リストラの意味
「リストラ」という言葉を聞くと、よく「会社にリストラされた」という使われ方がされるように「解雇」とか「人員削減」をイメージするのではないでしょうか。実際に日本ではその使われ方がすっかり定着しています。でも本当にそのような意味なのでしょうか?「リストラ」の語源や本当の意味と、リストラを始めそうな会社の特徴について解説します。
意味:事業の再構築
「リストラ」は英語のリストラクチャリングからきており、英語ではrestructuringと書きます。structuringは「構築」という意味で、それに「再」を意味するreが付いて「再構築」という意味になります。
ビジネスの世界で「リストラ」といえばすなわち事業の再構築のことで、不採算事業の売却や縮小・撤退、成長分野への経営資源集中などを通して、その企業の事業構成を見直し選択と集中を進めることを意味します。
人員削減のみを意味する訳ではない
このようにリストラの元々の意味は「人員削減」ではありません。しかし、企業が事業構成の見直しを進めるなかで、ほとんどの場合、人員の削減や人員配置の見直しも必要になります。そこで、リストラが象徴的に解雇や人員削減そのものを指すような使い方になったわけです。
リストラするきっかけは業績悪化が多い
リストラのきっかけや目的は会社によって様々です。きっかけの多くは業績悪化やそれに伴う経営不振で、経営上の問題や課題を解決・改善するためにリストラに取り組みます。しかし、なかには業績好調でもさらなる成長を目指してリストラに取り組む会社もあります。
リストラのきっかけ・目的によってリストラの種類は異なってきます。業績悪化を短期的に食い止めるのであれば経費削減が手っ取り早く、リストラの種類は人員削減等、固定費削減による縮小均衡型になります。抜本的な変革を図るのであれば、リストラの種類はビジネスモデルの転換など構造改革型になるでしょう。
リストラの4つの種類と意味
リストラは会社が人員削減をする場合の最終手段である解雇のことを指すと考えられがちです。しかしながら、実際は解雇まで至らなくても、希望退職者の募集や人事発令等によって会社側が社員を退職へ導くこともリストラに含まれると考えた方がよいでしょう。
こうした社員を自主退職へ導くリストラの方法にはいろいろな種類があります。例えば、次に挙げるあげるような退職勧奨、配置転換、降格、転籍などの種類があり、なかには違法性が疑われる方法も行われているのが実状です。
①退職推奨
一つ目の種類は「退職勧奨」です。いわゆる「肩たたき」のことで、会社側が社員に対し直接・間接的を問わず個別社員ごとに退職を勧めることを意味します。
具体的には、人事評価が低くこのまま会社にいても昇給や昇格が限定的なことや社員に伝え、転職や早期退職などを促す方法です。直接的には退職という言葉使わずに、大幅な減給やいわゆる左遷などを匂わせ、間接的に退職を勧める方法もあります。
②配置転換
二つ目の種類は「配置転換」です。人事異動によりその社員が希望していない、もしくは適性があると思えず経験もない部署に配属することを意味します。
リストラ候補者用に配置転換用の新しい部署を作って異動させる場合もあります。自分の意に沿わずキャリアアップの見込めない部署に配置転換させられることで、会社に失望し自主退職につながります。
③降格
三つ目の種類は「降格」です。人事評価等を経て、部長が課長、課長が係長や主任などと、会社や組織での役職や役付きが降下することを意味します。役職・役付きは下げなくても、地方転勤などのいわゆる左遷人事による実質的な「降格」も含まれます。
大抵の場合は減給や減俸を伴うことが多く、社員の会社への忠誠心、やる気やモチベーションは大きく損なわれます。社員の精神的なダメージは大きく、自主退職を考えるきっかけへとつながっていきます。
④転籍
四つ目の種類は「転籍」です。今の会社を退職し、グループ会社や取引先などに完全に籍を移し転職することを意味します。
会社に籍を置いたまま別の会社に勤務する出向とは違い、通常は一方通行で元の会社に戻ることは出来ません。事業売却時などにその事業に従事する社員を丸ごと転籍させる場合があります。元の会社では人員削減につながります。
リストラと解雇の違いと意味
