「悪貨は良貨を駆逐する」の意味
今回は、「悪貨は良貨を駆逐する」ということわざについて解説をしていきます。このことわざは、もともとは通貨が使われていることから、経済的なメカニズム・語源で利用されていましたが、派生して日常的なことわざとして使われるようになりました。
「悪貨は良貨を駆逐する」のグレシャムの法則から来ている語源や意味、メカニズムについて解説するとともに、日常的にことわざとして利用される場合の例文や使い方について説明をしていきます。
一定の条件下で質の劣る通貨が市場に流通
「悪貨は良貨を駆逐する」は、「あっかはりょうかをくちくする」と読みます。このことわざの語源は、もともとは経済学のある学説を要約したもので、「一定の条件下では、質の劣る通貨の方が、高品質の通貨よりも多く市場に流通する」という内容になっています。
この経済学の学説とは、グレシャムの法則と呼ばれ、16世紀のイギリスで使われました。ただ、現在の使い方としては、比喩的な意味合いの使い方が多く、「悪がのさばると善は滅びる」、「世の中では悪いものの方が浸透し、良いものを押しのけてしまう傾向がある」といった例文が見られます。
「悪貨は良貨を駆逐する」の語源
「悪貨は良貨を駆逐する」は本来経済学の学説要約がもともとの使い方でしたが、一般的に比喩的な利用がされることを説明しました。ここでは、「悪貨は良貨を駆逐する」の語源について説明します。前述のように、16世紀のイギリスで利用されたのが語源とされており、経済学者の一学説を要約したものになっています。
「悪貨は良貨を駆逐する」の意味を考えるうえで、もともとの語源を知っておくと現在派生して利用される場合のニュアンスがつかみやすくなります。
経済学の法則を一文に要約したもの
「悪貨は良貨を駆逐する」は、ある経済学の法則を要約して一文にしたものです。その法則とは、グレシャムの法則と呼ばれており、16世紀のイギリスで貿易商を営んでいたトーマス・グレシャムが唱えた法則です。
彼は、当時のイギリス国王のエドワード六世やエリザベス一世の財務顧問を務めており、イギリス国内においても当時の発言力の高さをうかがい知ることができます。
グレシャムの法則と呼ばれる
「悪貨は良貨を駆逐する」と一文で要約されたグレシャムの法則とは、もともとどんな法則でしょうか。グレシャムの法則とは、「同時期に価値の異なる通貨が流通した場合、良質の通貨の方は市場に出回ることなく一か所に退蔵されてしまい、悪質の通貨の方が市場で出回る」という意味になります。
グレシャムの法則自体は、言葉にすると理解しづらいですが、少し考えると当然のことです。同じが額面100円のコインがあり、一方は100円で買い取ってくれるのに、他方は50円でしか買い取ってくれないということになると、利用者はどうするでしょうか。
前者の100円換金可能なコインをとっておき、後者の50円換金可能なコインを普段の買い物で使って100円として利用するという使い方をするのは当然のことです。これは、昔の金本位制の場合に当てはまることで現在の紙幣が流通している時代には当てはまりません。
「悪貨は良貨を駆逐する」が使われた時代背景
「悪貨は良貨を駆逐する」の語源について、経済的な学説をもとに説明しました。続いては、「悪貨は良貨を駆逐する」のもととなるグレシャムの法則が唱えられた当時の時代背景について説明をします。
唱えられたイギリスは、現在もそうですが国王による独裁的な政治体制が敷かれています。この体制では、国王の利己的な判断で経済的なしわ寄せが起こることが往々にしてあります。「悪貨は良貨を駆逐する」のグレシャムの法則が唱えられた当時のイギリスも、王政により経済的な矛盾が起こっていました。
16世紀のイギリス
「悪貨は良貨を駆逐する」を盛り込んだグレシャムの法則が唱えられたのは、16世紀のイギリスです。当時のイギリス国王のエドワード六世やエリザベス一世の財務顧問を務めていたグレシャムが提唱した法則です。
当時のイギリスは、大航海時代のころで、他国に進出して経済的な利得を獲得するための活動がたいへん活発に行われていた時代です。その中で、国王主導で悪質な通貨が流通していきました。
エリザベス一世に提出した意見書
