陛下の意味とは
2019年4月30日、「平成」の御代が終わり、5月1日より元号が新しく「令和」になりました。平成の時代に天皇陛下であられた明仁さまは上皇になられ、皇后陛下であられた美智子さまは上皇后になられました。
それに伴い、皇太子であられた浩宮徳仁殿下が天皇陛下となられ、皇太子妃殿下であられた雅子さまは、皇后陛下になられました。
当たり前のように「天皇陛下」「皇后陛下」と言っていますが、この「陛下」という敬称にはどんな意味があるのでしょうか?
「陛下」とは、どのような使い方をすればいいのでしょうか?まずは「陛下」という言葉の意味を見ていきましょう。
意味①天子の尊称
「陛下」という言葉の意味の1つ目は「中国に古くからあるる天子の尊称」ということです。日本の文化は古くから中国大陸の文化の影響を大きく受けました。それでは、中国の「天子」とはどういった意味なのでしょうか?「天子」とは、一国の君主を指します。国の君主の尊称が「陛下」です。
意味②天皇・皇后などの敬称
「陛下」という言葉の意味の2つ目は、日本において、天皇、皇后、皇太后、太公太后の敬称のことです。皇后とは天皇の妻で、お后、お妃とも呼ばれます。皇太后とは現天皇の生母に当たる方を指します。
太公太后とは、現天皇の祖母に当たる方を指します。天皇や皇后は「天皇陛下」「皇后陛下」と呼ばれます。この度の元号の改変に伴い、明仁天皇は太上天皇に、美智子皇后は太上皇后になられました。太上天皇を略して、上皇と呼びます。
この「上皇」「上皇后」の敬称にも「陛下」は使われます。したがって「上皇陛下」「上皇后陛下」といった使われ方をします。
また、天皇のことを「陛下」の二文字だけの使い方をする場合もあります。単に「陛下」という使い方をする場合、天皇を指すことが多いと言えるでしょう。
陛下の使い方
「陛下」という言葉はどういった使い方をされているのでしょうか?本来なら、天皇が崩御されるまで、元号は続きます。しかしこの度、明仁天皇は退位され、浩宮徳仁皇太子が天皇になられたという、特殊なケースでした。
浩宮徳仁皇太子には、男のお子さまがいらっしゃいませんでした。では次の皇太子は誰なのでしょう?誰に「陛下」という使い方をしてよくて、誰に「陛下」という使い方をしてはならないのでしょうか?
現在の皇族への使われ方
現在の皇室には、上皇、上皇后、天皇、皇后がいらっしゃいます。基本として「陛下」とは国の君主の敬称ではありますが、退位された上皇、上皇后にも「陛下」の敬称が付けられます。
したがって、現在の皇室には「陛下」という使い方をする存在が4名いらっしゃるということになります。それでは、天皇、皇后の一人娘である敬宮愛子内親王は皇太子となられるのでしょうか?
現在は皇太子が不在
皇位継承や摂政の設置、天皇や皇族の身分など、皇室について規定した法律を、皇室典範と呼びます。皇室典範第八条によると、皇太子とは「皇嗣たる皇子を皇太子という」とあります。皇子とは天皇の息子を意味します。
愛子さまは女性なので皇子ではなく、したがって皇太子にはなれません。今現在の日本では皇太子は不在です。
浩宮徳仁天皇の弟である秋篠宮殿下が皇位継承権の第2位であり、ご子息の悠仁親王は男系男子ですが天皇の息子ではないので皇太子にはなれません。秋篠宮殿下は皇太弟、その次に皇位継承権がある悠仁親王は皇太甥ということになります。
今の皇室には女性が圧倒的に多いという特徴があります。天皇から見て2親等以内の男子を「親王」、女子を「内親王」と呼びます。
天皇の一人娘である愛子さまは正式には「敬宮愛子内親王殿下」と呼びます。皇位継承権3位の悠仁さまは「秋篠宮悠仁親王殿下」と呼びます。
陛下の語源と漢字の意味
令和の現在、「陛下」という呼称の使い方ができる方々は、天皇陛下、皇后陛下、上皇陛下、上皇后陛下の4名であると先述しました。「陛下」という言葉は、とても尊い意味を感じさせる言葉です。「陛下」という敬称の語源はどのようなところから出ているのでしょうか?また、この2文字の漢字にはどういった意味があるのでしょうか?