前述の通り、リストラは会社側の経営上・経済上の理由により行われます。人員削減は人件費をはじめとする固定削減の効果が大きいためリストラの中心的方策になる場合も多く、整理解雇を伴うリストラもしばしばみられます。
会社が整理解雇を行う場合は、客観的合理性や妥当性が必要とされ、会社が整理解雇を濫用することは認められていません。会社が経営危機に直面し、既に解雇以外の経営改善努力を行っていることなどが要件となり、社員に十分な説明を行っているかなど、その手続きについても妥当性が求められます。
それではリストラによる整理解雇と、その他の解雇の種類である普通解雇、不当解雇、懲戒解雇などとはどう違うのでしょうか?次では、解雇の種類それぞれについて説明します。
整理解雇の4つの要件
整理解雇を行うためには、客観的合理性があり、社会通念上相当なものである必要があります。具体的には、①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被雇用者選定の合理性、④手続きの妥当性という4つの要件を満たす必要があります。
要するに、会社存続のためには社員の解雇による人員削減が必須の状況になっており、社員の解雇にあたっては納得性、公平性を重視し、解雇の時期や方法を社員に十分な説明と協議を経て行わなければならない、ということです。
このように、特段の落ち度のない社員を経営上の理由で辞めさせる整理解雇は、社員の生活を根底から変える可能性があるため、厳しい法的規制が課せられています。
普通解雇
普通解雇は、労働者の病気やケガでの就労不能、職務遂行能力や技術の著しい欠如、勤務態度の不良化など、労働者側に起因する理由によって行われる解雇のことです。会社側の主観のみで一方的に行われないよう合理的な理由が必要とされます。また普通解雇の場合は30日以上前に予告するか、30日分以上の賃金を支払う必要があるとされています。
不当解雇
不当解雇とは、法令や就業規則・労働協定などの取り決めを守らずに、また合理的・客観的理由なしに会社側の都合で一方的に労働者を解雇することです。分かりやすい例では、国籍や信条、性別を理由としたもの、労働組合の組織化や加入を理由に解雇することなどが挙げられます。
また解雇予告をしない、解雇予告手当を支払わない即時解雇など、必要な手続きを経ない解雇も不当解雇となります。ただ、解雇はもっぱら会社の裁量で行われ、解雇要件は広義にわたるため、しばしば不当解雇かどうかをめぐって労使で争われることがあります。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、刑法上の犯罪行為を行った場合や、長期間の無断欠勤、経歴詐称、その他就業規則や職務規定違反を度々行い故意に会社に損害を与えるなどの、労働者の責に帰すべき事由により労働者を解雇することです。会社の懲戒処分のうち最も重いもので、退職金は不支給になるケースが多く、損害賠償を請求されることもあり得ます。
また再就職が困難になるなど、労働者へのダメージは絶大なものがあります。従って、懲戒解雇する前に事前弁明の機会を与えるなど、会社側には適正な手続きを踏むことが求められています。
解雇以外のリストラ策
人事労務関係のリストラ策は、実は解雇によるものばかりではありません。間接部門の業務効率化のために間接部門を統廃合し、浮いた人員を営業などの直接部門に配置転換することもリストラ策の一つです。またワークシェアリングで1人当たりの総労働時間を減らす、新規採用を減らすことでも人件費は削減できます。
一部の業務をアウトソース(外部委託)することもリストラ策の一つです。業務をアウトソースすると同時にその業務を担当している部署の人員をアウトソース先に出向または転籍させることで、解雇せずに人員削減することができます。
リストラが始まる可能性のある会社の特徴
リストラが始まる会社には何か特徴があり、またリストラが始まる前には何かしらの兆候があるのではないでしょうか。
会社はある日突然リストラを行うことはなく、人員削減を行うときには既に深刻な業績悪化や経営不振の状態に陥っていることが多く、それまでに水面下で徐々にリストラに向けた何か特徴的な手を打っている場合があります。リストラが始まる可能性のある会社の特徴や兆候をみてみましょう。
