心づもりの意味とは?
「心づもり」という言葉をご存知ですか?「書籍で見た事がある」「ドキュメンタリー番組でこの言葉を使っていた」などよく見かける言葉ですが本来の意味を詳しく知らない場合が多いです。
「心づもり」という言葉は、最近、書籍のタイトルにに、葬祭企業の広告におけるキャッチコピー、セミナーのタイトルなどで頻繁に見かけるようになりました。
「心づもり」とは、「こころの中であらかじめこうしよう。こうなるだろうと考えておくこと」という意味です。こういった意味なので、今後の事を考えるためのさまざまな商品や催事に使われることが理解できます。
今回はそんな「心づもり」について紹介。「心づもり」の由来から、特徴、類語、使い方、注意点について順に紹介していき、「心づもり」を徹底解説していきます。
心づもりの由来
「心づもり」の意味がわかったところで、「心づもり」の由来はどこにあるのでしょうか?まず、「心づもり」は「心積り」と漢字を当てる事ができます。つまり、「心積り」は「心」と「積もる」二つの語が合わさり一つの意味を成している語になります。
では、この「心」と「積もる」をそれぞれの意味を確認していきます。まずは「心」。この語は象形文字で、心臓の形をかたどっています。古代人は全て心臓が行動や感覚を司る存在と考えていました。
「積もり」は形声文字。のぎ偏「禾(読み方:のぎ)」と、音符の「責(読み方:せき)」とから成る。いねを重ねつむ意味から、「つむ」という意味を持ちました。
この「いねを積む」の意味から、「前もって考えておく」という意味が生まれました。現在でも「見積もり」という言葉もこの「積もり」から来ています。
つまり、「心積り」は「こころの中で、前もって考えておくこと」という意味として現在知られるようになりました。
言葉の語源が理解できたところで次に、「心づもり」は日本でどのくらいの前から使われていたのか?その使用時期の由来を辿ってみます。
上記の点を辿る資料として「心づもり」は過去の文献でも確認することができます。その1つ目は小説家の山本周五郎が雑誌「週刊朝日」に1963年(昭和38年)に発表した「さぶ」という作品です。下記の一説を紹介します。
「奉行所では預かっておいた栄二の衣類のほかに、寄場で稼いでためた賃銀を渡してくれた。それは五両二分と少しあり、栄二が心づもりにしていた額よりは多かった。彼はそれを二つに分け、半分を寄場へ送ってくれるようにと頼んだ。」
上記の一文からも、日本では、今から50年以上前には既に「心づもり」という言葉は使われていたことが確認することができます。
「心づもり」の使用時期の由来を辿るその2つ目は小説家の泉鏡花が雑誌「中央公論」に1937年(昭和12年)に発表した「雪柳」という作品です。下記の一説を紹介します。
「姪に当る、赤坂に芸妓をしていると、いつか聞いたのが、早く旦那なるものにひかされたか、事情はとにかく、心づもり二十そこいらで、まだ、若い。」上記の一文からも、日本では、今から80年以上前には既に「心づもり」という言葉は使われていたことが確認することができます。
「心づもり」の使用時期の由来を辿るその3つ目は小説家の泉鏡花が春陽堂から1908年(明治41年)に刊行された「草迷宮」という作品です。下記の一説を紹介します。
「そこで、この男の旅姿を見た時から、ちゃんと心づもりをしたそうで、深切な宰八爺いは、夜の具と一所に、机を背負て来てくれたけれども、それは使わないで、床の間の隅に、埃は据えず差置いた。」
上記の一文からも、日本では、今から110年以上前には既に「心づもり」という言葉は使われていたことが確認することができます。
上記3つの文献からもわかるように、日本では、1945年以前の戦前と以後の戦後どちらの時代にも「心づもり」は使われていました。
心づもりの特徴
「心づもり」の意味、由来を理解してきましたが、「心づもり」という言葉には使用するにあたってどんな特徴を持った言葉なのでしょうか?
