和氏の璧」を取られてしまうがどうすればよいか?と家臣に相談したところ、一人の賢い家臣を使者として派遣する様に提案され、彼を昭王の元へ派遣しました。
派遣された「藺相如」(りんしょうじょと読みます)は、一度は昭王に「和氏の璧」を献上しました。しかし、昭王が約束を反故にしようとしている事を察知した「藺相如」は理由をつけて昭王から「和氏の璧」を手元に戻しました。
「藺相如」は昭王から離れてから「髪を逆立て、冠を貫いて天を衝くほど」の怒りの形相になりました。「藺相如」は無傷で「和氏の璧」を取り返し、趙へ無事帰ることができました。
怒髪天を衝く以外の言葉も同じ故事から生まれた
「怒髪天を衝く」以外にもなじみのある言葉が同じ故事から由来しています。「怒髪天を衝く」形相で見事「和氏の璧」を「藺相如」は趙に持ち帰ることができました。
「藺相如」が無事に「和氏の璧」を持ち帰ったことは「璧を全うする」という意味で、ここから「完璧」という言葉が生まれました。「璧を全うする」というのは「和氏の璧を傷一つ付けずに持ち帰ったと言うこと」を意味しています。
そこから「完璧」は「欠点がない」という意味や「立派」「完全無欠」という意味で使われる言葉となりました。
おそらく、かしこく感情をコントロールして顔は「怒髪天を衝く」形相で怒っている様に見せても、心を冷静に保っていたので目論見通り「藺相如」は殺される事なく無事に「和氏の璧」を「完璧」に持ち帰ることができたのでしょう。
和氏の璧とは?
「和氏の璧」とは翡翠を元に作られた中国の古代の宝玉です。始皇帝が玉璽(ぎょくじ)として使ったなど、諸説ありますが現在でも「和氏の璧」は出土されておらず空想の宝玉だったのではと考えられています。
怒髪天を衝くの特徴
「怒髪天を衝く」の由来が中国の故事だということがわかったところでふと疑問に思ってしまうのは「怒りで髪の毛って逆立つんだっけ?」という疑問が湧いてきませんか?「怒髪天に衝く」の特徴となる髪の逆立ちについて解説します。
怒りで人間は髪が逆立たない
結論からいうと怒りで人間の髪は逆立ちません。人が怒りを感じた時に変化するのは表情や脈拍などが生理的な変化を起こします。
「怒髪天を衝く」のは「腹が立つ」や「腸が煮えくり返る」の様な実際には逆立ってもいないし、煮えてもいませんが、逆立つ様に感じる程の怒りを意味する使い方の慣用句となっています。
怒りにはいつも意味がありますが、正当な意味は滅多にないと言われるくらい不毛な感情です。怒りは原始的な感情ですので切り離す事は難しくなっていますが、無意味な怒りは極力出さずにいたいものです。
例えるならスーパーサイヤ人
現実の人間が「怒髪天を衝く」ことはないとわかった上で真っ先に思い浮かぶのは怒りで「怒髪天を衝く」ドラゴンボールに登場するスーパーサイヤ人ではないでしょうか?