陛下の語源は「階級の下」
「陛下」という敬称は中国から来たものだと先述しました。「陛下」の語源は中国大陸にあります。語源は秦の始皇帝の時代にさかのぼります。「陛下」の語源は非常に古いものだということがおわかりいただけるでしょう。
「陛下」とは、「階級の下」といった意味の語源があり、このような漢字になりました。「陛下」は敬う対象であって、直接呼びかけるなど恐れ多いことでした。
尊い存在の方は意見や事情を言葉にする時、その下の者や官吏を介して行うのというのが「陛下」の語源とされています。
またそのお方を直接指し示すのではなく、住まわれている建物を指して言うことで、敬意を表すといった語源にもなっていると言われています。
漢字の意味
では「陛下」という言葉の、漢字の意味はどういったものなのでしょうか?「陛」という漢字は音読みで「へい」ですが、訓読みで「きざはし」となります。この漢字のつくりの部分「坒」は土の階段の上に、2人の人間が並んでいる形になります。
「きざはし」は階段を意味します。階段は宮廷の階段のことを意味します。高貴な人に直接呼びかけることは慎むべきという発想がありました。
「陛下」に何か物申す場合は、階段の下にいある家来に内容を伝えます。それを「陛下」に伝えてもらうといった敬意の払い方というものがありました。
「陛下」とはそもそも当人ではなく、その下に仕える者の意味で、「陛下」の「陛」の字は、その高貴な方が住まわれている住居を指しました。
これは「殿下」の「殿」も、「閣下」の「閣」も同じです。どれも、当人を指し示すのは恐れ多いといったところが語源になっています。
陛下とほかの尊称の違いと意味
ここまで何気なく、「天皇陛下」や「皇太子殿下」といった敬称を付けてきましたが、この敬称の違いにはどのような意味があるのでしょうか?そもそも「陛下」と「殿下」にはどのような違いがあるのでしょうか?「殿下」だけでなく「閣下」や「猊下」といった敬称もあります。これらはどのような使い方をしていけばよいのでしょうか?
陛下と殿下の違い
まず「陛下」と「殿下」にはどのような違いがあるのでしょうか?「陛下」は、そもそも天皇とその后にのみ使われる敬称でした。今回の元号の改変において、存命中の天皇が位を譲るのは、200年ぶりの出来事でした。
そこで明仁天皇が上皇になる場合の敬称については、改めて協議されました。その結果、上皇は「陛下」の敬称が使われることが決定しました。「殿下」とは「陛下」と呼ばれる人物以外の皇族の敬称です。
「皇太子殿下」「皇太子妃殿下」「秋篠宮殿下」といった呼び名は、平成の30年の間に、すっかり耳に馴染んでいるのではないでしょうか?
つまり「殿下」とは「陛下」に次ぐ敬称です。「陛下」より下位であり「閣下」より上位になります。歴史上の人物を見ていると、豊臣秀吉など最高位でありながら「太閤殿下」「関白殿下」などの「殿下」が存在しました。
陛下と閣下の違い
「陛下」と「殿下」の違いは以上の通りです。では、下という字が付く敬称でもう1つ有名な「閣下」について見ていきましょう。「閣下」という言葉もよく使われます。
何やらわからないけれど、偉い人のことを呼ぶのだろうと漠然とした認識でいるのではないでしょうか?では「陛下」と「閣下」の違いは何なのでしょうか?
「閣下」は少将、中将、大将といった軍人を中心にして偉い人に付けられる敬称です。さらに、海外の大統領や領事、貴族階級の人を「閣下」と呼ぶ場合もあります。
貴族階級のない日本人の間では、いつも偉そうにしている人を皮肉交じりに「閣下」と呼んだりもするようです。
陛下と猊下の違い
「猊下」という文字を見たことはありませんか?これは「げいか」と読みます。「下」の字が付いた2文字のこの「猊下」も、ある人を指す敬称です。ではどんな人を指すのでしょうか?「猊下」は、位の高い宗教者に付けられる敬称です。
教皇や法王といった、宗教において位の高い位置にいる人は、一般に大きな尊敬を集めているようです。そういった宗教者に敬意を示して、「猊下」といった敬称を付けます。
この場合、この人の出自はあまり関係なく、どういった活動をしてきたか、教会に認められるまでになったかといった点が重要視されています。生まれながらの血筋に関係ないのも「陛下」との大きな違いなのではないでしょうか?