「心づもり」の「あらかじめこうなるだろうと考える事」は考える必要があるから考えるのであって、考える必要がない場合は考えません。
では「あらかじめ考える必要がある場合」はどんな場合があげられるのでしょうか?この点について以下よりそれぞれの特徴を紹介していきます。
予定に関する事柄に広く使える
「心づもり」を「あらかじめ考える必要がある」と当てはめた場合に上げられる特徴は、表題でも記載しましたが「大小を問わない予定に」広く当てはめることができる言葉です。予定をしているということは「あらかじめ考えている事で」場合によっては準備をする必要があります。
まずは、数時間、数日先の日常のありふれた予定についても「心づもり」ということもできます。具体的な例文は後述する「使い方」に譲りますが、「夕方までに帰る心づもり」など、ありふれた予定について「心づもり」を使う事ができます。
このような些細な予定を「心づもり」と発することで、事前に聞いた相手方もしかるべき準備をすることもできます。
一方「心づもり」は自分自身の存在がかかっているという大切な事柄の時にも使う事ができる言葉です。こちらも具体的な例文は後述する「使い方」に譲りますが、例えば、海外の赴任が決まり引越しをしなければならない時、大きな手術が先々控えていたりした時にも使う事ができる言葉です。
特に、人生の最期を迎える「終活」を考える場合にも「心づもり」という言葉は使われます。現在は段階の世代が老齢期に差し掛かっており、「終活の心づもり」という葬祭関係のセールスもよく目にするようになりました。
このような大きな予定についても「心づもり」という言葉を使う事ができ、その予定に対して事前に準備を進めることになります。
ビジネスシーンと親和性がある
「心づもり」の言葉にあげられる特徴は「ビジネスシーンとの親和性がある」言葉であるということです。「あらかじめこうなるだろう」と考えることは、他人と関係性を軸に考えれば、計画的で、人間関係を円滑にする上でも大切な概念です。
特にビジネスシーンにおいては営利活動の一環として、先々の展開を予測し、それに対して準備し、合理的に行動することが収益につながる大きなポイントです。
先述した「見積もり」という言葉で表されているように、「積もる」という言葉はビジネスシーンと馴染みある言葉になります。
心づもりの類語
「心づもり」の意味、由来、特徴を確認してきましたが、「心づもり」の類語にはどんな言葉があてはまるのでしょうか?
「心づもり」は「特徴」でも触れましたが、大小様々な予定や、ビジネスシーンなど、今後も頻出することが想定される語です。類語を紹介することで、「心づもり」の意味付けがよく明確になります。
以下に「心づもり」の類語を紹介いたします。「心づもり」と全く同じニュアンスではないので、どんなニュアンスの違いがあるのかを以下から確認していただければ幸いです。
腹づもり
「心づもり」の類語の1つに上げられる言葉に「腹づもり」があります。類語「腹づもり」は「これからしようとする予定や計画」を意味します。
「息子に跡をまかせる腹づもりだ」「腹づもりはできている」など、類語「腹づもり」は現在でも、日常でその使用が至る所で確認できる言葉です。
最近の過去の文献でも、小説家の高杉良の「金融腐食列島」の一節などでも確認できます。「川口は計算ずくなのだ。三原雅枝を担保に、協銀から融資を引き出す腹づもりであることが見え見えだった。」これ以外にも書籍で頻繁に使用されている言葉です。
「腹づもり」は「心づもり」とほぼ一緒の同義としてもみることができますが、「計略」「策略」「魂胆」のような意味合いも強く、良い意味でも悪い意味でも使う事ができる言葉ではあります。
気構え
「心づもり」の類語の1つに上げられる言葉に「気構え」があります。類語「気構え」は「これから何かをしようとする場合のこころの準備」を意味します。
「万全の気構えで交渉に臨んだ」「気構えができていない」など、類語「気構え」は現在でも、日常でその使用が至る所で確認できる言葉です。
類語「気構え」という言葉も「心づもり」同様、昔から使われてきた由来がある言葉です。「気構え」の使用時期の由来を知る事ができる文献に、小説家の太宰治が「文學界」より1941年(昭和16年)に初出された「東京八景」という作品が上げられます。下記の一説を紹介します。