「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉の語源となったのは、エリザベス一世に提出した意見書の内容です。財務顧問であるグレシャムは、悪質な通貨が流通することの危険性についていち早く察知し、国王に対しても躊躇することなくそのデメリットについて上程をしました。
当時としては、国王はイギリス市政においては絶対的な存在で、意見書を提出するという行為自体がとても勇気のいることとされました。それだけ財務顧問としてのグレシャムの立場が強かったということが分かります。
「悪貨は良貨を駆逐する」の使い方と例文
ここまで、「悪貨は良貨を駆逐する」ということわざの語源やその時代背景について解説をしてきました。続いて、「悪貨は良貨を駆逐する」の使い方と例文について紹介をしていきます。当時は経済的な意味合いで使われることが主流でしたが、現在においては日常の場面での使い方や例文が多くなってきました。
「悪貨は良貨を駆逐する」の経済面でなく一般的なことわざとしての使い方の例文を紹介していきます。意外に日常的に利用されていることが分かります。
仮想通貨について
「悪貨は良貨を駆逐する」を仮想通貨を説明する際の例文を紹介します。仮想通貨は、現在注目を集めているもので、ビットコインなどが代表例です。投資商品として利用されるケースが多いです。
例文を一つ紹介します。「ネット上のみで利用される仮想通貨は、実体がないため犯罪に利用されるケースが懸念される。「悪貨は良貨を駆逐する」ように、通常の通貨を侵食していかないか、心配である。」
職場や人に対して使用
「悪貨は良貨を駆逐する」は、職場や人に対して使用されることもあります。悪習を日常化する社員が一人いれば、他の社員もそちらに傾倒してしまう場合などに利用されます。
例文を一つ紹介します。「あの社員は、礼儀がなっていない。「悪貨は良貨を駆逐する」のように、他の社員にも悪態が伝染していかなければいいが。」他の良質のものを悪くするような意味で利用されています。
芸能界のフェイクニュース
「悪貨は良貨を駆逐する」を、ネット上などのフェイクニュースを表現する際に利用されることも多いです。フェイクニュースとは、正確性が立証されていない話題性だけを追求した記事の事です。インターネット上で氾濫してしまい、問題になるケースが増えてきています。
「フェイクニュースが話題となり、雑誌の販売数も増える傾向がある。「悪貨は良貨を駆逐する」のように、正しい記事を書いている雑誌が売れなくなってしまうのではないか。」などの例文があります。
仕事で同僚の人事について
「悪貨は良貨を駆逐する」を、職場の同僚に対する人事について表現する際に利用されることもあります。ずるい手段を使って出世する社員に対し利用するケースが多くなっています。
「Aさんは、部下の手柄をあたかも自分の功績のように上席にアピールし、どんどん出世していく。「悪貨は良貨を駆逐する」のことわざのごとく、この風習が横行すると本当に能力のある社員が評価されなくなってしまう。」といった例文が考えられます。
宿題をやらない子供に対して
「悪貨は良貨を駆逐する」を、子どもが宿題をしたがらない場合に使うことができます。子供は、周りの友達がさぼっていると、自分もさぼっていいと思ってしまいがちですので、これを戒めるために使います。子供には難しいことわざですが、逆に効果があることもあります。
「友達が宿題をしていないからといって、あなたもしなくていい理由にはなりませんよ。「悪貨は良貨を駆逐する」のようにならないよう、周りに流されず正しいことはきちんとしましょうね。」といった使い方がされます。
「悪貨は良貨を駆逐する」が表す経済のメカニズム
「悪貨は良貨を駆逐する」の一般的に利用される例文をいくつか紹介しました。続いては、「悪貨は良貨を駆逐する」が表す経済のメカニズムについて説明します。「悪貨は良貨を駆逐する」の経済上のメカニズムは、価値の低い通貨が流通すると正しい価値の通貨が市場に出回らなくなるというメカニズムを表現しています。
中世から十八世紀のヨーロッパでの出来事
「悪貨は良貨を駆逐する」は、中世から18世紀のヨーロッパで広くみられたメカニズムを表現しています。当時、通貨といえば銀貨、銅貨などの硬貨で、現在のような紙幣はありませんでした。このころは、金本位制という通貨制度でした。当時の国王は、わざと硬貨の銀含有量を下げ、価値の低い通貨を市場にばらまきました。