①長期的な仕事を任されない
特定の社員に対しサイクルが短期的な仕事ばかりを任せ、長期的な仕事を任せなくなると、その後のリストラの可能性が高まります。特定の社員から徐々に仕事を取り上げていき、その社員らをリストラ要員に仕立てるわけです。リストラ対象者を一つの部屋に集めて何も仕事を与えない「追い出し部屋」などは、違法性の高い事例であり特徴であると言えます。
②仕事内容・量が急に変更
これまで大きな変化がなかった部署や社員に対し、急に仕事内容や仕事量を変えてくる場合もリストラを始める会社の特徴であり、その後リストラが始まるかも知れません。仕事の内容と量を変えることで、社員の査定や評価を行っている可能性があります。その場合、査定や評価が一定のレベルに達しないとリストラ要員となる可能性があります。
また、定期人事異動以外の人事異動を増やし、仕事の内容や量を変えてくる場合もリストラが始まる兆候かも知れません。
③社内の雰囲気がピリピリする
社内の雰囲気がピリピリしているのもその後にリストラが始まる可能性のある会社の特徴です。業績悪化により給与やボーナスが増えないもしくは減らされる中、逆に仕事が大変になると、社内の雰囲気はピリピリし始めます。そんな中で、出張費や交際費、コピー用紙や電気代など細かい経費までうるさく言われ出すと、社内の雰囲気は一気に悪化します。
④自社や関連会社の株価低下・不祥事
上場企業の場合は、株価の低下がリストラを始める会社の特徴となる場合もあります。株価は会社の将来を占う鏡でもあるので、先行きの業績や経営環境の悪化などを見越して株価は下落します。また、株価下落はその会社にリストラを促すサインだと考えることもできます。会社がリストラを発表するとその後、逆に株価が上昇したりもします。
また自社やグループ会社、関連会社に不祥事が起きた場合にも株価が下落する要因になります。不祥事をきっかけにリストラに至るケースは多いので、株価の低下は、リストラが始まる可能性のある特徴の一つと言えます。
リストラのレイオフとは
レイオフとは、企業の業績悪化などを理由に労働者を一時的に解雇することを言います。一時的な解雇ですので、業績回復時などその後の再雇用を前提とします。元々は、製造業などにおいて製品の需要が振るわないときなどに、工場の稼働率を下げるとともに一時的に人員削減を行い経費削減を行う手段でした。
再雇用を条件に一時的な解雇
レイオフは基本的にその後の再雇用を条件とした一時的解雇のことを指します。アメリカやカナダの自動車産業では独特の雇用慣行として「先任権」に基づくレイオフ制度を用いています。先任権は勤続年数により決定され、レイオフ実施の際は先任権の低い労働者から解雇されるシステムになっています。
①業績が回復してその後再雇用
景気回復にともないその後の製品需要が増え、レイオフによる経費削減効果も加わり業績が回復すると、一時解雇された労働者はその後再雇用されます。一時解雇された労働者のなかで先任権の高い者から順に、その後の再雇用が実施されます。
このように、レイオフはアメリカの製造業、特に自動車産業で雇用調整のためのリストラ策として定着した感があります。
②現在では再雇用されないケースも
レイオフの本来の意味である「将来の優先再雇用条件付き解雇」は、現在は自動車など伝統的な産業にほぼ限られており、最近の金融やハイテク産業などでは、レイオフは単に大規模な集団解雇を意味し、その後の再雇用が想定されないケースも増えています。
また最近は、中国や東南アジアでも雇用調整の一つの方策としてレイオフが行われるようになっていますが、その後の再雇用を行わないケースが多いようです。日本の雇用調整は早期退職制度や新卒採用の抑制で行われるケースが多く、レイオフは日本ではあまり一般的ではありません。
リストラの意味は事業を立て直すためのもの
リストラの本来の意味は、「事業の再構築」であり「事業を立て直すためのもの」です。事業を立て直すために、会社が経費削減や業務効率化に取り組むのは当然のことです。そのなかで人員削減はリストラ策の中心的施策になっているため、日本では「リストラ」=「解雇」というネガティブなイメージが定着したのです。