「文学を一生の業として気構えた時、愚人は、かえって私を組し易しと見てとった。私は、幽かに笑うばかりだ。」少なくても、今から80年以上前には「気構え」という言葉は世に知れていた事がこのような文献で確認することができます。
心構え
「心づもり」の類語の1つに上げられる言葉に「心構え」があります。類語「心構え」は「物事に対処する(事前からの)心の用意」を意味します。
「心構えはできています」「万が一の時、心構えをしておいてください」など現在でも、日常でその使用が至る所で確認できる言葉です。
類語「心構え」という言葉も「心づもり」同様、昔から使われてきた由来がある言葉です。「心構え」の使用時期の由来を知る事ができる文献に、小説家の坂口安吾が「新潮」より1952年(昭和27年)に初出された「夜長姫と耳男」という作品が上げられます。下記の一説を紹介します。
「その雑念を抑えるために、タクミの心になりきろうとオレは思った。親方が教えてくれたタクミの心構えの用いどころはこの時だと思った。そこでオレはエナコを見つめた。」
少なくても、今から60年以上前には類語「気構え」という言葉は世に知れていた事がこのような文献で確認することができます。
心づもりの使い方
では現在、「心づもり」は実生活でどのように使うことができるのでしょうか?「心づもり」という言葉は、先述した「特徴」で紹介したように、「大小問わず予定」の事にかかる内容を受けて使える言葉であり、「ビジネスシーンとの親和性がある」言葉でもあります。
このような点を鑑みると「心づもり」は予定に関することを広くカバーすることが言葉であることが理解できます。このような汎用性があり、使い勝手が良い言葉である以上、使い方を覚えておく価値は十分にあります。
以下に「心づもり」の使い方を紹介していきます。いろいろなシーンで使うことができる言葉であるので、その使い方をこの機会にマスターしていただければ幸いです。
例文①
「心づもり」の使い方の1つの表現として、日常での会話のやりとりが上げられます。今日の予定を聞かれた際に「心づもり」の言葉が使われています。
「今日何時ごろに落ち合おうか?」「今日は18時頃には仕事が終わらせる心づもりでいるから夜には会えるよ」このように何気ない普通の会話表現で「心づもり」という言葉を使う事ができます。
「心づもり」は日常生活のプライベートでも活用することができる言葉です。簡単に言えば「〜する予定」という語になります。「〜する」が「こころの中でこうしよう」とする内容が入ります。
例文②
「心づもり」の使い方の2つ目の表現としても、日常での会話が上げられます。相談したい事が目下あり、それを実行した際に「心づもり」を使う事ができます。
「かねがねこの件についてご相談したいと心づもりしておりました」このような表現で、以前からの考えを述べる際に「心づもり」を使う事ができます。
例文①のように「時間的な終了予定」だけではなく、「こうしたいという未来」にも使う事ができるのが「心づもり」となります。
例文③
「心づもり」の使い方の3つ目の表現としては、「予測」の表現になります。「心づもり」は「こうしよう」という意味の他に「こうなるだろう」という意味もあります。例文①も②上記の例文表現も「こうしよう」という内容ですが、下記のような日常でのケースも想定できます。
「電車に乗り遅れて、遅刻してもしようがないという心づもりがありました」このケースの表現の場合は「こうなるだろう」として使う事ができる表現になります。
上記の場合は「こうなるだろう」という意味になり、自分の意思に関わりなく(場合によっては反しても)そうなってしまうだろうという場合に「心づもり」を使うことができるケースになります。
例文④
「心づもり」の使い方の4つ目の表現としては、ビジネスシーンにおいての表現になります。ビジネスシーンにおける上司との会話で「心づもり」を使うシーンが想定できます。
上司「来期の人事が決まりました。昨年から話合いをしてきた結果、〇〇さんを4月から東京支店で活躍していただきたいと考えてるから」〇〇さん「ありがとうございます。頑張ります」上司「正式な辞令が間もなく出るとおもいます。準備など大変だろうけど心づもりの程よろしくね」
上記の場合は、〇〇さんにとっては、日常にあまり頻発しないビジネス上の「大きな出来事」であり、日常の些細な予定ではない「心づもり」という言葉が使われている事が理解できます。そしてあらかじめ決まったことを伝えてもらうことで、引越しへの準備もスムーズに進められます。