こうなると、良貨は市場に回らず悪貨のみが市場に出回るメカニズムが起こりました。グレシャムの法則は、額面額と実際の貨幣の価値の乖離により起こるメカニズムで、貨幣の価値が正しく表現されず市場は混乱に陥るメカニズムを発現してしまいます。
「悪貨は良貨を駆逐する」の実例
「悪貨は良貨を駆逐する」に要約されるグレシャムの法則のメカニズムを説明しましたが、続いては「悪貨は良貨を駆逐する」の実例を紹介していきます。一般生活の中でも意外に使われる機会の多いことわざです。
比較的多く利用される事柄を取り上げ、「悪貨は良貨を駆逐する」の意味を上手に活用した実例を紹介していきます。
①仮想通貨
「悪貨は良貨を駆逐する」を現在で体現すると言っても過言ではないのが、仮想通貨です。仮想通貨は、ビットコインに代表されるネット上で売買される通貨です。国家ごとの通貨ではなく世界共通で、しかも実態がない通貨ですので、やり方次第では違法な活用がされる可能性があると懸念されています。
資産隠しや裏取引などに利用されるケースが考えられ、実際の国際通貨にも悪影響が及ばないか、懸念されています。セキュリティ面の対策を講じるなど、今後の課題が山積している事項です。
②インターネット
「悪貨は良貨を駆逐する」は、インターネットの世界でも起こっている状況があります。インターネットの特徴として、匿名性が高いことが挙げられます。わざと嘘の発言をしても、特に糾弾されることもなく、内容によっては嘘が本当になってしまうことも往々にしてあります。
インターネットの情報がうのみにされ、話題性だけで拡販していく状況は、まさに「悪貨は良貨を駆逐する」事態を引き起こしています。インターネットを活用する際は、正しいか正しくないかを自分で判断し、誤った情報に振り回されないようにしましょう。
③経済
「悪貨は良貨を駆逐する」は、経済の世界でも適用されることが多いです。特に最近問題視されているのが、詐欺による犯罪です。高齢者を狙う詐欺犯罪事件がたいへん増えてきている状況です。
詐欺による犯罪が横行すると、犯罪で儲けている事態を、ちゃんと毎日働いて生活している人が見て、自分の生活がばからしく感じられてしまうことが懸念されます。まじめに働かなくても稼ぐ方法はあるのでは、と考える人が増え、犯罪が増えてしまう傾向が止められなくなってしまいます。
④人
人について、「悪貨は良貨を駆逐する」を活用する事例も多いです。八方美人で、人の顔色をうかがいながらうまく立ち回ってちやほやされるような人がいると、愚直にまじめに過ごしている人は自分の性格がばからしく感じられてしまうことがあります。
このような立ち回りのうまい人が多い環境だと、そちらの方に傾倒していく人が増えていってしまい、ぎすぎすした環境の社会になってしまいます。自分は自分、と周りに流されないことが大事です。
⑤職場
会社において「悪貨は良貨を駆逐する」を使う場合は、たいていその会社の悪い風習を表現することが多いです。現在は、社内コンプライアンスなどの考え方がかなり浸透してきて、以前のようなブラック企業の横行はかなり減りました。
社内でのパワハラやセクハラを容認するような空気が存在する企業では、「悪貨は良貨を駆逐する」ということわざを利用して批判されることが多いです。特に上司が悪行を行なっていて、それを見た部下が同じことをしてもいいと感じ、悪い風習が感染していく悪い傾向がみられます。
「悪貨は良貨を駆逐する」は悪質通貨が流通すること
今回は、「悪貨は良貨を駆逐する」の意味や語源、グレシャムの法則を唱えるに至った時代背景、グレシャムの法則の意味とそのメカニズム、日常生活における「悪貨は良貨を駆逐する」ということわざの使用例などについて紹介をしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
もともと「悪貨は良貨を駆逐する」は質の悪い通貨が市場に出回ることによる悪いメカニズムを指す言葉でしたが、これが派生していろんな場面で使われるようになりました。悪い風習は継承していかないよう、自分を強く持って対応していくことが重要です。