「支度」と「仕度」の意味とは?
普段は何気なく使っている言葉に「したく」がありますが、「したく」にも「支度」と「仕度」の二通りの漢字があることを知っていましたか?
音で伝える分にはどちらも同じ読み方なので、特段使い分けを意識したことがない、あるいはそもそも「支度」と「仕度」の二通りの漢字があることに気付いていなかった、という人もいます。
しかし、いざ文章に書き起こすとなった時に、「支度」と「仕度」のどちらを使うのが正しいかで悩んでしまった、という人もいます。普段はあまり文章に出てこない言葉だからこそ、「支度」と「仕度」の違いや使い分け方、英語での表現方法などを知っておきましょう。
「支度」の意味
まず、「支度」には「前もって準備をする、計画する」といった意味があります。「支」は一文字で「ささえる」という意味がありますが、他にも「はかる、計算する」という意味を持ちます。
一般的に、物事に取り組む時には、どういった物が必要なのか、いつまでに終わらせるのか、その為にはどのような工程が必要になるかなど、あらかじめ考えて計画を立て、行動するための準備をしておきます。そこから転じて、「支度」が準備や計画という意味になったようです。
「仕度」の意味
そして「仕度」ですが、こちらも「前もって準備をする、計画する」という意味の言葉になります。つまり、意味合いとしては「支度」も「仕度」もまったく同じ意味の言葉ということになります。
では「支度」と「仕度」は使い分けをする必要がないということか、となってしまいますが、実はわずかな違いがあります。「支度」と「仕度」をきちんと使い分けるために、その違いを見ていきましょう。
「支度」と「仕度」の違い
同じ「前もって準備をする」という意味の「支度」と「仕度」ですが、構成している漢字である「支」と「仕」の違いによって使い分けをすることができます。
まず、「仕度」の「仕」には一文字で「人に仕える」という意味があります。ですので、誰かのために準備をする、といった場合には「仕度」を使用すると良いとされています。
それに対して自分のために行う行動には「支度」を使用すると、漢字の持つ意味に見合った使い方ができていることになります。どういった場面かに合わせて使い分けるようにしましょう。
「支度」と「仕度」の由来
何故、「したく」という言葉が生まれ、「支度」や「仕度」といった二通りの表記に分かれたのかというのは気になるところですが、実はこの問いには明確な答えはないといわれています。しかし、「支度」を構成している漢字そのものの意味を辿ることで、その由来を探るヒントを得ることはできます。
「支度」の「支」には「ささえる、はかる、計算する」という意味があります。そして、「度」にも同じように「はかる」という意味があります。「支度」とは同じ「はかる」という意味をもつ漢字を重ねて作られた言葉なのです。
計算に計算を重ねることで、事前に何度も計算をして備えておく、きちんと計画をしておく、といった意味の言葉になったのではないかとされています。
では、「仕度」の方はどのような経緯で誕生したのかというと、こちらは当て字だといわれています。元々は「支度」と表記されていたところに、後から「仕度」の文字を当てるようになったものが広まっていったようです。
他にも「し」と読む漢字はたくさんある中で、何故「仕」の字を当てるようになったのか、詳しい経緯は不明となっています。一般的には、漢字の意味を考慮せず、読み方のみで当て字を作るとされていますが、「仕度」の場合は漢字の意味も噛み合うので意図的に当てられたとも考えられます。
日常会話ではよく使われる「支度」、あるいは「仕度」という言葉ですが、文章ではあまり表記する機会は多くありません。音声での会話では漢字を使い分ける必要がないので、文字で表記した時に当て字との違いに気付かず広まっていくのも仕方ないことです。
「支度」と「仕度」の英語表現
「支度」と「仕度」を英語で表現する場合には「Prepare」を使用します。Prepereは準備をする、という意味の英単語なので、「支度」と「仕度」のどちらにも使用できます。
「prepare for~」で「~の準備をする」になります。また別の英語表現としては「get ready for~」もあります。こちらも同じく「~の準備をする」という意味になります。
PrepareとReadyは「支度」と「仕度」と同じようにどちらも同じ意味の英語になります。もちろんどちらを使うのかは、厳密には前後にくる動詞や副詞などによって変化しますが、どちらでも間違いではないので難しく考える心配はいりません。