例文⑤
「心づもり」の使い方の5つ目の例文表現としても、ビジネスシーンにおいての表現になります。社内ミーティングで「心づもり」を使うシーンが想定できます。
「〇〇社への営業活動においてもスムーズにやってきました。当社の製品について一定の評価もいただいておりますので、近いうちにご発注をいただける心づもりをしております」
上記のようなビジネスシーンにおけるミーティングなどで、クライアント事の活動内容を報告する際、会社にとって大切な「見込み」の見解を述べる際に「心づもり」を使うことができます。
例文⑥
「心づもり」の使い方の6つ目の例文表現としても、ビジネスシーンにおいての表現になります。取引先とのビジネス会話で「心づもり」を使うシーンが想定できます。
取引先「検討させていただきましたところ、貴社と正式な契約を締結し、取り進めさせていただきたいと思っております」下請け先「大変ありがとうございます。かねがね貴社と仕事をしたい心づもりでおりました」
上記のようなビジネスシーンで、取引先との会話の中で、「一緒に仕事をしたい」という「心づもり」をいう事で、取引先担当者の歓心を買うことができます。
例文⑦
「心づもり」の使い方の7つ目の表現としては、人生の最期に向けての例文になります。家族や葬祭関係者との会話の中で「心づもり」を使う表現のシーンが想定できます。
「そろそろ自分の人生の幕引きに向けた準備をするために終活をする心づもりです」このように「特徴」でも紹介したように「終活への準備」においても「心づもり」を使う事ができます。
「終活」は悲観的な予定ではなく、この先の予定を明確にする事で、今現在の自分を見つめ直す機会にもなります。
「平均寿命を考えると、逆算してこのくらいは元気でいられる、そのうちにやるべき準備をやって後を濁さずすっきりしよう」と考えられるきっかけになります。また、先々の準備をすることでこの時の瞬間瞬間を大切にするきっかけにもなります。
心づもりを使い際の注意点
「心づもり」を使う際に気を付けなければならない点はどこにあるのでしょうか?「心づもり」は「こころの中であらかじめこうしよう。こうなるだろうと考えておくこと」で先述した類語「気構え」「心構え」とも意味としては似ています。
「心づもり」と「腹づもり」とは、ほぼ同義ではありますが、「腹づもり」は「計略」「策略」「魂胆」のニュアンスが混じる場合でも使われることは先述しました。
では「心構え」「気構え」と「心づもり」の違いはどこにあるのでしょうか?この違いを明確にしながら、「心づもり」を使う際の注意点に触れていきます。
心は有りようのままでよい
「心構え」「気構え」「心づもり」は未来へのことへの考えなどの点でニュアンスが非常に似ている言葉です。ただ違う点は「心づもり」は「心構え」「気構え」ほど、こころの用意や準備を予定していないという点にあります。
類語「心構え」「気構え」は先々への「心の準備、心の用意」を意味の条件としていますが、「心づもり」は「こころの中であらかじめこうしよう。こうなるだろうと考えておく事」で「心の準備」とまではニュアンス的に言い過ぎの感はあります。
「心づもり」は心を意図的に準備するまでは条件づけてはおらず、むしろ、その意味の中で、無理のないこころの有りようを定義づけています。
「心づもり」「気構え」「心構え」のどれを使ったら良いか迷いが生じた場合は、こころの有りようの度合いで使い分けをすると自分の意図にあった表現となる可能性が高くなります。
心づもりはこうしようという意味
心づもりの意味、由来、特徴、類語、使い方、注意点を順を追って紹介してきました。「心づもり」はこうしようという意味であり、先々の予定を広くカバーする事ができる言葉です。
「特徴」や「使い方」でも紹介したように、その使い方は日常の何気ない会話から、ビジネスシーン、大きな出来事まで様々で多岐に渡ります。
そんな「心づもり」という言葉は、無理に心を動かすような性質で使う事がなく、自然なこころの有りようの中で使用することができるため、前もったこころに無理のない準備としても、日常にとても馴染みやすい言葉です。
ぜひ「心づもり」を活用していただき、より円滑なビジネスシーンのやりとりや人間関係を構築していただければ幸いです。