齟齬の意味とは?
「齟齬」という言葉をご存知ですか?書き方、読み方がなかなか難儀な漢字ですが、ワイドショーのコメンテーターから、新聞、雑誌、書籍、と様々なメディアで頻繁に登場する漢字です。
この「齟齬」という漢字、読み方は「そご」になります。実は「齟齬」は上記のようなメディアだけではなく、私たちの日常にも登場する身近な言葉なのです。例えばビジネスで、近所付き合いの雑談で、町内会の会合など、さまざまなシーンで見る人も多いでしょう。
「齟齬」自体目にした事がある言葉かもしれませんが、文章の前後などで何となく意味を推測してたり、その箇所だけスルーしたまま、後で調べるのを忘れてしまったり、覚えていたけど忘れてしまったりと日常で身近な存在だけど、なかなか意味まで掴めてない事もあるかもしれません。
「齟齬」は「物事が食い違って思うように進まないこと。またそのくいちがい」を意味します。シンプルな意味ですが、シンプルであればあるほど忘れてしまいがちです。
今回は「齟齬」の由来、特徴、他の言葉に言い換えた場合の類義語、対義語、例文を交えた使い方や「齟齬」使う際の注意点をご紹介致します。「齟齬」を深掘りしていく事で、より身近により実用的に活用に結び付けていただければ幸いです。
齟齬の由来
まずは特徴的な漢字「齟齬」の言葉の由来からです。「齟齬」はみてわかるように「齟」と「齬」からなる2文字の言葉から成り立ちますが、まずは「齟」と「齬」の漢字それぞれをみていきます。
まずは「齟」です。部首は歯偏(はへん)になり、噛むという意味があります。旁の「且」は重ね形になっている器を象ったもので、肉を入れて神に供える意味があると言われています。
「齟」は「咀嚼(そしゃく)」などで使われる「咀」と同系で「何度も噛み合わせる」ことを意味しています。訓読みは齟む(かむ)になります。また「齟」には「歯がくい違う」という意味もあります。
つぎに「齬」です。部首は歯偏(はへん)になり、噛むという意味があります。旁の「吾」の原義には「くい違う」という意味があります。
「齬」は「互」と同系に「互いに入れ違う」ことを意味しています。訓読みは齬う(くいちがう)になります。また「齬」には「くい違う。歯が合わない」という意味を持ちます。
上記にように「齟齬」を一字ずつ見ていくと、「齟」にも「齬」にも「歯偏」があり、噛むと言う意味があり、「歯が食い違い、合わない」という意味があるのがわかります。
つまり、同義の漢字を重ねて、「歯を合わせて、何度も噛み合わせてしっくりこない」から転じて「意味」で先述した「物事が食い違って思うように進まないこと。くいちがい」という意味として使われることになりました。
では、現在の意味としてはいつから使われるようになったのでしょうか?下記に紹介する書物を辿って確認していきます。
「経世の学、また講究すべし」という啓蒙思想家・教育家の福沢諭吉が1882年(明治15年)に「時事新報」に寄稿した作品があり、下記になります。
「人を順良にせんとするの方便は、たまたまこれを詭激に導くの助けをなし、目的の齟齬する、これよりはなはだしきはなし」
このように、「齟齬」は今から140年前には、著名な作家の書籍に登場しており、古い由来を持った言葉であることがわかります。
齟齬の特徴
今まで「齟齬」の意味、由来を見ました。では私たちが生活している現代においては「齟齬」どのような場面で使われて、垣間見ることができるのでしょうか?