実際のエピソードでも伝説と言われ、「存在しないだろう」と思われていたスーパーサイヤ人もフリーザにクリリンを殺された怒りから、孫悟空はスーパーサイヤ人に覚醒しました。
ただでさえツンツンの髪の毛が「気」のオーラと共に逆立っている描写はまさに「怒髪天を衝く」という意味に相応しい物です。
動物は威嚇の意味で毛を逆立てる事も
猫などの動物は怒りや恐怖を感じた時、または興奮している時に「怒髪天」のように毛を逆立てることがあります。動物が毛を逆立つ時にはアドレナリンが分泌され、立毛筋が収縮することで毛が逆立つというメカニズムがあります。
人間にも立毛筋があり、怒りやストレスで収縮して鳥肌になることがありますが動物の様に毛を逆立てるほどの見た目の変化をする事はありません。
動物が怒り興奮で毛を逆立てる様子と、人が鳥肌になる感覚を昔の人は繋げて「怒髪天」という言葉が閃いたのかもしれません。
確かに寒さで鳥肌が立つ時にはゾワっとした感覚がありますので猫の様にしなやかで軽い毛があれば私たちも「怒髪天」の様に毛が逆立つかもしれません。
怒りは不安と表裏一体
怒りは不安や恐れと同じ意味を持っています。ただ、表現の仕方が異なるだけです。怖いものを怖いと、不安な事を不安と言える素直な心根があれば誰もが表面的に怒る事はなくなります。
それではなぜいつも怒っている人がいるのかというと成長する過程で正しい感情の出し方を覚えられなかった為に何かしらの感情を出そうとする時に怒りとして出てしまうようになってしまいます。
自分がいつも意味もわからず怒っていると自覚がある人は自分が怒っている意味を直視する為に思う事をノートに列記してからまとめてみると解決の糸口が見つかるかもしれません。
身近な人が意味もわからず、ずっと怒っている人がいるのなら離れてしまうか、大事にしたい人であれば根気強く話を聞き、力を貸してあげると改善されるかもしれません。
怒髪天を衝くの類語
「怒髪天を衝く」の類語を意味と由来を解説しながら使い方を紹介します。どの類語も怒りを表現する意味に使われます。
「怒髪天を衝く」の様に実際には怒りで目に見えて変化しない体の部分を使った言葉や、身体変化をそのまま意味した類語となっています。
類語と意味①
「怒髪天を衝く」の類語と意味①は「怒りに震える」です。読んで字の如く、怒りによって体が震える様子を由来とした類語です。「怒髪天を衝く」と同じ様に怒りを意味しますが、「怒りに震える」は身体的に現れる怒りの特徴を表現した意味の言葉となっています。
「怒りに震える」の使い方は「怒りに震えて、声も出ない」などがあり、怒りが爆発する寸前の状態を意味するのに使うことができます。
類語と意味②
「怒髪天を衝く」の類語と意味②は「青筋を浮き立たせる」です。こちらも読んだままですが、怒りによって額の血管が怒りのあまりに膨張して、青筋が目に見えた状態に由来した言葉となっています。
「怒髪天を衝く」は目に見えない物で怒りを表す意味をしているのに対して、「怒りに震える」と「青筋を浮き立たせる」は怒りによって目に見える体の変化を由来として怒りを表す意味をした言葉となっています。
目に見えない分、「怒髪天を衝く」方がより怒りを強調したニュアンスがあります。「青筋を浮き立たせる」の使い方は「部長は青筋を浮き立たせた表情をしている」などがあります。
「怒りに震える」と同じく怒りの感情を堪えている意味を表現します。怒りやすい人の側では上手く空気を読み、怒られないようにしたいものです。
類語と意味③
「怒髪天を衝く」の類語と意味③は「腸が煮えくり返る」です。「腸」と書いて「はらわた」と読みます。「腸が煮えくり返る」は怒りを抑えることができない様子を表現しています。
「怒髪天を衝く」と同じ様に実際は形状が変わることがない体の部分を怒りで変わる程の怒りを意味した類語となっています。
「怒髪天を衝く」は知的なエピソードが由来となっていますが、「腸が煮えくり返る」は体の感覚を表現した違いがあります。確かに怒ると胃のあたりがムカムカしてきますのでそのまま慣用表現になったのでしょう。
「腸が煮えくり返る」の使い方は「彼の無神経な物言いに腸が煮えくり返る思いがした」などがあります。
類語と意味④
