「沿う」とは
皆さんが「沿う」という言葉を使うときはどのようなときでしょうか?「沿う」の使い方の例を挙げてみますと「流れに沿う」とか「川に沿って歩く」「要望に沿う」などがあります。しかし「沿う」の意味や使い方をきちんと理解している人は少ないかもしれません。
同訓異字の「添う」という言葉がありますが、こちらとの使い方の違いがわかっているでしょうか?なんとなく使い分けてはいるけれど、その使い分けは意外と難しい気がします。
ここでは「沿う」の意味と使い方をご紹介していきます。そしてもう一つ「添う」の意味と使い方も合わせてご紹介し、違いもお伝えしていきます。
読み方は「そう」
「沿う」は訓読みで「そう」と読みます。「そう」の動詞にはこれ以外には「添う」「副う」があります。そして音読みで「沿」は「えん」と読み、熟語には「沿道」「沿線」「沿海」などがあります。そして「沿道」の意味は道に沿った場所、「沿線」の意味は鉄道の線路やバスの路線「沿海」は海に沿った陸地の部分とあります。
「沿う」の意味
「沿う」の意味を辞書で調べると「長く続いているものに、離れずに付き従う」「長く続くものに離れない状態を保つ」「長い線状のもののわきを進む、そばを行く」などがあります。少しわかりにくですが、長く続いているもののそばにずっといるようなイメージができます。先にご紹介した「沿」を使った熟語はこのイメージに当てはまります。
そして日常生活やビジネスなどでは「方針や基準にしたがう」「方針や基準から離れないで何かを行う」という意味でも使います。
①流れに続く・したがう
「沿う」の意味をシンプルに言えば「流れに続く、したがう」とも言えます。この意味で「沿う」をどのように使うのかの例をご紹介します。「線路に沿う」「川に沿って家々が立ち並んでいる」「通りに沿って歩く」などのように使います。
「長く続くものに離れない状態を保つ」のが「沿う」の意味ですから確かに「長く続くもの」に「線路」や「川」や「通り、道路」が当てはまります。
②一つの目的から外れないようにする
「方針や基準にしたがう」という意味でも使いますが、これは一つの目的から外れないようにするという意味です。
「流れにしたがって行動する」という意味もあります。使い方は「会社の意向に沿う提案をする」「みんなの希望に沿いたい」「上司の期待に沿う結果を報告したい」などがあります。このようにご紹介すると「沿う」は日頃からよく使っている言葉だとわかります。
「沿う」の類語
「沿う」の類語にはどのような言葉があるでしょうか?類語とは似たような意味で別の言葉のことですが、「沿う」の意味は二つありますのでそれぞれの意味の類語について説明していきます。
ここでは「沿う」の二つの類語「並行する」と該当する」をご紹介します。これ以外にも「沿う」の類語は多くあります。それぞれの類語の意味には違いがあり使う場面にも違いがあります。
並行する
「沿う」の類語のひとつに「並行する」という言葉があります。「並行」の意味を辞書で調べてみますと「二つ以上のものが並んでいくこと」「物事が同時に並び行われること」とあります。ですので「並行する」とはそのような状態を指します。
「沿う」のひとつの意味「長く続いているものに、離れずに付きしたがう」の意味に近いと言えます。
「並行する」の使い方は「川に並行に道路が続く」「海岸線に並行して走る」のように「沿う」とほぼ同じ意味で使う場合もありますが、「二つの会議が並行して行われた」のように二つの事柄が同時に行われるという意味で使われるときは意味に違いがあります。
該当する
「沿う」の類語に「該当する」という言葉もあります。「該当」の意味を調べてみますと「一定の条件にあてはまる」「適合すること」とあります。「沿う」のもうひとつの意味「一つの目的から外れないようにする」に近いと言えますが、やはり類語ですからニュアンスが違います。
「該当する」の使い方を挙げてみますと「チェックリストから該当する名前を探す」「このアンケートの答えの項目には該当するものがないね」などとなります。
意味としては「沿う」に近いですが使う場面は違ってきます。「該当する」は「沿う」とはニュアンスや使う場面は違いますが、ビジネスだけでなく日常的によく使う言葉なので意味や使い方を確認して適切に使えるようになるとよいでしょう。
「沿う」の使い方と例文
