「婉曲」の意味とは
「婉曲」という言葉があります。読み方は「えんきょく」になります。意味は、表現が遠回しで断定はせず、角が立たないようやわらかい様を表しています。
「婉曲」は相手に対して何かを伝える場合に用いる手法になります。言葉を選ばずに直接的に伝えてしまうと、相手を怒らせてしまったり、険悪な関係になる場合があります。
そのような時に使うのが「婉曲」の手法です。円満な関係性を保つために、直接的な言葉ではなくやわらかく相手に伝える表現となります。
「婉曲表現」とは
「婉曲表現」は、相手にお願いやお知らせを伝えるために使われる場合や、相手の申し出に対してお断りの意思を伝える時に用います。どちらも直接的な表現を使ってしまうと、物事がうまくいかない可能性があるときに使用する表現です。
相手に対しお願いやお知らせを伝える時に「大変恐縮ではございますが」という「婉曲表現」を使うときがあります。ただ単にお願いしたいことを伝えるだけでは理解が得られない場合があるので、無理なお願いであることを重々承知した上でのお願いですという意味になります。
相手の申し出をお断りする場合は、単に「お断りします」だと直接的な表現になるので「ご遠慮させていただきます」や「見送らせていただきます」という「婉曲表現」を用います。
「婉曲」の意味の由来
「婉曲」の言葉の由来を紹介していきます。「婉曲」という言葉は、日本がこれまで営み続けてきた生活や隣人、そして地域全体との関わり合いが深く関係しています。
農耕時代の遥か古来から日本人はお互いに可能な限り争わないようにしてきました。「婉曲」は物事が円滑に進むように、お互いがより良い関係でいられるように続けてきた日本人独自の英知といえます。
現代においては、隣人が誰かも分からないくらい希薄で関係性が薄い社会となっています。このような状況の中で、相手に対して直接的な物言いは避けられる傾向にあります。適度な距離を保ちながら関係性も円滑にというのが現代の「婉曲」となっています。
日本人が古来から重んじてきた和
「婉曲」は日本人が古来から大事に重んじてきた和です。古来、日本人は村などの集落で農耕をおこないながら暮らしてきました。
集落のなかでは秩序という和を保つために決められた掟を守る必要があります。相手に対して直接的な言葉を浴びせれば、当人同士だけではなく集落全体を巻き込んでの大騒動になりかねません。このようなことが起きないよう、和を保つために「婉曲」な表現で伝えるようになったのです。
「婉曲」の使い方・例文
「婉曲」の使い方を例文を交えて紹介していきましょう。例文と組み合わせることによって、どのような状況で「婉曲」という言葉が使えるのかが分かります。ビジネスシーンでは文書を作成する場合があります。使い方を知れば社内文書の作成にも役立つことでしょう。
「婉曲」は、主に社内向けの案内やお願いで使用することが多いので覚えていきましょう。社外の方に直接的に「婉曲」という言葉は使いません。とても失礼にあたる場合があるのでしっかり意味を理解して使用しましょう。
例文①
「婉曲」を使った例文①になります。「来店されたお客様に対しては、直接的な表現ではなく婉曲にお伝えし理解を得てください」このような社内文書が回ってきたとします。
この例文は、来店されたお客様から質問や問い合わせがあっても、直接的な原因や事象をそのままお伝えするのではなく、お客様の怒りを買わないよう、円満にやわらかく説明しお伝えしてくださいという意味を表しています。
もし直接的な表現でお伝えしお客様が不快に感じたとしたら、今後のリピート来店は見込めないことから、注意喚起を促す社内文書での「婉曲」を使った例文となります。
例文②
「婉曲」を使った例文②になります。「バイト先の店長に食事に誘われたが、彼氏がいるのでお断りしたい。しかし断ったことにより居づらくなるのは避けたいので婉曲にお伝えした」
この例文は、バイト先の上司である店長の誘いを断るのに「婉曲」でうまくかわした意味となります。直接的に断ってしまうと、毎日顔を合わせる店長と気まずくなり、自分が辞めざる得ない状況に陥る可能性があります。遠回しに断ることで、穏便に事を収める「婉曲」の使い方になります。
「婉曲表現」の使い方・例文
「婉曲表現」の使い方を例文で紹介していきます。例文を見ると日常生活において「婉曲表現」は誰しも使用していることが分かります。
特にビジネスシーンでは使い方によって相手への印象が大きく変化する場合があります。得意先へのお願いや案内で直接的に伝えると関係が崩れる可能性があるときは「婉曲表現」の正しい使い方によって円滑な関係性を築いていきましょう。