どうしても英語表現でも「支度」と「仕度」の使い分けをしたいというのであれば、Readyが準備をしてある「状態」を表し、Prepareが準備をするという「行為」を表すと考えておくと良いでしょう。
この2種類が「支度」と「仕度」の一般的な英語表現になりますが、英語の場合は何の準備をするかによって、また更に異なる言い回しをすることも可能です。どんな「支度」、あるいは「仕度」なのかによって、英語での表現も工夫してみましょう。
「支度」と「仕度」の使い方
「支度」と「仕度」の意味や違いがわかったところで、実際にどのような使い方があるのかを例文を使いながら見ていきましょう。使い分けのポイントは、対象が自分か他の人か、になります。迷ったら場面を想像しながら考えるとわかりやすくなります。
例文①「冬支度を済ませた」
冬支度とは、これから来る冬に向けての防寒対策や除雪の準備などをして冬に備えることを差す言葉になります。基本的には自分のために、自分自身で備えて行動する行為にあたるので、この例文の場合には「支度」を使うことになります。
例文②「子供が出かけられるように仕度をする」
子供が自分で外出の準備をするのであれば「支度」になりますが、今回の例文では、子供ではない人物(保護者など)が、「子供のために」「子供の」外出の準備をしている状態を表しています。
つまり、自分の行動のための準備ではなく、他の人が行動するために準備をするので「仕度」の方が適していることになります。ちなみに、子供と一緒に準備をする場合であっても、その準備が必要な対象が子供のみであれば「仕度」を使います。
例文③「帰りのお支度をお願いします」
この例文は従業員などが来客に向けて使っているのを耳にしたことがあるでしょう。こちらは一見、「仕度」が正しいのでは、と思ってしまいがちなひっかけ問題のような使い方をしています。
この例文では、帰る準備をするのは発言している従業員側ではなく、言われている来客側になります。しかし、従業員が来客のために準備をするわけではありません。来客が「自分で」準備をするようにというお願いになっています。
ですので、来客が自分で自分のために準備をするので「仕度」ではなく「支度」を使うのがふさわしいということになります。少し難しい使い分けになります。
例文④「食事の仕度をする」
他の人の為に食事の準備をするのであれば「仕度」を使いますが、実は自分の為の食事の準備であっても「仕度」を使います。
というのも、昔は家に仕えている使用人が食事の準備をしていたため、ある程度の身分の人は自分で食事の準備をすることはありませんでした。そのため、食事の準備は使用人がするものという背景から「仕度」を使うとされています。
もちろん、自分の食事の準備であれば「支度」を使用しても間違いではありません。「支度」と「仕度」、状況によって上手く使い分けてください。
「支度」と「仕度」の注意点
「支度」と「仕度」の使い分け方を簡単に紹介しましたが、実は使用する際に注意すべき点があります。準備をするのが自分のためか、他の人のためかで使い分けると解説しましたが、公の場ではどちらの場合でも「支度」を使うのがマナーとされています。
というのも、本来「仕度」は当て字であるためです。当て字を使った言葉は「支度」以外にもたくさんありますが、公文書や新聞、ビジネスシーンなどでは正式な漢字を使うのが一般的になっているため「仕度」ではなく「支度」で統一されています。
もちろん「仕度」も一般に浸透しているため、使ったとしても誤用にはなりませんが、私的な手紙や日記、私小説以外では指摘されてしまう可能性があります。多くの人が目にするような文章を作成する際には心に留めておきましょう。
「支度」と「仕度」は「前もって準備をする」という意味
「支度」と「仕度」は、どちらも計算や計画するという意味の漢字から成り立っており、「前もって準備をする」という意味を持つ言葉となっています。
耳にすることは多くても文章で目にする機会はそれほど多くない言葉なので、使用する際にはどちらの漢字を使うのか判断に悩みがちな言葉でもあります。
誰の「したく」をするのかをよく考えて、「支度」と「仕度」を使いわけてみてください。どうしても決められない、分からないといった場合には本来の「支度」を使っておけば大丈夫です。いざ使用する必要が生じた時に備えて、今から「支度」をしておきましょう。