次に「沿う」をどのような場面でどのように使うか詳しく解説していきます。特にビジネスのシーンでよく使う「謝罪するとき」と「決意するとき」の表現を例文を交えながらご紹介します。自分が使う機会も目にしたり聞く機会も多い言葉ですので、例文を参考にしながらスムーズに使えることを目指しましょう。
謝罪するとき
ビジネスシーンや日常生活において謝罪する場面では「沿う」という言葉を「沿えず」という形で使います。「ご意向に沿えず申し訳ございません」「ご希望に沿えず申し訳ありません」のように相手の意向や希望に沿えなくて謝罪する際に使います。
「ご希望に沿えず」「ご要望に沿えず」「ご意向に沿えず」の言葉の後に謝罪の言葉が続きます。メールや電話で使うことが多いでしょう。
謝罪するときの例文
では実際に使う例文をご紹介していきます。取引先やお客様に対して要望に沿えず断らなければならない場面や謝罪しなければならない場合には次のようになります。
「ご提案頂きました件ですが、今回は見送らせて頂きます。ご希望に沿えず申し訳ございません」「A商品ですが、現在販売終了となっております。ご要望に沿えず本当に申し訳ございません」「今回の件に関してですがご希望に沿えず申し訳ありませんがご了承くださいますようよろしくお願い申し上げます」などの表現になります。
残念な気持ちを伝えるときの例文
また「御社のご提案についてですがご希望に沿うことが出来ず本当に残念です。またご縁がありましたらよろしくお願い致します」「今回の件についてはご要望に沿いかねます。残念ですが何卒ご了承くださいませ。」など謝罪の言葉ではなく残念な気持ちを伝える場合も多いでしょう。
このようにビジネスシーンでは誰もが一度は使ったことがあるほど、「沿う」は謝罪するときにたびたび使われている言葉です。
面接や商談を断るときの例文
面接を断るときや商談を断るときにも使います。面接を断わる例文として「このたびは当社の面接にご参加いただきましてありがとうございました。慎重に検討いたしましたが、残念ながらご希望に沿えない結果となりました。」のようになります。
商談を断る例文として「社内で検討しました結果、今回の導入を見送らせていただくこととなりました。ご期待に沿えることが出来ず誠に申し訳ありません。また機会がございましたらよろしくお願い申し上げます」のようになります。
相手に対して断らなければならない場面で「沿う」という言葉を使うと丁寧で礼儀正しい印象になります。
決意するとき
ビジネスの場や人前で何か発表をする場面で、決意表明をすることがあります。自分が今後どのようにして行きたいかとかどのように実行していきたいかなどの目標や決意を周囲の人たちに宣言する際に「沿う」を使います。
この場合は「沿う」を「沿えますように」や「沿えるように」という形に表します。「ご希望に沿えますように~」とか「ご意向に沿えるように~」のように表現します。
そしてこの後には「努力することを表す言葉」が続きます。「精進します」「尽力します」など少しあらたまった言葉が続く場合が多いですが、「努力致します」が続くこともあります。
決意を表すときの例文
例文をご紹介してみます。「今後も皆さまのご希望に沿えられますよう精進してまいります」「皆さまのご意向に沿えられますよう尽力いたしますので、今後もご支援を賜りますようお願い申し上げます」などです。自分の決意を周囲や相手に伝える場面で締めくくるように使うことが多いです。
「沿う」と添うの違い
「沿う」と同じ「そう」と読む言葉に「添う」があります。こちらの「添う」はなんとなくわかりやすい印象を持ちます。日常生活でも「寄り添う」「付き添う」など関連する言葉を見聞きすることが多いです。次では「沿う」と「添う」二つの意味の違いをお伝えしていきます。場面や相手によって上手に使い分けられることを目指しましょう。
「添う」はそばに離れずにいるという意味
「添う」の意味は「そばに離れずにいる」「ぴったりつく」とあります。またあるものに別のものが付け加わるという意味もあります。メインとなる人や物があってそれに対してくっついたり、そばにいたり、付け加えるというイメージになります。
「添う」の使い方
「添う」をどのように使うかと言えば「寄り添って歩く」「友達の買い物に付き添った」「長年連れ添う=夫婦になる」「影のように寄り添う」など物理的なだけでなく心理的にも相手をそっと見守るとか支えるというニュアンスがあります。「情緒的」なニュアンスもありますので個人的なメールや手紙で使う機会が多いかもしれません。