「齟齬」はビジネスシーンにおいても、自宅などにおいても、私たちが過ごす何気なく過ごす日常において、寄り添うように「身近な存在」です。「齟齬」が常に生じること可能性があることは一人一人個性があり、違う存在である以上、避けては通れない事象です。
次はその場面場面で見られる「齟齬」の特徴をご紹介いたします。「齟齬」が「身近な存在」で時には直面せざるを得ないこということが理解できます。今後「齟齬」に直面する場面にありましたら、以下の場面を参考の1つにしていただければ幸いです。
ビジネスにおける意見のくいちがいに
ビジネスシーンにおいては、社内において「齟齬」がよく使われる言葉です。というのは、ビジネスにおいて、複数の人間が働く企業などは営利活動をするにあたり、いろんなアイデアや意見が生まれる事がより合理的な利益をもたらす特徴があるからです。
会社には会議などが存在します。そこでは、売り上げ報告、や情報共有の他に、雑談、あるテーマに対する意見交換などがあります。その際には、意見交換する以上いろんな意見が出る事が、企業にとってよりよい改善・解決に結びつく可能性が高いのです。
いろんな意見は時には建設的に収まる場合もありますが、「ぶつかり合う場合」もあります。具体的な会話のやりとりは後述する例文に譲りますが、そのようなビジネスシーンにおいての意見のぶつかり合いなどでくいちがいが生じた場合などに「齟齬」という言葉が当てはまることになります。
プライベートでの見解の違いに
次にプライベートで、自分の家族、恋人と一緒に時間を共有する場合に「齟齬」が当てはまる場面があるのも特徴的です。プライベートでは、些細なことが「齟齬」になるケースがあります。
こちらのケースも具体的な場面は後述する例文に譲りますが、掃除・洗濯をする時間や食事のマナー、見たいテレビ番組の好み、行きたい場所の好み、などで「齟齬」になる可能性があります。
ビジネスシーンと異なり、プライベートで「齟齬」が生じる原因としては、先述した「会社にとってより効率的、合理的メソッド」の対立だけではなく、単なる「好き、嫌い」という価値観の対立でも「齟齬」が生じる可能性があるところです。
このように1人1人が意図せずとも、ビジネスシーン、プライベートともに、私たちが暮らす日常生活の身近に「齟齬」が生じる可能性があります。
齟齬の類義語と対義語
「齟齬」は先述したように、身近な言葉であるのと同時に漢字の書き方が難しく、書き間違えや書き方を忘れてしまう可能性があります。言い換えられる言葉が簡単な漢字であれば、その言葉を使うことも選択肢の1つです。
今後の選択肢を広げつつ、「齟齬」をより深く知っていただけるように、今回は「齟齬」の言い換えできる類義語をいくつかご紹介していきます。書き方に抵抗感があり「齟齬」を使えない場合、以下で紹介する類義語の使用を選択していただき、ご活用ください。
また、「齟齬」の類義語を紹介するにあたり、相対する対義語にも触れていきます。対義語に触れる事で「齟齬」がどのような位置付けになるのかがより深く理解することにつながります。ぜひご参考ください。
齟齬の類義語その1
「齟齬」の類義語、言い換えの言葉として「径庭(けいてい)」「差異(さい)」があります。前者「径庭」は「隔たりが甚だしく、かけ離れている事」を意味し、後者「差異」は「ちがい、へだたり」を意味します。ちなみに類義語「径庭」は「逕庭」とも書きます。
類義語「径庭(逕庭)」の「径」「逕」は小道を指し、「庭」は広場を指します。その両者が異なることから、上記の意味となった由来となります。他の例えから転じて現在の意味となった経緯が「齟齬」と似ており、言い換えとしては「差異」より類義語にふさわしいと言えます。
この類義語、言い換えの言葉「径庭(逕庭)」も古くから使われてきた敬意が書籍から確認することができる言葉です。例えば「日の果て」という小説家の梅崎春生が1947年(昭和22年)に「思索 秋季号」に寄稿した作品があり以下になります。
「何れをとってもさほど逕庭はない途だと高城が言うので、彼は暫く考えた末、山に入る道を選んだ」と「逕庭」の存在を確認する事ができます。
「齟齬」の書き方が難しいと感じる場合には、上記類義語「径庭(逕庭)」「差異」を言い換えの言葉として活用いただければ幸いです。
齟齬の類義語その2
また、もう1つ「齟齬」の類義語、言い換えの言葉として「ずれ」という言葉があります。この「ずれ」という言葉は「物事がうまく一致しない事」を意味します。
この「ずれ」という言葉は、使用頻度が高いにも関わらず漢字はありません。「齟齬」や上記などの漢字が覚えにくく、使いにくい場合はこの「ずれ」というひらがなの言葉で言い換えて使うことをお薦めします。
齟齬の対義語
では「齟齬」の対義語はどんな言葉が当てはまるのでしょうか?「齟齬」の対義語としてあげられる言葉は「符合」になります。読み方は「ふごう」です。「符」は意味を表す部分と音をあらわす部分で構成される形声文字です。