例文①
「婉曲表現」を用いた例文①になります。「誠に不本意ではございますが、来月から価格の改定をさせていただくこととなりました。何卒、諸般の事情をご賢察の上、ご理解賜りますようお願い申し上げます」
この例文は来月から納品価格が上がることを得意先へお願いしていることが分かります。文頭の「誠に不本意ではございますが」が「婉曲表現」となります。社内努力で価格据え置きを検討したが、結果は値上げせざるを得ないことを伝えています。
もし直接的に「来月から値上げです」と伝えてしまったら得意先が離れてしまう可能性があります。努力はしましたが値上げに関してご理解してくださいと遠回しにお願いをしている例文となります。
例文②
「婉曲表現」の例文②を紹介していきます。「大変お手数をお掛けいたしますが、必要事項をご記入の上、期日までにご返答を頂きたくお願い申し上げます」
この例文は相手にお願いをするときに用いる「婉曲表現」となります。文頭の「大変お手数をお掛け致しますが」は面倒なことの依頼を遠回しに伝えています。その上、出来るだけ早く返答が欲しいことを「期日までご返答頂きたくお願い申し上げます」とお願いをしています。
直接的に伝えると「早く返答してください」となりますが、相手が取引先ですと大変大きな問題へと発展してしまうので「婉曲表現」を用いて伝えています。
例文③
「婉曲表現」を使用した例文③になります。「先日、会食へのお誘をいいただいた件でございます。別件が入っており大変残念で心苦しいのですが、お気持ちだけいただき参加はご遠慮させていただきたく存じます」
この例文は、折角誘ってくれた相手側に対し、お断りの返事をする時に用いる「婉曲表現」です。お断りすることによって相手が不快に思わないように配慮する気持ちが伝わります。
もし直接的に「無理です。参加できません」と伝えてしまえば関係性は悪化し、その後の付き合いも断絶してしまう可能性があります。今回は参加できませんが、別の機会に参加させてくださいというオブラートに包んだ表現となっています。
古典での「婉曲」の意味
「婉曲」は古来から使われている表現方法の一つで竹取物語や枕草子、源氏物語などのような古典においても度々でてくる手法となります。
古典での「婉曲」は現代の使われ方と同じように、直接的な表現ではなく遠回しに伝えたいときに使われていました。古典においては、当たり前のことを当たり前に伝えることを「野暮」といい、間接的であったり遠回しに伝わるように表現することが「粋」とされていた時代となります。
古典での「婉曲表現」
古典での「婉曲表現」では助動詞の「む」を使った手法で表現されていました。古典の助動詞は28個あり、その内の一つが「む」になります。古典の奥深さを感じるのは助動詞の働きがあるからです。
古典の助動詞「む」だけでも6個も意味が含まれており、一人称や二人称で使われる場合と三人称で使われるときでは意味が異なってきます。名詞や代名詞などの「体言」へ繋がる連体形で使われる際も伝わる意味合いは変化します。
古典は奥深く助動詞の意味によって文章全体の意味が変わってきます。加えて古典は活用形もあるので動詞や形容詞によって意味や働きが更に深まります。
助動詞「む」を使った例文
古典の助動詞である「む」を使った例文を紹介しましょう。枕草子の一節で「思はむ子を法師になしたらむこそ、心苦しけれ」意味は「大切に思うような子を法師にしてしまったら気の毒だ」という古典の婉曲表現の使い方です。
竹取物語においては「さる所へまからむずるも、いみじくも侍らず」という一節ががあります。意味は「そのような所へ参るようなことも、うれしくもございません」という古典の婉曲表現となります。
「婉曲」の類語と意味
「婉曲」という言葉は直接的ではなく、角が立たないように伝える時に用いる表現方法です。日本語には「婉曲」と同じような意味で使える言葉の類語が存在しています。「婉曲」の類語にはどのようなものがあるか意味も含めて紹介していきましょう。
類語を知ると表現方法に幅が生まれます。その場のシチュエーションによっては同じ類語であったとしても伝わる意味合いが微妙に差がでることもあります。ここが日本語の難しいところであり、奥ゆかしい部分でもあります。類語の使い方を学び表現力を高めてまいりましょう。
遠回し
「婉曲」と同じ意味をもつ類語に遠回しという言葉があります。遠回しには物事をはっきりと伝えずに、考えや想いを遠回りさせて核心部分を濁らす意味で使われます。