ビジネスで「沿う」を使う時は
「沿う」はビジネスシーンにおいては特に多く使う言葉なので、日常的に適切に使えるとよいでしょう。相手に謝罪する場合や申し出を断らなければならない場合には欠かすことができない表現です。「沿う」を使うことで丁寧で礼儀正しい印象になります。
「沿う」の類語の「添う」も場面や相手に合わせて上手に使い分けていくと取引先やお客様に好印象を持たれたり親近感が増します。
意向や方針にしたがうときに使う
ビジネスで「沿う」を使うとき、取引先やお客様の意向や方針にしたがう意思を伝える場合があります。「御社のご意向に沿えるよう尽力いたします」「皆さまのご期待に沿えるように精進してまいります」」のように「沿う」を使います。
「相手」や「先方」の考えに従って行動していこうというニュアンスが強いです。「沿う」の意味である「一つの目的から外れないようにする」ということからも「相手」の「期待」や「意向」から外れないようにするという意思を伝えていると言えます。
「添う」を使う場合
もう一つの「添う」を使っても間違いではありません。「ご意向に添う」「ご期待に添いたい」とした場合は「意向や期待に寄り添う」というニュアンスが強くなります。
「添う」は一歩下がった謙譲の意志が強くなりますので、トラブルの可能性がある場合や特別の状況の時に使うとよいでしょう。また、ビジネスにおいても相手と距離を縮めたいときには「添う」を使うとよい場合があります。丁寧さや奥ゆかしさを強調したい場面でも「添う」を使うとよいときがあります。
「沿う」と「添う」を上手に使い分ける
どちらかというとビジネスシーンにおいて状況を選ばずに使えるのは「沿う」の方だと言えます。その場の状況や相手に合わせて「沿う」と「添う」を使い分けるのがよいと言えます。結局のところ「沿う」と「添う」のどちらを使っても間違いではなく、ニュアンスが違うということなのです。
「期待に沿う」よりも「期待に応える」のほうが良い
ビジネスシーンで取引先やお客様から、また上司からも「期待している」と声を掛けられたりメールをいただいたりすることは多くあります。これに対して「今後もお客様のご期待に沿えるように尽力をつくします」と表現します。
これは先でご紹介した「沿う」の意味では決意を表していますが、どちらかというと相手が期待しているような内容や結果を出す、期待通りに実行するというニュアンスが強くなります。
「ご期待に沿う」の例文
例えばサービスや商品を導入、購入していただいた場合のお礼メールを挙げてみますと「このたびは数ある商品の中より弊社の○○を購入(導入)いただきまして誠にありがとうございます。皆さまのご期待に沿えますよう、今後もより一層努力してまいりますので、変わらぬご愛顧を賜りますようよろしくお願い致します」のようになります。
「期待に応える」の例文と使うと良い理由
これに対して「期待に応える」という表現があります。「応える」は「沿う」に比べると能動的な印象が強くなります。
例文をご紹介しますと「お客様のご期待にお応えできるように誠心誠意努力してまいります」また上司に対して「期待にお応えできるように今月の予算達成を頑張ります」など「期待に沿う」と比べて積極的で意欲的なニュアンスが強くなります。
特に上司やお客様にアピールしたい時には効果的なので、機会を見ながら「期待に応える」を使いやる気や意欲を表すとよいでしょう。
ビジネスで謝罪するときの「沿う」の使い方は大切
ビジネスシーンで取引先やお客様の申し出を断らなければならないとき、要望や期待に沿えず謝罪しなければならないことは意外と多くあります。「ご期待に沿えず申し訳ありません」のような言い回しを覚えて身につけておくことは大切です。「~に沿えず」を使って上手に断ることは相手に不快な思いをさせずビジネスにおいては不可欠です。
「沿う」は一つのことにしたがう時に使う
「沿う」は一つのことにしたがう時にはたびたび使います。ビジネスにおいて会社や上司の方針や意向などにしたがう時にその決意表明をする際に使う表現です。取引先やお客様に対して使うことも多いです。
メールや文書だけでなく意見発表やプレゼンの場面でも使うことがあるでしょう。決意表明で使うことで上司やお客様や取引先などからの信頼が増したり好感が持たれたりする言葉です。
メールなどの文章だけでなく言葉で伝えるときもシーンに応じて適切な表現を身に付けていくとよいでしょう。