「符」は「竹」と、音符「付」とから構成されています。この2つは、別々に所有しておき、合わせる時にその真偽が確認することができる「割符(わりふ)」のような原義を持ちます。「合」は「あわさる」という、普段使われている通りの意味です。
対義語「符合」は上記ような「符」と「合」が組み合わさり「割符がぴったり合うこと」転じて、「物事がいくつかの物事がぴったり」と合うという意味を持ち「齟齬」の対義語としての言葉の位置関係となります。
齟齬の使い方
「齟齬」の意味、由来、特徴、類義語、対義語をみてきたところで、次は実際の「齟齬」の使い方を見ていきます。「齟齬」は先述したように私たちの日常生活で避けては通れない身近な言葉です。
以下で実際の「齟齬」の使い方をシーンに分けてご紹介いたします。使い方をご理解いただき、実生活に役立てていただければ幸いです。
例文①
「齟齬」の使い方の1つ目の例文としては、ビジネスシーンでの設定になります。会議で意見交換をする際、互いに違う意見があった場合を想定します。
「私の見解は新店舗展開することに賛成です。毎年寺社は売り上げが目標を大幅に達成しており、新店舗を展開することで、さらなる売り上げが見込まれると思います」
「私は彼の意見に反対です。その場所に新店舗展開することは確かに全体の売り上げ増が見込まれますが、自社競合になってしまい、近隣の既存店舗に打撃になります」
上記のような意見の対立しており、結果店舗展開するかどうか決定できない状態が「齟齬」が生じている状態です。「あの二人は見解に齟齬がある」と使うことができます。
例文②
「齟齬」の使い方の2つ目の例文としては、プライベートでの設定になります。見たいテレビ番組について言い争いがあった想定します。
「私はバラエティ番組を前から見たかった。以前も録画できないから見せて欲しいと話してたでしょ。なんでその番組を今見ることになるの」
「中継が延長してしまったのだからしょうがないだろう。今まで見てきたのにクライマックスが見れないなんておかしいと思わない?」
上記のような意見の対立しており、結果どのテレビ番組を見るか決定できない状態が「齟齬」が生じている状態です。例えば「昨日は見たいテレビ番組で意見の齟齬があって」という使い方ができます。
例文③
「齟齬」の使い方の3つ目の例文も、プライベートの設定になります。住居の管理組合での会合で、互いに違う意見があった場合を想定します。
「管理費の引き上げは、現在生活する上でとても負担になる。いつもより管理費を多く負担している現状なのに。これ以上引き上げる前に管理費を不払いしている世帯への対策が先では無いのか?」
「現在不払いが続いている世帯がいつ返済をするか?それを待っていては、近い将来マンションの維持・管理に支障が生じてしまう」
上記のような意見の対立しており、結果管理費を引き上げるかどうか決定できない状態が「齟齬」が生じている状態です。「管理費の引き上げかどうかは次の会合まで棚上げになった」と使い方ができます。
例文④
「齟齬」の使い方の4つ目の例文も、ビジネスシーンでの設定になります。企画段階で互いに違う意見があった場合を想定します。
「消費者のニーズに応える製品はオペレーションのプロセスを簡略化することがまずは第一です。そのための制度設計が必要になっていく」
「しかし、プロセスの簡略化することで、個人情報の漏洩のリスクが高まってしまい、万が一事が起きてしまった場合我が社の信用が失墜する」
上記のような意見の対立しており、企画自体の膠着状態が「齟齬」が生じている状態です。「両者の見解には齟齬がある。企画進行が遅れてしまうが、どちらも意見ももっともなので、慎重に進めよう」と使うことができます。
齟齬を使う際の注意点
「齟齬」を使う上で、注意すべき点はどこにあるのでしょうか?「齟齬」という言葉は、確かに建設的に意見がまとまる上で大切な前提であったり、いろんな見解が出る事でより合理的になるという利点があります。
反面、「齟齬」は「噛み合っていない」「物事が進まない」というマイナスな印象も持たれる言葉なだけに使う際には注意が必要です。
顧客である取引先との関係性では使わない
ビジネスの場で「齟齬」を使うことは、タブーです。取引先は重要な顧客です。取引先の担当者との意見の食い違いを「齟齬」と表現することで、取引先に「下請側から意見の違いを解決せず認めている」と見做される恐れがあります。
取引先は大事な顧客で下請企業にとっては貴重な収入源です。関係をこじらせて失注するのようなことをが無いよう、取引先との見解の相違は解決することを前提とした姿勢で折衷案を模索していく事が大切です。
齟齬は意見がくいちがうという意味
「齟齬」は意見がくいちがうという意味で、日常生活で直結している言葉です。しかし、その「齟齬」が問題解決の一助になったり、効率的、合理的な進展に結びつく可能性もあるので、一概にマイナスな言葉と片付けられない言葉でもあります。
「齟齬」を言い換えた表現もご参考いただきながら、相手方とのより良い関係性を構築していきましょう。