例えば、会うたびにいつも声が大きくて不快に思っている相手に「お会いするたびにいつもお元気そうな姿で羨ましいです」と伝えたとします。これは「いつもあなたはうるさいので困ってます」と思っていることを遠回しに伝えている例となります。
「婉曲」は相手に対して考えを巡らせて理解してもらいたい意思が感じられますが、遠回しは少し嫌味を含み直接的な言葉を匂わせるときに用いられることが多いです。
間接的
「婉曲」の類語で間接的という言葉があります。別な言葉や態度を用いて確信を伝えたい時に使用します。卒直な方法ではなく、それとなく伝える意味合いになります。
例えば子供のお友達が家で悪さをしたとします。人様の子供にはなかなか直接叱ることができないので、過去に同じことをした自分の子供を叱ることにより、間接的に相手の子供を叱ったことになるのです。
差し障りのない
「婉曲」の類語に差し障りのないという言葉があります。「婉曲」と同じような意味合いで使うときは、相手との摩擦や言い争いを避けるために、深く突っ込まず表面的に取り繕うときに使用します。
例えば「いまアンケートをとっています。もし差し障りなければご記入をお願います」この場合、アンケートをとっていますが特に問題がなければ記入してくださいという意味です。
しかし何か問題があったり、とくに興味がなければ結構ですというような使い方で用いられます。是が非でもご記入してくださいとは言わず、あなた自身に問題なければ記入してもよいですし、別にしなくてもよいですという意味となります。
ほのめかす
ほのめかすという言葉は「婉曲」の類語になります。ほのめかすの意味は直接的ではなくそれとなく伝えるという意味です。例えばこのような場面があったとします「今まで断固として拒否され続けていたが、粘り強く伝えた結果、交渉の意があることをほのめかした」
この場合は、相手に対して何回もお願いをしていたが全く相手にされないことが続いていた。粘り強く回を重ねたことによって相手の心が動き、交渉してもよいという態度が見えたことが伝わります。相手が直接的ではなく暗に伝えている場合があるので「婉曲」の類語といえます。
「婉曲」の対義語と意味
「婉曲」の対義語と意味を紹介していきましょう。「婉曲」は直接的な表現ではなく遠回しに相手に伝える手法です。「婉曲」の対義語にはどのような言葉が当てはまるのでしょうか。文章に当て込んで対義語との比較をしていきましょう。
露骨
「婉曲」の対義語には「露骨」を挙げることができます。「露骨」の意味は思いや考えを包み隠さずありのままに露呈することを表します。
断定せず遠回しに伝える「婉曲」に対し、露骨はそのままストレートな気持ちを伝えるので「婉曲」の対義語となるのです。
例えばこのような文章を挙げてみます。「会いたくないと考えていたら、その人に道端でばったりと会ってしまい露骨に嫌な顔をした」
このシチュエーションは、自分の中で会いたくないと考えていた人にばったりと会ってしまい、気持ちを隠さず嫌な顔を相手をした意味となります。露骨とは、自分の感情をそのままの形で相手に伝えるという「婉曲」の対義語となります。
率直
「婉曲」の対義語で率直という言葉があります。率直という言葉は、周りにの意見などに振り回されず、しっかりと自分の考えを持ちブレない意味をもちます。
あまり伝えたくないことを何とかオブラートに包んで伝える「婉曲」に対し、相手に対し素直に自分の考えを伝える率直は「婉曲」の対義語といえるでしょう。
例えば「この会議では上下関係や性別、年齢関係なく率直な意見を述べてほしい」という文章があったとします。会議上で先輩後輩、男か女か、年上年下すべて関係なく思ったことを意見してほしいという意味になります。
本当は違う意見をもっていても直接伝えられないので「婉曲」に述べた場合と、素直に率直な意見を述べるのは真逆なことなので対義語となるのです。
相手に失礼のない婉曲な表現を上手に使おう!
「婉曲」は、直接的に伝えると関係が損なう可能性があるときに使う有効な表現方法です。しかし、あまり多用してしまうとあまりに遠回りで、何を伝えたいのかがぼんやりしてしまいます。良かれとおもって使用した「婉曲」が相手の怒りを買ってしまう可能性もあるのです。
そのため「婉曲」表現を使用するときは、相手との距離感や空気感などに配慮して使わなければなりません。「婉曲」は上手く使うことができればより良い関係を構築できます。「婉曲」の意味をしっかりと理解し、対義語の存在も把握しつつ表現していきましょう。