陛下とほか尊称の英語表現
元号が令和に変わったことは、世界的なニュースになりました。元号の意味から、新しい天皇の名前など、英語でさまざまに報道されました。あなたの身近にいる外国人に、皇室について尋ねられる機会があるかもしれません。アメリカには皇室がなく、イギリスの王室とも違う世界です。外国人に教えられるよう、皇室に関する英語を見ていきましょう。
陛下の英語表現
まず「陛下」とはどんな英語なのでしょう?「陛下」は「Your majesty」と言います。「Majesty」とはどういう意味かと言うと「尊厳」や「威厳」を表す単語です。日本で報道される場合、天皇の名前を使うことはあまりありません。
しかし、海外の新聞やテレビニュースでは、名前で呼ばれることが多いと言えるでしょう。「徳仁天皇」は「the Emperor Naruhito」です。「雅子皇后」は「the Empress Masako」となります。上皇陛下の場合も同じです。
「明仁上皇」は「the Emperor Emeritus Akihito」です。「美智子上皇后」は「the Empress Emerita Michiko」となります。
殿下の英語表現
次に「殿下」を英語では何と言うのでしょうか?「殿下」は英語で「Your highness」と呼ばれます。この「Highness」はどういう意味なのでしょうか?「Highness」には「高い位であること」といった意味があります。
現在、皇太子殿下、皇太子妃殿下は不在ですが、〇〇皇太子の場合「the Crown Prince 〇」と呼ばれます。〇〇皇太子妃の場合は「the Crown Princess 〇〇」となります。
現在「殿下」の敬称を持つ「眞子内親王殿下」は「Her Imperial Highness Princess Mako」となります。
閣下の英語表現
それでは「閣下」は英語で何と言うのでしょうか?「閣下」は英語で「excellency」と言います。一般に二人称の場合は「your excellency」で複数形になると「your excellencies」です。
三人称の場合は「his excellency」で複数形は「his excellencies」となります。「excellency」には「優秀であること」といった意味があります。よく言われる「大統領閣下」の場合は「Mr. President」となります。
「内閣総理大臣閣下」の場合は「Prime Minister」となります。相手を「閣下」と呼ぶ時は「Your Grace」という言い方もされます。また、三人称で「閣下夫人」を呼ぶ場合は「His Grace」です。
猊下の英語表現
では宗教の上で高貴な人に対して使われる「猊下」は英語で何と言うのでしょうか?「猊下」は英語で「eminence」と言います。「猊下」と呼びかける時は「Your Eminence」と呼ぶといいでしょう。
枢機卿は「His Eminence」と呼ばれます。「大司教」は「His Grace」が一般的なようです。英語圏以外の司教や大司教の場合は「His Excellency」が用いられます。
英国女王の夫は陛下ではない?
「陛下」の英語表現を見てきたところで、英語の本家、イギリスの王室について少し見ていきましょう。基本的に「陛下」は日本と同じ「His Majesty」ですが、現在のイギリス国王は女性なので「Her Majesty」となります。
「殿下」は「His/Her Royal Highness」です。現在、女王のみが「Her Majesty」を冠して呼ばれています。その他の王族は「His/Her Royal Highness」となります。つまり「陛下」と呼ばれるのはエリザベス女王だけです。
日本の皇室の場合、今上天皇が皇太子だった時代に、雅子妃と結婚され、即位をされた現在、雅子さまは「皇后陛下」と呼ばれています。
しかし、イギリス王室では少し状況が違います。エリザベス女王の伴侶は「フィリップ殿下」であり、「陛下」とは呼ばれません。
陛下は天皇・皇后に対して使える敬称
令和の時代になり、新天皇、新皇后が即位され、世界的に話題になっています。「陛下」という言葉は基本的に天皇と皇后にだけ使うことができる敬称です。今回の御代替わりは前天皇が生前退位したという特殊な形式であったため、上皇や上皇后も「陛下」と呼ばれます。日本の古い伝統を理解し、「陛下」という敬称を正しく使いましょう。