「怒髪天を衝く」の類語と意味④は「堪忍袋の緒が切れる」です。「堪忍袋」は心の広さを表し、袋を縛った「緒」が我慢して膨らんだ袋で切れてしまう事を喩えた慣用表現となっています。
「怒髪天を衝く」と比べると我慢して積りに積もった怒りを一気に爆発させるニュアンスがあります。例えるなら雷の様な怒りが「怒髪天を衝く」にはあります。
一方で徐々に火薬を積んでいったダイナマイトが一気に爆発してしまうような怒りのニュアンスが「堪忍袋の緒が切れる」にはあります。
「堪忍袋の緒が切れる」の使い方は「とうとう母は堪忍袋の緒が切れてしまった」など積もり積もった怒りを一気に爆発させる様子を意味する時に使います。
怒髪天を衝くの使い方
「怒髪天を衝く」が凄まじく怒っている様子を表現している意味だという事は類語表現との比較でもおわかりいただけたのではないでしょうか?ここでは「怒髪天を衝く」の使い方を例文を挙げながら紹介します。
例文①
「怒髪天を衝く」の使い方①は「話を聞いた上司は見る見るうちに怒髪天を衝くような形相になった」です。会社で大人として自分のやるべき事をしっかりとすれば「怒髪天を衝く」ような形相で怒られることはあまりないかもしれません。
しかし、例文の様に怒られるのには必ず理由があります。例えば報告すべき事を怠っていたり、ミスを隠そうとしたりすると発覚した時には「怒髪天を衝く」形相で怒られてしまいます。
普段から細かいコミュニケーションを取り、下手な嘘をつかずに、正直に責任を持った態度で仕事をすることで「怒髪天を衝く」様な怒られ方は回避することができます。
例文②
「怒髪天を衝く」の使い方②は「彼女に秘密を打ち明けると怒髪天を衝く勢いで怒り出した」です。隠し事の内容や大きさにもよりますが「怒髪天を衝く」ような怒らせ方をするような隠し事はしないように心掛けた方が関係も長続きします。
感情の読み違いや考えの違いで起こってしまう喧嘩は防ぎようがありませんが、重大な秘密を持たない事と、いつでも誠実に向き合う事で無意味な喧嘩を未然に防ぐことができます。
例文③
「怒髪天を衝く」の使い方③は「普段、怒らない人を怒らせると大抵の場合、怒髪天を衝く程の怒りを見せる」です。いつもニコニコしていて穏やかに見える人ほど怒ると「怒髪天を衝く」ような表情に見えます。普段、怒らないからこそより怖い顔に見えてしまうのかもしれません。
逆に言うと普段からイライラして怒っている人は自分では「怒髪天を衝く」顔をして怒っている様に思い込んでいるかもしれませんが、周囲の人はウンザリとしていて怖さよりもめんどうな人としか思われなくなっている可能性があります。
怒ることには大切な意味もありますが、常にイライラしていることは無意味であるばかりでなく、心臓や血管にダメージを与えてしまいますので気をつけましょう。
例文④
「怒髪天を衝く」の使い方④は「子供を叱る時は怒髪天になってはいけない」です。子供は大人が思っているよりもいろいろなことを知っています。ただ上手く言葉にできないだけです。
しっかりとモラルや常識を身に付けさせる為に穏やかに叱る事は間違いではありません。しかし、「怒髪天」になって怒ってしまうと話の内容よりも怖さから逃げ出す為に子供は謝ります。内容が入ってこないのでまた同じ事を繰り返します。
きちんと子供を躾けたいのであれば川上である親が「怒髪天」になる無意味さをしっかりと理解して無闇やたらに怒りの感情を出さないようにしましょう。
怒髪天を衝くは激怒するという意味
「怒髪天を衝く」は激怒するという意味です。正しく読み分けると「怒髪」「天を衝く」と読み分けます。略して「怒髪天」と使っても間違いではありません。
中国の故事に由来した言葉となっており、故事の中では上手く怒りを駆け引きに使っていますので深い意味では「怒りを道具として使う」為にオーバーな怒りの出し方をし、心の中は冷静さを保っていたのではないでしょうか?
心から腹を立てている事を表す場合は「怒りに震える」や「腸が煮えくり返る」などの類語での表現が相応しいかもしれません。
あくまでも怒りは駆け引きの道具として使い、心の底から怒ってストレスを溜めるような怒りは健康にもよくありませんし、周囲の人も遠ざけてしまいます。